感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。
この世界線のサイレンススズカは、サイケにとてもとても愛されてます。
どれだけ愛されているのかをスレ様式に書いていたら、10000字こえたので、2話にわけます
『阪神競馬場、第11レース。芝2200mメートルで行われる、グランプリ宝塚記念。出走馬は14頭。馬場コンディションは良。入場規制一杯の12万人の来場者が見守る中、39回を迎える春のグランプリを手にするのはどの馬か? 外回り4コーナー出口からスタート、内回りコースを使用します……係員が離れました。さあ、14頭ゲートに収まって』
晴れた空のなか、中に入ることの出来た12万人のファンと外の特設会場の大モニターで見守る1万人のファンが息を呑む。
逃げ馬。
先頭を走って真っ先にゴールする馬たち。
尤も競馬で分かりやすく、そして最も競馬で難しい勝ち方をする馬たち。
皐月賞を逃げ切ったセイウンスカイを除く、現在の競馬界で強い逃げ馬と呼ばれる二頭がぶつかろうとしていた。
『スタートしました! 各馬そろ──いや、いや、サニーブライアンとサイレンススズカが行ったぁぁ! 最初からハナを獲りに行ったぁぁ!』
【なんて思いっきりの良さだ】
わああああああ!
最初から飛ばした二頭に観客はただ絶叫する。
こんなレースを観たかった。
こんなレースを見に来た。
どっちが一番強い逃げ馬かを見に来たんだ!
『速い速い! 200m通過タイムは10.2! 飛ばしに飛ばしている! そのまま競り合うつもりか! いえ、行きませんサニーブライアン! ぴったりとサイレンススズカの後ろに付けました! 先頭に立ったサイレンススズカをマークするのか!』
【さすがに、トウショウボーイとテンポイントはしませんよね。いや、一瞬焦りました】
レースの主役を張る二頭が、先頭を奪い合う。
この光景に一部のファンはかの伝説のレースを頭に浮かべたが、さすがにそんなことは起こらず。
先頭サイレンススズカ、サニーブライアンのマークでレースは進む。
キツイレースだ。
競馬関係者が思わず息を呑む。
ペースが速い中、あれだけピッタリ張りつかれたら、馬にとっても騎手にとっても相当なプレッシャーが与えられる。
「流石は大里さん。凄いわ。一番サイレンススズカにプレッシャー与えられる所におる」
待機室で見ていた沙藤騎手が称賛しながら勉強している通り、大里の騎乗技術の冴えだった。
もう少し離れていたり、もう少し近ければ駄目になる。
一番馬蹄の音と気配の圧をサイレンススズカに与えつつ、サニーブライアンの足を溜めてスタミナを残せる位置。
今日の気候レース場の状況などありとあらゆる情報を含めて弾き出した位置。
そんな位置に陣取られ、何時も通り先頭を逃げているサイレンススズカだが、何時もと違いやり辛そうにしている。
微妙すぎて乗っている竹では気付けない。やり辛そうなサイレンススズカはテレビ画面で見て、ようやく沙藤を含めた競馬関係者に理解する事が出来た。
そんな、神業の位置。
それが、二馬身差後方。
そのポジションにぴったりとつけていた。
『1000m57秒5! 速い速い! 2200mのレースとは思えないタイム! 間違いなく大逃げタイム!
しかし、大逃げではない! いや、大逃げ出来ない!
サニーブライアンが2馬身後ろに居る!
サニーブライアンが居る限りサイレンススズカ大逃げ出来ない!
サイレンススズカ一頭だけが逃げることは出来ない!』
【サニーブライアンと後続とは8馬身以上離れています。サニーブライアンもそれだけ速いペースなんです。その2馬身先をサイレンススズカが走ってます。なんて馬だ両方とも』
完全な大逃げペース。後続とは距離が開いた。だが両者引かない。
サイレンススズカはただ先頭を愚直なまでに走り。
サニーブライアンは二馬身差の所でプレッシャーをかけ続けている。
「マッチレースだなこれ」
「うん、実質的にマッチレースだよ」
「二頭だけで決着つけるつもりだ。両方とも」
「これがマッチレースじゃなくて何なんだよ」
余りの展開に観客席の歓声が静まり返り、ざわざわというどよめきのみが起こる。
『なんという鍔迫り合い! 何というレース! 2頭と後続との差は10馬身以上離れている! だが、2頭は全く揺るがない!』
【ここまでこれた意思が凄まじいです。逃げるという意思しかない】
お互いに自滅するのではないかと思われるほどの逃げ馬争いが続く
「きついな」
「ああ、騎手も馬もきついだろうけど見ているほうもキツイ」
「胃が痛くなってきた」
「そうだな。でも」
「ああ、凄いレースだ。どっちが勝ってもおかしくない逃げ馬の逃げ合いなんて」
「こんなレース。そうそうないよ」
第3コーナーを越えても渡り合う二頭に観客は唯ざわめく。
『第4コーナーに差し掛かって! 行った行ったぁぁぁ! サニーブライアンに鞭が入ったぁ! 直線前に加速し始め──サイレンススズカにも鞭が入ったぁ! 負けじと先頭を貫く!
後続など待ちはしない! 逃げ馬たちは逃げ馬のみで決着をつける!』
【サニーブライアンは春の天皇賞を勝ったスタミナに。サイレンススズカはそのスピードで勝負するつもりです。なんて二頭だ】
『このままいくのか! サイレンススズカ逃げ切るか! 抜かすのかサニーブライアン!
さあ、サイレンス──あ、あぁっ、サイレンススズカが、口を』
声を切らせて息を呑んだ実況と同じく、レースを観ていた全員が息を呑む。
サイレンススズカの様子に。
(大里の野郎にやられたっ!?)
鞭を入れてサイレンススズカの状況に気付いた竹優は、先輩への外面を消し飛ばして内心で悲鳴を上げた。
サイレンススズカが何時も通りではない。
最速のスタートを決めて、並ばれないくらいに大逃げし、最短コースでレースを進め、最後の直線でも後続と同等のタイムで走る。
その走りができない。
スタートはサニーブライアンに並ばれ最速で進めず。
常時2馬身後方に張り付かれて馬蹄の音を叩き込まれながら大逃げ出来ず。
同じ最短コースを走られながら気配の圧をかけられ続けた。
大里とサニーブライアンにより、積み重ねられたプレッシャーの数々。
それらが、サイレンススズカを恐ろしいほど消耗させていた。
そこに竹の鞭によるスパートの合図がトドメになった。
サイレンススズカは、今にも口を割ろうとしている。
このままでは、最後の直線で後続と同等のタイムでは走ることが出来ない。
いや、そう仕向けられた。
サイレンススズカの限界を見定めて追い詰めた大里の騎乗によって。
『サイレンススズカ口を割った! サイレンススズカが口を割った!』
【この為に、2馬身後方に置いてスタミナ温存しながらプレッシャーかけ続けたのか。サイレンススズカに。そして、竹に。
いや、スタートからこれを狙ってレースを展開させたんやな。
相変わらず卑怯なくらい巧いわ。大里。普通わからんし出来んやろ。
乗ってもいないサイレンススズカの限界を見定めて追い詰めるなんて】
おおおおっ!!
天才と呼ばれた田柳をして解説を忘れさせたほどの騎乗により、強制的に限界を迎えさせられたサイレンススズカに感嘆が含まれたどよめきが起こる。
そのどよめきを竹は耳にしながら歯を食いしばる。
自らの未熟を突きつけられたがゆえに。
(乗っている俺はスズカがここまで消耗していると気づけなかったのに。だから鞭を入れてしまったのに)
愛馬の限界に気づいてなかったことに歯噛みするがもう遅い。
サニーブライアンは春天を逃げ切ったスタミナがある。
流石にこれ以上は加速できないだろうが、それは慰めにならない。
口を割ったサイレンススズカの脚は遅くなっている。
何時も通りに逃げて差す事が出来なくなったままでは追いつかれる。
俺が鞭を打ったせいで。
先にスパートをかけたサニーブライアンに抜かされるかもしれないと焦った俺が鞭を打ったせいで。
心が弱まっていたところに、大里にプレッシャーをかけられ続けた俺が鞭を打ったせいで。
鞭を打たなければ、こんなに早くサイレンススズカは限界を迎えなかったのに。
鞭を打たなければ、サニーブライアン相手でもサイレンススズカは直線でまだ渡り合えたのに。
大里に手玉に取られた俺のせいで。
サイレンススズカは負ける。
(ちくしょう、ちくしょうっっっ)
おそらく、残り150m付近で追いつかれる。
そして抜かされる。
俺のせいだ。
──大里に気をつけろ。
(これが、大里と俺の8年の差か……ごめん。ごめんなサイレンススズカ)
兄弟子がメジロブライトでサニーブライアンに敗れた時に、小刻みに震えながら青褪めていた意味を今痛感した。
負けた。
完璧に。
騎手として殆んど感じたことが無かった完膚なきまでの敗北感を噛み締めながら、必死に竹優はサイレンススズカを追う。
少しでも先に行かせようと足掻く。
『直線残り200m! 初めてだ! 初めて限界をむかえた! サイレンススズカが限界をむかえた!
そして、満を持してサニーブライアンが追い抜こうとする!』
【大里騎手の騎乗も凄いですが、その騎乗を可能とするサニーブライアンも凄いです。強い。本当に強い】
春のグランプリも獲ったな。
それだけを胸に大里は追う。
厳しいレースだった。
いや、厳しすぎた。
サイレンススズカは本当に強かった。
サニーブライアンと共に戦った馬の中で最強だった。
ウイニングランはやらない。否、やれない。
それほどまでにサニーブライアンは消耗した。
抜かしたら脚を緩めてやろう。
それでも、半馬身差で俺たちが勝つ。
(ダービーのように有頂天になってウイニングランして故障させたりはしない。もう2度と)
後悔を糧にして大里は追う。
鞭は要らない。鞭だけで消耗させるし、騎手のバランスが崩れてさらに消耗させてしまう。
限界が近いサニーブライアンにそんな事は出来ない。
何より鞭などなくともサニーブライアンは応えてくれる。
サイレンススズカの真後ろから左横へ斜めに上る。
これで勝った。
『サニーブライアンがサイレンススズカに追いつく! 抜かす!』
誰もが、このままサイレンススズカは抜かされると思った。
騎手も、観客も、調教師も、馬主も、実況も、解説も、全員が
──サイレンススズカ以外は
((なにっ!?))
想定外な状況に、竹・大里両騎手が驚愕した。
『いや、抜かせない! サイレンススズカ粘る! 口を割って泡をふいたまま粘る! 粘る! クビ差前で粘る!』
【こんな勝負根性あったんかい!!??】
誰もが想像していなかったサイレンススズカのド根性。
調教でも見せなかった勝負根性に、サニーブライアン鞍上大里は勿論、サイレンススズカ鞍上の竹もサイレンススズカ調教師も助手も厩務員でさえも驚愕する。
おおおおおおおおおおっ!?
観客の驚愕が含まれた絶叫と同時、直ぐに無心に追い続ける鞍上二人。
二人とも、最早ここまでくれば叩き合うだけと分からない腕の騎手ではない。
その鞍上に応えるように二頭は全力で叩き合う。
『サニーブライアンが体を併せる! サイレンススズカ粘る!』
叩き合うサイレンススズカとサニーブライアン。
後続は遠いが、最早そんなことは関係ない。殆んどの人間がもう彼らしか見ていなかった。
否、実況さえ名を呼ぶのは二頭の名だけだった。
いや、最初から観客も実況も解説も二頭しか目にし口にしていなかった。
今や完全に馬体を併せた二頭だけだった。
『サニーブライアンか! サイレンススズカか! サニーブライアンが抜くか! サイレンススズカが粘るか!
これは、もうマッチレースだ! このレースは最初からマッチレースだった!
マッチレースだっ! 阪神競馬場でマッチレース! 春のグランプリでマッチレースが行われている!
サニーブライアンとサイレンススズカ! 同い年二頭の逃げ馬だけのマッチレースだ!』
宝塚記念の直線を二頭の馬が並走で叩き合う。
逃げ馬対決。関東VS関西。そう銘打たれていても、ここまでやるとはだれも思っていなかった。
最初から最後まで、先頭を保てるか否かのマッチレースになるなんて夢にも思わなかった。
2頭と2人だけのマッチレースになるなんて想像さえ出来なかった。
逃げ馬たちのマッチレースは最初から始まっていたのだ。
そして、最後まで続き。
『サイレンススズカ諦めない! サニーブライアン譲らない!
2頭の馬上で鞍上が鬼の形相で必死で追う! どっちだ! どっちだ!』
サイレンススズカが僅かに残した。
『サイレンススズカだ! サイレンススズカが僅かに僅かに残したぁぁっ! サニーブライアンが2着だぁ!!
竹優! 何度も何度もサイレンススズカを撫でます! 撫でて顔を鬣にうずめます! 体を震わせています。泣いているのでしょうか。
それほどの勝利です! それほどの意味のある勝ちです!
ようやく後続がゴールします。3着はステイゴールドか。
逃げ切りました! サイレンススズカ!
マッチレースを制しましたサイレンススズカ!
昨年の日本ダービーから400日余を経て今回は勝ちました!!
同い年の逃げ馬から今度は! 逃げ切りました!!
最強サニーブライアンから逃げ切りました最速サイレンススズカぁぁっ!!!』
次回は清書して明日の昼過ぎに投下します