『どよめきが止まりません! 1800mの日本レコードを越えるタイムでウォリックが逃げています!
直線に入った! ウォリック先頭! ウォリック先頭!
後続とは8馬身はついて、きたきたぁっ! 速くもディープインパクト上がってきたぁ!
勝つつもりだ!
竹優とディープインパクトは世界最強馬に勝ちにいくっ!
縮まる! 縮まるっ!
ディープインパクトは飛んで縮めていくっ!
頑張れっ! ディープインパクト頑張れっ!
あと一馬身で! あっ!?
ウォリックにステッキ!
今まで3度しか入ってないステッキが入った!
ウォリックが加速するぅっ!? 加速するだとっ! ふざけるなっ!
飛んでいる!
ディープインパクトは飛んでいる!
間違いなく飛んでいるっ!
だが、縮まらない!
半馬身が縮まらない!
何でだっ!? 1800のレコードより速いタイムで逃げてたのにっ! 何でディープと同じ末脚っ!
まさかっ!? 逃げてたんじゃないのかっ!? ただ速かっただけなのかよぉっ!!??
こんなのおかしいだろぉっ!!!
っ! ディープインパクト頑張れ!
頑張れ! 負けるな! 抜かせっ!』
東京競馬場全体が爆発したようにディープインパクトを応援する。
自国の三冠馬を、全力で走る三冠馬を応援する。
それは競馬の熱狂を表すもの。
それは自国の代表を誇るもの。
それは他国に敗北したくないと願うもの。
そして、それは──
イギリス人とニュージーランド人が、テレビ越しか直接にて、その目やその耳で。
他国でのウォリックのレースで何度も見て聞いてきたものだった。
貴賓室の女王陛下の口元に浮かぶ信頼と勝利の笑みは一切揺るがない。
ウォリックのレースを見続けたイギリス人とニュージーランド人のものと同じく。
『ディープインパクト! 頑張れ!
何でウォリックを抜かせないっ!
縮まらないっ! 半馬身差まで詰めても縮まらないっ!
そんな、どうしてっ。
どうして縮まらないんだよっ。
何でっ。
あ。
あぁ。負けたっ。
そんな、最後に離されたっ。
いや、ウォリックが伸びやがった。さらに伸びやがったぁっ。良い加減にしてくれっ。
負けた。負けたっ、ディープインパクトが負けたっ。
強い。
強すぎる。
なんだアレ。強すぎるっ。
あんなのなしだろ。
……え──あ、すいません。
タイムはレコード! え? タイム?? 本当にこれ??? 嘘だろ!
タイムは2:18.7! 信じられないタイムです!
レコードタイムです!
両親のレコードを縮めました!
これがウォリックだ!
これが世界最強だ!!
これがオグリキャップとホーリックスの息子だ!!!』
魔王。
これが魔王。
魔王ウォリックってこんなに。
あまりの強さに実況が実況を忘れた東京競馬場では、日本のファンの戦慄の呻きが響き渡るだけだった。
「全盛期かつ芝適正距離のウォリックにステッキを使わせるなんて、本当にディープインパクトは素晴らしい馬です」
イギリス王族の絶賛と、にこやかな女王陛下の拍手も戦慄を深めた。
そう、ウォリックは今まで、成長途上・初ダート・超長距離を理由に敗れたレースでしかステッキを使っていなかった。
そういう意味で、ディープインパクトは本格化した芝適正距離のウォリックを初めて追い詰め一矢を報いたと言っていい。
だが、だからこそ皆戦慄した。
追い詰めた所に突き放す底力があったことに。
全力のウォリックがどれほどかを理解したから。
本場イギリスの三冠馬にして世界最強馬を知ったのだ。
それを日本は勿論のこと、世界に桁違いのワールドレコードで知らしめた。
「申し訳ありません。あと、あと……だったのに……」
インタビューでの竹騎手の悔し涙。一矢を報いたことを誇ることさえ出来ず、全身を震わせながら嗚咽する珍しい姿が未だに瞼に残る。
疲労しきってフラフラで、涙を流しながらウォリックを睨み付けていたディープインパクトの姿と同じく。
そして、2頭は北野牧場でしばらくの間休むこととなる。
走ろう走ろう。とウォリックを誘うディープインパクトを「君たち疲れているでしょう。体壊すから止めなさい」とばかりに嗜めるオグリキャップの姿もまた瞼に残る。
父オグリキャップにベッタリと貼り付いて甘え、姉のホワイトグリントにも甘える。ニュージーランドで母ホーリックスに甘えた以来の珍しいウォリックの姿もまた瞼に残る。
多忙なのに北海道に立ち寄り愛馬たちに目を細めていたイギリス王室の方々と、ホストした皇室の方々もまた瞼に残っている。
…………ウォリックまじ魔王スレより抜粋
:魔王犠牲者たち
早めに来日してパッパの所である北野牧場で仕上げたから絶好調だといえど強すぎる。
:魔王犠牲者たち
ラストランだから余力を持った勝ち方をしない。お前はシンボリルドルフか。
:魔王犠牲者たち
世界のルドルフ、やはり強い! 日本のミホシンザンを離す!
世界のウォリックに、日本のディープインパクトは離された。離されちまった。
:魔王犠牲者たち
オグリキャップ×ホーリックス。どうなってるんだ。
:魔王犠牲者たち
繁殖牝馬産駒重賞獲得数2位。それがホーリックスママン。
何で、グリコ1位なんやろな。産駒の数の差か。
:魔王犠牲者たち
さあな。分からん。分かるのはウォリックが魔王みたいに強いことだけだ。
:魔王犠牲者たち
高速馬場と言い切れない時代にこんなタイム。
ウマ娘のアーモンドアイが「アイは、勝つの。小さい頃のアイの瞳を捉えて、今も離さない彼女に絶対勝つのよ」と激重発言した相手だけあるぜ。
:魔王犠牲者たち
ディープインパクトが出たんだからウチは辞めとこう。申し訳程度の重賞馬3頭含めて枠埋めるための7頭出し、でも殆どの馬主が観戦。
プイを生贄にしたけど責められねぇよ。仕方ないわ。
:魔王犠牲者たち
日本馬7頭とウォリックの戦い。なお日本馬でG1馬はディープのみ。ブリーダーズカップ走ったロブロイは兎も角、他の馬はよ。と言いたいけど、仕方ねえよ。魔王相手だもの。
:魔王犠牲者たち
馬連元返しなんて初めて見たよ。
:魔王犠牲者たち
しかし、涙をポロポロと流しながらもウォリックを睨みつけるプイくんは良い。
:魔王犠牲者たち
走るの大好きプイくんが初めて敵わなかったからなぁ。
:魔王犠牲者たち
展開も向いていた調子は絶好調でベストの走りをした。
だが、敗れた。
最後に突き放されて。
:魔王犠牲者たち
プイくんの脳が焼けるよなぁ。
:魔王犠牲者たち
永遠の3/4馬身。半馬身が届かず最後の最後で開いた永遠の差。
:魔王犠牲者たち
負けたけど、プイくんのベストレースだよ間違いなく。
:魔王犠牲者たち
魔王強すぎるんよ。あれが本来の走り方じゃないのが魔王すぎる。
:魔王犠牲者たち
本来は父オグリキャップと同じく好位控えて末脚で最後先頭だからな。誰も逃げなかったから先頭走ったに過ぎないのが震える。
:魔王犠牲者たち
レコードタイムで先頭走ってプイくんと互角の最速の末脚で最後伸びる。本物の魔王だ。
:魔王犠牲者たち
レコードタイムで先頭走って最速で上がる。スズカですら出来なかった競走馬の理想というか妄想だよな。まさか現実として見ることが出来るとは。
そして、現実で見ると、魔王だと世界に刻んだ。
:魔王犠牲者たち
距離適正外の金杯ですらメジロガルダンのクビ差だからな。
その後続に大差つけての(白目)
:魔王犠牲者たち
そして、翌年メジロガルダン居ない金杯圧勝。
あれ? あの強い葦毛どこ?? リベンジしに来たのに??? とレース中ずっとキョロキョロしながら圧勝(震え声)
:魔王犠牲者たち
香港スプリントやオーストラリアのライトニングステークス勝ってるようにスプリントも走れるのが魔王。
:魔王犠牲者たち
マイルからクラシックディスタンスの適正距離だと更に強い。まさに魔王である。
:魔王犠牲者たち
キンツェムとかの伝説クラスで無ければどうしょうもない、と欧州を嘆かせ。
ビッグレッドなら! ベルモンドのビッグレッドなら戦えるんだ! とアメリカではベスト状態のセクレタリアトを前提にした。
それが魔王。
:魔王犠牲者たち
輸送の関係で難しかった南米以外の全ての国のG1を制覇。
魔王こそが世界最強だよ。
現地に行ってその地の最強馬を尽く叩きのめしたもの。
:魔王犠牲者たち
最強馬と呼ばれる馬は居ても、『世界最強馬』はウォリックだけの称号だからな。
世界各地に遠征して戦い勝利。世界最強馬だよ。本当に。
:魔王犠牲者たち
性格も漢の一言。
王室みんなと仲良しで、ペット枠として一緒に行った別荘が落雷で火災。皇太子の息子の王子が一人だけ逃げ遅れているの知った途端に、燃え盛る別荘に突入。2階の部屋に逃げ込み咳き込んでいた王子を乗せて2階の壁を突き破りながら火炎の中を脱出。
自分は火傷を負っても、王子には傷一つ負わせなかった。
競馬、というか馬に大金かけるのを批判していた皇太子を号泣させ魂を焼き尽くした。
:魔王犠牲者たち
B◯Cのカメラで一部始終が撮られているからな。皇太子が王子ごとウォリックを抱きしめて号泣するところも。
:魔王犠牲者たち
素行色々言われていた助けた王子が、猛勉強して獣医になるくらいだものなぁ。
英王室はみんなウォリック大好き。
:魔王犠牲者たち
何がアレって、この事件の10日後キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス勝ってBHBサマー三冠初制覇してるのが本当にアレ。
火傷痕も生々しいウォリックに、女王陛下が笑顔で泣きながら古式ゆかしい剣での騎士爵を与えたシーンも含めて、イギリス人の魂を焼き尽くした。
:魔王犠牲者たち
回避しようとした関係者に対して、騎手のステッキを噛み締めて騎手に突きつけて「行こう」と伝えたウォリック。本物の騎士だよ。
:魔王犠牲者たち
口では回避を言っていても、BHBサマー三冠初制覇がかかる状況に残念を滲ませる周囲。
そして、自分のせいだとすまなそうにする王子の為に、ウォリックはステッキを騎手が手に取るまで突きつけたのだ。
我らが騎士王なんよ。
:魔王犠牲者たち
イギリスでの正式な呼び名は、サー・ウォリック。
日本はオグリキャップを子爵(従4位)にしたから、ウチも。という女王陛下の意見に反対していた皇太子が賛成したからといえど、イギリスまで馬に爵位か。
:魔王犠牲者たち
イギリス王室からしてみればウォリックは本物の騎士だからね。専用の紋章まで作った。
もうサーだったスカウト調教師は兎も角、セバスチャン騎手も史上二人目のサー騎手になったくらいだし。
:魔王犠牲者たち
レジャー会社が持って観光地になっているウォリック城の城主さまやぞサー・ウォリック。城の中庭でもぐもぐ牧草食べたり、観光客と写真撮ったり乗せたりご飯貰ってる城主さま。
観光地としての売り込みとして見事だ
:魔王犠牲者たち
ジャパンカップ現地に行って良かったわ。
穏やかで優しげな火傷の跡が残る葦毛の馬。
それがあんなに強いとは。
歴史的名馬というか競走馬史上最強じゃね。魔王。
:魔王犠牲者たち
だろうなぁ。というか、アイツと戦える馬さえ限られてるだろ。囁き戦術がハマればトウカイステージなら勝てると思いたいが。
:魔王犠牲者たち
あそこまで渡り合ったプイくんは凄いんだ。本当に凄いんだ(号泣)
:魔王犠牲者たち
ああ、無敗三冠馬としての強さを見せてくれた。戦ったんだクラシックディスタンスの魔王と、全力の魔王と世界で唯一。
:魔王犠牲者たち
敗戦のあとのプイくんのポンド136だからな。誰もが認めたんだ。ディープインパクトは本当に強いって。
:魔王犠牲者たち
完敗。しかし諦めない。次は勝つ。
プイくん燃え盛ってんのよ。
:魔王犠牲者たち
しかし、ウォリックはこれがラストランなのだ。
:魔王犠牲者たち
敗北し逆襲を誓うが、相手はもうレースには居ない。皮肉だよなあ。
:魔王犠牲者たち
北野牧場での放牧でウォリックと走ろうとしたプイくんを窘め止めさせたオグリ。蹄の薄いプイくんにはベストの対応流石はオグリと。陣営は絶賛したけど。走らせてやっても、と願ってしまうな。
現役時は二度と会えなかったから。
:魔王犠牲者たち
瞳の中のウォリック。それをこれからプイくんは追い続けたのだ。
…………
1ヶ月後。
カネヒキリでジャパンカップダートをも制し、G1勝利数を9。いや、メジロガルダンの香港ヴァーズも併せて年間G1 勝利数を10にした竹騎手は、ホワイトスノーに乗って有馬記念に現れた。
そう、竹騎手と池柄調教師は、ジャパンカップはディープインパクト、香港ヴァーズはメジロガルダン、有馬記念はホワイトスノーと使い分けたのだ。
同騎手同厩舎として当然といえば当然だが。
あまりの事に、二人と顔を合わせた時に舌打ちをする人まで出てきた競馬関係者を誰が責められようか。
尤も竹騎手と池柄調教師には言い分がある。ホワイトスノーはエリザベス女王杯遠慮しただろ。という言い分が。
エリザベス女王杯をホワイトスノーが走らなかったのは、竹騎手や池柄調教師の主観としては遠慮だった。が、遠慮は伝わらなければ遠慮ではない。
有馬記念>エリザベス女王杯。賞金額でも格でもこの不等号となる。
誰もが有馬記念の為に力を温存したんだなクソ野郎共が。と受け止めた。
当然、ホワイトグリントのパシフィックステークス並の包囲網をホワイトスノーは協議して敷かれた──
──わけではなかった。
この時、ゼンノロブロイが居なければそうなっていただろう。
ゼンノロブロイ。
昨年京都大賞典から丘部騎手推薦により大里騎手を主戦とした馬である。
そして飛躍を始めた。
京都大賞典を皮切りに秋古馬三冠を達成。今年春はドバイシーマクラシックを制覇。春天はメジロガルダンに敗れるも、宝塚記念をスイープトウショウとハーツクライを差して制覇。放牧後アメリカに旅立ち、ジョーハーシュターフクラシック招待ステークスとブリーダーズカップターフを制した。
七冠馬。昨年の秋天からブリーダーズカップターフまでの1年で7つの冠を制した馬である。
帰国してから暫くの間体調が上向かなかったためジャパンカップを回避したが、魔王に挑むと公言し、それが誰もに認められていた優駿である。
「大里騎手と出会ってからがゼンノロブロイのピーク。よく出会ってくれた」藤澤調教師が絶賛し
「こいつが引退する時に私も引退します」リーディングジョッキー大里騎手が最後の相棒としたほどだった。
そして、このレースをラストランとしたゼンノロブロイ。大里騎手も引退するのかと注目されていたが。
先週デビューした藤澤厩舎バレンディアによって、大里騎手の予定は変更する。
だが、大里騎手に引退は早いと言い続けていた調教師やオーナーや、駆け込み寺にしていた人気騎手を含めて、誰も文句を言わなかった。
そんな、大里騎手が駆るゼンノロブロイ。
竹騎手に対する態度を一切変えなかった大里騎手が駆る優駿が、他の陣営に包囲網を断念させた。
ホワイトスノーを潰してゼンノロブロイに勝たれるのが目に見えていたからだ。
かくて、真っ向勝負となった。
『タップダンスシチー先頭! 続いてホワイトスノー! ホワイトスノー前目! リンカーンとグラスボンバーが横に! サンライズペガサスも付けています!』
──ほど、
スタート前、牝馬三冠馬は当たり前のようにマークの視線を集めた。
それを奇貨とした騎手がいた。
騎手の名はタップダンスシチー鞍上沙藤徹三。
ホワイトスノーの母ホワイトグリントの相棒である。
沙藤騎手はスタート直後にピタリとホワイトスノーの前に位置した。
その狙いを理解した騎手たちがごくごく自然とホワイトスノーを包囲し上っていき、差し馬であるホワイトスノーに先行を強いて潰しに来た。
確実に強い一頭を潰してからもう一頭を相手する。
騎手として何ら恥じることのない立派な戦術である。
ホワイトスノーは沙藤騎手主導の包囲網下に置かれた。
そう、母ホワイトグリントとの相棒の時期には未熟さがあった沙藤騎手は、立派な
幼い頃から母ホワイトグリントに何度も会いに来て自分にも優しい沙藤騎手の容赦ない騎乗に、ホワイトスノーがショックを受けているように見えた。とファンは口々に語る。
ちなみに、この状況をホワイトグリントが見たら、「ごしゅじんがわたし以外の馬に! 娘なら許せたのに! 誰っ!? それにっ! 娘に何でまだあの悪い奴乗ってるのぉぉぉぉっっ!!!???」あまりに心にくる気持ちよくない痛みで寝込みます。