黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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1999年12月~①~

「JRAに色々言われてますが、やはり引退させますかスペシャルウィークを。調教師として断言いたしますが、有馬を回避して休養すれば来年の夏には復帰できます。そして今と同じ力を、日本競馬史上有数の力を発揮します。主戦の竹騎手も、戻ってきたら最優先で絶対に乗ると断言しています」

 

 瞳、いや全身で「引退は早すぎる!」と絶叫している臼井調教師に、白田オーナーは苦悩を絵に描いたような顔で言葉を絞り出した。

 

「私とて、本意ではありません。正直まだ走らせたい──しかし、スペシャルウィークはジャパンカップで一度崩れました。倒れそうになるくらいに」

「それは──」

「いえ、先生も厩舎スタッフも竹騎手も責めるつもりはありません。感謝しています、スペシャルウィークをホワイトグリントに勝たせてくれたことを。 しかし、思ったのです。もう十分ではないか。これ以上走らせては危うい。ダービー馬にしてアメリカでG1を三つ、ブリーダーズカップ・ターフをも制したあの子を、これ以上危うくさせてはならない、と」

 

 何度も訪ねてきたJRA職員の(泣きながら)「引退を撤回してくれ」という願いを退けた時と同じ言葉を、白田オーナーは臼井調教師に返した。

 

 臼井調教師は長い沈黙の後、ようやく言葉を継いだ。

 

「有馬記念は厳しいです。正直、タフさの差でスペシャルウィークはホワイトグリントに勝てません。あの白馬の父オグリキャップがタマモクロスに勝利した有馬記念の二の舞になります。どれほど頑張っても最後の一歩に力が残っていないでしょう。負けを前提にして出すのですか」

 

 そんな臼井調教師に、白田オーナーは僅かに微笑んだ。

 

「臼井先生──有馬記念なのです」

 

 その言葉に臼井調教師の胸にストンと理解が落ちた。

 ああ、そうだ。有馬記念だ。

 年末の最大レース。日本競馬一年の締めくくり。ファン投票で行われるグランプリ。ダービー馬ではなく有馬記念制覇馬が年度代表馬を優先されるレース。

 日本で最も熱いレース。

 

「ああ、そうですな。有馬記念ですな」

「ええ、有馬記念です。スペシャルウィークのラストランは有馬記念以外にありません」

 

 何て魔力があるレースなのだろう。 多くのファンの票を得て、有馬記念を引退レースにする。それだけで胸が高鳴ってしまう。

 

「引退後、スぺちゃんは?」

「社大スタリオンステーションで種牡馬入りするとのことです。何でも、格安にして出来る限り中小の牧場でも種付けさせてやりたいとか」

「ほう、そうですか。そういえばサンデーの孫世代はまだG1馬がいませんでしたな」

「ええ、フジキセキやバブルガムフェロー、ダンスインザダークといった産駒が結果を出していますが、重賞馬はいてもG1馬はまだです。それにサンデーの血統は日本競馬ではアウトブリードですから、お相手はたくさんいますし」

「なるほど、ならサンデーサイレンスの血を強く繋げるためにもスぺちゃんには頑張って欲しいですな」

「ええ。サンデーサイレンスの種付け料は今年2500万円。まだ上がる見込みです。それに従って産駒の値段も上がっています。ブームで参入された新規オーナーの方々も『買った牝馬を預託して種付けしたいが、流石にこの額は趣味の範囲では無理だ』と仰っているので。人気のあるスペシャルウィークを格安で、と」

「はは、ならスぺちゃんの産駒が走り始める2003年を楽しみにしていますよ」

「私もぜひ、産駒を買って先生に預けますよ」

 

 ははは、と哀しみと寂しさを未来への希望で覆い隠した二人は笑い合う。

 期待通り、2005年にスペシャルウィークの娘シーザリオがアメリカンオークスを制し、サンデーサイレンスの孫世代として初めてのG1馬になった時、慟哭する二人はこの時は笑い合っていた。

 サンデーサイレンスの血が日本競馬を塗り替え、非サンデーの血を血眼になって探していた2005年に、「サンデーの血が溢れすぎている! スペシャルウィークは、あの時引退する必要はなかったんだ! あと一年は走れた!」と慟哭する二人は、この頃はまだ笑い合っていた。

 

 やはり、競馬の神はサディストである

 

 

 

 

 

 

「ファイ○ー!」「イッパ○○!」ひーん! 

 

「ふざけてるな」

「ふざけてますね」

「ひきょうだ」

「ひでぇ」

 

 関東は美浦の厩舎で、有名栄養ドリンク剤のCMを見ながらの絶望の呻き声が木霊した。

 

 絶望といっても、「なぜホワイトグリントはこんなネタ枠のCMばかり出ているんだ! 白雪姫のイメージを使おうよ!」という服飾・宝石業界などの絶望ではない。

 

「これ、ジャパンカップ後に撮られたって本当か」

「何でツヤツヤしてんだよ」

「有り得ねえだろ。あんな死闘しといて」

「レース後に野菜や果物貪ってたからな。ニンニク味噌付きの」

「スペシャルウィークが可哀想になる」

 

 役者を乗せて元気いっぱいに駆け回る白馬に対する、同業者としての絶望だ。

 

「セイウンスカイ、は?」

「キツいな。疲れが残ってる」

「回避は?」

「オーナーの本業の関係でな。あちらのお客さんたちが応援団を組んでくれているのと、オーナー自身も有馬記念での引退という花道に惹かれていてな。出るぞ。俺も、引退するなら有馬だという意見には賛同した」

「……最善を尽くします」

「すまん。頼むわ。ノリ」

 

 悲哀と絶望をセイウンスカイ陣営も噛み締めていた

 

「そもそも引退するの辞めませんか。まだ一年、いえ二年はスカイはやれますって」

「…………気持ちはわかるが、無理だ。わかってるだろ。今の、気性が矯正されて頑張りすぎるようになったセイウンスカイは、これ以上走らせたら危うい。故障の危険が高いんだ」

「でも、でも、セイウンスカイは……セイウンスカイなんですよ。二冠馬で、春天と宝塚を勝って、イギリスとアイルランドのチャンピオンで……こんなにすごい馬が」

「ノリ」

「……はい」

「厩舎の稼ぎ頭で、これほど人気のある馬を引退させたいわけがないだろ。でも、もう無理なんだ。セイウンスカイは、もうレースで走らせてはいけない馬なんだ──。最後のレースだ、頑張ってくれ」

「はい」

 

 思い切り噛み締めていた

 

 

 

 

 

 

 

「どうして食えるんですかホワイトグリント?」

「内臓が強いのではないかと」

「いや、これはそんな理由で済ませていいものじゃないでしょう。サラブレッドじゃない、別種ではありませんか?」

「私も、それを疑っています。サラブレッドからさらに種として分かれたのではないかと。日本で育まれたオグリの血と、南半球で育まれたホーリックスの血が適合して、新種になったのではないかとね」

「やはり、先生もそう思いますか……。オグリキャップとホーリックスは今年も種付けしました。その産駒の能力によっては、新種説が補強されますね」

 

 同じく美浦の厩舎で、渡辺オーナーと三ノ宮調教師は、JC後のイベントで食べ物を貪っているホワイトグリントの動画を見ながら、ある真理に達した顔を見合わせていた。

 後年、全弟妹であるウォリックとラティーナとホワイトグリント産駒によって「「新種(ニュータイプ)だ!」」と確信する二人は顔を合わせていた。

 

 もっとも、それは後年の話であって、今ではない。

 

「エルコンドルパサーは?」

「厳しいですね」

 

 今の二人は、愛馬のことを思っていた。海外遠征で1着3回・2着1回という完璧な成績を収め、空港に詰めかけた大観衆の歓声に迎えられてから早二ヶ月。鍛錬を積んでいる愛馬のことを。

 

「身体が限界です。走るのは問題ありませんがピークの頃よりは衰え始めています」

「そうですか……タフさに欠けている。彼唯一の欠点が露になったのですね」

「ええ」

 

 そして、諦観していた。

 

「それでも、出しますか。有馬記念に」

 

 一年にそう何度も走るのは一流馬ではない。そう考えるオーナーならば回避してくれるのではないか──そう願う調教師は、確認の言葉に回避への望みを込めた。

 

「先生」

「はい?」

「ブームって良いですねえ」

「え?」

 

 そっと、渡辺オーナーは厩舎の隅を見た。

 エルコンドルパサーのファンが贈ってくれた様々な手作りグッズや手紙が、たくさん、本当にたくさん飾られている一角を。

 渡辺オーナーの自宅にあるのと同じ光景を。

 

「私は、こんなにエルコンドルパサーが愛されるなんて思ってもみなかった。強い馬だとは確信していたけれど、何人もの小さな子供が凱旋門賞まできてくれて、その手にぬいぐるみを握りしめて応援してくれるような馬になるなんて、思ってもいなかった」

 

 夢にも思っていなかった。部屋の一角を埋め尽くすほどの贈り物が来るなんて、それほどまでにエルコンドルパサーが愛されるなんて。

 

「だって、マル外の馬ですよ。親の代からのファンが居ない外国生まれの馬。嫌われ者が普通です。馬券を買う人だって、『強いから買ってやるけれど、お前には勝たれたくない』という感情を隠さないのがマル外──でも」

 

 有馬記念頑張って。そう描かれた絵の数々を見据える。

 小さい子供のファンたちが描いてくれた絵。

 数えきれないほどたくさんある絵。

 

「ファンに見せてあげてください。エルコンドルパサーの走りを。最後の走りを」

「わかりました。ええ、わかりました。ファンあってこその競馬です。そうですとも」

 

 諦観と誇りを抱えながらも走る。ファンの為に。

 

 

 

 

 

 

 

「JRAにやられましたな」

「ええ」

 

 関東のとあるイベント会場にて、来年も現役続行するグラスワンダーの馬主はある種の感動を噛み締め、調教師は苦味を噛み締めていた。

 グラスワンダーの次走をマイルカップか香港にしたという情報が何処からともなく──JRAにしか話していないのだから出所は自明だが──マスコミに漏れ。

『腰抜け』『グラスワンダーが可哀想』『逃亡者』『グラスワンダーほどの名馬が有馬記念に出ないなどと有り得ない』……スポーツ新聞だけでなく一般紙やテレビでも放映され、会社や厩舎には抗議の電話と手紙が鳴り止まない騒ぎとなり、実業にさえ支障を来すと判断したため有馬記念への出馬を決めた半田氏は感動していた。

 

「グラスワンダーが出馬するかしないかで売上は100億は変わると、なりふり構わず外堀を埋めてくるとは……いや、さすがはJRA。5兆円の博打市場を切り盛りしているだけある。いざとなれば、こういう手段を躊躇わない組織は強い。博打の元締めに相応しい」

「ヤクザ顔負けの所業では?」

「そういう連中を制圧して国営にしておりますからな。*1

 いざとなれば、日の丸をバックにこうした手段を躊躇わない姿勢は、裏社会への威圧にもなる。うーん、相変わらず強くて怖いなあ、JRA。流石です」

「そんなに感心なされるほどですか」

「そうでなければ、ブックメーカーに食い散らかされますよ。欧州の重賞賞金を日本の条件戦レベルまで吸い上げ、いくつもの厩舎や騎手、牧場を廃業に追い込み、欧州競馬の市場そのものを縮小させてしまった、飢えた資本主義の化身ども……。最近、欧州のブックメーカーが国際化だの開かれた競馬だのと騒いでいるでしょう」

「ええ。パート1国への早道だから賛同してほしいと、私のところにも話が来ています。前々からJRAが配っていたマニュアルに従い、全情報をJRAに上げてからは連絡がありませんが」

「流石はJRA。手を打っていましたか」

「? と言いますと」

「詐欺ですよ。ブックメーカーと国際セリ名簿基準委員会に関係はほとんどありません。日本の調教師界隈で騒ぎを起こしてから、善人の仲介者のふりをして、日本馬券のシェアを少しでも奪おうという腹でしょう」

「なるほど……。では、日本はいつになればパート1になれるのです? 我々はいつまでパート2なのです? うちのグラスワンダーたちがあれほど暴れても二流扱いされる屈辱に、いつまで耐えろと? JRAから確たる話がなく、トレセンの皆やきもきしているのです」

「馬主会での情報ですが……近々、その屈辱は無くなります」

「近々、ですか?」

「馬主会に委員会から来ている話は二点。一つは有馬記念と宝塚記念の国際G1化。もう一つは、『黄金世代とその一学上の世代が強いのは理解した。だから、他の世代にも優駿がいるかを確かめたい。今年を含めて三年見たい』と。パート1への昇格はそれで決めると。その旨を書面にさせた松元オーナーは腹を決められました」

「では……」

「今年のクラシック世代。他は人脈や経験に自信が持てないので国内を走りますが、ダービー馬メイショウドトウは来年の春から秋まで欧州へ行きます」

「なるほど、なるほど、では、もう少しで……」

「はい、パート1になれるかどうか決まります。傑出した結果が出れば来年にでも。

 JRAは詐欺ろうとするブックメーカー対処に忙しく、話がより固まってから皆さんに。という腹積もりでしょうな」

「なるほど。いや、やり手のJRAにしては反応が乏しく、不安でしたが。憂いが晴れました。JRAはJRAですな」

「ええ、流石です」

「いや、上がしっかりしているのは有難いのですが……調教師の私としてはたまりませんわ。有馬記念出走は。

 成長しきったグラスはわざわざ強い馬と戦う必要は無いのに、魔境に突っ込むなど」

「……それほどですか」

「今年からG1になった香港カップなら楽勝でした。ですが、有馬記念は……。掲示板(5着以内)は保証しますが、それ以上は保証できません」

「……今から香港いきます、は?」

「無理でしょうなあ」

 

 外を見る。 一般公開されたグラスワンダーに「勝って!」と刻まれた大きなニンジンケーキを、ファンがインターネット掲示板で集い、代表者が厩舎と調整して子供たちに食べさせている光景を。

 

 日本全国から集まってくれた五千人を越えるファンたちを。

 

 今から始まるオーナーの勝利宣言と乾杯を待つファンたちを。

 

 当然マスコミも来ていて、これを不意にしたら本業に支障を来すこと間違い無しな状況を。

 

「先生」

「はい」

「勝ってください」

「グラスワンダーレベルの馬を、負けるつもりで出しはしません。自分でも信じられませんが、今の私が保証できるのは掲示板までです。相手が酷すぎます。特に、あの真っ白いのが。グラスに疲労が残っているというのに、元気いっぱいのあの真っ白いのが……」

 

 グラスワンダーで「勝てる」と断言できない現実に、誰よりも嘆く声で、調教師は目が血走った馬主に応えた。

 

 

 

 

 

 

 

『ブックメーカーは寄生虫だ!』『設備にも馬にも人にも資金を出さずにカネだけ吸い取る寄生虫排除!』『日本競馬死守!』『日本競馬は欧州競馬のような豚ではない!』『飢えさせるな関係者!』『パート1はブックメーカーとは無関係!』『日本競馬は公営ギャンブル!』『ブックメーカーはマフィアである!』『中央競馬馬券は政府の! 地方競馬馬券は地方自治体の! 死守すべきシノギだ!』『ブックメーカー水際阻止!』『ブックメーカーに日本の土を踏ませるな!』『忘れるな! 競馬の儲けは税金となり! インフラなどにより国民に還元されていることを!』『八百万の神の加護やあり!』そんな、本性を表したなりふり構わないスローガンが、関係者以外立ち入り禁止の部屋中に貼り出されたJRA本部。その一室にて。

 

「攻勢は一段落したが、油断するな。年5兆円を超える市場を諦める連中ではない。アメリカ馬券市場が消えた今なら尚更だ」

「「「はい」」」

 

 援軍として来た日銀、大蔵省、国家公安委員らの人々が、上座に座る農林水産大臣の声に一矢乱れず応える。その姿は、まさに修羅だった。

 そして、JRAがどういう組織なのかを一見で表していた。*2

 

 ホワイトグリントのCCAオークスを見に行った日本人観客の旺盛な馬券購入力を知ってから、ゴルゴ13が実在したら間違いなく依頼されたレベルのあらゆる手段で押し寄せてきたブックメーカーを弾き返してきた彼らは、一段落した今も欠片も油断していなかった。

 5兆円の市場となれば人の命も軽くなる──そのことを、誰よりも理解しているのだ。

 

「さて、前年度、一レースで1000億を越えた興行。有馬記念だ。昨年は、1263億2136万円だった。

 今年は黄金世代が最初で最後に勢揃いするレースであり、改修した中山競馬場のキャパシティである20万人が3週間前に予約で埋まるという喜ばしい状況を鑑みて更に売り上げが増える見込みだ。

 言うまでもないが、出走直前の棄権や馬券返金などは認めん。多少、馬体が怪しくても検査せずに走らせろ。最下位でもいい、走らせてゴールさせるんだ」

 

 魂を地獄の業火で焼いてきたようなJRA理事長の声に、全員の目がギラギラと燃え盛る。

 

「お言葉ですが、それは愚策かと」

「ん?」

「売上が苦しいならばともかく、今はブームです。客で競馬場が一杯なブームです。子供が沢山来ているブームなのです。将来の馬券客であり、今現在のグッズ客である子供の目が沢山あるのです。

 今は日本競馬を、綺麗すぎるくらいにするのが得策かと」

「……確かに。私が間違っていた。

 第一に故障を避けろ。絶対に安全を期せ。多少の馬券返金は構わん。危ういと見たら、引退を宣言している陣営でも馬体検査をして出走回避させるんだ。故障──血はダメだ。ホワイトグリントがアメリカの騎手に攻撃されたような出来事は義憤を生むが、それ以外は悲劇しか生まない。そして悲劇は、売上の減少にしか繋がらないのだ」

「「「はい」」」

 

 エルコンドルパサーVSホワイトグリントの共同通信杯から本格化した第三次競馬ブームから二年弱。オグリキャップの第二次ブームから9年。彼らは、経験から客とはどういうものかを組織レベルで学んでいた。

 

「それはそうと、インターネット投票にした途端にファン投票の総数が跳ね上がりましたね。去年の3倍ですよ。この勢いが馬券購入に行ってくれれば」

「贅沢いっちゃいけませんよ。タダだからこそですわ。大半が競馬場にも来てくれません。テレビで見てくれれば御の字。皆さん、口は出しても財布を弛めるのは別の話にしますからな」

「それが、客、なのだ──そして、ブームとはその中で、少しでも競馬場に脚を運ばせ、馬券を購入してもらえる黄金のような時なのだ」

 

 真理を見た(オグリブームの終焉という絶望)人の顔で理事長は言葉を続けた。

 

「しかし、あと一年は走ってくれると思っていたオグリキャップの時も思ったが、サラブレッドのピークは短いな。後二年は走ってくれると思っていたのに」

 

 連絡を聞いて狂乱した時から一週間経ち、JRAはようやく黄金世代のうち三頭が引退することを受け止めていた。

 

「仕方ありません。馬は生き物ですから」

「その代わり、黄金世代のすべてが有馬記念に揃ってくれました。もっとも馬券が売れるレースに」

「そうでなければ、私はさらなる醜態を晒していたかもしれないね。インタビューで絶叫するとは、恥ずかしい」

 

 黄金世代が全て揃った有馬記念が何れ程馬券が売れるかという希望で受け止めた。

 

「しかし──やはり、みんな赤い血が流れていたんだな」

 

 ホワイトグリントを除くすべての陣営の出走承諾を受けたJRA理事長は、目に涙を浮かべた。

 ブックメーカー対処に忙しすぎて確認できていないが、ホワイトグリントも間違いなく参戦してくれると信じている理事長は人の情に感動していた。

 

 

 

 

 

「先生、黄金世代との死闘で体調を崩してドバイを逃したくはありません。ここは有馬記念を適当な理由をつけて回避し、川崎記念かフェブラリーSでメイセイオペラを破ってからドバイに行きませんか」

「ダート最強馬となってドバイへ……悪くない、いや、良いプランですな。その場合は地方馬だった父への敬意、などと理由をつけて東京大賞典に行きましょう。元気いっぱいで有馬を休むのは、世間体が悪いので」

「素晴らしい。それでいきましょう。黄金世代相手でなければ消耗しないでしょう」

 

 ニシキダクロスが阪神3歳牝馬ステークスを勝利したこともあって、空気の明るいホワイトグリント陣営には。

 

 来年も走るし有馬記念は来年で良いやと考えるホワイトグリント陣営には。

 

 人気投票1位のホワイトグリント陣営には、JRAが期待したような赤い血は流れていなかった。

*1
詳しく知りたい方は、山岡事件やノミ屋対策の1955年の競馬法改正や山一抗争を原因とした排除などなどを調べてください。国営賭博という儲かる事業を死守せんと、ありとあらゆる手段を合法にしてのける国家機関の恐ろしさにドン引きします

*2
だからこそ、農水系の数少ない明るいところのJRAが史実で半壊した時の醜態ときたら(震え声

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