感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。
オグリキャップ前の競馬場≒賭場です。普通に危険地帯です
この世界線では厩務員の給料2割カットとかはありませんJRA元気です
とてもとても元気です。
1998/12/27 有馬記念 前夜
「まさかここまでとは」
その日、とある組織本部の一室では上層部による定例会議が行われていた。
老齢に差し掛かっていても鍛え上げた肉体が伺える男性や、円熟した精神がその姿勢からうかがえる中年男性や、ピンと伸びた姿勢から出来る気配と柔らかさを同時に感じさせる女性。
誰一人既製服を着ていない仕立服の人々。自分の体に合わせた服を身に纏う人々からは気配があった。
存在感と呼ぶべき気配が。
年間総合売上5兆円以上。
それだけで、この組織がどれ程の代物かが分かる。
この年、日本で最大の法人申告所得がNT〇の9500億円弱だと考えれば、組織の規模と持てる力に背筋が震えるだろう。
無論、売上と法人申告所得は違う。全く違うが、この組織に関しては売上≒法人申告所得こそが実態に近いのだから仕方ない。
組織の名はJRA。
日本中央競馬運営組織。
端的に言って国をバックに競馬場という名の賭場を運営する組織である。
公営ギャンブル運営組織の上層部なだけあって、紳士淑女たちは一筋縄ではいかぬ存在感を濃厚に漂わせている。
此処にいる誰もが、自分を含めた誰かの人生を賭した鉄火場の十や二十を平然と踏みしめたことがあるからだ。
「これほどの数字信じられん。効果があるとは見込まれていたとはいえ、ここまでとは」
一人の老人の感嘆の声に頷くヤ〇ザですら目を逸らすほどの気配を漂わせる人々は、持っている書類に書かれている数字をもう一度舐めるように読み
「「「ありがとう。オグリキャップ。ホワイトグリント」」」
二拝二拍手一拝をもって、部屋にある神棚に置かれている葦毛馬像と白毛馬像に祈りをささげた。
「いや、しかし、インターネット投票とは凄いものだな」
二拝二拍手一拝を終えた老人。JRA理事長は厳かに──視線を神棚から一切逸らさずに──口を開く。
「ええ、まったくですね」
ピンと背を伸ばした女性が──同じく神棚から一切目を逸らさずに──口を開く。
誰もが神棚から一切目を逸らさないJRA上層部。
神棚から目を逸らさないのは何時もの事だが、感涙に咽ぶ人すら居るのは──ホワイトグリントがデビューしてから何か偉業をするたびに感涙に咽んでいるが──珍しいことである。
「これほどの売り上げが起きるとは」
それは、伸びるではなく起きる。そう、新規売上が産まれたからだ。
新規売上の名をインターネット投票という。
ホワイトグリントブームの中、JRAはこの機会にとインターネット投票を半月前に始めたのだった。ADSLモデム売切り制導入など、こちらの世界線では2001年から始まる諸制度を政官界に働きかけて導入してもらった上で。
始めたばかりでトラブル続出なうえ、パソコンを所持した家庭やインターネットカフェや場外馬券場という限られた場でしかないが、実施した結果はJRA、否、日本競馬界上層部に確信させた。
これは、競馬界を変える。
競馬場に来なくてもテレビなどを見ながら馬券を買える。
効果があるとは見込まれていたとはいえ、まさか此処までとは。
「すぐに、地方競馬にも広げるべきです」
「勿論だ。交通インフラで厳しい地方競馬にこそ、これは必要なシステムだ」
「園田はお任せください。彼方には知人が──」
「なら、私は──」
JRA幹部一同は目の前の数字に感嘆しつつ、地方競馬とそのバックに居る地方自治体との速やかな協議を始めた。
公的なルートと私的なルート両方で、地元に絶対に喧嘩を売らないように注意しながら。
手配が一段落したのを見届けたJRA理事長は、これまで効果があると見込まれていたインターネット投票が出来るようになった感謝を視線に込めて神棚に飾られる二頭の像に感慨深い言葉を漏らす。
「しかし、やはり、ホワイトグリントとオグリキャップは全てを良い方に変えてくれる」
そう、今まで効果が有ると見込まれていたのに出来なかったのは、準備にかかる諸経費と、
「すべて、ホワイトグリントとオグリキャップのお陰です。インターネット投票しても彼らが客を競馬場に連れてきてくれているから、競馬場周りの店もオグリブームの時以上に潤っています。だから、インターネット投票を納得してくれました」
「地元に金を落とさない胴元が国の賭場は罪だよ。存在する価値がない」
そんなことしたら競馬場周りの地元の商店に金が落ちなくなる。という切実かつ危機的な状況回避の為だ。
無論のこと比重は後者が大きい。
金だけが問題な前者とは違い後者は命がかかっている。
競馬人気が下がって客が来なくて閑古鳥なら、地元の商店はため息で諦めてくれるが。
JRAが、胴元国な競馬場が始めた制度で客が来なくなる。なんて事を許してくれるなんて考えるほどJRAはウブではない。
競馬場の職員待機所辺りが、無人の時に突如として燃えて人や馬に被害無く
そんな優しい警告を聞かなければ? 考えるまでもない、この場に居る誰かが
それほどまでに地元を敵に回すのは恐ろしいし、決して敵に回すべきではない。
それをJRA職員は想像しない知っているのだ。
1946年、日本人のモラルが未発達どころか末期だった時代に競馬は再開された。
そのため、発砲とか火炎瓶とかゲバ棒とか放火とか、大抵の修羅場を潜ったのがJRAだ。地元を敵に回すことがどういうことかを痛みで知っている。
競馬が、あくまでも賭博だということも痛みで刻まれていた。
戦後直ぐよりはかなりマシになったといえど、オグリブームまでの、負けると「金返せ!」と叫びながら石や火や棒や光物持って暴れる賭場の客どもとやりあった者が幹部の大半だ。
痛かった。心と体が痛かった。暴れる馬ならともかく、暴れる客に対しては加減しなければならないのだから。こちらは傷を負っても相手は傷つけない──目視できる範囲において──そんな日々をJRA職員は送っていた。
鉄火場の賭場の従業員としての苦痛をJRA職員は日々味わっていた。
そんな鉄火場の賭場に心と体に傷を負い続けた日々が突如として終わりを告げた時をJRA職員一同は決して忘れない。
オグリキャップ。オグリキャップブーム。
新規客、特に若い女性や子連れ客により「女子供の前で武器持って暴れるのは、どうよ」賭場の客たちは考えを変えた。
負けて馬券吹雪を飛ばしながら地団駄踏んで悔しがり、帰りがけにヤケ酒を飲む客に。スポーツの客になってくれた。
オグリキャップ達を推して歓声を上げる新規の客と同じく。
競馬は鉄火場の賭場からスポーツになったのだ。
もう、余程の事が無い限りは武器持って暴れる連中は競馬場にいない。だから、酷い怪我を負うことは無くなった。遺書を懐に忍ばせる事も無くなった。
加えて、オグリキャップブームにより潤いに潤い、職員の給料も良くなった。
全てが、競馬に関連する事象が、全てが良い方に変わった。ハイセイコーの第一次競馬ブームと、オグリキャップの第二次競馬ブームの違いは此処にこそある。
根本から良い方に変える馬。それこそがオグリキャップだった。
人間が何をしてもどうにも出来ず、傷つきながら耐えていたことを、たった一頭の馬が全てを変えてくれた。
一般的な日本人であるJRA職員が「神様! 仏様! オグリキャップ!」と信仰心を抱いたのはあまりにも自然なことである。
そして、今回、新たに神が増えた。再度ブームを引き起こし、「店が狭くて従業員が足りなくて! 人が来すぎて困っちゃうわぁっ!」と地元に満面の笑顔で嬉しい悲鳴を上げさせ、制度を導入する余裕を持たせてくれた神が。
インターネット投票導入に何よりも必要なもの。熱を齎した神が。
競馬場に来なくてもテレビなどを見ながら馬券を買えるのならば、競馬場に人が来るにはそれを超える熱がなければならない。
家でノンビリという安楽よりも、直接見たいと誰もが欲情する熱がなければならない。
端的にアイドルホースが必要。というより、アイドルホースが居ない時代に行うのならば、間違いなく競馬は規模縮小しているだろう。
故に、アイドルホース・ホワイトグリント出現と同時にJRAはインターネット投票を準備し成功した。
客は沢山来てくれている。ブームなのだから。
馬主も沢山来てくれた。オグリキャップの娘が活躍しているのだから。
競馬場周りの商店は儲かってJRAにもまんまるに輝く笑顔を向けてくれている。勝った客は勝利感で、負けた客はやけくそで金を落としてくれるのだから。
幼駒はほぼすべてが売れた。みんなが買ってくれているのだから。
競馬を扱うテレビ番組なども増えた。ホワイトグリントが居るのだから。
アメリカに攘夷した。ホワイトグリントが制してくれたのだから。
当然、自分たちの給料は増えた。『ホワイトグリント感謝料』という臨時ボーナスまで始まった。
そんな、オグリキャップブームの日々と同じく競馬回りがまたもや全て良くなっていく日々を味わい、神が居なかった日々の絶望を振り返り──JRAは信仰した。
神の娘は神。何の不思議があろうか。と。
「神だ。オグリキャップとホワイトグリントこそが神だ。JRAの神だ」
神への祈りの詞そのもののJRA理事長の発言と同時に神棚に二拝二拍手一拝するJRA幹部一同。
第三者が見れば、カルトか!? と身構えるかもしれないが、それは神道を誤解しているだけだ。
八百万の神々として生きている馬を神とし、像を作り神棚に御神酒などと一緒に載せ信仰を捧げる。
神道的に何の問題もない。
本当に何の問題もない。
日本人の宗教なのだ神道は。
「いただきます」「ごちそうさま」「物を大事にしないとバチがあたる」などを心に入れて日々の生活を営む。
それだけで八百万の神々に祈りに捧げている、それで十分にして完璧な宗教なのだ。
ちょっと、いやかなり深く現世利益を追求して信仰しているのがJRA幹部なだけだ。
「有馬記念がくるな」
「はい、有馬記念が来ます。最も馬券が売れるレースが。オグリの時とは違い、有人窓口発売のみでは無くなったレースが……今度こそ馬券を買えなかった客など出しはしません」
「加えてインターネット投票の真価が見れるな。ブームという事を忘れるわけにはいかんが」
「無念です。中山の拡張工事が終わる前に有馬記念とは。あと2ヶ月あれば、あの欠陥コースも直せたのに」
「好景気で人手不足なのだ。仕方ない。お陰で客の財布も膨らんでいるから良いじゃないか」
「今の状態でも制限した上で18万人は入ります。オグリキャップ・ホワイトグリント景気のお陰で客の財布が厚いことに感謝しましょう」
「バブル崩壊後の底にあった破滅的な製造業を救い、あれほどの外貨を……競馬だけでなく経済の神でもあったとは、失念していました」
「大蔵に叱られたよ。信仰が足りないと」
「言い返す言葉もない。神の加護を盛るなら兎も角、低く信奉するなんて……無様だ。信徒としてあるまじき醜態だ」
「商売繁盛を刻んだ新しい像を伊勢神宮に捧げましたし、にんにく味噌をオグリキャップに捧げました。あの喜びよう。間違いなく、神は全てを赦してくれました」
「オグリキャップが元気でよかったですね。相変わらず可愛らしくて大人気です」
「ああ、そしてホワイトグリントの体調が万全なことも、ね」
「オグリキャップの二度目の有馬記念のようなことがあっては堪りませんからね……正直、あの有馬は客が冷めました。負けても構わないのです。エルコンドルパサーとのジャパンカップのような名レースをしてくれるのなら」
「何度も確認したが、ホワイトグリントは蹄も含めて何処にも異常はない。有馬記念後は放牧予定だが、有馬記念は万全だ。万全の状態で出てくれる」
「素晴らしい──万全の強いアイドルホースこそを客は求めているのですから」
「その通りだ。万全のアイドルホースが、ホワイトグリントが、有馬記念を走る。これほどまでに幸いなことがあろうか」
「750億まで売上が落ちる。ホワイトグリントがいなければあったであろう。もし、には、絶望で震えます」
「私もだ──だが、もうない。オグリキャップの娘がいるのだから」
「その通りだ。我々にはホワイトグリントが居る」
そのまま、キラキラと輝く眼差しで神棚に祈るJRA上層部一同。
JRA上層部は神道信徒だった。
その頃のトレセンでは、沙藤騎手を乗せてビシビシ鞭打たれながらウッドコースを軽快に気持ち良さそうに走るホワイトグリント。そんな彼女を見ながら瀬戸内調教師は安堵が入り混じった吐息を吐いていた。
「蹄も問題ないどころかピンピンしとるなグリント」
「年末の有馬といったらそれなりに疲れがたまってるんですけどね。ピンピンしてます」
「よかったわぁ。オグリの時のように蹄が薄くなるほど疲れとったら回避してそのまま放牧やったからな」
「有馬記念ですからね。今年の締めとしてもそうですけど、ファン投票1位ですから出来れば出たいです」
「せやなぁ……やっぱプールやな」
え、という顔をして辻元助手はマジマジとユンボでぶら下げてホワイトグリントを水責めする瀬戸内調教師を見つめた。
そんな助手の顔を見ずに、瀬戸内調教師は軽快に走る愛馬に目を細めたまま言葉を重ねる
「オグリとグリントの違いはプールや。プールは負担が軽いのにオグリ大嫌いやったから効果が無かった。その分が体への疲労として出たんやろ」
しみじみとした言葉に辻元助手は、ユンボに吊るしプールに沈めて段々と吐き出す泡が少なくなっていく白馬という、心と胃を痛めつける光景を頭から振り払った。
確かにそうだ。それもある。
大食漢と頑丈な肉体という共通点を持ちながら、年末の余力はホワイトグリントの方が上。
似たようなハードスケジュールを経ての余力の違いは、プールと
「それと」
「うん?」
「それと、何よりも、オグリの時は俺たちが下手糞だったんでしょう。飼葉に関してタマモクロス陣営に教えてもらうような、まだまだ未熟な下手糞な俺たちにオグリキャップは──」
「せやな。あの頃の儂らのような二流厩舎に来たらいけない奴やったんやオグリは。地方からなんて関係ない超一流馬だったんや。それだけの宝石のような資質があったんや。それだけの素晴らしい馬やったんや。マスコミから護れんような二流が受け持ったらアカン馬やったんや、な」
無言。
無言で立つ。
無言で瞑目する。
ドドド
そして、それは一瞬、ホワイトグリントの馬蹄の音と共に目を見開きその姿を捉える。
「8割の出来やな」
「あと10日、仕上げるには十分すぎる時間です」
「せやな、仕上げようや──有馬記念が来るで」
オグリキャップの時には出来なかった視点での阿吽の呼吸。
関西屈指の名門瀬戸内厩舎。
その呼び名に相応しい実力を誇るスタッフたちは、ホワイトグリントを完璧に仕上げる。
かつて未熟であった自分たちに一流の経験をくれ、一流にしてくれたオグリキャップの為にも。
親子二代で有馬記念を取るために。
有馬記念が来る。
たった一レースで800億円以上の馬券を売り上げる。
映画、コンサート等々、一年間でもそれだけの額を売り上げる娯楽産業など野球くらいしか有り得ない額を一度で売り上げる怪物レースが。
一方その頃、北野牧場では。
「年末はどんな漫画が出るのかな。もう楽しみで楽しみで」
「そうですね。どの漫画も良いけど、オグリちゃんとシロちゃん親子漫画の続きが読みたいですね」
「馬の漫画も良いけど、馬耳の女の子にした所も凄いよ。タイプム……なんだっけ?」
「うーん、ちょっと出てこないけど、あそこの絵付き小説はよかったわね。20ページくらいの短さがもったいないくらい」
「擬人化なんてよく考えるわよねぇ」
「浮世絵でよくあったけど、今でも続いてたんだなぁ」
「馬でも馬耳の女の子でも、シロが漫画になるなんて、日本の文化って良いよなぁ」
「せっかくですからね。一冊は北原牧場に展示させてもらいましょう。で、もう何冊か買って普段読めるように図書室に置きたいですね」
「春画は流石に展示するのは……だけど、他は。サークルに一言言って許可貰えたら良いでしょうね。あの人たちウチに許可貰わずに描いてるんだし」
「同人誌かぁ。凄いなぁシロ。本当に凄いし素晴らしい──馬主の私に断り無く題材にしたことだし、許可した上でお金出すからもっと描いてもらうくらいの筋通してもらえないかな」
「同人はそういうの駄目らしいので厳しいんじゃないでしょうかね。文化らしいです」
「文化か。本当に現代の浮世絵なんですね……なら仕方ない、か……いや、浮世絵の流れを汲んでいるのだから、依頼してあちらの意思を確認するくらいは良いですよね?」
「そうですね。あちらの意思に任せるという形なら、弁護士の先生に確認する必要がありますが大丈夫でしょう……他の馬主さんにも馬の同人誌が広がっています。先を越されるかもしれません。エルコンドルパサーやサイレンススズカやサニーブライアンやセイウンスカイの漫画があれだけ人気でしたし」
「そうなるでしょうね。皆さん子供みたいに喜んでいたし──まったく、殆どウチのシロが話の中心なのに、皆ズルことするなぁ」
今年の夏に牧場従業員が、東京ビッグサイトに突撃して購入したホワイトグリントたち馬を題材とした同人誌の数々。
それらに感動した北野オーナーは、馬主仲間にも広げながら、宿泊費込みの経費負担した上で給料をだす。すなわち、同人誌購入を業務とした上で次の手を打った。
公認するから漫画や絵付き小説書いて、とサークルに依頼する手を打った。
かくて、『無断でネタにした馬の馬主さんにいきなり超高級料亭に呼ばれてガクガク震えていたら、デカイ会社の社長(馬主)さんたちが現れて、俺たちが描いたホワイトグリント同人誌を公認で広げるとか言ってきたぁ!? で、牧場招待されたら、観光客は勿論のこと、馬買いにきた海外の偉い人にまで読まれているぅ!? 訳されてるぅ!? てか、ガラスケースに入って展示されてるよぉ!!?? 止めにデカイ仕事来たぁ!!!???』と様々なサークルに阿鼻叫喚を巻き起こすのだが。
愛馬の漫画というだけで脳が焼かれる大人げない金持ちが居たのだから仕方ない。
ちなみに野球が年間売上2000億円弱、2有馬記念ですね。
有馬記念2回で野球の年間売上いくのがこの頃の有馬記念でした。
その上で、ホワイトグリントによって強化されています