黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 調べれば調べるほど日本競馬より遥かにアメリカ競馬の方が危機的です(滝汗
 何で日本の阪神競馬場ポジションの競馬場がこの有様なんだ。日本でいう地方競馬はほぼ壊滅してるし(震え声)


おかえりなさい

 8月14日夜半。アメリカ合衆国カリフォルニア州デルマー競馬場

 

 デルマー競馬場。

 1937年にビング・クロスビー、パット・オブライエン、ジミー・デュランテらの俳優。実業家チャールズ・スチュワート・ハワードらが。

「西海岸でも競馬場作りたい。競馬をみたい。何よりも俺のシービスケットやリガロッティたちを西海岸の皆に見てもらいたい! よし、作ろう競馬場!! 良い土地があるしデカいの!!! 東海岸の連中も驚くデッカイの!!!」

 こんなアメリカンなノリで作り、マッチレースや高額レースなどを開催しまくった。それだけでなく、道路や鉄道まで敷いて交通を整えて、水道や電気などのインフラを整えて、ホテルやレストランや店なども作りまくった。そして、作り上げられた完璧なリゾート地は、馬と人を呼んで北米夏季競馬はサラトガとデルマーと呼ばれるまでになったのがデルマー競馬場である。

 何というか、広大な土地に此処までカネとモノとヒトをぶち込めば一から競馬場作って発展させることが出来るというか。

 ここまでやらんと競馬場はインフラが整っていない場所では発展させられんのだな。ということを教えてくれるのが、デルマー競馬場である。

 バブルの頃、日本の地方競馬界が田舎で一流競馬場に成る参考にしようとして「参考外。というか絶対に参考にしちゃあ駄目。カネとモノとヒトは勿論、あんな広大な海沿いの良い平地は島国日本には無い。そんな良い平地もう使ってる(号泣)」一瞬にして諦めてしまったシロモノ。

 それがデルマー競馬場である。

 

 パシフィッククラシックステークスは、そのデルマー競馬場が人を集めようと目玉として作ったレース。毎年8月から9月に行われるダート2000m西海岸最大のレースである。

 総賞金額1000000ドル。1着賞金600000ドル。ワンミリオンレースとも呼ばれている。

 デルマー競馬場は1周1600mのコースだが、ゆったりしたコーナーが特徴で、コーナーからゴールまでは280メートルと300メートルを切っている。他のレース場が350mはあるのだから一目瞭然の違いだ。

 つまりは直線よーいどん。ではなく、直線までの駆け引きこそがレースの死命を決する。

 駆け引きの巧い騎手と馬は『デルマー巧者』と称えられるほどで、数々の人気薄の馬がデルマーの勝者となって来た。

 

 

 

 

 

 そんな、デルマー競馬場には問題があった。

 パシフィッククラシックステークスのようなワンミリオンレースを作らなければならない問題が。

 

 まあ、何時ものごとくというか。日本もアメリカも一緒というか。いや、アメリカの方がこの頃は遥かに危機的というか。

 ホワイトグリント登場以前の日本がこのままでは崖から落ちると心配していたくらいとすれば、もう真っ逆さまに落ちていたというか。

 

 競馬人気が衰えてしまい人が競馬場に入らなくなってしまったのである。

 

 せっかく作ったホテルや店も人が入らずに赤字で競馬場が補填という有り様。いや、リゾート期間中は入るのだ。リゾート期間中だけは黒字なのだ。競馬の時期では人が入らず真っ赤になっているだけなのだ。サブであったはずの海リゾートがメインの競馬を見事に食ってしまっただけなのだ。

 競馬場というか競馬場のオーナーたちが支援しているが、「もうキツイわ。カネの問題じゃなく客が居ないのが。もう、競馬はサブでリゾートメインにしないか。リゾート期間以外競馬やるの辞めて競馬場も町も閉めようぜ。どうせデカいレースはリゾート期間の夏と持ち回りのブリーダーズカップだけしか出来ないんだからさ」と真顔でホテルや店に返されてしまうようになってしまったのである。

 

 

 

 

 

 つい1カ月前までは

 

 

 

 

 

「おお、主よ。主よ。感謝いたします。我らを見捨ててはいなかったのですね」

 

 西海岸競馬界の大物ロイマン氏は、デルマー競馬場オーナー室で神への感謝と祈りをささげていた。

 ハリウッド俳優ビング・クロスビーが最初のファンをゲートで出迎えるなど、数々のハリウッドスターや西海岸の開拓精神旺盛な実業家たちが愛し育んだデルマー競馬場。

 シービスケットのレースには2万人が詰めかけ熱気と歓声が響き渡ったデルマー競馬場。

 そのまま、順調に発展していき「夏だけじゃなく、秋開催のG1も俺達デルマー競馬場が開催するぜ! フロンティアスピリッツ見せてやる!」と気炎を上げていたデルマー競馬場。

「東部のヤンキーどもから西海岸に競馬文化を何れ奪い取るだろう。いや、きっと奪い取る!? 西海岸の誇りだ!!」それこそがデルマー競馬場。

 その盛名は遥か彼方歴史へと過ぎ去ろうとしていた。

 

 重賞は勿論、G1レースですら1万人客が入らない日々。

 リゾート観客を招待しても「私たちは泳ぎに来たんであって、お馬さんのかけっこには興味ない」と言われ笑われ続ける日々。

 それでも黒字なだけマシじゃないかと他の競馬場に言われる日々。

 いや、馬券の売り上げじゃなく併設したカジノのスロット等の売り上げなんだと涙する日々。

 競馬じゃなくてリゾート客のカジノの売り上げで持ってるんだぜ! ナイスジョークだよ! と悲痛に笑い泣いた日々。

 ハリウッドパーク競馬場に「このままだとウチはもう駄目かもしれん。あと10年少ししか持たん。後は頼む」と言われ、「第1回ブリーダーズカップを実施した西海岸きっての競馬場でさえかよ!?」と仲間が失われる絶望に悲鳴を上げて泣き叫んだ日々。

 

 

 

 

 

 それらは過去の物になった。

 

 

 

 

 

「ユーリーくん間違いないのだね」

 

 自分と同じく跪いて神へ感謝しているチーフのウォルター氏に確認する。

 

「はい。間違いありません。パシフィッククラシックステークス前日の本日でさえ来場客数は11万人を超え、売り上げは3億ドルを超えました。

 ──馬券だけでです」

「おおっ! 主よ! 主よぉぉっ!」

 

 ブリーダーズカップが無い年の1シーズン以上。つまりはほぼ1年分以上の馬券売り上げが一日で成された。あまりの事に咽び泣くロイマン氏。

 だが、彼に対して批判する人間はだれ一人としていない。

 同室の者たち全員が神に祈りながら涙していたのだ。

 

「天使とは実在したのだな」

「ええ、まさに」

「アメリカに帰ってきてくれたのだな」

「はい、そうですとも」

「おかえりなさい。天使たち」

 

 胸ポケットのロケットを開いて、葦毛馬と白馬の写真を見つめる部屋の中全員。

 神道的価値観により二頭の馬の像を作って神棚に祭り上げて全職員が毎日祈るのが日常と化した日本のJRAとは違って、ここはアメリカ。

 馬の像を作って祈ったりするのは駄目なのである。絶対に駄目なのである。

 だから、アメリカの人達は皆でロケットに父娘馬の写真を入れて胸元にしまい込んだのである。神に祈るその時にも。だって、2頭は天使だもの。これならOK。何の問題もない。

 そういうことなのである。

 

 どう考えても情緒が弾けて宗教に走っている人達だが気にしてはいけない。

 隣人愛と天使だから何の問題もないのだ。

 

 

 

 

 

 もっと敬虔な信仰を父娘に捧げているJRAに比べれば何の問題もない

 

 

 

 

 

「ホテル協会も満面の笑顔です。レストランや販売店も露店を増設しても追い付きません! 東海岸の報告に慌てて作ったホテルでさえ人が一杯です! 入りきらない客はサンディエゴとロサンゼルスのホテルと協力して送り迎えの便を出して泊まってもらっているほどです! 

 勿論、明日の朝は特別便のバスや電車でコチラに帰って来てもらいます。客を逃がしはしません」

「日本からの観光客は不自由してないのだろうね。1万人を超える海外からの上客だよ」

「勿論です。日本語を話せるスタッフを東海岸からも呼び出して対応しています。ホテルも店も競馬場もカジノもリゾートにもトラブルらしいトラブルは起きていません」

「成る程……競馬場や競馬場近くの場所を撮影現場にしたアーノルド・シュウルツェネッカー氏を始めとするハリウッドスターたちは、どうかね?」

「キャロメン監督が直ちに絵を撮りたいと言っているのでそちらに。

 アーノルド・シュウルツェネッカー氏が乗る葦毛の父オグリキャップだけでなく、レース後と言う条件で馬主の北野氏からホワイトグリントの撮影許可を貰えましたので、ホワイトグリントにも役を与えて撮れるだけの絵を急いで撮ると」

「タイタニック以来コレというインスピレーションが湧かないと言って映画ではなくテレビに目を向けていた監督が、此処まで熱心かつ積極的になるとは、ね」

「聞いた話によると、馬としては有り得ない父娘愛は監督のハートを撃ち抜いたらしいです。レース後には、ヒロインをホワイトグリントに乗せて撮る許可を貰うほどに話が進んでいます。二週間で出来る限り撮って後でカットすると」

「? 二週間とは急だね。次走のブリーダーズカップまで2カ月以上の時間があるのに、何故そんなに急いでるんだ?」

「馬主の北野氏との契約だからだそうです」

「契約か。なら仕方ないか」

 

 二週間後にはオグリキャップとホワイトグリントが日本に帰るということをちゃんと認識している映画界と、日本馬という事さえ燃え尽きてしまっている競馬界では意思疎通に非常な困難をきたしていた。

 

「しかし、嬉しすぎる誤算です。デルマー競馬場にも著名な撮影現場が出来るなんて。これも新しい売りに出来ます──そういえば」

「ん?」

「また、ハリウッドパーク競馬場の奴らがホワイトグリントにハリウッドパーク競馬場でも走ってもらいたいと言ってきてますがどうしますか? 

 あとこれは初めてですが、最低でもオグリキャップの撮影はハリウッドに近いウチでやるべきだろうと」

 

 チィッ、部屋に居る全員が舌打ちする。

 

((((ハリウッドパーク競馬場のクソどもがまるで乞食じゃねーか。そっちもかなりの客が新規に入ってんだからそれで我慢しろよ))))

 

 少し前までは、ハリウッドパーク競馬場を仲間扱いしていたロイマン氏とデルマー競馬場スタッフだったが今は違う。

 敵である。

 

(オグリキャップとホワイトグリント父娘は、パシフィッククラシックステークス目当てに、つまりはデルマー競馬場目当てにアメリカに帰ってきてくれたんだよ。今さら何を盗ろうとしてるんだ。自分の所の営業不足を棚に上げてよ)と温和派のロイマン氏でさえ今では考えている。

 

 

 そんなロイマン氏の考えを知れば「シレッと抜かしやがってブッ殺してやる!!!???」とハリウッドパーク競馬場含めた他の競馬場オーナーやスタッフ達はショットガン片手にブチギレるだろう。

 

 

 何せ「日本馬がパシフィッククラシックステークスに走りたい? 記念出場かな? まあ、条件が合って登録料払ってくれるなら断る必要も無いな」そんな軽い気持ちで申請書類にサインした、一切営業していないどころかホワイトグリントに興味さえ無かったのが、かつてのロイマン氏だからだ。

 どれくらい興味が無かったかというと、書類に書かれていた白馬だのネイティブダンサー系だのを読み飛ばしてサインしたくらいである。

 日本馬? 競馬後進国なのは勿論のこと、日本は芝レース中心なのにアメリカのダートレースを? 少し前のシンボリルドルフとかいう日本の最強馬でさえアメリカ芝レースで掲示板外だぞ。好走さえ出来ないだろ? まあ、西海岸最大レースである俺たちデルマーのパシフィッククラシックステークスに走りたいって気持ちは買うよ。頑張ってね。

 そんな一般的アメリカ競馬界価値観でロクに書類を読まずにサインしたのだ。まさかCCAオークスを4馬身差で大勝する怪物白馬とは思っていなかった。やっぱりネイティブダンサー直系は違うっ! 

 ネイティブダンサー系の白馬だと申請書類をしっかり読んでおくべきだったと後悔した。

 アメリカであれほどのブームを巻き起こす父娘だと分かっていたならば、見す見す東部で走らせなかったと神に懺悔した。

 だが、そんな過去は既に焼き払われている。

 欠片も覚えていない。

 先人たちを含めた自分たちが今迄培ってきた努力により、ホワイトグリントとオグリキャップという天使たちがデルマー競馬場にいる。

 そして、本番前日でさえデルマー史上最高の売上と客を呼んでくれた。

 ただ、それだけが脳裏を焼き払い埋め尽くしてしまったのだ。

 だから、アメリカに帰ってきてくれた(アメリカ競馬界感)天使たちを、恥知らずにもデルマー競馬場から盗もうとするハリウッドパーク競馬場にとてもとても冷たい声音になってしまう。

 

 

「それは馬主と映画プロデューサーと映画監督に働きかけるべき事だ。我々にはどうしようもないと返答してくれ」

「はい、そうします……しかし、本当に有り難いです」

「どうしたのかね?」

「アーノルド・シュウルツェネッカー氏主役の西部映画撮影現場目当ての客も沢山来ていて、その客たちも皆競馬を見てくれて馬券を買ってくれているのです。あの父娘が競走馬だから。

 ただ、それだけで」

「──天使だ」

 

 そのまま、主への感謝の祈りへと移行する人達。

 だって、仕方ない。今までどうやっても競馬に興味が無かった人たちがたった2頭の馬のお陰で沢山来てくれてるもの。

 一般的アメリカ人価値観においてどう考えても天使だよ。

 

「明日のレースが楽しみだね」

「ええ、本当に──日本から輸入している父娘のグッズ販売も素晴らしい売上です。ディ〇ニーと渡り合えているほどに」

「ディ〇ニーと、だと」

「はい。この西海岸で馬があのネズ〇と渡り合っているどころか、週当たりのグッズ売り上げで金額も数も上回っています。いえ、このままならば8月どころかシーズンの売り上げで上回ります。勿論、これはブームであることを加味する必要がありますが驚異的です。信じられません」

「──明日のアーノルド・シュウルツェネッカーが主役としてオグリキャップに乗って出るキャロメン監督脚本の西部劇ショーと臨時会場の準備は万全か? シュウルツェネッカー氏は復帰したばかりだし……いや、これから確認しに行くぞ」

「はい」

 

 アメリカ競馬界は半世紀以上ぶりの競馬ブームに焼き尽くされていた。

 

 

 

 

 

 

 

 一方、その頃。ホワイトグリントとオグリキャップが寝泊まりする厩舎にて、ホワイトグリント陣営は日本から錦田場長が持ってきたポスターを見ていた。

 

「これが、ホワイトグリントのヒーロー列伝ですか」

「ええ、その通りです。オグリキャップの時も作ってもらえましたが、今回は早すぎるくらいに早いですな。オークス終わった頃には作り始めていたらしいです」

「牝馬二冠馬になったばかりの時にですか。確かに早いですね。本当に早い。大体冬か引退後なのに」

「確かにその通りですけど、別嬪に撮れてますしオグリキャップのように本当に凄い馬しか作ってもらえませんから、こちらとしては嬉しい限りです。

 最近は新しい馬主の方やもう一度馬主をやろうとする方も増えて来てますから、そちらに合わせているのではないでしょうかね」

「ほう、そんなにですか」

「ええ、馬主の皆さんが、オグリキャップの白馬重賞馬ホワイトグリントを見て馬主をやろうとか再開しようとか辞めるのを辞めたと来てくださるもので調教師仲間皆大喜びですわ。レースでは加減してくれませんが、今回の海外遠征のようなことは皆応援してくれてます」

「ああ、飛行機で飛び立つときトレセンの方々が横断幕で送ってくれましたからね。東西問わずに」

「まさに、です……いや、しかし、このポスターは素晴らしい。調教師仲間が「ホワイトグリントにぴったりだぞ。本当に」と皆が自慢しながら電話してきたのを疑問に思っていましたが、いや、確かに、これは素晴らしい。ホワイトグリントにぴったりですわ」

 

 ですよねと満面の笑顔で瀬戸内厩舎の皆が頷く。

 そこで、そういえばと。ウマ娘アニメではタマモクロスが代役となる錦田場長が言葉をつなぐ

 

「セレクトセールも全頭買い上げられて、慌てて後日やるということになりましたわ。セレクトセールに弾かれた馬まで今度は出してもらえるということで生産界は凄いことになってます。ウチに感謝の電話が止まらないだけではなく、感謝状が贈られてくるくらいで」

「ウチはセールに馬出してないのに何か複雑ですね。錦田さん」

「何もかもホワイトグリントのお陰だと皆さん思ってますし、実際そうですからね。

 ホワイトグリントを見て馬主になりたいなと思った人たちを、オグリキャップの時とは違って今回は捕まえることができましたからなあ。牡馬だけではなく牝馬も喜んで買っていってもらってるらしいです。

『ホワイトグリントと同じ(超強調)牝馬です。引退したら預託することが出来ます。そうすれば自分が選んだ種牡馬を種付けして子供を走らせることが出来ます。幼駒はこんなに可愛いですよ』と、セレクトセールはそういう所まで案内して牝馬出身の牧場の紹介までしますからね」

「ほう。なら牝系オーナーブリーダーの方が増えるかもしれませんな。セレクトセール、これほどのモノでしたか」

「初心者の方が気軽に馬主になって楽しむことが出来る。

 いやはや、社大さんは流石ですわ。流石は業界トップ。視点が違う。こういうシステムを構築されるとは脱帽です。調教師の紹介など雑事を全て請け負うだけではなく、預託という形を紹介することで、馬主の方たちにはあんまり売れなかった牝馬まで売れるようにするとは。

 そして、繁殖牝馬を預託していただければ売った牧場にも定期収入が入る。このまま回ってくれれば日本競馬を根底から変えます」

「ほほう」

「それも全部オグリキャップとホワイトグリントのお陰です。と吉沢さんが後日正式にお礼をしたいと……このポスターも他の生産者の皆さんや社大のスタッフの皆さんと一緒に絶賛していましたわ。ホワイトグリントに相応しいと」

「吉沢さんたちにも絶賛していただけるなんて、やはりピッタリですなあ」

 

 調教師界隈、生産者界隈に絶賛してもらえた愛馬のポスターに北野は満面の笑顔で頷く。

 ああ、やはりいい出来だ。オグリキャップを想い起させる構図にこの題。素晴らしい。

 本当に素晴らしい題だ。

 そういえば騎手はどう思うのだろう? 

 

 

 

 

 

「沙藤騎手はどう思いますか?」

 

 そう聞かれた沙藤徹三は、ポスターを見てから疑問の渦の中に居た。

 確かに良いポスターだ。写真は良い。写真だけは素晴らしい。

 父オグリキャップと重なるようなホワイトグリントの右横顔のアップは、見慣れている自分でさえ見惚れるほどだ。

 だが、題が──

 

「はい──その」

 

 ──『おかえりなさい』って何なんだ? 

 どうしてそんな題になるんだ? 

 ホワイトグリント何処から帰って来たんだよ? 

 確かに、今はアメリカに居るけど、オークスの前に考案されたらしいから関係ない。なのに『おかえりなさい』? 

 何で? 

 何で『おかえりなさい』? 

 ホワイトグリント何処に行ってたんだ? 

 入厩前から乗ってるから、アイツが入厩前は北野牧場から出たことないって俺はよく知ってるぞ。

 トレセンも競馬場も海外遠征も何時も一緒なのに『おかえりなさい』?? 

 え? 

 何が? 

 何が『おかえりなさい』??? 

 

「沙藤騎手?」

 

 見慣れ過ぎた白馬の横顔が載せられたポスターに打たれた『おかえりなさい』という摩訶不思議な題を見て凝固した沙藤に周りの皆は不思議そうな顔をする。

 

 え? 

『おかえりなさい』? 

 って、何なんだ? 

 なのに皆? 

 皆受け入れている? 

 皆当たり前のように頷いてる? 

 どうしてだ? 

 俺か? 

 俺がおかしいのか?? 

 どういうことなんだ??? 

『おかえりなさい』って本当にどういうことなんだ??? 

 

「はい、そうですね。いいと思います」

「あぁ、やはり騎手のあなたもそう思いますか。ピッタリですよね」

「はい、ピッタリです」

 

 内心の疑問を押し殺して、周りの皆に合わせる未だ若手の沙藤だった。

 

 

 

 

 

 後年、『なんで誰一人『おかえりなさいヒーロー列伝ポスター』を止めなかったんだよJRA含めた競馬界。どういう意味の題なんだよ。ホワイトグリント何処から帰って来たんだよ。おかしいと思わなかったのかよ。当時のJRA含めた競馬界はどうなってんだ』と戦慄させることになるヒーロー列伝ポスターは、こうして広まった。

 日本にもアメリカにも。

 

 

 

 

 

 オグリキャップ以来の競馬ブームが帰ってきてくれたJRA。

 馬主たちを呼び戻して新しく連れてきて潤してくれるホワイトグリントに、オグリキャップ以来の同業他社にさえ愛される馬が帰ってきてくれたと喜ぶ調教師達。

 客が競馬場に帰ってきてくれて賑やかになり、自分たちの給料も増えてニコニコ顔の古手の騎手やスタッフ達。

 新規の馬主を含むオグリキャップの時には捕まえられなかった初見客を捕まえることが出来た理想のセールが会心の成功を収め、馬が売り切れるのが当然だったオグリ時代の帰還を喜ぶ生産界。

 懐かしき東西争いを含む趣味の楽しい熱狂的な争いが帰ってきてくれた馬主たち。

 

『おかえりなさい』

 

 その一言が、彼らにとって何よりもホワイトグリントを表していたのである。

 端的に言って、日本の競馬界はオグリのブームを知らない若手を除いて誰もがエルコンドルパサーとの死闘から本格化した『オグリキャップの娘ホワイトグリントブーム』に魂まで焼き尽くされきっていた。

 

 

 

 

 

 今までは──

 

「しかし、何ですか……これだと、ホワイトグリントがオグリキャップの娘だけでしかないようにも見えます。オグリは大好きですし、何の罪もない、いえ偉大な父親ですが。ホワイトグリントがその物語の続きだけでしかないように皆さんに思われるのは辛いです」

「その通りですなオーナー。ホワイトグリントは、牝馬二冠と日本内国産馬調教馬初の海外G1制覇を無敗でしたほどの名馬。オグリの可愛い可愛い娘であることは間違いありませんし、オグリの調教師として嬉しいことですが。それだけ強調しているような題は、何とも」

「全くです瀬戸内先生。ホワイトグリントは、あのエルコンドルパサー陣営が打倒ホワイトグリントを公言し、ホワイトグリントを倒してから海外へ行くとまで馬頭観音に誓願しているほどの名馬です。

 朝日杯馬グラスワンダー陣営も皐月賞馬セイウンスカイ陣営もダービー馬スペシャルウィーク陣営も最強古馬サニーブライアン陣営やグランプリ馬サイレンススズカ陣営さえ、互いに強敵だと戦々恐々しあっているのに。

 何時までも何年も前に引退したオグリキャップの娘止まりは寂しいですね」

「そぉぉぉうですよね。その通りです。僕もそう思います。主戦として、正直なところ悲しいと思いました」

 

 あ、『おかえりなさい』って、『オグリキャップブームおかえりなさい』や『オグリキャップの物語おかえりなさい』って意味なのね。漸く分かった。

 ……ホワイトグリントはそういう存在とだけしか思われていないってことかよ。

 それは悲しいな。

 そして

 

「そして少し腹立たしいです」

 

 オグリキャップは凄い馬だ。

 競走馬としてはもちろん、馬としても熊と戦ってハリウッドデビューしてシュウちゃん乗せて主役馬になる二頭といない馬。

 何よりも、ホワイトグリントの良き父親であり、ホワイトグリントのドマゾ性を抑えてくれる有り難い存在だ。個人的に大好きな馬だ。

 でも、もう競走馬は引退した。

 今はホワイトグリントの物語だ。

 オグリキャップの物語ではない。

 最初から最後まであの愛すべきドマゾの物語だ。

 

 そんな意志を込めた沙藤の言葉に、全員が少し躊躇うも力強く頷いた。

 

 

 

 

 

 かくて、日米の競馬界を焼き尽くしている白馬は西海岸最大のレース、パシフィッククラシックステークスに挑む。




 この時、シュウちゃんは残念ながらホワイトグリントに乗ったりしてません。過密スケジュールにより、遠目から見れただけです。
 日本に来た時に乗れました。
 ホワイトグリントは映画に主役馬オグリの娘の白馬として出てきて、共演した西部劇ヒロインの女優さんたちの情緒を破壊してました。
 シュウちゃんとオグリキャップが父親兼ヒーロー役。西部劇ヒロインとホワイトグリントが娘兼ヒロイン役です。
 この映画のお陰で、馬の父と子には親子関係が生じるという多大な誤解が一般常識になるほど大ヒットします。
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