黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 1998/4/12阪神競馬場

 

『精密なラップを刻んでホワイトグリント独走だ! ホワイトグリント独走だ! 

 差が開く! どんどん! どんどん! 差が開く!! 

 後ろからはなにも来ない! 後ろからはなんにも来ない!! 後ろからはなあんにも来ない!!! 

 ファレノプシスがようやく2番手に上がって来たが遠い! 

 先頭はホワイトグリント! これは強い! これは強い強い!! これは強い強い強い!! 

 ターフに純白ただひとつ、青い帽子の満面の笑顔の白馬ただ一頭だけがゴールに向かう! 

 純白の身に桜が散りばめられました!! 

 ホワイトグリント大楽勝!! 2着にはファレノプシス! 

 ホワイトグリント! ホワイトグリントです!! 

 6戦6勝の無敗桜花賞馬が誕生しました!! 

 1つ目の桜の花で出来た冠は白雪姫の頭上に輝きました。2着ファレノプシスに7馬身差をつけてホワイトグリント1冠目!! 

 ホワイトグリント強い! 強い!! 強い!!! 今日は逃げましたホワイトグリント! まさにドレスの影すら踏ませぬ姫君の逃げです。

 そして、日本競馬だけではなく、世界の競馬史上初めて白馬のクラシック馬が誕生しました』

 

 

 

 

 

 逃げて高速ラップ指定調教をして苦痛を味あわせる。という手強い馬がいない時にやるドマゾ用レースでホワイトグリントが1冠目を獲り、記念撮影で沙藤騎手がまず1冠目の指立てポーズをしたニ週間後。

 本来の走りをしないことで、他の陣営から本気になるまでも無いのか、と絶望させたレースから二週間後。

 トレセン応接室で瀬戸内調教師と北野オーナーは安堵の顔を突き合わせていた。

 安堵の対象はホワイトグリントではない。

 ホワイトグリントはレース後に帰厩すると直ぐに、飼葉5升と大量の様々なフルーツと少量の青唐辛子による勝利祝いメニューを平らげ、翌日から通常のトレーニングを開始している。

 疲労の溜まり具合によっては、大栗オーナーにオグリキャップを北野牧場に呼ぶ許可を貰って一緒に放牧させるプランがあった。

 しかし、検査しても身体に異常が無い上に元気一杯なのでレース後四日目からハードトレーニングを実施中な為に取り止められた。

 だから、ホワイトグリントは何の問題もなかった。

 

「まさか、アーリントンミリオンが今年と来年やらないとは思いませんでした」

「アーリントンパーク競馬場休止とは、痛恨事でしたわ。まあ、他のレースに出れてよかったです」

 

 アメリカ遠征を初めての所有馬でクラシック期にやるという狂気のガン攻めオーナーを筆頭に、ブレーキのいないホワイトグリント陣営。

 彼らは、オグリキャップが居るとホワイトグリントが絶好調になると判明すると、快くオグリキャップの帯同馬を許可してくれた大栗オーナーに感謝しつつ海外遠征の準備を始めた

 当然目標をオグリキャップが目標としていたアーリントンミリオンにしていたのだが、調整中に今年はやらないと言われて慌てて別レースを探し始めたのが今年の1月。

 その別レースが見つかり、念の為の他の幾つかのレースと共に登録を終えたのがつい昨日。

 今、応接室に漂う安堵の空気はそれによるものだ。

 

 桜花賞後に連絡したJRAも「オークスと秋華賞には絶対に出てください!」と許可(悲鳴)をくれたので邁進している。

 理事長が北野オーナーの所に来て「牝馬三冠はオグリキャップが果たせなかった三冠。陣営全員の夢。必ず出る」と聞くまで「日本競馬を棄てるんですか!」とパニック状態だったが、今は協力的だ。

 

 

 

「聞いた所によると、皐月賞よりも桜花賞の方が客も売り上げも上だったとか」

「競馬場に入らないお客さんの為に阪神競馬場の横や大阪城公園に仮設スタンドを用意したくらいですからね」

 

 あくまでも阪神競馬場の延長だった競馬場横の仮設スタンドは兎も角、大阪城公園の方は凄いことになった。

 大阪城をバックにした巨大モニターやら、臨時馬券売り場やら、馬グッズ店やら、乗馬や触れ合い広場や餌やり体験やブラッシング体験など馬に関する各種イベントやら、各種出店やらを土日の2日間で広げた大規模祭り会場。

 阪神競馬場に行くのが面倒な人や家族連れやお祭り好き達で土日2日間で9万人以上呼んだ大イベントとなった。

 オグリキャップの時に計画していたイベントがようやく出来た。しかも大成功だ。とJRAは満面の笑顔だった。

 

 そんな時に、ホワイトグリントが海外に行くと申請したのだから、会社に即日訪ねてきた(怒鳴り込んできた)JRA理事長に一対一で応対し、「この人でなし」とか「血も涙もないのか」とか「赤い血潮が流れていると信じていたのに」とか、涙を浮かべられながら面と向かって色々言われた(泣き叫ばれた)のは過去の事だと北野は流しているし、誰にも言う気はない。

 

 だって、夏にホワイトグリントとオグリキャップをメインに据えたイベントを計画していたとか泣かれて「俺の馬の予定を勝手に決めんじゃねぇ」と掴みかかってから掴み合ったもの。

 絶対に口外出来ない。

 

 そう、タイミングが悪すぎたし、もう少し事前に相談して置くべきだったと今はちゃんと反省している。ホワイトグリントの予定を勝手に決めないと文書にさせた。

 

 だから、済んだことだ。未来を見なければ未来を。

 

 

 

 

 

 

「08月15日に行われるパシフィッククラシックステークス。今から、楽しみで仕方ありません」

「まったくです……ところで?」

「はい?」

 

 話を変えようとする瀬戸内に不思議そうに見返す北野。

 

「最近の騎手のホワイトグリントへの営業が変わりましてね」

「ホワイトグリントへの営業がですか? 三十人以上の騎手からラブコールが来ているという。あの」

「はい。その、ホワイトグリントへの営業です。その内実が変わりました。少し前は『逃げ馬ではない馬を逃げさせる沙藤は分かっていない。自分に騎手を変えてくれ』というものでした。それが変わったんですわ」

「それは逃げなかったレースから変わったということでしょうか。あのエルコンドルパサーと戦ったレースからということですか?」

「あの頃は『乗りたい。若手の沙藤より自分の方が上手い。自分を乗せてくれ』という率直なもんでしたね。欲望第一でした」

「ほう、欲望第一ですか。悪い気はしませんが、そんなに凄かったんですか」

「すごかったですね……元騎手として断言させていただきますが、当然のことかと。

あれだけのレースをして勝った馬の主戦が、若手で競馬関係者生まれではなくフリーになったばかりの騎手。しかも、騎手としての駆け引きでいえば、沙藤は間違いなく的羽に負けてましたからね。そら、誰もが鞍上を欲しがっていました。とてもとても率直に」

「それが、桜花賞後に変わったと?」

「はい。桜花賞後の今は判で押したように同じこと言うんです『あれだけの馬をレースの勝ちが決まっても、余力を残さずトコトン苛め抜く沙藤に任せていては何時か故障する。だから自分に騎手を変えてくれ』と」

「ああ──真っ当な売り込みですね」

 

 ふぅ、と北野は吐息を漏らした。

 真っ当だ極めて真っ当だ。馬に乗る騎手として極めて正しく真っ当。

 根っこには間違いなく、自分が乗りたいという欲望があるからこそプロとして信用できる。

 

 しかし

 

「ホワイトグリントが聞いたら怒りそうですね」

「怒るどころか、人間に不信感を持ってしまうでしょうな。最悪、レースどころか人を乗せんようになりますわ」

「そうさせるわけには絶対に行きません」

「もちろんです」

 

 悲しいことにドマゾであるホワイトグリントに乗るには論外すぎる。

 羨望嫉妬に加えて、あれ程の馬を壊す気か、という目で見られて肩身が狭い思いをしている沙藤の騎乗こそが唯一無二の正解なのだ。

 

「確か、今ホワイトグリントに乗せて欲しいと言っているのは、どなたでしたか?」

「竹、丘部……ああ、日本の上位の騎手の中で引退しようとしている者を除いたみんなですわ」

「上位の騎手の全員がですか。それほどの騎手の方々が、端的に言ってこう言っているのですね。『ホワイトグリントにもう酷いことはしない』と」

「その通りですわ」

「つまり──あの子が、ホワイトグリントがドマゾだとは誰も気づいていないのですね」

「間違いなく、その通りです」

 

 その言葉に馬主は一度大きく頷き

 

「素晴らしい。狙い通りですね」

 

 愛馬ホワイトグリントが見たら、普段のトコトコではなくダッシュで擦り寄ってくるほどのサディスティックな笑みを浮かべた。

 

「ええ、狙い通りですわ」

 

 最近、全身で大好きと擦り寄ってくるホワイトグリント以外の管理馬が怯えて近寄らなくなった調教師はサディスティックに笑った。

 

 

 

 

 

 ホワイトグリントは苦痛の限りを味わうと達し、スタミナや末脚が尽きても満面の笑顔で更にひと伸び出来るという競走馬としてエゲツナイほどの強みを持っている。

 世間では《天使の笑顔と飛躍》《白雪姫の奇跡の一歩》《最後の直線に生まれる芸術》《神秘の末脚》と呼ばれ、原因解明に何処の陣営も必死になっているモノ。

 

 陣営暗号にて《その先》と呼ばれているモノ。

 

 陣営正式秘匿名称《マゾヒスティックパワー》と名付けられたシロモノは極めて強い。

 

 エルコンドルパサーに騎乗する的羽をして一度は敗北を覚悟したほど強い。

 馬の限界を読み切れる熟練の騎手だからこそ迷わされ驚愕するほどに強い。

 他の馬が絶対にもてないのに、ドマゾであるホワイトグリントだけが持てた強さだ。

 ぶっちゃけチートに近い。

 

「あの子がドマゾだと知られれば、あのひと伸びの強みは失われるか対策されてしまう。マゾだと秘密にしていた甲斐はありました」

 

 感慨深げに茶をすする瀬戸内に対して、北野はその通りだと頷きながら強く言葉を続ける。

 

「そもそも、沙藤騎手は忙しい最中入厩前からホワイトグリントを育ててくれた方。恩があります。

 その上で、ホワイトグリントにあれだけ懐かれています。紛れもなくホワイトグリントとの間には絆があります。

 そして、今までのレースでホワイトグリントに完璧に乗ってくれました。

 そう、アレだけサディスティックにホワイトグリントを責めたてるレースをしつつ、絶対に壊さないラインを見極めながら確実に達せさせるほどに完璧に。あんなことが出来る唯一無二の騎手です。

 ホワイトグリントのマゾヒズムを満たせるのは沙籐騎手だけです。

 以前も言いましたが、他の騎手の方が沙藤騎手よりも腕が立っても、例え大敗しても降ろす気は私には全くありません。

 ホワイトグリントの鞍上は沙藤徹三ただ一人なのです。

 コレだけは先生が何と言っても譲りませんよ」

 

 その言葉に瀬戸内は強く頷いた

 

「分かっています。私も同じ気持ちです。共同通信杯の後の祝勝会でそう断言して頂いてから沙藤も気を強く持つようになりましたわ。この桜花賞の一本指を掲げた写真の笑顔。実に自信に溢れています。騎手を交代したらホワイトグリントがドマゾだと外にバレる可能性を恐れていましたが、オーナーの断言のお陰でその心配もなくなりましたわ」

「ええ」

 

 ふっと、馬主と調教師は、ホワイトグリントに焼かれ切った男たちは笑う。

 

「楽しみですなアメリカ。オグリキャップが居てくれるからあの子は絶好調。あの子のドマゾなゆえの強みを見せつける日が楽しみです」

「全く楽しみです。あちらでも間違いなくホワイトグリントは通じるでしょう。《その先》を初めて見るアメリカ競馬界が楽しみで仕方ありませんわ」

 

 かくて、一番目立つのはドマゾな強みじゃなく白馬なとこだよということをすっかり脳から焼き消された陣営によるアメリカ遠征が本格的にスタートした。

 

「それはそうと先生は先の皐月賞をどう見ましたか?」 

「勝ったセイウンスカイは強いです。本当に強い。ホワイトグリントのような苦痛目的の逃げではなく、確かな逃げですわ。しかもまだ強くなります。ホワイトグリントは本来の走りをせんと勝てません」

「それほどですか」

「40年馬を見て来ましたが、あれ程の馬はそうそう居ません。私の中の強い馬ベスト50が入れ替わりました」

「そうですか……ところでその中にエルコンドルパサーは?」

「勿論入っています。それどころか現段階でベスト30に入っとりますわアイツは。尤も私のベスト30と50に力の差はほとんどないので、セイウンスカイとエルコンドルパサーの力の差は誤差です」

「そうですか……秋にはぶつかりますよね。エルコンドルパサーにもセイウンスカイにも」

「ええ、おそらくは、ジャパンカップか有馬記念で……古馬にもサニーブライアンやエアグルーヴ、そして未だG1を獲っていませんがサイレンススズカ。ここらは時代を代表するレベルの馬です。

 間違いなく厳しいレースになるでしょうな」

「そうですか……何で、そんなに強い馬ばかりなんでしょうね。もう少し加減して欲しいです。こちらは、ホワイトグリントのようにドマゾではないのですよ」

「全く、まあ、競馬の神はサディストですからな。ホワイトグリントに強い馬をぶつけてやろう何て考えたんでしょうな」

「ええ、本当に、競馬の神はサディストすぎます」

 

 外で、同じく焼かれ切っている沙藤騎手がホワイトグリントを存分に鍛え上げる中、馬主とオーナーは競馬の神のサディストっぷりを嘆いた。

 

 

 

 

 

 1998/5/31東京競馬場

 

『さあ、残り600m。600の標識を切りました! 

 長い直線! しかも、知らぬ距離ですホワイトグリント! 

 しかし、ホワイトグリント全く速度を落とさない! 精密にラップを刻み続ける! 

 ファレノプシス! ファレノプシスが早くもやってきた! 桜花賞の二の舞はさせじと竹優が! ファレノプシスがやってきた! 

 しかし、ホワイトグリントとの差が縮まらない! ホワイトグリント先頭! ホワイトグリント3馬身から4馬身前を行く! 

 このまま! このまま行くのか! 

 いや、ファレノプシスが離される! ファレノプシス力尽きた! 

 ホワイトグリントの精密ラップは変わらない! 余力がある! 強い! 本当に強い! 

 エリモエクセルがやってきたが2着だ! 的羽は2着! 

 ホワイトグリント! 逃げ切った! 5馬身差をつけて逃げ切った! 

 強い! 強い!! 強い!!! 2400mもなんのその! 満面の笑顔の姫君は影すら踏ませず逃げ切り樫の冠を戴冠しました! 

 沙藤徹三! 観客席に向かって二本指を立てた! 

 7戦7勝! 牝馬2冠だ! ホワイトグリント2冠達成! そして無敗の2冠馬! 完璧です! 阪神3歳も勝った完全無欠なG1・3勝馬です! 完璧なG1・3勝の白馬です! 

 府中に伝説を刻みましたホワイトグリント!! 

 アメリカよ! 待っていろ! 

 白雪姫が父の残した夢を果たすために今から向かう!』

 

 この日の東京競馬場は、来場客数18万6321人売上522億円。何れもオークス最高記録。そして、両方とも当年のダービーを上回る数値を出した。




 牝馬クラシック2冠が作業とかどういうこと? 
 エルコンドルパサーとハナ差勝利出来る怪物牝馬に不得手とはいえ全身全霊で逃げられたら、この時代の日本の牝馬はエアグルーヴ以外作業。
 基礎能力が違うよ基礎能力が。

 その辺をよおおぉぉく理解している的羽騎手はテン乗りで最初から2着狙いました。
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