黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 広畝さん、Grimoireさん評価付けありがとうございます。やる気が出ます
 感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。

 これで黄金世代全てと当たります。





1998/12/27 有馬記念 決戦前

 有馬記念が八大競争で一番新しいレースだと聞くと驚く人が多い。

 1947年、日本競馬が再開された二年目の年には他の七大競争である桜花賞、皐月賞、優駿牝馬、東京優駿、菊花賞、天皇賞(春・秋)は名称こそ違えど行われていた。

 これらのレースのルーツは戦前にもあるのだから、ある意味当然だろう。

 だが、有馬記念は違う。ルーツは戦後にある。

 

 有馬記念が出来たのは1956年。中山グランプリと最初は呼ばれていた。

 JRA二代目理事長の元農林大臣有馬頼寧が「年末にも大レースが欲しいな。日本人の価値観からして年末の大レースは人を集めてくれるだろうし、馬券も売れるだろう。そうだ。折角なんだから野球のオールスターのようなファン投票にしよう。そうしたほうがお客さんは親しみを持ってくれる」という考えで作った。

 その企画は大当たりし、客も売り上げも呼びに呼んだ。アメリカのブリーダーズカップ全レースを合計しても売り上げが有馬記念一レースに及ばないのだから、その存在は怪物の域だった。

 そんな怪物レースは1957年に急逝した日本競馬を発展させた有馬頼寧の名を頂き、有馬記念と名称変更されグランプリの副題がつき、直ぐに八大競争に入った。

 

 1984年にグレード制が導入されるまで全ての日本のレースは「重賞」格付けだったが、その中で八大競争は別格だった。

 客と売り上げが違いすぎたのだ。

 五冠馬シンザンは宝塚記念をも制しているが、六冠馬と呼ばれず「五冠馬」と呼ばれるのは八大競争うち五冠を制したという意味であるほどに格が違った。

 

 その中でも有馬記念は独特だった。売り上げ一番なのは兎も角として独特だった。

 自分たちが票を投じた優駿達が繰り広げるドリームレースであり、応援してきた馬のラストランを見守る場であり、「おいらの生活が懸かってる」と今年の負けを取り返すべく賭場でもあるため、ある種の悲壮感すら漂う切羽詰まった熱気がある。

 中央競馬の年末レースというだけあってこのレースをラストランとした名馬は数多い。その中で、勝利した馬はグレード制が行われてからはオグリキャップだけである。

 神はいるそう思った。

 終わったと思われたアイドルホースの最後の力を振り絞った力走による勝利。

 それは、4番人気馬。損した人の方が多い中山競馬場で、帰る金も無い人ですら「オグリコール」をしたほどの感動と熱狂を生んだ。

 他にも、結果的にラストランになったトウカイテイオー。一発屋ダイユウサク。ピーク時最後のG1勝利ナリタブライアン。変幻自在マヤノトップガン。遅れてきた大花サクラローレル。復活の二冠馬サニーブライアンなどなど。

 有馬記念は物語を生み続けた。

 

 何か。を生んでくれるドリームレース。

 それこそが有馬記念であり、それを見るために人が集まるレースである。

 

 

 

「ホワイトグリント勝つかな」

「馬鹿いえ、サニーブライアンがやってくれるさ」

「いや、セイウンスカイだね。セイウンスカイが逃げ切る」

「え、グラスワンダーでしょ。あの綺麗な黄金の子が勝つわよ」

「いや、あいつマイラーでしょ。無理でしょ」

「マイラーならホワイトグリントもじゃない。あの子オグリの子だし、ホーリックスも中距離だし」

「まあ、そいつらで決まるだろうな」

「馬枠も良いからな。その四頭。コース改装が終わってりゃあなあ」

「だよなあ。JRAもあの欠陥コースに気付いてたんだなあ」

「ブームを機会に色々やってるわよねJRA。この徹夜スペースもだし」

「甘酒ー。温かい地元の甘酒はどうですかー」

「田舎しるこも温かいですよー。中山競馬場といえば田舎しるこー」

「お鍋もありますよー。ホッカホカの中山競馬場名物のお鍋にラーメンにうどんいかかですかー」

「こっちは毛布ですよー。寝袋だけじゃ寒い! そこにこの千葉産毛布があると違います!」

「貸し出しのマットレスはどうですかー! 布団と枕も貸し出しますよー。千葉産のマットレスと枕と布団ですよー」

「……何か、この徹夜スペース凄いね。地元のお店ばっかり」

「地下だから屋根付き徹夜スペースになるのも凄いわね。明日はイベント会場になるらしいけど」

「暖かいからいいけどさあ。JRAと地元のぶっとい繋がりが透けて見えるのが、何とも」

「大画面と馬券売場まであるから、並んだまま昼のレース見れて馬券買えるとか、良いのかな」

「良いんじゃね。割高だけど。出来立てのお鍋はおいしいし、よく寝れるから文句ないよ。有料シャワールームが工事中なのが残念」

「トイレもちゃんと整備してるしなあ。中山競馬場の改装工事完成してないけど凄いよ」

「バブルの箱モノ片付けで建築業界仕事一杯じゃなければ有馬記念までに終わったのになぁ」

「まあ、俺らの給料も上がったし仕方ないさ」

「俺も30越えてるのに正社員になれたし言うことないよ」

「あなたが正社員になってくれたから私も結婚できたし。アメリカから移住したのに仕事あるし。オグリキャップとホワイトグリントのお陰ね」

「ああ景気良くなったよな本当に──JRAの偉いさんとか大蔵の偉いさんとかは部屋に神棚作って毎日拝んでるって話だけど」

「ははっ、まっさかあ。元官僚の偉いさんとか元大臣とか国立大出の叩き上げとか官僚の人たちとか大臣だよ。そんなことあるわけ無いでしょ。総理大臣まで拝んでるとかトンデモナイ噂ばかりじゃない」

「だよなあ、ははっ──あ、すいませーん。こっちに田舎しるこ4つくださーい」

 

 

 1998/12/26 二万人以上の前日待機の人々の熱気はそうして生まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 セイウンスカイはどんな馬か。とこの頃の新規ファンが古参ファンに聞けば「オグリキャップみたいな馬」と言われるのが常だった。

 経営難により整理し改革せざるを得なかった生まれ故郷。

 父が行方不明になるほどの低評価の血統。育成時に目立つところが無い低評価の幼駒期。

 新しく厩舎を開設するための数合わせ。調教師が断言するほどの低評価だったのがセイウンスカイだ。

 そんな調教師が居なければ、良くて地方競馬に送られただろう。

 買い手が居なかったとはいえ、そんな低評価の馬を、それでも自分の馬として西森オーナーは所持した。

 そんなオーナーブリーダーの見本のような姿勢が無ければ、処分という選択さえ浮かぶほど評価されていなかった。

 つまりは、完璧な雑草。

 葦毛の雑草馬。

 オグリキャップを思い起こす雑草馬。それがセイウンスカイだった。

 そんな馬がパーキンソン病で明日をも知れなくなったオーナーに牡馬クラシックの栄光を初めて齎したのだ。

 30年もの長きにわたりオーナーブリーダーとして過ごしたオーナーに初めて。

 低評価のセイウンスカイを見捨てず数々の冠名のうち「セイウン」を与えたオーナーに。経営難で苦しむ生まれ故郷の牧場に。

 まるで「自分を見捨てないでくれてありがとう!」そう叫ぶように栄光で応えたのがセイウンスカイだ。

(改革前まで)経営難の牧場。雑草血統。低評価の幼駒時代。開業したばかりの調教師。未だ若手の騎手たち。

 そんな悪条件をものともせずにセイウンスカイは走り、明日をも知れぬオーナーに結果を魅せ続けた。

 

 端的に言って、日本人好みなドラマが集約されていた。

 

 そんな馬が、誰の目にも分かりやすい葦毛馬が、影さえ踏ませず逃げて勝つのだ。

 好かれない訳がない。

 

 ホワイトグリントブームで、少なくともG1馬はその背景を注目されるようになった。ゆえに、そのドラマチックな物語が注目されていたセイウンスカイはファンからの歓声を浴び続けていた。

 

 この時、黄金世代。否、日本競馬において、ホワイトグリントの次に人気があるのは間違いなくこの葦毛の逃亡者だった。

 

 

 

 サニーブライアンも人気があった。

 年数頭の馬を持つ中小の馬主が中小の牧場に預託した馬から産まれたのがサニーブライアンだ。

 端的に言って、弱小チームのエース。しかも逃げ馬。

 それがサニーブライアンだった。

 そんな馬が、馬主と古くから付き合いのあった腕が良いのに口下手なせいで日陰に居た騎手が、その師匠と共に、クラシックを勝ちあがるという。これまた日本人好みのドラマをもってスターダムに躍り出たのだ。

 日本ダービー後に故障し、そのまま引退したならば「実力は謎」とでも言われたかもしれないが。

 復帰の有馬記念を逃げ切ってから、G2を2連勝して、春天を勝利し、サイレンススズカと互角の死闘をし、激闘の末セイウンスカイを退け、秋天でグラスワンダーをも倒した。

『最強古馬』誰もがそう呼び、その実力を疑っていない。

 既にG1・5勝。消耗が激しい逃げ馬であり、調子が上がるのに時間がかかるようになったことから、「有馬記念はラストランに相応しいから」とオーナーが決め、この日がラストランである。

 香港を制したサイレンススズカ陣営に「そんな! 1勝1敗で引退するなんてっ!! 人でなしっ!!!」とファンよりも大きな声で嘆かれたが、その声援に陰りは一切なかった。

 

 今年の競馬を盛り上げてくれた王者が最後の最後まで黄金世代と戦ってくれる。その花道を飾るように願われていた。

 

 

 

 そして、ホワイトグリント。

 オグリキャップの娘の白馬。

 ──アイドルホース。

 

 言うまでもなく、大歓声を浴びていた。

 

 

 

 この三頭に加えて最強マイラータイキシャトルをも打ち破ったグラスワンダーが、有馬記念パドックの歓声を占有していた。

 本馬場入場において、その名を呼ばれるとともに大歓声が響き渡るほどに。

 

 

 

 誰を応援しようか? で古くからの競馬ファンは頭を抱え、あまりにも日本人好みな物語を知った新規ファンも天を仰いでしまったので、「皆応援しようや。どうせ、あの4頭で決まるし」と割り切ったのが今日の有馬記念だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

『今年から始まったTV中継での抽選会! 

 青雲魂はこの絶好の枠を掴みました! 溢れんばかりの闘志が葦毛の馬体に満ちます! 

 1枠1番! 二冠馬セイウンスカイ! 横田典洋!』

 

(何でだ)

 

 セイウンスカイ鞍上の横田は悩んでいた。

 愛馬が、ホワイトグリントを見て馬立ちしている事ではなく別の事で悩んでいた。

 

 日本ダービー後の放牧以来、強い逃げ馬、関東馬、何よりも──言っては何だが二流厩舎である──互いの厩舎に調教相手になれる強い逃げ馬が居ない、という切羽詰まった理由で併せ馬をしてもらっているサニーブライアンのラストランの邪魔をするのが心苦しい。

 というのは騎手やってると良くあるので全く無い。

 来年からのセイウンスカイの併せ馬どうしよう。オーナーから厩務員までの陣営の皆が頭抱えている致命的な問題に対して頭が痛いくらいだ。

 

 そして、レースに持ち込むほど未熟ではないので問題ない。

 

 田柳に全国放送で「ノリは調子の波がありすぎるから、竹丘部大里的羽より劣ります」と言われたのは(その日自棄酒して)受け止めて飲み込んだので問題ない。

 関西に行く用事があった時には田柳厩舎に顔を出して色々学んでいるから問題ない……「お前、あのジャパンカップの時はエルコンドルパサーの斤量やったぞ」などど海老名に言うのがデフォな田柳調教師だからキツイが問題はない。

 いや、本当に勉強になるのだ田柳調教師。口は悪いし厳しいけど勉強にはなる。子供が騎手を目指す時は師匠になってもらおうと思えるくらい勉強にはなる。

 

(何でかなあ。スカイ。お前と同等クラスが何でこんなに???)

 

 悩んでいたのは、この時代のおかしさだった。

 セイウンスカイは強い。

 自分に初めてクラシックをくれたセイウンスカイは本当に強い。

 自分が乗った馬では、ピークのサクラローレルとダートのホクトベガくらいに絶対がある馬だ。

 いや、その二頭ですら今のセイウンスカイには劣るとさえ言えるほどに強い。自身が乗った最強馬だ。

 10年に一頭の馬。そう断言できる。

 ダービーは自身の騎乗ミスで駄目だったが、苦手なスタートの矯正を含めてサニーブライアンとの併せ馬で能力が向上した今なら「絶対に勝てる」と断言できる。

 負けん気の強さと良い親友のように手が合う。

 もう少し若ければ、ライアンやローレルやホクトベガの時のようにビッグマウスを叩いていただろう。

 

(いや、若さは関係ないよなあ……ホワイトグリント、サニーブライアン、グラスワンダー……何で、スカイ並みの奴がこんなに?? このレースだけで???)

 

 レースには出ていないが、他にもスペシャルウィークやエルコンドルパサーやサイレンススズカが居る。

 今までは外国産馬はクラシックと天皇賞に出れなかったが、黄金世代ルールにより出れるようになってしまったのが泣きたくなる。

 エルコンドルパサーは海外に行ってくれた。──「よっしゃぁぁっ!? 怖いの行ったぁぁ!!??」とセイウンスカイ陣営みんなで乾杯した。

 が、グラスワンダーは海外に行く気が無いらしい。「故郷に錦を飾らせてやるべきですよ」と彼方此方からプレッシャーかけられているのにブレない。チィッ

 

(セイウンスカイで、行くんだぞ俺は。なあホクトベガ)

 

 グランプリか天皇賞を得たら海外へ。

 ホワイトグリントに勝ったら海外へ。

 ホクトベガの仇を討つんだ。

 

(やる気出るなぁ。でも何でスカイクラスがこんなに???)

 

 セイウンスカイに乗っているのに勝てると確信できない時代のおかしさに、横田の悩みは尽きない。

 

 なお、他の陣営からすれば「何で、スタートが巧くなった溜めまで出来る強い逃げ馬が1枠1番なんだよ。出し抜きさえできないじゃないか。とっとと海外いけよ海外へ」と絶望させているのがセイウンスカイだと明記しておく。

 

 

 

 

『競馬の神は黄金世代を挑戦者にしました! この馬が居る限り彼ら彼女は挑戦者です! 

 これがラストラン! 五冠馬のラストラン! 逃げ馬で初めて五冠を制した偉大な五冠馬! 

 2枠3番! 最強古馬サニーブライアン! 大里直弘』

 

(これで、最後か)

 

 サニーブライアン鞍上で大里は寂しさを噛み締めていた。

 サニーブライアンには沢山のものを貰えた。

 初クラシック制覇、初ダービー制覇、初グランプリ制覇、初天皇賞春秋制覇。

 去年の春まで重賞制覇経験さえアラブ重賞一勝だった自分にこれ程の栄誉を与えてくれた愛馬。性格も素直で乗りやすい愛馬。こんな馬に脳焼けしないはずがない。

 今回の引退の話がきた時も、まだやれる。と反射的に言ってしまったほどだった。

 理性では分かっているのに。

 

(そうだ。これからはキツイ)

 

 サニーブライアンは今がギリギリだ。

 これから先は衰えるというより線が切れる。

 消耗の激しい逃げ馬が激戦を潜りすぎた。身体も心も疲弊しきっている。これ以上は無理だ。

 

(でもなぁ)

 

 それでも、それでもと願う自分を女々しいとは大里は思わない。

 女々しいと思う奴は騎手ではないからだ。とさえ思う。

 ヒン、と優しく鳴いて悲しむ自分を慰めるような相棒に乗ってレースをするのが最後。

 悲痛なまでに心が痛み、騎手としての意地が燃え盛る。

 

(最後まで、取りに行こうか)

 

 今日は2番人気。

 七冠白馬の2番人気。

 パドックで馬立ちしていたサニーブライアンは、もうピークではない。衰え始めている。

 ピークなら互角だった実力が劣ってしまった。

 

「1番人気なんて要らない。1着だけが欲しい」

 

 なら、俺がカバーすれば良いだけだ。

 

 大里はゆったりと笑った。

 

 

 

 

『黄金の馬体が翻ります! マルゼンスキー以来の器! 

 最強マイラータイキシャトルをも仕留め! その器を満天下に知らしめたマル外の怪物! 

 2枠4番! 怪物グラスワンダー! 的羽剛!』

 

 4番人気。

 オグリキャップブーム以来の大歓声を聞きながら、グラスワンダー鞍上で的羽は愛馬の人気を噛み締めるように独り言ちた。

 1番人気ホワイトグリント 1.4倍

 2番人気サニーブライアン 1.6倍

 3番人気セイウンスカイ 1.7倍

 

 その次である。

 マイルのタイキシャトルにさえ勝利した実力馬に対する人気とは到底思えない数字に、普段なら闘志を燃やし目にもの見せてやると勝つのだが。

 

(なんで、この順位で間違ってないとしか思えないんだよ。おかしいよ上の人気の連中。お客さんよく見てると感心するしかないな)

 

 1.8倍がグラスワンダーだ。その次の5番人気エアグルーヴが35.9倍。

 低い倍率が示すように、穴党以外の客はホワイトグリントとサニーブライアンとセイウンスカイとグラスワンダーの誰かが勝つ! と確信して馬券を握りしめている。

 単勝、複勝、枠連、馬連、そして出来たばかりの馬単、ワイド、応援馬券、3連複、3連単を。

 ブームを期にJRA作りすぎじゃないかなあ。馬名とがんばれが印刷された正式な応援馬券は良いと思うけど。と考えていたが、お客さんは見事だ。

 

(凄いよ。よく見てる)

 

 いや、本当によく見てる。ホワイトグリントが走るレースで馬立ちしている馬は買え。という競馬新聞の見出しは正しい。

 グラスワンダーに乗って返し馬している自分にも、その4頭しか無いと断言できる。

 

(他は勝つの諦めてるからな)

 

 穴党の人が聞いたら怒るだろうが、他は鞍上からして万が一があればやるけど、回って少しでも上の順位に入れば良いと割りきっている。

 馬主が出たいと言ったから、10着までは奨励金やら手当てやらで赤字にはならないから、ラストランだから、有馬記念だから……

 そんな理由で走るつもりだ。

 気楽だ。良いなぁ。

 

(俺も勝てる馬じゃなければ気楽になれたんだよなぁ)

 

 自身を破ったサニーブライアンと、美貌白馬ホワイトグリントをガン見して勃たせるグラスワンダーを優しく撫でる。

 

(気楽になれないなぁ。困ったなぁ)

 

 的羽はやる気だ! 周りの騎手に確信させる気配を漂わせながら、的羽はグラスワンダーをゲートへ導く。

 勝つために。

 

 

 

 

『はく──』

 

オワアッあぁぁあ!!?? 

 

『凄い歓声です! 一際強い大歓声! 実況を塗り潰す大歓声! 実況席で叫ばなければならない地響きを起こす大歓声! 

 本馬場入場でこんな光景は父オグリキャップ以来だ! 

 偉大な父と二代に渡ってグランプリ馬となるのか! 白い閃光! 

 3枠5番! 七冠牝馬ホワイトグリント! 沙藤徹三!』

 

わあぁ!!?? 

 

 本馬場入場において、ホワイトグリント鞍上で沙藤はある種の解放感を噛み締めていた。

 

(無敗じゃないってこんなに心穏やかになるんだな)

 

 殆どの騎手が聞けばぶん殴られるかもしれないが心底そう思う。

 ちょっと前に、シンボリルドルフで無敗三冠を経験している丘部騎手がポンと肩を叩きながら「ここからが本番だぞ」と言ってくれた訳がよく分かった。

 視野が広くなった。

 今までは、ホワイトグリント、勝つ、ホワイトグリント、ホワイトグリント、ホワイトグリント、勝つ。しか本馬場入場の時は考えていなかった。

 だが、今は違う。

 周りの馬たちを見れるようになった。

 

(敵はセイウンスカイとサニーブライアンとグラスワンダーだな)

 

 どう見てもそいつらしかいない。

 気配が違う。

 出し抜きなどこのレースには無い。

 セイウンスカイとサニーブライアンは逃げ馬だ。珍しい強い逃げ馬だ。沙藤の経験で初めて争う強い逃げ馬。

 強い逃げ馬が内枠に居るレースには出し抜きなどない。

 実力だけが問われる。

 その実力において、ホワイトグリント、セイウンスカイ、サニーブライアン、グラスワンダーが隔絶している。それだけだ。

 そいつらを倒せばいい。

 分かりやすい。

 そして、難しい。

 だからこそ、やりがいがある。

 

「いこうか。ホワイトグリント」

 

 言葉に従うようにホワイトグリントは武者震いをする。

 

わあああああ!!!??? 

 

 大歓声が更に強くなる。

 有馬記念。

 18万人。

 ある程度拡張された中山競馬場の制限いっぱいに入った観客が大歓声を上げる。

 ゲート前で武者震いをする白馬を見て大歓声を上げる。

 

 凄いレースになる。

 凄い競馬になる。

 

 そう確信して熱狂しながらそれぞれの推しの馬の名を呼ぶ。

 

 

 

 有馬記念が始まる。




 ブームだからとJRA暴れまわっています。
 大抵のことしてもホワイトグリントがカバーしてくれるさ! と色々変えまくってます。

 私、今回こそレースを一話で終わらせるんだ(決意)
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