黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 感想、評価付け、ここすき、皆さんありがとうございます。お蔭で書けています。




 あまりにも忙しく書ける時間がありません。中途半端ですが、投稿しなければそのままエタってしまいそうなので投稿します


2000/12/24 有馬記念 神話再び~②~

『大切な存在を奪われんと抗ってから一ヶ月! 

 相変わらずの愛くるしさに歓声が鳴り響いております! 

 5枠9番メイショウドトウ、大里直弘!』

 

(前と同じじゃ無理だとわかったけど、どうすればいい)

 

 JCで、先行抜け出しという、近代競馬王道にしてメイショウドトウが一番力を発揮できる流れで叩きのめされた大里は頭を痛めていた。

 

(『半馬身。されど永遠の半馬身』か──その通りだ)

 

 スポーツ新聞の見出しに大いに頷く。

 メイショウドトウを半馬身抜かした途端に、ゴール板までの数メートル力を抜いて勝ったあの怪物との力差は着差以上にある。

 

(三番人気だからなあ。勝ちにいかないといけないのは分かるが──真面目に勝ち目ないんだよな。あの覇王と白雪姫に乗る若手二人の心境を掴んだとはいえ、厳しい)

 

 鞍上二人の心境を掴んだとはいえ、それで勝てるわけではない。特にテイエムオペラオーという覇王は。

 口にはしないが、ホワイトグリントなら何とかなる。マイルでは勝ち目は無いが、この距離なら勝ち目がある。

 

 だが、テイエムオペラオーはどうしようもない。

 

(ほかの陣営がテイエムオペラオーを囲んで妨害してくれれば、五回やって一回くらいは勝てるだろうが、な。

 今年の春に運営に駄目だしされなきゃあなあ。そう誘ったのになあ。

 ま、鞍上の心身に不安がある一番人気と、鞍上がコレと決めた戦術に固執している二番人気だ。チャンスはある

 ──そう思わないとやってられん)

 

「ドトさーん」「ドットさーん」「こっち向いてくれたー」クリクリとした目で自分たちを愛想良く見ながらゲートへトコトコ歩くメイショウドトウにファンは大歓声を上げる。

 その上で黒いことを考えながら、ため息交じりの吐息を吐く大里。

 欧米で『魔術師(※虚を突くのが巧いド畜生の意味)』とまで呼ばれた鞍上のド畜生っぷりを、相変わらずメイショウドトウは愛くるしさで緩和していた。

 

 

 

 

 

 

 

『破天荒! その言葉が示す通りの走りでクラシックを暴れました! 

 先のJCの大敗の雪辱を果たせるか! 

 5枠10番エアシャカール 竹優!』

 

 

 

「これまででも一番酷かった。気性面の成長が見られないですね。全然競馬になりませんでした。前回よりも内に飛び込んで行こうとしちゃうので、直線では全然追えませんでした。

 サンデー産駒の悪いところが全部集まったような馬です。とにかく真っ直ぐ走ってくれない。

 もうこのままどこかに吹っ飛んでいくんじゃないか。というぐらいの勢いでしたね。何で真っ直ぐ走ってくれないんでしょうか。一体何を求めてるのかなぁ。頭の中がどうなっているのか見てみたいですよ」by哀しい目の騎手

「あまりの気性の悪さから誰も調教に乗りたがらないんです。だから、調教の乗り役をくじ引きで無理やり決めています。私も含めて当たった時はただただ絶望します。ええ、今日は私が乗り役です」by恐怖に真っ青な調教助手

「乗り役だけじゃないですよ。厩務員は担当無しの全員です。一人では到底無理です。殺しに来ますからねコイツは。本気で殺しに来る。人間を警戒してますからね。そのうえで繊細だから、邪魔な存在である人間を殺しに来るんです。出来れば祖父のヘイローみたいに口籠嵌めたいものです。怖い」by疲労困憊の厩務員

「ようやく頭のなかが分かりました。ボクが憎いんですよ。ボクを殺す気なんです。そのために、最高速でボクを振り落とすために、真っすぐ走らないんです。振り落としてから蹴飛ばそうと狙う気配しかしません。能力はありますが──ボクとは手が合っていないのでしょう」by露骨に乗り替わりを願う騎手

「これまで扱った中でも、一、二を争うほど大変な馬です。しかし、いい脚です。勝てる脚をしている。頭も良い。その知恵を走るのを拒否したり暴れたりに使ってしまうのが問題なだけです。勝てる限りは目を瞑ります」by勝てなくなったらウチでは面倒見ないよと断言する調教師

「もし、クラシックで勝つ見込みがなければ。そして、クラシック穫れなかったら躊躇わずに去勢してました。幼少時に虐待されたわけではないのにあの性格。子孫に繋げてはいけない性格の酷さでしたから──ただ、策と言うべきか希望がありました。オグリキャップという希望が」by後年に思い返しながらの生産者(社大代表)

 

 これがジャパンカップまでの、関係者からのエアシャカール評価である。

 その評価が示す通りにパドックでも返し馬でも、周りを散々威圧して観客の子供を泣かせたことさえある気性難。それがエアシャカールである。

 気性難の見本。気性難のなかの気性難。人を殺してないことが信じられない真気性難。気狂い馬。真っすぐに走れよ真っすぐに。何で競走馬になれたんだ試験したのか。試験官ちゃんと見てたのかよ。

 ファンにまで、そんな風に呼ばれていたエアシャカールは──

 

「オグリキャップに感謝だな」

 

 ──熊殺しにわからされ、竹優が涙ぐむほどに大人しくなっていた。

 

「おい、あれ、本当にエアシャカールか?」「真っすぐに走ってる。返し馬で真っすぐに。騎手振り落とそうとしてない」「なんかオグリキャップに矯正されたって」「ああ、北野牧場のブログにあったよ。『周りの馬を攻撃しようとしてオグリキャップが怒鳴りつけてから大人しいです』って」「気性難って改善されるんだな」「買いだな買い」

 

 ファンの驚嘆と

 

「信じられない。あの悪鬼が」「ああ、帰ってきてから今まで一度も俺たちを蹴ろうとしなかった」「毎日命をかけなくて済むようになるなんて」「悪魔が天使になるなんて」「すごいなオグリキャップ」「やっぱり馬は馬の言う事を聞くんだな」「まえ話があった外厩。前向きに考えるべきだな。リードホースとはかくも変えるのか」

 

 関係者の感涙に見送られながら、エアシャカールは歩く。

「誰もお前を傷つけようとはしてない。だから、理由もなく暴れるな」熊殺しオグリキャップの一喝により、次に理由なく暴れれば殺されると魂に刻んだエアシャカールはあるく。

 

(これならワンチャンあるな)

 

 恐怖という首輪を付けられた愛馬(※乗り替わり云々言っていた事は心の中の別の棚)に竹優は笑みを漏らす。

 エアシャカールに勝るスペシャルウィークでさえ勝てなかったのだから、ワンチャンしかない事に遠い目をしながら。

 

(まあ、鞍上二人の心境は掴んだんだ。やりようはあるさ……お前らがずっと委ねられて良いレベルじゃないんだよ。テイエムオペラオーもホワイトグリントも)

 

 まだまだな鞍上どもが、あんな最強馬をずっと任せられていることに嫉妬しながら勝ち道を定めていた。

 

 

 ……なお、エアシャカールは恐怖に怯えているだけであり、根の破綻した性格というか頭脳は変わっていない。

 そのため、常時監視する人がいなくなり恐怖が薄まったある日。引退してから数ヶ月後に、突然、牧柵を突き破って放牧地の外へ逃げ出し、その際に左後脚脛骨完全骨折の重傷を負い亡くなるのである。

 彼は人どころか自分さえ『何をすれば壊れてしまうか』が理解出来ず、本能のブレーキさえ無視して暴れる真の気性難なのだ*1

 

 

 

 

 

 

『さあ、この世紀末の日本競馬を制しつつある覇王の登場です! 

 ここも勝って史上初のグランドスラムを! 秋古馬三冠を! 果たすのか! 

 7枠12番! テイエムオペラオー 和多隆二!』

 

 

 頑張れオペラオー! 新婚のリュージにボーナスやれよー! 金持ち共に今日も目にもの見せてやれー! 何時もみたいに俺らも儲けさせてくれよー! 頑張って栗ちゃーん! ひきょうなことするあいてにまけないでー! 汚ねえ金持ち共をぶちのめせー! 牧場の設備更新する金咥えてこいよー! ピカピカのホワイトグリントが怖いぞー! 

 億単位の優駿や名門厩舎所属馬やベテラン騎手が乗った馬に妨害され続け、常に正々堂々正面から尽く叩きのめした安馬で非名門厩舎所属で若手騎手乗せたテイエムオペラオーに対しての共感の大歓声が競馬場を埋め尽くす。

 サンデー系譜が嫌いだと競馬場を去ったファンたちも含めた大歓声を、庶民の大歓声をテイエムオペラオーは受けていた。

 みんなに共感される馬。

 アイドルホースたる姿だった。

 

(オグリキャップの有馬記念見て騎手になろうと思った俺が、二度もオグリの代表産駒と戦うとか。こんなことあるんだなあ)

 

 その鞍上は今の現状に現実感がなくなっていた。

 いや、あまりのプレッシャーで真っ青になっていた。

 

(そうだ。世紀の名牝に勝てるオペに乗ってるんだ。オペに相応しいレースをするんだ。俺に何もかもくれたオペに応えるんだ。オペに乗って勝つんだ。オペが最強なんだ。オペと一緒に勝つんだ。オペを裏切るものか。オペ──(※以下エンドレス))

 

 グランドスラムが具体的に見えた秋の天皇賞以降の何時も通り、テイエムオペラオーの事だけしか頭に残らなくなりながら。

 

 

 

 

 そんな和多の青白い横顔を、少し離れた場所から見守る男たちがいた。

 

「……和多くんは大丈夫か? どう見ても顔色が」

「安心してくれ。リュージもプロだ」

「だよな。新婚だし、嫁さんの為にも稼がないとならないし、大丈夫だよな」

「ああ、厩舎では『オペが稼いだ賞金で家を建てた男とファンに言わせてみせる』と豪語していた。だから、大丈夫だ」

「そうか。そうか。んならよかよ」

「ん」

 

 一度、無意識で結婚指輪に目を向けた新婚の和多騎手を信じていた。

 なお、和多騎手はそんな豪語を厩舎でする余裕さえないとだけ断言しておく。

 宝塚記念まではあった追い切りでの笑顔がなくなるくらいに余裕がないと断言しておく。

 これは、幼馴染である馬主を不安にさせない暖かな友情である。

 当然、騎手に余裕が欠片もない事と幼馴染の友情を理解する馬主は速やかに話を変えて応えた。

 

「勝てばオペもホワイトグリントのお婿さんになれるしな。勝ってほしい。俺も出来る限り頑張るが、やはり少しでも名を知れた牝馬に付ける機会が欲しいんだ」

「だな。1頭でも中央重賞馬産駒が出ると種馬の未来は明るい。成功してほしい。

 アイツの、日本競馬史上最強馬の血が残らないなんてことがあってはならないんだ」

 

 開場したばかりの牧場に、せっせとテイエムオペラオーの嫁さんを購入しているガンギマリオーナーと同レベルのガンギマリ調教師は願う。

 その息子ジークフリートが無敗三冠馬となった時にただ号泣し続けるほどに、彼らはテイエムオペラオーに灼き尽くされていた。

 

 具体的には、ピカピカのホワイトグリントと比べて疲労困憊が馬体からみえるテイエムオペラオーを見ても、勝利の確信を欠片も揺るがさないくらいに。

*1
周りにサディストが居なければのホワイトグリントのイフである

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