黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 おびてんさん、トードウさん、Kstlさん、すいかぺんぎん さん、NekochaQBさん、龍輝さん、hawkinsさん評価付けありがとうございます。頑張ります。
 感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。



 ガンダムキャラの名前を変えました。
 ジャミトフ・ハイマン→ジェームズ・ハルマン
 ブレックス・フォーラ→ブラウン氏
 クワトロ・バジーナ→クーン・クール
 マハラジャ・カーン→ロイマン。



白雪姫〜ホワイトグリント〜④

 少女だけでない。

 デルマー競馬場、否、テレビを見ている皆が見た。

 満面の笑顔の白馬を見た。

 血を垂らしながらも走り続ける白馬を見た。

 全身を痛めつけられながら走り続ける白馬を見た。

 全身ボロボロなのに満面の笑顔で目を輝かせる白馬を見た。

 

「あ……」

 

 少女はその光景を決して忘れない。

 その瞳だけでなく魂に焼き付いた。

 頭部から血を流し、周り全てが敵になっても走り続ける一頭の白馬。

 周りの大人たちでさえ、もう駄目だと言ったのに白馬は違った

 自分も含めて皆が見たくないと言ったのに白馬は違った。

 走り続けている。

 痛くて苦しくて辛い筈なのに満面の笑顔に陰り一つない。

 どうして? 

 決まっている。

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 だから諦めていないのだ。

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 だから勇敢に走り続けている。

 だから諦めずに走っている。

 

「あ…………お馬さん」

 

 その笑顔は美しかった。

 でも、雄々しかった。

 かっこよかった。

 

「ううん──あれが」

 

 それは、レースに挑む馬の顔。

 それが、走るために生きる馬の顔。

 それこそが、人間に無理やり連れて来られても勇敢で諦めずに走る馬の顔。

 

「──競走馬」

 

「どうしてお馬さんに無理やりレースさせるの?」と少し前に亡くなった元調教師の曽祖父に聞いた時、「あいつらが競走馬だからだよ」と頭を優しく撫でてくれたのを思い出す。

 

 ──「馬はね。走るために生きてるんだ」

 ──「そしてオレたち人間は馬が走る姿を見るのが大好きで仕方ないんだ」

 ──「だから、競走馬にしてまで見てしまうんだ。馬たちの勇敢で諦めない姿に夢や願いを委ねてしまうんだ」

 ──「最近、アメリカの競馬は変だ。馬たちに自由に走らせてない。馬たちの勇敢さと諦めない魂を殺してしまってる。でも、何時か」

 

 勇敢で諦めない魂を持つ本物の競走馬の走りを見て、自由に走らせるようになる。きっと、直ぐに。

 

 ひいおじいちゃん。

 大好きな曽祖父の笑顔と言葉を思い出す。

 その胸中から悲しみも恐怖も消えた。

 だが、目が潤んでしまう。

 目を見開く。涙がたまる。手足が震える。ぬいぐるみを抱きしめる。胸が熱い。頭も熱い。

 全身を貫くように熱が回る。

 涙がこぼれ落ちそうになる。

 

「あ……、が……」

 

 少女の口が何度も開いては閉じられる。

 

「が……」

 

 言いたかった言葉があった。

 周りの馬に囲まれた時に言いたかった言葉があった。

 周り全部が敵に回っても勇敢な白馬に言いたかった言葉があった。

 

「が、ん」

 

 苛められる白馬を見たくないと、顔をぬいぐるみに埋める前に言いたかった言葉があった。

 周りの大人たち皆が無理だと言ったのに、諦めない魂を持つ美しい白馬に言いたかった言葉があった。

 

「がん、ば……」

 

 曽祖父が言っていた勇敢で諦めない魂を持つ本物の競走馬そのものだった。

 そんな満面の笑顔で目を輝かせる白馬に絶対に言いたい言葉がある。

 

「おい」

「ええ」

 

 帰宅しようとしていた両親が足を止める。

 両親だけではない他の人達も足を止める。

 

 そして

 

 誰もが見て動けなくなった。

 美しい白馬の走りに。

 周り全てを包囲されてぶつかられても走る白馬に。

 顔面を鞭で叩かれ血で白毛を染めながら諦めずに走る美しい満面の笑みに。

 勇敢で諦めない魂を持つ馬の、アメリカ人が大好きで何時しか見なくなってしまった。本物の競走馬の姿に。

 熊と戦った生きた伝説の父オグリキャップに重ね合わせる事が出来る勇敢で諦めない満面の笑顔と輝く瞳に。

 その姿を見た人々から悲しみも辛さも怒りも消えた。

 ただ、熱い熱だけが高まる。

 

「が、がん、ば」

 

 誰もが、何かを言おうとしていた。

 誰もが、白馬に言葉を出そうとした。

 誰もが、勇敢で諦めない魂をもつ本物の競走馬に言いたかった。

 誰もが、ひりつく喉、全身の震え、胸の熱さ、頭の熱さで言えない言葉が

 

「が、がんばってっ!? がんばってぇぇぇっ!?」

 

 何度もつっかえていた少女の喉から出た。

 

 ! 

 

 周り皆が目を見開く、包囲されて血塗れにも諦めてない馬に対して目を見開く。

 そうだ。こんな馬を見に来た。西部開拓時代の生きた伝説の再来に惹かれて競馬場に来たんだ。全身を巡る熱量。

 両親や祖父母が目を輝かせ語っていたこんな競走馬がいると信じたかった。高まる衝動。

 居てくれた。勇敢で諦めない魂をもつ本物の競走馬は居てくれた。父オグリキャップのような馬はその娘だった。胸に響く情動。

 皆の暗い顔が笑顔へと変わる。

 美しい白馬の浮かべる不屈の満面の笑みと輝く瞳に対して、その口が開いていく。

 

 

 

 

 

 

『諦めてない。諦めてないんだっ!? 頑張れっ!? 頑張れっ!?』

《諦めていないんだっ!? こんなピンチなのにっ!? 頑張れ!? 頑張れ!?》

 

 時を同じくして実況が絶叫する。

 言語が違えど同じ言葉で絶叫する。

 

「いけっ」

 

 帰ろうとしていた大人が呟くように笑い、声を出す。

 

「頑張れっ」

 

 テレビを切ろうとしていた女性が祈るように笑い、声を出す。

 

「負けないで」

 

 病院のベッドに寝そべる老婆が絞り出すように笑い、声を出す。

 

「走れっ」

 

 包囲網に激昂して銃を掴み弾を確認していたロイマン氏が笑い、声を出す。

 

「進めっ」

 

 天覧席で怒り狂っていたJRA理事長が滂沱の涙を流しながら笑い、声を出す。

 

 そうやって皆が口から言葉を出す。

 

 包囲網でも諦めない白馬に対して声が集まる。

 

 幾つもの言葉、幾つもの叫びは、やがてただ一つの叫びとなってデルマー競馬場を揺るがせた。

 

 

 

 

頑張れ!!?? ホワイトグリントぉぉぉぉっっ!!!??? 

 

 

 

 

 その叫びには悲しみも怒りも嘆きもなく、ただ熱さだけがある。

 

 雄叫びと咆哮と歓声と絶叫。

 大人は拳を握りこむ、子供は手を振り回す。

 それは、ある意味で異様な光景だった。

 日本人もアメリカ人もなくそこに居たものは、一頭の馬に頑張れとだけ叫び続ける。

 他の馬の馬券を買った者さえ、その馬の名を叫ぶ。

 ただ一頭だけを応援する。

 

 ホワイトグリントの名だけを。

 

 あまりにも美しい白馬の名だけを。

 

 あまりにも勇敢な競走馬の名だけを。

 

 あまりにも諦めない魂をもつ馬の名だけを。

 

 国籍など関係なく愛し夢中になった存在の名だけを。

 

 

 

 アイドルホース。

 

 

 これこそが、アイドルホース。

 

 

 父オグリキャップと同じく、勇敢で諦めない魂の走りに、誰もが愛し夢中になってしまうアイドルホースだった。

 

 

 

 

 

 ホワイトグリントの名を呼ぶ叫びは、直線を間近にして馬群がバラけたことに更に高まる。

 

 

 

 

 

行けっ!!?? ホワイトグリントぉぉぉぉっっ!!!??? 

 

 

 

 

 

 そして──

 

『大歓声の中、馬群が直線を間近にしてバラけてきた。ホワイトグリント抜け出せるのか。抜け出してくれホワイトグリント!? あと300m弱しかありませんってええええええ!?』

【──うお、えげつねえ】

 

 ホワイトグリントの左横に付けていたフリーハウスが、直線に入る時に出ようとしたホワイトグリントを馬群にさらに押し込んで自身は外に出て進路を取り力走を開始。勝負に出た。

 

『えっ!? 今っ!? ええっ!? 何で!?』

《出れたと思ったのにっ!? また馬群に!?》

【締め出しですわ】

『締め出しぃ!!!???』

【フリーハウスの鞍上が、出ようとしたホワイトグリントからぶつかったように見せかけて馬群に押し込んだんです】

『え、ぇっ!? 見えませんでしたよそんなの!? ホワイトグリントがフリーハウスにぶつかったようにしかっ!?』

【傍目からではそうにしか見えないようにしてのけたんですよ。フリーハウス鞍上が】

『は、はぁぁぁっっっ!!??』

【竹優かい。あの騎手は。締め出しの技が優くらいに巧いぞ。直線前に包囲してる連中も最後には格好をつけようとするから、ここでホワイトグリントを押し込んどけばホワイトグリントは抜け出せるスペースないし、包囲してる連中も潰せる。

 あのくらい絶妙なら日本の審議にも絶対に引っ掛からんわ。

 ホンマ竹優並みに巧いわあ。あいつの締め出し技は芸術レベルやからなあ】

『褒めてる場合ですかあああああ!?』

【いや、褒めますよ。凄いです。フリーハウスのジョッキーはこうなるように最初からレースを展開してたんですよ。自分が勝つために包囲網を利用したんです。

 締め出しまで一度もぶつかってないから、ホワイトグリントを潰したうえでスタミナを温存できたし、末脚が十分残ってるからジェントルメンを余裕をもって捕まえられる。

 そして、一生懸命包囲網していた馬たちはホワイトグリントが押し込まれてバタつきました。今から進路探して進路取らないとダッシュできない。つまりは、直ぐに末脚が発揮できないので勝敗に絡めません。

 フリーハウスは確実にレースに勝てるんです。

 ホワイトグリントとジェントルメンを敵とした上で纏めて全頭潰すとは凄いわ。

 ホンマ竹優みたいや。あんな騎乗は、日本じゃ優含めて5人と出来へん】

『そんなド畜生だんか竹優ううううううううっ!?』

 

 竹優並の騎乗技術に思わず感心してしまう田柳。

 ルックスとトークに優れた腕のいい騎手としか認識してなかった島田が、初めて知るトップジョッキーの畜生っぷりに絶叫する。

 

「自分は関係ないって顔して俺だけ悪者にしやがってっ! 田柳さんだって出来るしやってたやないかぁっ! マヤノトップガンたちに乗って初々しい頃の俺を苛め抜いたこと俺は忘れてねーぞぉっ!?」ジョッキールームのテレビ前で絶叫する竹優だが、二人と公共電波の先にいる人々に届く術などこの時代にあるはずない。竹優は畜生という消えない烙印を全国で押されていた。

 

 島田の絶叫に対し、それくらいでないとトップジョッキーに成れないと竹優のフォローも合わせて返そうとした田柳だが、その機会は無かった。

 

【タッチゴールドもさらに押し込もうとしてっなんやとぉっ!?】

『よっしゃあ!? 今度はホワイトグリント跳ね返したぁっ!?』

《これだけ何度もぶつけられたのに!? あのパワー!? あの笑顔の白馬は!? あの馬は鋼鉄の機械で出来ているのか!? まるでターミネーターだ! そして──》

 

 

 

抜け出したぁぁぁぁっ!!!??? 

 

 

 

 大歓声の中、ホワイトグリントは包囲網を突破すると同時、開いた進路に対して頭を低くして重心を下げて沈み込むような走りに移行した。

 多少荒れている進路だが、ホワイトグリントには何の問題もない。

 沙藤の鞭によってホワイトグリントの満面の笑顔が一際深くなる。

 [その先]へとホワイトグリントは入った。

 ドドドド。と周りの騎手が引き攣るほどの轟音が響く。

 あまりのパワーに一歩ごとに蹄跡がダートに一際強く刻まれる。

 狂ったような加速。すぐさまトップスピードへ行くほど切れる脚。

 アメリカでもそうそう見れないレベルの末脚。

 白馬の末脚が解放され疾走が始まる。

 末脚勝負。

 

 

 

 

 

 

「よぉぉぉっっし!? ようやった!? よう我慢したぞ! グリント! テツ! よう頑張った」

 

 拳を握りしめる瀬戸内に、どういうことか説明してという視線が双眼鏡越しに集中される。

 

「待ちに待てば開くには開くんです。勝ち負け度外視の騎乗した連中ですが、最後の最後はある程度は格好つけんとあきませんし! 何より少しでも上の着順になると賞金が、金が手に入ります! 金銭のやり取りしてチーム組む連中だからこそワンミリオンレースの賞金は欲しい! 2頭や3頭でない限り、最後の最後までは外野の思惑通りには動きません! その辺を読んでたフリーハウス鞍上にしてやられましたが、グリントはパワーで弾きました!」

「では──」

「ここからが勝負です! 敵は勝つために最初から最後まで包囲網を利用したフリーハウスと、包囲網を主導したジェントルマンだけです! 他の馬は末脚を発揮できる姿勢じゃないっ!」

「頑張れーシロー!?」

「いけーシロー!?」

「走ってグリコっ!?」

 

 双眼鏡を構えたままホワイトグリント陣営はホワイトグリントの応援を絶叫する。

 

 

 

 

頑張れ!!?? ホワイトグリントぉぉぉぉっっ!!!??? 

 

 

 

 いや、デルマーが揺れる。

 

 

 

 

 

 その絶叫が届いたようにホワイトグリントは伸びる。

 先行したジェントルマンを捕らえんと猛烈な末脚で疾走する。

 直ぐに先にダッシュしていたフリーハウスに並んだ。

 

『ホワイトグリント来る!? ホワイトグリント伸びる!? フリーハウス!? フリーハウスと併せたっ!? 頑張れ! ホワイトグリント頑張れ!?』

 

 強敵と見なした故に潰したはずの白馬の疾走を見たフリーハウス鞍上は、余力をもって勝利をするプランを捨てて全力力走へと移行した。

 白馬と葦毛馬が馬体を併せる。

 頭を低くして重心を下げて沈み込むような走りのホワイトグリントと、フリーハウスの末脚は互角だった。

 互角の速さで、2馬身先にいるジェントルメンを追いかける。

 

《ホワイトグリント! フリーハウス! どちらがジェントルマンに届くか》

 

 勝負根性勝負。

 満面の笑顔の白馬と、壮絶な表情の葦毛馬が馬体をぶつけるようにして叩き合う。

 

(ふざけんなよっ!? めっちゃ強いじゃないか!? 包囲したなら弱いのが普通だろうがどうなってんだ!)

 

 沙藤徹三は思わず内心で絶叫した。

 ホワイトグリントの末脚は切れている。

 今までで最高に切れている。

 包囲網による快楽と顔面への鞭でこれ以上なく切れている。

 紛れもなく日本最高峰と断言するくらいに切れている。

 

(なのに、交わせんっ!? フリーハウスがここまでだったなんてっ!?)

 

 日本有数のホワイトグリントの末脚と互角。

 それでいて勝負根性も抜群。

 その上、今まで包囲しながら馬体をぶつけないほどに操縦性が高い。

 ホワイトグリントは満面の笑顔だ。包囲網の痛みと苦痛と苦しみの時の満面の笑顔ではない。

 [マゾヒスティックパワー]を発動しているという意味での笑顔だ。

 なのに、フリーハウスを引き離せない。競り合うことしかできない。

 端的に言ってフリーハウスはホワイトグリントと互角以上だった。

 それほどまでにフリーハウスは強かった。

 なのに、あんな包囲に乗じただけでなく、止めに押し込めたのかよこいつは。

 容易く勝つために! 

 

(このド畜生っぷりっ!? お前は、竹優かよっ!? くそったれがぁっ!?)

 

 沙藤が散々包囲した挙句押し込みやがってと殺意を込めて睨めば。

 フリーハウス鞍上が何温いこと言ってるんだ坊や。勝つためだ。俺はルールを守っていると睨み返す。

 フリーハウス鞍上の名は、クリス・マッキャラン。

 かつてサンデーサイレンスでBCクラシックを制し、そしてペイザバトラーでホワイトグリントの父オグリキャップと師タマモクロスを破りジャパンカップを制した老練な騎手である。

 

 

 アメリカから海を渡って日本に来たジャパンカップで、オグリキャップとタマモクロスを破ったクリス・マッキャラン騎手。

 時を経て日本から海を渡ってアメリカ西海岸最大のレース・パシフィッククラシックステークスで、クリス・マッキャラン騎乗の葦毛馬と決戦する。

 ホワイトグリントの物語にまた1ページ。




 直前までのフリーハウスと鞍上がやったことを映像で見たい方は、2000年の有馬記念での武◯騎手騎乗のアドマイヤボスを見てください。
 私は「ド畜生が! そこまで後輩にグランドスラム達成させたくないのか!」と叫びました。
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