黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 紫栞さん、ちるださん、何かの缶詰まーくつーさん評価付けありがとうございます。頑張ります。
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 アメリカ人の情緒が破壊されるお話(一回目)


英雄

 1998年7月11日夜半。アメリカで滞在している調教も出来る生産牧場にて。

 オグリキャップは戦っていた。

 

 グルルルっ(どけ、殺すぞ)

 ブルルルっ(黙れ、さっさと帰れ)

 

 今朝の落雷で出来た柵の穴から母子熊3頭が侵入。牝馬の悲鳴を聞いて急行して牝馬に襲いかかろうとしていた母熊に体当たりし、それから睨み合いながら唸り合っていた。

 

 グルルルっ(ブチ殺すぞ)

 ブルルルっ(さっさと帰れ)

 

 正直に言ってオグリキャップは怖かった。

 草食動物の本能がニゲロニゲロと絶叫するほど怖かった。

 少しでも気を抜くと震えて逃げ出しそうな身体を必死に抑えるほど怖かった。

 

 グルルルっ(爪も牙もないのによぉ)

 ブルルルっ(さっさと帰れ)

 

 だが引くわけにはいかなかった。

 悲鳴を聞いて娘かもしれないと一心不乱に助けた牝馬は娘ではなかったが、関係ない。

 そう、この牧場には娘が居る。

 人間と一緒にトレーニングしているから逃がしてもらえるだろうが、絶対ではない。

 

 決して引くわけにはいかなかった。

 

 グルルルっ(クソがよっ)

 ブルルルっ(さっさと帰れ)

 

 母熊は困った。

 楽な狩場だと思った。

 居るのは雌馬と仔馬がほとんどで雄馬も居るが、馬は臆病なもの。雄馬なんて一吠えすれば逃げていく。それに比べれば母馬は少し耐えるが一頭血祭りに上げてから二度三度吠えれば逃げる。それから残った仔馬を可愛い子供たちの狩りの相手にすればよかった。

 人間の匂いは遠かった。だから楽に5頭は狩れたはずだった。

 

 この雄馬が居なければ。

 

 馬のくせに何度吠えても逃げない。

 それどころか、牙や爪を見せ付けて脅しているのに逃げない。

 ここまでやれば同じ熊ですら体格に劣れば逃げるのに、この雄馬は逃げない。

 精神も強靭だが、その身体も凄まじい。

 少し老いているが、自分の倍以上の重量を持つ筋肉の詰まった雄大な身体。

 その身体ごと頭を低くして睨みつけてきている。体当たりする気満々だ。

 自分ですら、今もふらつく程の打撃を受けた体当たり。

 もう一度受ければ自分さえ危うく、可愛い子供たちなら一溜りもあるまい。

 人間の匂いも近づいている。切り換えるべきだ。

 この雄馬が居れば、狩りではなく戦いになってしまう。

 割に合わなすぎる。

 この雄馬が居ない時に狩ろう。

 場所は覚えた。

 柵はすぐには直らない、次がある。

 そう思考して、踵を返しかけた母熊。

 その意識は銃声とともに永遠に途絶えた。

 

 

 

 

 

「よくやった! よくやったぞキャップ!!」

 

 手に持ったライフルから硝煙の香りを漂わせながら走る牧場長ジェームズ・ハルマン氏49歳は激賞した。

 

 いくら褒めても足りなかった。

 監視小屋に転送される監視カメラの映像でグリズリー親子熊侵入を見ると同時に、ライフル片手で自転車(車もバイクも近くになかった!)に乗り走らせた。

 だが、間に合わないと覚悟していた。

 周囲には今朝の落雷を伴う豪雨の対処にあちこち散らばったままのスタッフも含めて誰も居ない。

 馬たちに熊に抵抗できるはずもない、脚の遅い仔馬を置いて皆必死で逃げるだけだ。

 手塩にかけた愛しい馬たちは何頭か殺られると覚悟していた。

 

 だが、どうだ。

 

 昔繁殖牝馬を売った伝手によって、日本から預けられたネイティブダンサー末裔父娘の父の方であるキャップ(正式な名はオーゴリキャップ? らしいが呼びにくい)は、これぞ牡馬の中の牡馬! 

 そんな絶賛をしたくなるほどの勇猛果敢さによって、グリズリー親子と睨み合い馬たちを俺の財産を守り抜いた。

 ああ、曾祖父さん許してくれ。

 あんたが言っていた「車が取って代わる前の真の馬たちは、たとえグリズリーを前にしても怯えず平然と俺達を乗せ守ってくれていた」話を今迄眉唾だと思っていた! 

 だが、違ったんだ! 

 キャップのような馬たちばかりだったんだな! 

 グリズリーを弱らせてから睨み合い隙だらけにして、一発で眉間撃ち抜かせて仕留めさせてくれる馬たちだったんだな! 

 そんな馬たちに乗ってあんたらはアメリカを開拓していたんだ! 

 さあ、曾祖父さんたちのように逃げた熊たちを追い根絶やしにせねば。勿論、キャップと共に! 

 

「良し! 追うぞ! キャップ!」

 

 こちらの咆哮の意を感じ取り、すぐさま駆け寄り乗りやすい姿勢を取るキャップ! 

 馬が嫌う硝煙の臭いに一切動じず、今から肉食獣を追うことさえ怯みなどしない! 

 ああこれが真の馬! 

 俺達アメリカ人と共に開拓した真の馬! 

 今や西部劇映画や物語でしか見れないはずの真の馬だ! 

 

「さあ行け! 仕留めるぞ!」

 

 手綱に従い逃げた熊たちを追いかけるキャップ。

 何て扱いやすさだ。

 頭絡と手綱だけで鞍さえ付けていないのに完璧な乗り心地だ。

 しかも雨で濡れた荒地でも全然揺れない。それどころか、満月とはいえ夜の暗い中を正確に熊を追尾している。

 サラブレッドとは狩猟馬であるハンターを品種改良して生まれた種。だから、狩猟も熟すことが不可能では無いとはいえ、それは訓練しての話。

 キャップは訓練もしてないのに最高の狩猟馬の動きをしている。

 気性が穏やかで賢く人の言うことをよく聞いて勇敢でよく走る馬に、理想的な良い馬に俺は今乗っているんだ。

 理想的な良い馬に乗って狩猟をしているんだ。

 完璧な狩猟馬が俺と今狩猟してくれているんだ。

 俺の財産である可愛い馬たちを奪おうとした害獣どもを理想な狩猟馬に乗って駆逐しようとしてるんだ。

 これが、先祖たちのフロンティアスピリッツを支えてくれた真の馬なんだ! 

 

 あまりの誇らしさにハルマン氏は頬を紅潮させつつ、一発ぶっ放して月の光に照らされた逃げている熊のうち一頭に深手を負わせた。

 

 

 

 

 

 オグリキャップにとってもこの状況は有り難かった。

 あの熊達とは、殺るか殺られるかの関係にあるとオグリキャップの野生は絶叫している。

 あの熊達は、こちらの位置と状況を把握してしまっていた。

 間違いなく直ぐに再度襲いかかってくるに決まっていた。

 なのに、自分たちは餌の豊富な牧場から逃げることは出来ず、熊を倒すことなんてもっと出来ない。

 娘が居るのに! 

 倒してくれる人間が乗ってくれるなら、幾らでも走った。

 喉嚢炎を発症して老いた身だが、熊よりは速い。

 熊が何処に居るかを手綱越しやクビの向きで伝えながら、人間の手綱に従って走る。

 いや、手綱は要らない。人間の腿がこちらの背を締める力加減で、人間の足がこちらの腹を叩く力加減で、どう走って欲しいかくらいは分かる。

 散々訓練されたのだ。

 パァン。

 それを理解し手綱を離した人間の手にある筒から大きな音が出る。

 大きな音だが、競馬場の大歓声と比べれば何程ではない。

 心に波紋一つ起こさずに、熊の左後方から近づき真横20mに占位の指示の通りに走る。

 

 

 

 日本競馬史上最も乗りやすい馬のうちの一頭と評された馬はその本領を発揮した。

 

 

 

 

 

「おぉ、おおぉっ、おおおおっ!? 曾祖父さん。そして、先祖たちよ。あんた達はこうしてたんだなっ!!」

 

 満月の下で軍馬でもない裸馬に乗りながら両手で銃を使えている。

 昨日までの自分が聞いたら狂ったかと嘲笑するような事が現実に起きている。

 西部開拓時代に謳われ歴史になったことが現実で出来ている。

 西部劇の主役そのままな事を俺はしている! 

 キャップは手綱さえ要らなかった。腿の力加減。足で腹を打つ力加減によって自由自在に動いてくれる。

 懐中電灯も要らなかった。闇夜の中、熊が何処にいるか正確にとらえ続けてクビの向きで導いてくれる。

 そうだ。

 そうだったんだ。

 開拓時代、懐中電灯さえない時代、灯りさえろくになかった先祖たちはこうして馬だけを頼りにして銃を撃っていたんだ。

 厳しい自然の中で多くの困難と闘いながら逞しく生きてきた開拓者の物語こそ俺達アメリカ人の誇り。

 曾祖父さんの言ったとおり、銃声にまったく動じずに、獲物を捉えて指示した通り人間の身体を撃ちやすい位置に運んでくれるキャップのような愛すべき相棒と共に生きていたんだ。

 曾祖父さんすまねえ。どうせ一緒に犬が居たんだろなんて思ってた俺を許してくれ。

 

「よぉしっ!」

 

 指示通り左真横20mで同速に落としてくれた。

 完璧だ!! 

 引き金を引く。

 

「あんたたちは、こうして──」

 

 銃声。

 仕留めた。

 次へ行く。

 次は熊の右後ろから右真横20mに占位して同速だ。

 腿の締付けだけによる指示に速やかに従って速度をあげるキャップの頼もしさよ。

 まさに以心伝心。

 

「──獲物を仕留めていたんだな」

 

 速度を変えながらも撃ちやすいように身体を揺らさないキャップの献身っぷりに涙が止まらない。

 裸馬の馬上で座り込みの姿勢で射撃が出来るなんて! 

 これが馬上撃ち! 

 常歩で撃つのではなく襲歩させながらの馬上撃ち! 

 本物の馬上撃ちだ! 

 

「曾祖父さんあんたの言う通りだ! これが真の馬だ! 今迄見ることが出来なかった真の馬だ! 俺達アメリカ人の誇りにして相棒だ! 

 やっぱりネイティブダンサーの系譜は違うぜ! あの種だけ野郎とは違う!!」

 

 4戦4勝のレイズアネイティヴは兎も角、重賞勝ちが無いくせに種牡馬として大成功した鹿毛ミスタープロスペクターを普通に種牡馬として扱いながら種だけ野郎と呼ぶ。

 そんな結構居るアメリカ牧場主の一人であるハルマン氏は、咆哮しつつライフルをぶっ放してきっかり左横20mを同速で走る最後の熊を仕留めた。

 

「良いぞ! よくやった! キャップ! 牧場に戻ったらビール飲んでウチの箱入りベルに種付けしろ! 良血で重賞ウイナーなくせに種付け嫌いで当て馬3頭玉無しにした札付きだが! 

 あいつを助けたお前なら種付けできるっ! ベルノライトは違いなくお前に惚れたっ! 

 多少遅生まれになるだろうが気にするなっ! 

 あの悍馬を母親にしてやれっ!」

 

 

 

 

 

 かくてオグリキャップのエピソードに、熊3頭と吠え合い追い返してから裸馬のままで狩猟馬となり熊を追い詰めたという伝説的エピソードが追加された。

 

 監視カメラにより一部始終が収められた動画は直ぐに放映され、全米に旋風を巻き起こした。

 白黒の監視カメラ映像だからこそ、その祖父と同じく葦毛の馬体はよく映えた。

 西部劇から抜け出したとしか思えない熊と睨み合い引かせた上で牧場長を乗せて満月の中走る葦毛馬の姿は、アメリカ人たちをテレビにしがみつかせた。

 壊れた柵から侵入する熊たちに息を呑み。

 一番近くにいて恐怖で棒立ちした牝馬に母熊が襲いかかる所で悲鳴をあげ。

 間一髪の所を熊に体当りして牝馬を救った葦毛の馬体に「「「グレイゴースト!!!」」」と歓喜の咆哮を上げた。

 そのまま3頭の熊に対してもたった一頭で一歩も引かず馬たちを守り抜く雄の中の雄っぷりに、拳を握りしめながら応援した。

 月明かりの中で葦毛を光らせ、裸馬でありながら牧場長を安定して乗せつつ巧みに走り熊たちを追い詰めていく姿に絶叫しつづけた。

 

 紛れもない英雄だった。

 

 西部開拓時代の伝説に謳われる開拓者と共にありとあらゆる苦難を越えていく勇敢な相棒そのものだった。

 ハルマン氏と同じく犬もいたんだろうと疑っていた論説や、幾ら伝説とはいえ盛りすぎたという嘲笑は姿を消した。

 そう、敵の銃弾を浴びた身で主人を乗せ100マイル走った馬や、主人を乗せてパンサーと渡り合い主人の勝利に貢献した馬や、10頭を超えるコヨーテの包囲を幼い子供をしがみつかせ守りながら脱出した馬とか、グリズリーに襲いかかられた主人を体当たりで助けた馬などの、数々のUMA伝説。

 それらは、この日を境としてアメリカ人の中で伝説から史実になった。

 伝説は正しかったんだ! 

 開拓者と馬は一人と一頭で数多の害獣等の苦難に抗い勝ち抜いたんだ! 

 生きた伝説が証明してくれた! 

 

 フロンティア精神と夢を育みアメリカンドリームそのものであった西部開拓時代の生きた伝説の再来は、アメリカ人のノスタルジーをこれ以上なく刺激しハートをガッチリ鷲掴みにした。

 競馬に興味がないアメリカ人にもだった。

 馬や馬車に乗りながら、厳しい自然の中で多くの困難と闘い逞しく生きる開拓者の物語こそがアメリカ人の根幹だ。

 それほどアメリカ人には開拓者の相棒としての馬が親しまれ好かれる当然の存在だった。

 そこに、阪神競馬場で落下する少女を助けるオグリキャップの記事が翻訳され、状況は決定的なものとなる。

 競走馬ではなく、馬としてのオグリキャップブームがアメリカで巻き起こるのに時間は要らなかった。

 

 

 

 そして、オグリキャップのグッズが日本にあると聞いて、欲しいと望むアメリカ人の為に、オグリキャップブーム時に作られ売り切れず倉庫にしまわれていたぬいぐるみを含めた大量のグッズが即座に日本から海を渡り始める。

 それだけでは到底足りず、新たに工場やラインさえ作られ、売り出され始めていたホワイトグリントグッズを含めた大量の新たなオグリキャップグッズやUFOキャッチャーを含めたアミューズメント施設等は海を渡り続けた。

 アメリカに日本製の玩具やアミューズメント施設の良さを存分に理解させ、馬関連以外の大量の発注を呼び込みながら。

 かくて「オグリキャップ・ホワイトグリント景気」と呼ばれるほどの大量の外貨を日本にもたらすことになり、バブル崩壊以後喘いでいた日本経済に有意な影響さえ与えることになる。

 のだが、それは未来の話。

 今のオグリキャップは、懐中電灯の灯りで熊の血抜きと皮剥をするハルマン氏を守るために周囲の警戒をする狩猟馬の鑑の姿勢を取っていた。

 

 

 

 大人気となった動画はとある大物ハリウッド監督の目に止まり「理想だ! オレが撮りたかった理想の西部時代だ!」と感涙させ、企画中の大作西部劇映画の主役馬としてオファーが来ることになる。

 その連絡に所有者である大栗オーナーは目を白黒させたが、動画に映る愛馬オグリキャップの元気ハツラツっぷりに「ハツラツがあんなに元気に」と目を細めると「怪我をさせないで馬として自由にさせる」事を条件として極めて常識的な額で映画出演と悍馬への種付けを認め、日本の業者からのグッズ製作許可も安価で認めることとなる。

 そして「やっぱり偉大な馬を持っている男は漢だぜ! 銭ゲバとは違う!」と更にアメリカ人の好感を高めて愛馬と共に何度もアメリカに招待されるようになる。

 のも、未来の話。

 今のオグリキャップは西部開拓時代の馬の如く、ハルマン氏と氏が狩り捌いた熊をその背に乗せて牧場への帰り道を歩いていた。

 

 

 

 オグリキャップが競走馬だからこそ起きた変化があった。直ぐに英語に翻訳された競走馬オグリキャップのレース動画を見たアメリカ人は数々の名レースの虜になり、アメリカの競馬場へと足を運ぶことになる。

 そして、その目に純白の馬が映った。

 魂を鷲掴みにされた彼ら彼女らは、その娘の白馬が魅せたレースにより新たな競馬ファンとして定着することなった。

 この流れに新規客が来ないと絶望していたアメリカ競馬界は歓喜に咽び泣いた。

 御礼にと、大栗オーナーの許可を取ると、計画していただけで走ってもいないアーリントンパーク競馬場に『最も勇猛果敢な挑戦者』と題した母熊の剥製と対峙するオグリキャップの等身大銅像を巨大な絵画と共に飾ることとなる。

 のもまた、未来の話。

 今のオグリキャップは、娘が何をしているのかとご飯の事で頭を一杯にしながら歩いていた。

 

 

 

 

 

 一方その頃、牧場のプールでは

 

「テキ! 大変です!」

「なんや」

「あの、今外で」

「ああ、何か騒がしいな」

「はい、あの」

「怪我した馬が出たり事故でもあったんか」

「いえ、怪我した馬はいないんですけど、あの」

「なら気にするな……」

 

 瀬戸内はそこで言葉を切った。

 

「儂らが気にすんのは、目ぇ離した1時間もない時間で36kgの肉付けたこのドマゾの事だけや。違うか」

「いえ、違いません」

 

 ホワイトグリントから振り向くことなく、目線だけを向けてきた穏やかな口調の瀬戸内の眼光に池柄厩務員は反射的に答えた。

 超怖い。

 だから話を変える。オグリキャップのアレコレは日本に伝えるべきだ。大栗オーナーに伝えてもらうために、北野オーナーを第一に。

 こうして、オグリキャップのオの言葉さえ言われれば迅速に反応した瀬戸内は「あんたが育てた馬は最高だぜ!」と抱き着いてきたハルマン氏に「当然や。わしの育てた馬やからな」と日本語と英語で意思疎通して盛り上がるまで、オグリキャップの行動を知ることが無かった。

 のは半日後の話。

 今は、厩舎から出る馬が居ない宝塚記念を放り出し厩舎を一時的に助手に任せて、帰国せずにホワイトグリントをシゴキぬいていた。

 

 ひーんっひーんっ

 

「あの、流石にグリント限界では?」

 

 あまりのシゴキに流石のホワイトグリントさえ、小型ユンボで吊るされる形でプールに浮かびながら息をするのがやっとだ。

 だが、瀬戸内は池柄厩務員に振り向きもしない。

 

「太ったからや」

「はい?」

「太ったからや。普段のコイツならこなせていた。なのにこなせん。太ったからや」

「………………そうですね」

 

 何時もの倍以上シゴイてますよ等色々言葉を探すが、その通りと言えばその通りだし、あくまでもプールだけで脚に負担が無いため賛同する。

 何よりホワイトグリント喜んでるし。

 レースの時くらいに目がキラキラ輝いてるし。

 良く見なければ分からないけど笑顔だし。

 ひょっとしたら、ホワイトグリントの奴が太るとコレだけのハードトレーニングをしてもらえるんだ。と認識するかもしれない。

 いや、きっと認識する。

 ならば、厩務員としてやるべきことはただ一つ。

 

「流されても動けなくなって浮いたままでも構わん。息はさせる。その為に吊るしとんのや。あと二週間で何としても後30kg落とすぞ」

「はい、先生。厳重に食事量を制限して、道草食ったりオグリが餌を分けたりしないように監視します」

「おう、任せるで」

 

 ホワイトグリントが適正体重になるように世話をして、太ると大好きな食事が出来ないと理解させ、わざと太らせないようにする。

 池柄厩務員はそう決心して結果を出す。

 

 かくて、アメリカ人的理想の馬街道を驀進して完全無欠なヒーローになった父に対して、娘はガンギマリの目をした調教師たちによるプールを主としたハードトレーニングダイエットを堪能しているのだった。

 

 

 

 その頃、オグリキャップが世界最大のアメリカ市場においてブームとなる事なんて知る由もない阪神競馬場では決戦が行われようとしていた。

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