黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 梵天○さん、JUMさん、Agatyさん、J.C.さん、Haneさん評価付けありがとうございます。頑張ります。
 感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。
 

 あかん。長すぎる。他の列伝書くときは後半のようにレース結果だけ書くようにしよう(決意




ホワイトグリント産駒列伝~トウカイステージ~④

 あのトウカイステージが帰ってきた! 

 ジャパンカップと有馬記念でウオッカとダイワスカーレットと戦うために! 

 その一報は日本中を駆け巡った。

 トウカイステージの偉大な挑戦は常に特集が組まれ、号外が何度も発行され、ホワイトグリントから続くブームを完全に定着させ、競馬を野球に迫る人を呼ぶスポーツにさせていた。

 応援ツアーは即日満杯。

 衛星テレビやインターネット配信は登録数を跳ね上げた。

 ファンたちはトウカイステージの冒険に目を輝かせ、弟ウィンターウィークのアメリカでの激闘に胸を躍らせた。

 間違いなく、この時こそが一頭あたりの日本競走馬が最も海外で勝ち星を付けた時だった。

 日本のファンたちは、誰もが海外で戦うトウカイステージとウィンターウィークに熱い視線と声援を送り続けた。

 

 それに比べて日本の競馬はどこか冷めていた

「どうせウオッカかダイワスカーレットが勝つ」「牝馬が強いのは良いけど牡馬がだらしなさすぎる」「ウオッカとダイワスカーレットが他に相手が居なくて可哀想」「ダイワスカーレットとウオッカから旦那さんが長期出張してる奥さんの悲哀を感じる」「今のウオッカとダイワスカーレットは、旦那さんがずっと居なくて荒れてる奥さんそのもの」

 そんな様々な思いが入り混じっていた競馬界。

 そこにトウカイステージは帰ってきた。

 

 やった! ようやくレースが面白くなる! 三角関係が見れる! 

 

 ファンたちは、喜び勇んで競馬場へ向かった。

 東京競馬場に久しぶりに入場規制がかかる中、パドックでは互いに擦り寄ろうとする3頭が抑え込まれる1幕があったがファンは笑っていた。

 誰もが知っているからだ。

 この三角関係は好きあっているからこそ全力で走ると。

 自分の脚の速さを気になる相手に示すと。

 期待が高まる中、3頭の激突が始まろうとしていた。

 そんな中で、各陣営の胸中は綺麗に別れていた。

 

 

 

 まず、ウオッカ陣営は意気軒昂だった。

 50年近い年月をオーナーブリーダーとして過ごした谷川のタニノ血脈の結晶。それこそがウオッカだった。

 トウカイステージとは日本ダービーこそ引き分けたが、紛れも無くウオッカの方が強いのはレース内容から明らかだ。ダイワスカーレットとも五分の勝敗だが、今年のG1勝利数から明白だ、強いのはウオッカに決まっている。

 ここで勝ってその事を証明し、来年は自分たちは欧州へ行き、タニノの宿願を果たす。

 その後はオーナーブリーダーの本領を発揮する。あれだけトウカイステージに惚れているウオッカに応えよう。完璧なアウトブリードだし何の問題もない。

 タニノの集大成のウオッカは繁殖馬として成功してくれるに決まっている。

 ウオッカとトウカイステージとの子を育てるんだ! 

 カンガリー牧場の名を再び日本競馬界に轟かせてみせる!! 

 その第一歩としてトウカイステージとダイワスカーレットに勝つ!!! 

 

 

 次に、ダイワスカーレット陣営は途方に暮れていた。

 社大が大切に育て繋げてきた血統にアグネスタキオンを付ける事で産まれた子を、お得意様と共同オーナの社大代表吉沢氏が持っている。つまりは、ほとんど社大の馬がダイワスカーレットだった。

 トウカイステージとは昨年勝ち、ウオッカとも勝ち越している。強いのはダイワスカーレットだと誰の目にも明らかじゃないか。

 アグネスタキオンからの脚の弱さは未だ炸裂してないが、怖いことには変わりない。そろそろお母さんになってもらおう。

 勿論、旦那はトウカイステージだ! ダイワスカーレットも惚れ込んでいるし決まっている! ほんの僅かなノーザンダンサー以外完璧なアウトブリードかつ無敗三冠馬で凱旋門賞馬! ようやくサンデーサイレンスとノーザンテーストを気にする必要が無くなったんだ!! 他に誰が居る!!! 

 え? 来年も現役? は? なんで? なんで5歳まで走らせるなんて酷いこと言うの? どれだけトウカイステージの血をオレ達生産者が欲してると泣きつ、ゲフンゲフン、頼みこんだとっ! 空気読んでよ? 

 え? 流石に来年は走らせられないよ。脚が怖いもの。なのに、何で? 誰を付ければ良いの?? 

 なによりも、どうして2頭ともわざわざまた負けに来るの??? 

 

 

 最後に、トウカイステージ陣営は夢とロマンしか無かった。

 北野牧場で馬主と調教師を焼き尽くした幼駒。かのホワイトグリントの最初の牡馬がトウカイステージだ。

 ウオッカには勝ち越した。確かに強いが、だからこそ彼女を完璧に叩きのめした時に見る夢はどれだけ甘美なのだろうか。ダイワスカーレットの勝ち逃げは阻止した。後は現実で叩き潰し夢を確たるものにするだけ。

 認めよう。逃げて粘りきれば良いダイワスカーレットと、最後に差し切れば良いウオッカ。その2頭に比べてダイワスカーレットを抜かして、ウオッカを抑えなければならないトウカイステージは間違いなく不利だと認めよう。

 ──だからこそ勝つのはロマンがある!!! 

 勝つんだ! 

 カルティエ賞の年度代表馬と最優秀古馬は手にした!! 欧州は制覇したんだ!! 

 後は、ウオッカとダイワスカーレットを叩きのめしてトウカイステージこそが当代最強だと証明するんだ!!! 

 

 

 俺の馬が一番強い! それだけを共通させ、それ以外は共通点の無い三陣営はただ目をギラつかせる。

 言うまでもないが、馬主席の三陣営の周りは最初の挨拶を済ませた後は誰も近寄らずに綺麗な空白となっていた。

 まあ、オグリキャップブームの時と、ホワイトグリント以来元気になった馬主席で良く見る光景である。

 

 

 そんな中でファンファーレは鳴り響いた。

 

 

 

 

 

『ダイワスカーレット先頭! やはりダイワスカーレットが先頭だ! 赤の帽子が先頭に進む!』

 

 誰もが予想した通り、スカーレットの色の帽子が先頭に進むなかレースは進む。

 

『続いてトウカイステージ! そして、後方から来た来たぁ! 早くもウオッカが馬群を抜け出す! 残り400! 他の馬はついてこれない! やはりこの3頭だ! 早くもトウカイステージが仕掛けた! ダイワスカーレットに併せに行く!』

 

 大歓声が響き渡る。

 誰もが望んでいたとおりに三角関係は最高だった。

 最初から先頭で逃げるダイワスカーレット。

 それを見ながら脚を上げていくトウカイステージ。

 馬群の中央を突破して猛烈な末脚で追うウオッカ。

 競馬の一つの理想があった。

 こんなレースを見るために皆が来たのだ。

 ボルテージはトウカイステージがダイワスカーレットに併せに行き最高潮に向かう。

 ダイワスカーレットを確実に潰してからウオッカを凌ぐ、柴野渾身の騎乗だった。

 

『ダイワスカーレットとトウカイステージが併せられる。このまま抜くかそれとも潰すかトウカイステージ! 

 いや、ダイワスカーレット抜かさない! 粘るダイワスカーレット! 欧州の最強馬たちを潰してきたトウカイステージと叩き合う! 

 互角だ! 互角に叩き合っている! 

 これが女傑だ! これがダイワスカーレットだ!』

 

 だが、ダイワスカーレットは屈しない。

 そこらの牡馬と一緒にするな! とばかりに互角に叩き合う。

 

『互いの鞍上、柴野と安東が鬼の形相で追う! 追い続ける! 叩き合い続ける! 残り200でウオッカは2馬身差! 厳しいか! トウカイステージとダイワスカーレットとの叩き合いで決まるのか!』

 

 2馬身は遠い。誰もが、トウカイステージとダイワスカーレットで決まると確信する中、坂を上りきったウオッカに竹の鞭が入った。

 

『叩き合う! 叩き合い続ける! 譲らない! 譲らない! このまま──

 いや、外から! 

 外からウオッカだ! 

 ウオッカが緋色と幻の舞台を捉えた!! 

 ウオッカが差し切ったぁぁぁぁぁ!!!』

 

 閃光の差し。

 後にそう呼ばれるウオッカの渾身の差しが決まった。

 

『え? うそだろ? そんな──

 し、信じられません。ウオッカのラスト200mのタイムは9.4。

 9秒4です!? 

 電撃の差し脚を超える。まさに閃光の脚を見せましたウオッカ。

 あ、ああ、竹優騎手が下馬しました。

 馬運車を呼んでます。

 大丈夫でしょうか。

 明らかにサラブレッドの限界を超えていましたウオッカ──あ、トウカイステージが……あ、ああっ!?』

 

 

 

 

 

 …………最強! トウカイステージスレより抜粋

 

 511:そして幻の舞台へ連盟

 馬運車が来るまでウオッカを支えるトウカイステージ尊い。

 

 513:そして幻の舞台へ連盟

 何時見ても涙が抑えきれない。実況の人号泣してた。競馬場でも皆泣いてた

 

 514:そして幻の舞台へ連盟

 もたれかかるウオッカを微動だにせず支えるトウカイステージは旦那の鑑。

 

 515:そして幻の舞台へ連盟

 そんなんだから、ウオッカがトウカイステージ以外の種牡馬を種付け拒否したりするんだぞ。ガチで蹴るんだ。

 

 517:そして幻の舞台へ連盟

 ダスカも拒否したからな。引退後初の種付けで当て馬蹴飛ばしてチチカステナンゴも蹴り飛ばしたから、種付け出来なかった。

 

 519:そして幻の舞台へ連盟

 なんで「「なんで私がボコボコにした連中くらいに脚の遅い連中に胎渡さなきゃならないのよ! 旦那連れて来いやぁ!!」」ガチでコレだからな。

 

 521:そして幻の舞台へ連盟

 男性ファンと女性ファンで真っ二つに分かれるんだよなあ。この行動に対しての反応。男性ファン「いや、そこまでしなくとも、馬らしくないなあ」。女性ファン「よくやった! それでこそ女だ! 馬にだって愛はある!」爆笑するしかない

 

 522:そして幻の舞台へ連盟

 男性ファンの反応して、嫁に「なんて酷いこと言うの。愛が分からないのね。信じられないわ」と嘆かれて怒られたんだ……

 

 523:そして幻の舞台へ連盟

 まあまあ、仕方ないよ。トウカイステージに操を立てた。と特に女性ファンに好意的に見られたから二頭とも。二頭の産駒成績に並ぶ不受胎って種付け拒否ってことだからな。

 

 524:そして幻の舞台へ連盟

 トウカイステージ以外の種の産駒が二頭合わせて二頭しかいないからな。旦那と受胎して子育てした幸せで気が緩んでる最初の年の1回しか二頭とも他の牡馬に種付けさせなかった筋金入りやぞ。

 しかも、トウカイステージの鬣で気を引いて連れて行った所で、違う馬が種付けしたんだ。

 以降は、騙された! とトウカイステージ以外の種牡馬が近づくと常時蹴飛ばすようになった。

 

 526:そして幻の舞台へ連盟

 お蔭で何年も不受胎になって、それぞれの陣営頭抱えてたんだよなあ。どうしようって。今は「私たちが愚かだった」一色だけど。

 

 528:そして幻の舞台へ連盟

 トウカイステージ付ければアウトブリードの強い馬が生まれてくるのだから脳死するのは仕方ない。ウオッカも予定変更して日本で生活してるしな。

 

 …………

 

 

 

 

 

 かくて三角関係の2戦目はウオッカの勝利、2着トウカイステージ3着ダイワスカーレットとなった。

 鞍上竹優をして「神の脚を見た」と馬運車を見送りつつ震えながら崩れ落ちたほどの脚を見せたウオッカ。

 記念撮影することなく馬運車に乗せられて競馬場を去ったウオッカも疲労だけで無事との診断結果だった。

 結果、有馬記念にも出ることとなった。

 トウカイステージは半馬身差の2着。ダイワスカーレットとの競り合いをアタマ差で制したとはいえ、ウオッカにしてやられたことには変わりはない。

 つまり、ダイワスカーレットとは一勝一敗。ウオッカとは一勝一敗一分けとなったのだ。

 皆は暗い顔をして残念だといった。

 それでも、皆がトウカイステージに良くやったなといった。

 だが、トウカイステージは大好きな周りの皆からの視線に込められた労わりと哀しみを感じ取っていた。

 

 もう、哀しませない。

 次はあの二頭に決して負けない。

 祖父オグリキャップから続く不屈の闘志は燃え上がった。

 

 

 

 

 

 かくて、三角関係最後の決戦有馬記念が始まる。

 

『ダイワスカーレット! ダイワスカーレットが先頭だ! 続いてトウカイステージ! ウオッカも馬群を外から躱して上がって来た!』

 

 逃げのダイワスカーレット。先行のトウカイステージ。差しのウオッカ。

 三角関係は最後の最後まで宿命付けられたように競う。

 競馬だった。

 これこそが競馬だった。

 

『残り200m! ダイワスカーレットが粘る! トウカイステージが迫る! ウオッカが差さんとする! やはりこの3頭! この3頭は最後の最後まで真っ向勝負する』

 

 渾身で追いながらも柴野は理解してしまった。

 負ける。

 ダイワスカーレットを抜かせばウオッカに差され。

 ウオッカを抑え込めばダイワスカーレットに逃げられる。

 ここに来て同等の力量であるが故の不利が響いた。

 そして、そのことをトウカイステージも理解した。

 

 だから──勝ちに行く。

 

『さあ、真っ向勝負はどう──ぇえぇぇっ!?』

 

 〈あ、もうレース終わったよー〉

 〈え、そうなの? 終わったんだー)

 〈そうなのか。疲れた疲れたー〉

 

 旦那の言葉に疑いなく足を緩めるダイワスカーレットとウオッカ。

 

 〈ごめんね。僕が勝つ〉

 

 だが、旦那は脚を緩めない。そのまま、ゴール板へ突き進む。

 

「!? よくやったぁぁぁっ!!??」

「「!? ちょ、まってぇぇ!?」」

 

 一人の鞍上の勝利を確信した雄叫びと、二人の鞍上の絹を裂いたような悲鳴が中山競馬場に轟いた。

 

『と、トウカイステージ! 1着! え、いや、今、何が……』

 

 日本競馬史上空前にして絶後と思われる『馬による囁き戦術』が有馬記念でさく裂した。

 

 

 

 

 

 …………最強! トウカイステージスレより抜粋

 428:そして幻の舞台へ連盟

 これファンと競馬関係者で意見が真っ二つになったんだよなあ。ファンは大爆笑しながら「そりゃあねーよ(笑)」だったのに、競馬関係者では絶賛と称賛と感嘆の嵐。

 

 429:そして幻の舞台へ連盟

 馬はレースを苦しい物だと思っている。だから嫌がっているはずだ! 

 いいや、勝ちたいと思っているよ。だから、全力で勝とうとするよ。

 少なくともトウカイステージは。

 号泣。

 

 431:そして幻の舞台へ連盟

 降馬場で内町オーナーが滂沱して抱き着いて安野調教師も泣きながら抱き着くしか出来なかったもんなあ。

 

 432:そして幻の舞台へ連盟

「僕の相棒を誇りに思う」ずっと鞍上で泣いていた柴野先生が号泣しながらようやく出せた言葉がこれだものなあ。

 

 434:そして幻の舞台へ連盟

 馬は競馬の勝ち負けを理解してない。意思疎通出来たと思っても居てもそれは錯覚。騎手は孤独だ。がひっくり返されたからな。

 これ以降、柴野騎手はトウカイステージを相棒としか呼ばなくなった。

 

 435:そして幻の舞台へ連盟

 ガチで馬が一緒に自分と戦ってくれたからな。

 

 437:そして幻の舞台へ連盟

 馬はレースを理解しているのか? 

 している。そして勝ちたいと思っている。少なくとも一頭は確実に。

 競馬界の永年の疑問に答えが出たものな。

 

 438:そして幻の舞台へ連盟

 ホワイトスノー達が居なければただただ柴野さんを羨んでいたbyタッケ

 

 439:そして幻の舞台へ連盟

 意思疎通できれば、馬は頭が良いほうが良いと痛感したbyアンカツ

 

 441:そして幻の舞台へ連盟

 ルドルフもそうだった。そうだったんだ(号泣)by嫉妬が昇華された大僧正

 

 443:そして幻の舞台へ連盟

 他の騎手や調教師も生産者もこれくらい焼き尽くされてたからな

 

 445:そして幻の舞台へ連盟

 それはそれとしてエゲツナイ囁き戦術だった。

 

 446:そして幻の舞台へ連盟

 野球のノムさんが真顔で「完璧な囁き戦術。現役なら弟子入りしていた」と絶賛するくらいだぞ。

 

 448:そして幻の舞台へ連盟

 自分に惚れ込んでいる奥さん相手にがまたエゲツナイ。

 

 449:そして幻の舞台へ連盟

 トウカイステージは愛よりも友情を選んだだけだから(震え声)

 

 451:そして幻の舞台へ連盟

 大好きなリンゴのおじさん、大好きな安野調教師、大好きな柴野騎手、そして大好きな厩舎の人達。大好きな人間は沢山居るのに。ウオッカとダスカは二頭だけなんだ。

 数が全然違うんだ。

 だから容赦ないんだwww

 

 452:そして幻の舞台へ連盟

 あのホワイトグリントの息子とは思えないエグさ。と言われてたな当時は。

 あのホワイトグリントの息子らしい個性。と今は言われているけど。

 …………

 

 

 

 

 

 この日を最後に三角関係はレース場でレースをすることは無くなる。

 ダイワスカーレットは引退し、ウオッカは欧州へ遠征し、トウカイステージは日本で戦い、それぞれの道は繁殖まで逸れた。

 この年はウィンターウィークに年度代表馬を譲ったトウカイステージは、さらに一年間王道のレースを走り続ける。

 阪神大賞典を勝利し、春の天皇賞も勝利する。

 柴野騎手が天皇賞の盾を掲げた時に曇り空から一条の光が差した写真が、トウカイステージを紹介する時によく使われることになる。

 その次の宝塚記念では、同い年の朝日杯覇者ドリームジャーニーにアタマ差で敗れる。

「一生に一度の脚を使ってくれました。勝てるなんて思ってなかった」池園騎手が涙しながらそう言った。

 秋はオールカマーを圧勝。続く天皇賞では古豪カンパニーを破り、天皇賞春秋を制覇する。

 このまま、秋古馬三冠を目指すが

 

『トウカイステージ迫る! 迫る! しかし、ビャクウンだ! ビャクウン逃げ切った! 横田とビャクウンが最強の兄貴を打ち破りました!』

 

 二歳年下の弟ビャクウンの渾身の逃げにアタマ差で敗れた。

 ホワイトグリント産駒初の兄弟対決は弟に軍配が上がったのだ。

 その次のラストラン有馬記念。

 四角先頭でそのまま押し切らんとする中、鹿毛の馬が迫った。

 

『トウカイステージ! トウカイステージ先頭! そこに、ドリームジャーニー突っ込んできたぁ! 無敗三冠馬か朝日杯馬かどちらが勝ったか全くわからない!』

 

 結果はドリームジャーニーのハナ差勝利。

「一生に一度の脚が……脚が、ありがとう……ありがとう」池園騎手が疲れ切ったドリームジャーニーに抱き着きながら号泣して言葉を絞り出す中、トウカイステージの戦いは終わった。

 

「まだまだやれますが、血を繋げるのは大切ですので、いえ、本当にまだまだ走ってもらいたいのですけど、勿体ない。でも──」

「まだまだ好調。勿体ないです。今年何度か負けましたが、劣ってはいませんでした。全て展開によるものです。本当にもったいない──」

「今年何度か負けたのは僕の騎乗が悪かったから、他に理由はありません。相棒と来年は間違いなく勝ちます。いえ、失礼、もう来年は──」

 

 オーナー、調教師、騎手が口をそろえて引退は早いというほどトウカイステージは充実していた。

 だが、彼の血は、世界で望まれている。これ以上走るわけにはいかなかった。

 かくて、幻の舞台は閉ざされた。

 

 

 

 

 

 種牡馬になったトウカイステージは、80株のシンジケートを組み北野牧場で種牡馬入りする。

 条件は、本株を持った者のみで毎年最大80頭種付けという。ある意味で正気を疑うもの。

 ありとあらゆる生産者が撤回させようとしたが、内町オーナーは頑として譲らなかった。

 

 聞く所では──

「繁殖技術は日進月歩で進んでいます。毎年200頭、いや250頭でも馬は大丈夫です。それはウチの馬によって証明されています」

 数時間に及ぶ議論の果てそう気色ばむ社大代表に対し内町オーナーはこう答えた。

「それは元気で、という意味ではなく、命は大丈夫という意味です。そんなに種付けすれば、命は無事でも疲れ切り元気ではなくなるでしょう」

「しかし、サンデーサイレンスは──」

「それが問題なのです」

「は?」

「失礼ですが、吉沢さんはサンデーサイレンスによって種牡馬の基準が壊れてしまっているとしか思えません。サンデーサイレンスはまさに例外と考えるべき、いえそう定めるべき馬です。普通の馬では年100頭も種付けすれば寿命は縮まりやつれ果てるものです。

 なのに、サンデーサイレンスは年200頭超えても元気一杯でした。まさに例外です」

「それは、いえ、しかし」

「吉沢さん」

 吉沢氏を抑えるようにして内町オーナーは言葉をつづけた。

「吉沢さん、私は、トウカイステージに元気で、安らかに、余生を送らせます。年間80頭が限度です。それ以上は彼に元気も安らぎも与えてやれないと私は決断いたしました。その決断を貫かせていただきます。

 彼は、私の馬なのですから」

 そんな会話があったという。

 

 

 

 かくて、トウカイステージは元気いっぱいの余生を北野牧場で送ることになる。

 祖父オグリキャップや母ホワイトグリント。そして姉弟たち。他にもタマモクロスなどと一緒に元気一杯に過ごし、偶に訪れてくる内町オーナーや安野調教師や柴野騎手を大歓迎して過ごした。

 産駒成績も素晴らしかった。

 80頭と限られた数の馬の中で毎年複数の重賞馬をだし、バイアリータークの血脈を繋げるだけでなく広げることに成功した。

 その中では、「21世紀のサラ系ダービー馬にしてマイネルの夢」マイネルドリームや「白いイギリスダービー馬」フィルヴィスや「全盛期イクイノックスを追い詰めた三冠馬」タニノジンなどのドラマ性のある名前が多く並ぶ。

 バイアリータークの復興馬。

 トウカイステージは後年そう呼ばれ、フランスで滞在した牧場にそう記された銅像が作られるようになった。

 

 

 

 

 

 主な勝ち鞍:皐月賞、日本ダービー、菊花賞、ドバイシーマクラシック、コロネーションカップ、インターナショナルステークス、凱旋門賞、有馬記念、天皇賞春、天皇賞秋。

 通算成績:22戦17勝(G1・10勝)2着5回連対率100%

 受賞:JRA年度代表馬、カルティエ賞年度代表馬、JRA最優秀3歳牡馬、JRA最優秀4歳以上牡馬、カルティエ賞最優秀牡馬、JRA最優秀父内国産馬(2007年当馬が最後)、JRA顕彰馬

 

 溜息をつくほかない成績である。

 生涯連対において、シンザン引退後50年以上の時を経て遂に超えた三冠馬が現れた。

 しかも、2着になったレースでも最大着差は半馬身。ウオッカの閃光の差しのみ。それ以外はクビ差以上は離されなかった。

『史上最高の名牝馬』ホワイトグリント産駒の中でも紛れもなく最上位の内の一頭だと断言する他ない。

 ……この馬が産駒トップだと断言できないホワイトグリントにはもはや戦慄するしかない。流石はアーバンシーを越えて繁殖牝馬産駒重賞獲得数がギネス世界記録に登録され『間違いなく永遠に抜かされることが無い。否、抜かされてはいけない記録』とギネスに記入されているだけある。

 

 トウカイステージの強さに疑いはなく、紛れもなく最強クラスには違いない。騎手と馬主は「紛れもなく最強」と断言している。

 少し、面白い評価をしたのが安野調教師である。トウカイテイオーと比べてどちらが強かったのか? と引退後に聞かれた際に安野元調教師はこう答えた。

 

 

 

「才気という意味ではトウカイテイオーの方が上。というよりも、私が騎手調教師として50年以上の年月の間で接した全ての馬の中でトウカイテイオーより上の才気は見たことが無い。それほどの才気をトウカイテイオーは誇っていた。トウカイステージさえ才気は及ばなかった。

 しかし──

 かけっこでの勝負ではなく、レースでの、競馬での勝負ならば10回やって10回全てトウカイステージがトウカイテイオーに勝つ。

 真っ向勝負の競馬において、トウカイステージに勝てる馬は想像できない。あの有馬記念の勝利はそれを証明した」




 皆様、長い間列伝に付き合っていただきありがとうございます。
 次回からは、こんなバグを産みまくったドマゾの物語に戻ります。
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