黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 緋月 朔夜さん、たろーれさん、ナベオさん、A徳カルビさん、凛凛凛さん、のいぢんさん評価付けありがとうございます。頑張ります。
 感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。

 アンケートありがとうございました。
 グリントコールにさせていただきます!
 本当にありがとうございました


 この話で第一章白雪姫編が終わります。
 皆様ありがとうございます


白雪姫〜ホワイトグリント〜⑤

 競馬が行われていた。

 

 

『頑張れ! ホワイトグリント頑張れ!』

 

 血に塗れた満面の笑顔の白馬と、汗だくになりながらも凄絶な表情の葦毛馬。

 二頭が競り合いながら先行するジェントルマンを捕えんとする。

 競馬だった。

 ようやくレースが行われていた。

 ぴったりと馬体を併せて疾走する白馬。

 ぴったりと馬体を併せて力走する葦毛馬。

 その先で必死に粘る栗毛馬。

 ここに来て大歓声は高まる。

 

 

 

頑張れ! ホワイトグリントっ! 

頑張れ! フリーハウスっ! 

 

 

 ホワイトグリントの名だけが呼ばれていたデルマー競馬場に、フリーハウスを応援する声も響く。

 

 誰もが分かったのだ。

 フリーハウス陣営は最初から最後まで勝つためにやったと。

 ルールに従い勝つために工夫の限りを尽くす者を認めないのはアメリカ人ではない。

 

『ホワイトグリント! ジェントルマンを捕えて抜かす! だが、フリーハウスが崩せない!』

《フリーハウス! フリーハウスとホワイトグリントの一騎打ちだ!》

 

 ジェントルマン鞍上は昨年までのジェントルマンではないことを歯噛みしながら認めた。

 ピークを過ぎてしまっていたのだジェントルマンは。

 全盛期ならばまだ渡り合えた。

 

(久しぶりに乗れたコイツにもう一度栄冠をやりたくて、いろいろ汚い事してもこうなったか)

 

 最後まで全力で追うが、どこか諦めがついた。

 だって、見るがいい。

 死力を尽くして競り合い叩き合う2頭を。

 

「がんばれっ、がんばれ」

「いけー。ホワイトグリント」

「はしれっ、フリーハウス」

 

 だって、聞くがいい。幼い子供たちがただそれだけを口にして賛歌する声を。

 

「勝てっ! ホワイトグリントっ!」

「負けるなっ! フリーハウスっ!」

 

 包囲網に対する悪意などかき消された幾つもの歓声を。

 

頑張れ! ホワイトグリントっ! 

頑張れ! フリーハウスっ! 

 

 ただ、競馬に熱中してくれる人々の絶叫を。

 

 競馬がある。

 

 熱い本物の競馬がある。

 

 今までアルゼンチンでも、アメリカでも今日まで無かった競馬がある。

 

(ごめんな。ジェントルマン。お前にこの歓声を浴びさせられなくて)

 

 一人の騎手として羨ましいし情けない。愛馬の名を汚させてしまった。

 

頑張れ! ホワイトグリントっ! 

頑張れ! フリーハウスっ! 

 

 大歓声を浴びて競り合う白馬と葦毛馬。

 互角。

 傍から見ても互角だった。

 レースをしていた。

 誰もが最後の最後まで熱狂して応援しか出来ない本物の競馬をしていた。

 

 こんなのを見て聞かされたら、諦めしか湧かない。

 

(くそっ。包囲網なんてするんじゃなかったな)

 

 まあ、勝ってたら違う感想だったけど。

 

(まあ、何とかなるさ。手錠はかけられない。事前に金銭のやり取りはオレたち陣営の誰もしてないからな──白馬の顔面に鞭打った連中は知らね)

 

 一人の大人として保身はシッカリ(フロンティア魂)していたジェントルマン鞍上コーリー・ナカダニは、苦笑しながら全力で愛馬を追う。

 

 苦笑する先で白馬と葦毛の勝負は決着に向かっていった

 

 

 

 

 

『ホワイトグリント! 頑張れ! 頑張れ!』

《白毛か! 葦毛か! 競り合う!》

 

 かつて父オグリキャップとタマモクロスを破った老練な騎手が乗るフリーハウスと、ホワイトグリントは叩き合う。

 沙藤が必死に追う

 マッキャランが全力で追う。

 

(あの葦毛の馬たちの子か)

 

 ソックリだな。

 マッキャランは内心引き攣った。

 ジャパンカップを思い出す。

 敵は葦毛の2頭と定めペイザバトラーと共に勝利したレースではない。

 思い出すのは、その翌年、あのワールドレコードのジャパンカップ。

 ホーリックスを追いかけていたオグリキャップの姿だった。

 あのハイペースでも続く末脚に戦慄した。

 あの末脚が連闘してのモノだと驚愕した。

 

 その末脚が継承されていた。

 

 そこに、あのレースを勝った母ホーリックスのしぶとさまでが継承されているのだ。

 引き攣るしかない

 

(良い娘をだしやがった)

 

 隣の白馬の鞍上はまだ未熟だから使いこなせていないだけだ。

 白馬の末脚はフリーハウスより切れて持つ。

 ゴールギリギリで尽きるフリーハウスより切れて持つのだ。

 もし自分ならば最終コーナーで何としても抜け出して仕掛けていた。自分ならば出来た。

 鞍上が未熟でなければ、今頃白馬と鞍上の背を見ていた。

 

 あの白馬、ホワイトグリントの父オグリキャップの背中と母ホーリックスの背中をペイザバトラーの上で見たように。

 

(良かったな日本の葦毛のとニュージーランドの葦毛の)

 

 競馬はブラッドスポーツだ。

 どれだけ人気馬でも血を繋がなければ何時しか忘れられる。

 オグリキャップでさえ少しずつ忘れられて行っただろう。

 

 だが、もうそれは無い。

 

 

 

頑張れ! ホワイトグリントっ! 

頑張れ! フリーハウスっ! 

 

 

 

 大歓声。

 25年間ステイツで騎手をやっていても聞けなかった大歓声。

 どうしてステイツでは聞けないんだと日本の競馬を羨み嘆いた大歓声が響き渡る。

 アメフトや野球ではない。ステイツの競馬で大歓声が響き渡っている。

 全部、オグリキャップとホワイトグリントのお陰だ。

 こんな馬に血を繋げることが出来たオグリキャップとホーリックスに羨ましささえ感じる。

 そして

 

(ありがとうよ。白馬の)

 

 純粋に感謝する。

 キスしたいくらいだ。

 本当に嬉しい。

 今ですら涙ぐんでしまうほど嬉しい。

 だから

 

(ステイツのG1トロフィーはこれ以上やらんよ)

 

 竹や丘部ではない、未熟な鞍上を乗せている事を呪うといい。

 

 

 

 

 

 

頑張れ! ホワイトグリントっ! 

頑張れ! フリーハウスっ! 

 

 

 

 

 

 大歓声の中、ホワイトグリントとフリーハウスは競り合う。

 沙藤徹三は内心悲鳴を上げた。

 

(くそぅ、離されてる)

 

 ジリジリ、センチ単位で離されている。

 このままではゴールではアタマ差になるだろう

 

(オレのせいだ)

 

 理由は分かりやすい。騎手の差だった。

 追い。馬の後頭部を歩調に合わせてリズミカルに押す、騎手の基本にして最重要技能。

 この技能の最重要項目は腕力でもリズム感でもない。馬に負担をかけない体重移動だ。

 クリス・マッキャランと沙藤徹三では、致命的なまでに体重移動において沙藤徹三が劣っていた。

 沙藤の腕が悪いのではなくクリス・マッキャランが凄すぎるという意味で。

 その差がフリーハウス有利となっている。

 

(日本の騎乗技術はまだまだ──いや、そうやない! 俺がクリスより下手なだけだ! 誤魔化すな! 竹さんや丘部さんなら渡り合えたっ!? 俺が下手なんだっ!? 

 だがどうする。何か手があるか!?)

 

 どうしようもない。

 

 追い技能は、竹優のような天性の才覚か、丘部幸夫のように長い年月を馬に乗りながら高めるしかない。

 そのどちらも沙藤徹三にはない。

 今すぐにどうこう出来はしない。

 15年。

 沙藤徹三とクリス・マッキャランの間にはそれだけ馬に乗った年月に差がある。

 しかも、日本よりもアメリカの方が馬に乗れる。

 トレセンなど限られた場所で限られた時間しか馬に乗れない日本と違って、当たり前のようにそこらの平野や荒野や道路でさえ馬が走り24時間好きに乗れるアメリカでは違いすぎる。

 教育云々の問題ではない、馬に簡単に乗れるか否かの環境がちがいすぎるのだ。

 一般的に日本の騎手は欧米の騎手に劣ると言われる。

 それは正しい。

 同じ一年でも馬に乗って過ごせる時間が、日本の騎手は欧米の騎手より短すぎる。

 日本の騎手と欧米の騎手の差はここにある。

 それでもホームグラウンドの日本なら渡り合えるが、ここはアメリカ。

 質に勝る15年の年月とアウェイの地が容赦なく沙藤に牙を剥いた。

 

(ホワイトグリントとフリーハウスの末脚は互角! いや、ホワイトグリントの方が切れてる! なのに、クリス・マッキャランに俺が劣るから負ける)

 

 それを認めながらも沙藤徹三は追い続ける。

 諦めない。

 愛馬が諦めないから諦めない。

 その一心で追い続ける。

 

 

 

 

『あっ──頑張れ! ホワイトグリント頑張れ!』

《フリーハウスが僅かに》

 

 実況から見えるくらいにフリーハウスが有利になった。

 だが、実況の島田は宣言通り応援する。

 否、熱狂してホワイトグリントの応援しかしていない。

 

 だが、ホワイトグリントが不利になったのは間違いない

 

 

 競馬場の大歓声が一瞬、止み

 

頑張れ!! ホワイトグリントぉぉぉぉっっ!!! 

 

 不利になった白馬を一際強く応援する。

 

 競馬だった。

 本物の競馬の熱狂だった。

 老若男女みんなが熱狂した。

 

 ロイマン氏が泣き崩れた。

 ハルマン氏が秘蔵の美酒を傾けた。

 ブラウン氏がテレビの先で泣き笑った。

 JRA理事長はこの場に居ることに感謝した。

 とある島国の女王陛下はブンブン手を回した。

 祖国の島国の陛下は手を叩きながら大きな声で応援した。

 

 ここに居る誰もが熱狂した。

 誰もがテレビでこのレースを見ていて吠え叫んだ。

 

 アメリカ人、否、全世界の競馬ファンが熱狂していたレース。

 

 

 そのレースは決着を迎える。

 

 

 

 

 

 

 なんだ。こいつ? 

 フリーハウスは疑問の中にいた。

 

 全力で睨んでる。

 全力で走ってる

 全力で併せている。

 此処までやれば牡馬だってビビるのに。

 

 なんで? 笑顔?? こわくないの??? 

 

 全く陰りのない満面の笑顔。

 美味しいもの食べたりブラッシングして貰ってる時の自分のような満面の笑顔。

 苦しくて辛いレース。

 レース後の美味しいものとブラッシングの為だけに頑張れる苦しくて辛いレース。

 しかも、この白馬は頭を低くして重心を下げて沈み込むような走りをしている。

 だから砂や小石が顔に当たって痛いはずだ。

 苦しさと辛さに加えて痛みがあるのだ。

 なのに、白馬は満面の笑顔。

 訳がわからなかった。

 

 正直、敬意を抱いた。

 

 こんなに苦しくて辛くて痛いのに満面の笑顔を浮かべることが出来る毅さに。

 自分には決して出来ないから。

 牝に敗れたことに一頭の牡として苦い敗北感がある。

 そして、知りたかった。

 どうすればそんなに毅くなれるか知りたかった。

 そうすれば、横にいる美しさに初めて見惚れた牝馬に近づくことが出来るかも知れないから。

 てか、ぶっちゃけ交配したい。

 とてもしたい。

 

 だから、聞いてみた

 

 ぶるっ(苦しくないの? 辛くないの? 痛くないの?)

 

 

 

 ぶるっ(苦しいっ! 辛いっ! 痛いっ! だから──

 さいっこうっにっ、きもちいいよぉっっっ!!!)

 

 

 

 は? 

 

 聞き間違えだと思った。

 初めて見るほどの美貌馬がそんなこと言うはずが無いと願った。

 

 

 

 ぶるっ(えっと、もう一度?)

 

 ぶるっ(苦しいっ! 辛いっ! 痛いっ! だから──

 さいっこうっにっ、きもちいいよぉっっっ!!!)

 

 

 

 

 なにいってんだおめえ

 

 

 

 

 馬の視界は良い。ほぼ360°見ることが出来る

 キラキラと目を輝かせる白馬の全体が見える。

 美貌馬だ。

 本当に美しい。

 レース前に馬立ちし交配したいな。と願ったほどの美貌馬。

 

 いまや、欠片も情欲をだけなくなったが、美貌馬には変わりない。

 

 

 ぶるっ(あの、お願いがあるんですけど)

 

 

 そんな美貌馬の瞳がいっそう輝いた。

 瞳が合わさる

 

 やめろ。

 見るんじゃない。

 そんな目で見るんじゃない。

 綺麗すぎて見惚れる目で見るんじゃない。

 

 そんな色気に溢れて寒気と高揚を同時に覚える目でぼぉくぅをみるんじゃぁない!? 

 

 

 瞳を合わせるのを辞めるべきだ。コイツはヤベェ奴だ。とフリーハウスの理性は悲鳴を上げてる。

 

 だが、美しい。

 

 本当に美しいのだこの牝馬は。

 

 この距離で嗅げる香しい匂いと合わさって破滅的に美しい。

 

 こうして競り合っているだけで、幸せになってしまうほどに! 

 

 もっと長い間競り合うか、抜かし抜かされすればもう戻れないと確信するほどに!! 

 

 

 ぶるっ(なあに)

 

 

 フリーハウスの理性は牡の本能に敗れた

 

 

 

 ぶるっ(あなたの体当たりすごかったんだぁっ。

 だから、レースが終わったらもう一度体当たりしてくださいっ。

 今すぐ体当たりしてもらえれば嬉しくて仕方ないんですけど、私もあなたも後ろの栗毛さんに負けるから駄目なんです。

 みんなが悲しむもの。私が絶対に勝つんだ! 

 だから、私が勝ったレースの後でもう一度私にぶつかってほしいんですっ!?)

 

 

 

 無。

 フリーハウスの内面は完璧な無になった。

 

 

 

 ぶるっ(もう一度。ううん、もう一度だと足りないよぉっ。一度だと痛みと苦しみが短すぎて感じきれないっ!? 

 二回、二回はぶつかって──足りないなぁ

 三回、そう三回は体当たりして欲しいんですっ!? 

 あなたの体当たりの痛みと苦しさを三回は味あわせてくださいっ!? 

 お願いしますっ!?)

 

 

 

 た

 

 

 

 ぶるっ(他の馬のみんなの体当たりも良かったけどね。一番はあなた! 

 あなたが一番素晴らしかったんです! 

 そう、なんというか。そう、違うんだ──サディスティックな丁寧さが違うんですよぅ。

 あなたに押し込まれて他の馬のみんなにぶつかった時! こんな痛みがあるんだって初めて知ったんだぁ。

 それに比べて──ふぅっ、顔への鞭は酷いんですよぉ。

 ごしゅじんと比べるのが愚かだと分かってたよ。でも、此処まで足りないなんて……酷すぎるっ。

 何もかも足りてなかったけど──愛が無いんだっ。ダメすぎるっ!? 

 ひょっとして、ううん、きっと顔だから、ごしゅじんの鞭と同じくらいの愛のある痛みがっ……て 

 期待したのにさぁっ! 

 愛はゼロで! 一割の痛みさえなかったなんてっ!? 

 ひどいっひどすぎるっ!? ……トキメキを返してよぉっ!? 

 

 

 

 たす

 

 

 

 ぶるっ(そんな、私の絶望をあなたの丁寧かつ容赦ないサディスティックな押し込みは和らげてくれたんですっ! 

 ありがとうっ! 本当にありがとうっ!? 

 だから、私が勝ったレース後にもっと丁寧かつ容赦なくぶつかってくださいっ!? 

 あ、絶望から救ってはいませんからね。救ってくれたのはごしゅじんです。

 あぁ、ごしゅじんっ。

 鹿毛さんにこのレースで一番強い体当たりからの鞭、素敵すぎるよぉ。

 体当たりっ! 

 鞭っ! 

 二段構えっ!? 

 流石はごしゅじんっ!? 

 レースの時のごしゅじんこそ至高にして究極であり最高だよおおおおおおおお!!!??? 

 

 ──ごしゅじんを悲しませたあの悪いやつぜったいゆるさない

 

 

 

 たすけ

 

 

 

 ぶるっ(あ、そうだ。絶対にケガはダメです。

 おとうさんとおかあさんとタマモクロスさんと約束したんです。

「お前が痛いのや苦しいのが好きなのは分かった。だから約束してくれ、絶対にケガだけはしないと」って。

 だからケガはダメなんです。

 だから、私が勝ってレースが終わったら! 

 ケガしないように! 

 全力で! 

 容赦なく!! 

 最低五回!!! 

 思いっきり私に体当たりしてくださいっ!!!??? 

 大丈夫っ!? あなたなら大丈夫ですっ!? 

 あなたのサディスティックな丁寧さなら絶対ケガしないって感じたんですよぉっ!? 

 だからっ!? 私が勝ったレースの後でっ!? また皆で囲んでからあなたの体当たりの痛みと苦しみを私にっ!? くだ──

 

 あっ!?)

 

 

 

たすけてぇぇぇ!? ともだち(ケイン騎手)たすけてぇぇ!? 

 

 

こいつっ!? 

 

 

こわいっ!? 

 

 

きもちわるいっ!? 

 

 

 

ぼく、もうっ、こいつの、よこで、はしるのっ、いやだぁぁぁっ!? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 フリーハウスの耳がペタリと倒れ、その脚が緩む。

 即ち

 

『潰したぁぁぁ!? 頑張った!? ホワイトグリント頑張った!?』

《フリーハウス落ちたっ!? 僅かにホワイトグリントだっ!?》

 

 

ホワイトグリントの勝ちだぁぁっっっ!!!??? 

 

 

 決戦の結果は出た。

 最後の最後まで競り合い根性勝ちするというあまりに劇的な結果だった。

 類稀な勝負根性でフリーハウスを落としたホワイトグリントがクビ差でゴール。

 絵に描いたような美しい競り合いによる勝利だった。

 実況と観客の歓声がデルマー競馬場に響きわたった。

 

 

 

 

 

 

 

 勝った気がしない。

 大歓声の中、頑張ったホワイトグリントを撫でながら沙藤徹三は独り言ちた。

 負けていた。クリス・マッキャランに沙藤徹三は完璧に負けていた。

 勝てたのは、最後の最後でフリーハウスがホワイトグリントに根性負けしたからだ。

 つまりはホワイトグリントの勝ちだ。

 勝ったのはホワイトグリントだ。

 

 ふぅ

 それを認めた沙藤徹三は溜息を一つついた。

 上手くなろう。

 今度は負けないように上手くなろう。

 クリス・マッキャランに勝てるくらい上手くなろう。

 日本の巧い騎手にもっと喰らいついて盗んで上手くなろう。

 とりあえずローカルに出る大里さんに喰らいつこう。竹さんの技術は天性だ。盗めない。盗める人から盗んで上手くなろう。

 

 だって──俺はホワイトグリントの、最強馬の主戦なのだから

 

「I'll be backやな」

 

 勝利インタビューはこれにしよう。

 シュウちゃんからとろう。

 クリス・マッキャランに勝つためにまた俺が帰ってくる意味で。

 ネイティブダンサーの末裔がアメリカ西部最大のレースを制した意味で。

 オグリキャップにシュウちゃん乗ってるしピッタリやな。

 

 I'll be backの意味をよく理解してない沙藤徹三はそう決めた。

 

 

 

 それはそうと検量したら、やることやろうか。

 

 

 

 いや、その前に

 

 

 ビシッ!? 

 

 ひんっ(ごしゅじんの鞭っ!?)

 

 沙藤による誰にも見えない芸術的かつ神速の激痛一打が、レース中あんなに強く丁寧かつサディスティックに体当たりしてくれたのにどうして? と振られたショックに震えていたホワイトグリントに打たれた。

 

「何ボウっとしとんのや。勝ったでグリント」

 

 ひんっ(私は何て愚かなんだろうか。レース後に何時もくれるごしゅじんの鞭ではなく、葦毛さんの体当たりを欲しがるなんてダメダメだぁっ──さようなら葦毛さん)

 

 フリーハウスの体当たりなどとは比較にならない愛のある痛苦をもたらす沙藤の鞭を味わったホワイトグリントは、速やかに自分を振ったフリーハウスを過去の存在にした。

 

 

 

 

 言うまでもないが、フリーハウスの心に消えない傷を残したことには気づかないまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すごい」

「ああ、すごい」

 

 熱気のこもったざわめきが絶えない。

 

「まけたとおもったっ」

「うん、少しずつ不利になったとき負けたと思ったよ」

 

 誰もが勝者の白馬を見つめたまま熱のまま口を開く。

 

「フリーハウスも、ね。よく頑張ったわ」

「うんフリーハウスも、ううんお馬さんみんなっ」

 

 幼子も大人も老人も動かない。凄いものを見た。その熱のままそこにいる。

 

「ホワイトグリントかっこよかった」

「ホワイトグリント綺麗だった」

「ホワイトグリントみたいな馬が居るんだっ」

 

 勝者を讃える声は何時しかうねりとなる

 

「ホワイトグリントすごい」

 

「ホワイトグリント」

 

「ホワイト」

 

「グリント」

 

「グリント」

 

「グリント」

 

グリント! グリント! 

 

グリント! グリント! 

 

 歓声は、一つの方向に向かう。

 

 ホワイトグリントのデビューの時の願いによるものでなく、ただ讃えるものに。

 

 

 

 

 

 グリント! グリント! 

 

『これって……これっ、てぇっ』

 

 実況が顔を押さえる

 

 グリント! グリント! 

 

【嘘やろ。此処、アメリカやで】

 

 解説が身を震わせる

 

グリント! グリント! 

 

「日本馬がアメリカ、で、あぁ、アメリカ、でっ」

 

 錦田場長が目頭を押さえる

 

グリント! グリント! 

 

「オグリ、聞いてるか……お前の娘は此処まできたで。此処までこれた、で、お前さんの、おかげやぁっ」

 

 瀬戸内調教師が人前で涙を流す

 

グリント! グリント! 

 

「朝美さん、シロがあんなんになってくれたよ」

「えぇ」

「デビューの時のオグリキャップの娘だからじゃなく、ただホワイトグリントとして、みんなに」

「ええっ」

「あんな、あんなにすご、すご……い」

「シロちゃんは立派ですね」

「ああ、りっぱだ」

 

 北野オーナー夫妻が抱き合う

 

 

 

 

 

 

 

 

グリント! グリント! 

 

『聞こえますかぁっ』

 

グリント! グリント! 

 

『日本の皆さんっ、聞こえますかぁっ』

 

グリント! グリント! 

 

『コールです! アメリカの、地で、日本のっ、日本の馬がっコールされています』

 

グリント! グリント! 

 

『有馬記念でっ、中山競馬場でっ、17万人を超えるっ、方々がっ、誰に言われるでもなくっ、前例もないのにっ、父オグリキャップの名ををコールしてっ、8年のっ、歳月が流れましたっ、

 こんなことは、もうおこらないっ、そう言われつづけてぇ、いたしたぁ、うっうぅっ

 ごめんなさいっ、泣いたまま続けさせて、くださいっ』

 

グリント! グリント! 

 

『いまっ、アメリカ、西海岸っ、デルマー競馬場でっ、皆さんがコールしていますっ。

 22万人を超える方々がっ、アメリカの方々がっ、日本馬をコールしていますっ! 

 日本ではないのにっ! アメリカなのにっ!』

 

グリント! グリント! 

 

「信じらませんがっ! 

 現実ですっ! 

 日本一ですっ! 

 彼女こそ! 

 日本一の馬ですっ! 

 その名は──」

 

 

 

 

   ホワイトグリント

 

 

 

 

 グリントコールが響くなか、白雪姫ホワイトグリントの名は世界に轟く

 

 

 

 

 

 

 

 …………おまけ

 

「では、録音したコールを再度お聞きしていただきながらお別れいたします。皆様ありがとうございました──田柳先生、今日はありがとうございます」

「こちらこそ島田さん」

 

 え? マイクオンにしてこのまま流すんですか? 

 次の番組押しますけど「責任は俺が取るよ」なら良いですけど

 

「凄いコールでしたね。私もう泣きっぱなしで」

「いやいや仕方ないですよ。僕もウルッと来ました」

「(暫く談話して)…………そういえば? あの、なんぼほんつけねぇな。いえ、ホワイトグリントを包囲した騎手って処分されるんでしょうか」

「どうでしょうか……私はアメリカ競馬にはそこまで詳しくはないので日本競馬ならのもしになりますが。良いでしょうか」

「はい、お願いします」

「たぶん処分されませんね」

 

 うそぉ! 

 処分されないのっ! 

 

「は、はぁぁっっ!? なしてぇぇ!? やりすぎでしょうがぁぁっ!?」

「最初から組んでたのが判明すれば違いますが、どいつもこいつも最後の直線で勝負しようとしましたからね。組んでると証明するのが難しいんです。

 実際起こればそうなりますよ(注:こちらの世界のオペラオー包囲網がそうでした)」

「……いや、そんな、どう見たって、特にクリス騎手は田柳さんも締め出しだって言ったじゃないですか。え? トップジョッキーだからって忖度されてるんですか」

「そんなことはないですよ」

「断言できるんですか?」

「JRAの審判は公平ですからね。現役時代はラッキーと思ったり、もう少し大目に見てくれと思いましたけど、振り返れば公平でした。

 それにクリス騎手は賞賛すべきです。審議に引っ掛からずに見事にホワイトグリントを潰しかけた。

 あれほどの騎手はそういません、お見事でした。僕から見ても畜生ですが」

 

 そうだよなあ

 畜生すぎた

 

「はぁ、なるほど、クリス騎手は反則をしたのではなく、ただ巧い騎手ということなんですね」

「はい、間違いなく超一流です」

「そうなんですか、なるほどなぁ……そういえば、竹優騎手はアレが出来るんですよね」

「出来ますね。というより、アレが出来る騎手は超一流です。審議に問われることなく、強い馬を潰して勝ちに行く。言葉では簡単ですが出来る騎手は一握りです」

「へぇ……そういえば先生は5人と居ないと言ってましたが、どなたが出来るんですか?」

「引退予定の騎手を除けば、丘部騎手、竹騎手、大里騎手、的羽騎手の4人が確実にできますね」

「海老名騎手や柴野騎手や横田騎手は出来ないんですか? リーディング上位なのに」

「海老名騎手はまだ腕が足りません。柴野騎手は精神が一皮剥ければ出来るでしょう。ノリは出来る時と出来ない時の波が激しすぎるので出来ないとしました。

 まあ、そいつらは全員何時かは出来るようになるでしょうね」

「へぇぇぇっ、ところでホワイトグリントの顔を鞭で叩いたクソ野郎共は? まさかアイツラも」

 

 そうそう、そこが気になる

 アレはないよな

 

「最低でも数日の騎乗停止処分ですね。日本だと。ただ、アメリカですからね」

「アメリカですから?」

「彼らはアメリカのルールで裁かれますよ。だから僕には分かりません。ホワイトグリント陣営がどうするのかは分かりませんが。JRAでさえ出来るのは抗議だけでしょう。

 僕が主戦なら、ホワイトグリントの顔を叩いた騎手は殴りたいですが。いや、怒りを抑えて審判に委ねるかなあ。あと10年若ければちが──」

 

 カメラ3番に変えろ! 直ぐに画面と連動させろっ! 

 

【映像がいきなりっ……ん、テツ? 検量終わって何を?】

『沙藤騎手がアメリカの騎手に近づいて?』

 

このっ!? クソ野郎どもがあああっ!!?? 

 

 咆哮と共に沙藤徹三はホワイトグリントの顔を鞭で叩いた騎手たちに殴り掛かった。

 

『わぁっ!? やったぁ!?』

【若いなぁ!? でも良くやったわ!?】

 

 怒りを抑えて、審判に委ねるには彼はまだ若すぎたのだ。

 

『よし、このまま、い──あ、音声入ってる。

 暴力はいけません。暴力はいけません沙藤騎手(棒』

【せやな。一人の騎手として審議を待ち従うのが正しい姿や(棒】

 

 ええぞーええぞー。

 あ、あぁっ!? 当たる前に、止められた。

 殺生な。せめて殴らせて上げてっ。

 せめて、せめて、一発くらい良いじゃないか。

 その絵を撮らしてくれよ。

 

 

 

 かくて、沙藤徹三はアメリカで注意処分。JRAでも注意処分となった。

 

 

 

 ヘラヘラペコペコしてあんまり感情見せないから不気味に思っていた日本人も、怒るべき時には怒るんだなってよく分かった。とアメリカ人にはとても好意的で日本人観が変わるほどだった。

 勿論、日本人にも好意的に受け止められた。

 

 

 

 …………




 次回からは少し閑話スレをやり、第二章黄金世代編に入ります。
 皆様よろしくお願いします

 しかし、ようやく書きたかった勝利シーンが書けました。
 あぁ、第一章締めとしてなんて相応しいのでしょうか。書けて幸せです。

 ホワイトグリントは思春期、デビューの頃とは比べて成長し、色々なことに興味津々です。
 レースで苦痛の快楽を味わっている時に一番巧く体当たりしてきたサディスト?が話しかけてくれたので、両親とタマモクロス以外の馬に性癖を初めて暴露しておねだりするくらいです。
 可愛いですね。
 残念ですが初恋っぽいナニカは実りませんでした。


 馬のホワイトグリントが両親とタマモクロスと約束したのは2点。
 ・絶対にケガをしないこと。
 ・教えても大丈夫だと思った相手にしかマゾということを明かさないこと。
 以上です。
 今まで事故や変な事を試す以外にケガせず、ワザとケガしに行こうとしなかったのは、約束のためです。この約束が無ければ間違いなく死んでいたでしょう。
 両親とタマモクロスの愛です。特に最初に約束したホーリックスの愛。

 そして、参考にしたウマ娘ホワイトグリントの口調がこれで良いのか滝のような汗をかいてます。ドマゾを内に秘めるのではなくオープンに出来る(積極的に話すというわけではない)ホワイトグリントをシミュレーションしたけどコレジャナイ感が酷い

ホワイトグリントコールですが、どのような形式が良いでしょうか。12/30 00:00で締め切ります

  • ホワイト!グリント!
  • ホワイト!
  • グリント!
  • ホワグリ!
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