感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。
『中山競馬場、第9レース。芝2500メートルで行われるのは、グランプリ有馬記念。出走馬は12頭。曇。馬場コンディションは良。18万人。拡張されつつある中山競馬場の制限一杯の来場者が見守る中、グランプリを、有馬記念を制するのはどの馬か? 昨年までとは違い、向こう直線からの発走、右回りコースを使用します……係員が離れました。さあ、12頭ゲートに収まって』
すぎやまこういち作曲の5拍子の難しくも勇壮なファンファーレが手拍子と合わせて鳴り響き。
『スタートしました! ポーンと、出た! 出たぞ! セイウンスカイ! 好スタートを決めた! そのまま速度を落とさず! グングン先頭を走り他馬を離していく! 他はサニーブライアンが良いスタートを決めた!』
【スタートが巧くなったのは本当ですね。見事なスタートです……そして、他の陣営からすれば、悪夢です】
葦毛の逃亡者がその名に恥じぬ好スタートを決める。
馬主席では、西森オーナー親子を含めたセイウンスカイ陣営が思わずガッツポーズをし、サニーブライアンを除く他陣営が思い切り顔を引き攣らせるか諦めた。
ある程度コース改修を終えたとはいえ、有馬記念は内枠絶対有利のまま。
最内枠の逃げ馬にロケットスタート決められたら、出し抜きは絶対にあり得ない。実力が劣る馬はどうしようもない。万が一の勝ち筋が消えた。
つまり、葦毛の逃亡者の見事すぎるロケットスタートで、勝負に絡めるのはセイウンスカイとサニーブライアンとホワイトグリントとグラスワンダーで決まってしまった。
他の陣営が諦めるのもむべなるかな。
『此方も好スタートを決めたサニーブライアンが上がって来て先頭変わりました。セイウンスカイは脚を溜めつつ二番手を走ります。第一コーナーはサニーブライアンが先頭で入り、続いてセイウンスカイ! 速い速い! 脚を緩めません!』
【ロングスパートのサニーブライアン。溜め逃げのセイウンスカイ。どちらも自分の馬が一番得意とする形を選びました。いや、しかし、セイウンスカイはサニーブライアンと併せ馬をするようになって大人になりました。ダービーの頃ならムキになって先頭走ろうとしたのに】
葦毛と鹿毛の強い逃げ馬二頭が軽快に後続との距離を開けていく光景に観客は大歓声をあげる。
そうだ。
こんなレースを見に来た。
やっぱり強い逃げ馬は良い。
最初から先頭を走って先頭でゴールしてくれるから、分かりやすくて見ていて楽しい。
間違いなく良い馬場を走っている二頭の軽快な走りに観客は熱狂し、他陣営は絶望した。
『そのまま、軽快に先頭を逃げ馬二頭が走っています。第二コーナーが終わりを迎えるなか、後続には八馬身差、いえ、さらに広げています。逃げ馬たちが最良の走りをしている!』
【強い逃げ馬に好スタートを決められ、良いコース走られたらこうなります。
しかも、どちらも長距離G1勝利経験のある逃げ馬。菊花賞や天皇賞春のように、最後の直線だけでは抜かすことが出来ない真に強い逃げ馬。スタミナ切れがあり得ない以上、後ろは辛いですね。逃げ切らせたくなければ、腹を括る必要があります】
『サニーブライアン! セイウンスカイ! 速い! 本当に速い! 二頭でケリをつけるつもりか!』
ウンウン。と良い馬場を掴み走っていく愛馬の姿に馬主席で笑顔で頷くセイウンスカイ陣営とサニーブライアン陣営。彼らに渡り合えるホワイトグリント陣営とグラスワンダー陣営は引き攣った顔をしかめた。
((お前らふざけるなよ! 強い逃げ馬が一番良いスタート決めるんじゃないよ! ずるいじゃないか!
くそっ!? 初手で勝負決められてしまうっ! 強い逃げ馬は、観るのは良いけどやり合うには嫌すぎる!!??))
内心で同時に絶叫する二陣営。
強い逃げ馬が此処までバケモノだとは思っていなかった事を見守る陣営が嘆くなか、鞍上は腹を括った。
『おお、ホワイトグリントとグラスワンダーが上がって来ます。エアグルーヴたちを放置して、逃げ馬二頭に迫ります。最後のコーナーから末脚勝負と見られていた戦前の予想を切り捨てました』
【腹を括りましたね。どちらも末脚に優れていますが、セイウンスカイとサニーブライアン相手では射程圏が限られています。ジャパンカップのエルコンドルパサーのような必要に迫られた逃げとは違う専門の逃げ馬です。逃げ馬にロケットスタート決められて走られては、勝つにはこうするしかないでしょう。
逆を言えば、今、仕掛けない馬たちは勝つのを諦めました】
『最初の1000m58.5! 58.5です! 速い速い! 有馬記念とは思えない! 逃げ馬二頭による超高速ペース! 間違いなくレコードペースです!
なのに余裕がある。普段から併せ馬をしている逃げ馬二頭には余裕がある!
先頭をサニーブライアン。直ぐ後ろをセイウンスカイ。その三馬身後をホワイトグリント。さらに二馬身後をグラスワンダー。その八馬身後、いえ九馬身後をメジロドーベルを始めとした馬群が固まっています。馬群は更に離されていますね。
一回目のゴール前、馬群の通過と同時に早くも馬券吹雪が舞いブーイングが響いています』
ふざけんなー
金返せー
勝ちにいけやー
誰の目にも前の四頭以外は勝負を投げ捨てた光景に、四頭以外に賭けた人々の馬券吹雪が舞い散り、罵声が飛び交う。
「凄いな」
「ああ、まさか、こんな、最初の1000mで四頭に絞られるなんて」
「強い逃げ馬が居るレースって良いわね。何というか清々しいわ。本当に強い馬が勝つのだから」
「そうね。ホワイトグリントも、もう笑顔だし」
「頑張れ! セイウンスカイ!」
「グラスワンダー! 来いっ来いっ!」
「グリント! サニーブライアン! 貴方たちを信じてる! 馬連! 応えて!」
「三連複だぞ! ボーナス丸ごと賭けたんだっ! こいやぁぁ!?」
他方、四頭に賭けた人々はレースに熱中して賭けた馬の名を絶叫する。
速くも天国と地獄が別れた観客席の大歓声が響き渡る。
『先頭はサニーブライアン! 軽快に先頭を走る! 流石は最強古馬! このハイペースでの消耗が少ない』
【騎手の騎乗によるものでしょう。流石は大里騎手です。
おや? セイウンスカイも消耗が抑えられていますね。間違いなく菊花賞よりも消耗は少ないです。
何でだ? 横田騎手、こんなにコースの見極め上手くないだろ?
短期間で、横田騎手の腕が上がったのか??
いや、こんな短期間で上がるなんてそんな馬鹿な事が???】
『ホワイトグリントも僅かに上がりました! 僅かに上がりました! 笑顔のホワイトグリント!』
(俺には大里さんほどコースを巧く見極められない)
レース前に、寂しささえ覚えながらセイウンスカイ鞍上の横田は認めていた。
自分では荒れたコースを走ってしまいセイウンスカイの脚を鈍らせてしまうかもしれない。と認めた。
自身が大里に劣ると認めたのだ。
勝つために認めた。
──故に、腹を括った。
サニーブライアンを見ながら、大里騎手が一番良いと見極めたコースと同じに見えるコースでセイウンスカイを走らせる事にした。
自分が見極めるよりそっちの方が良いし、折角先頭になってもらったんだ学んで盗もう。
普段の調教では隠す技術もG1の大舞台ならば見せてくれるに違いない。
そう、腹を括った。
狙い通り、セイウンスカイも良いコースで走らせる事が出来た。余力を保ったまま脚を溜められた。その上、調教で隠していた技術を真似する自分の腕も上がっている。
全部、大里騎手のお陰だ。
嬉しくて仕方ない。
このお礼として絶対に勝たなくては!
(しかし、凄いな大里先生)
感動すら横田は覚えていた。
大里のコースの見切りの素晴らしさと、それを真似するだけで腕が磨かれていく自身に。
自分の腕が一秒毎に上がっていく感覚は快楽さえ覚える代物だ。
自分の子供が騎手になるとしたら、大里騎手に教官になって欲しい。心の底から願う。
それほどまでに大里騎手から盗める技術は多い。
ありがとうございます。
だから
(大里先生、貴方から学んだ技術でセイウンスカイと一緒に勝たせて貰います!)
勝手に先生呼び始めた横田は、技術を身に付けながらセイウンスカイを絶好のポジションに置いて脚を溜めながら決意する。
(騎手の差だ。グリントとサニーブライアンを比べて、グリントの方が消耗しているのは)
沙藤はセイウンスカイの二馬身後ろに付け、先頭のサニーブライアンを見て確信した。
俺が下手。というよりは大里騎手が巧すぎるから逃げ馬のサニーブライアンの方が消耗してない。
(流石は大里さんだ。クリスより巧い)
日本にもこんな世界レベルの騎手が居るんだ。感動さえ覚えた。
だから、見る。射程圏内で見る。大里騎手の呼吸、身動き、タイミングを見て血肉にする。
G1の大舞台の逃げ馬騎乗。その騎手の腕が尤も分かりやすい状況。
それを盗んで血肉にしながら騎乗すれば、笑顔になるほど消耗したホワイトグリントの鼻息が軽くなった。
沙藤の騎乗が良くなったから、ホワイトグリントは息が楽になったのだ。
逃げ馬二頭を追いかける苦痛は変わらないまま、呼吸が楽に。
ずっと、そうしてやりたかった。
マゾヒズムを満喫させつつ競走馬としての能力を十全に保つ。
ホワイトグリントの為にそうしてやりたい事が出来た。
これならっ! 勝てるっ!!!
大里騎手から学んで! ようやくできた! 凄い! 素晴らしい! 天性の騎乗ではないから自分でも真似できるんだっ!!
あとは、このレースの後も反復してモノにする!! 師の恩に応えるために!!!
(これが視野が広くなるってことなんだな)
12年馬に乗ってきて人並み以上の経験を積んでホワイトグリントという最強馬を知ったからこそ、偉大な先輩の騎乗技術を盗めるのだ!
沙藤は泣きたくなるほど感動した。
(師匠! 勉強になります! お礼に俺たちが勝ちます!!!)
勝手に大里を心の師にした沙藤もまた騎乗技術を吸収していた。
(この糞餓鬼ども)
大里はあんまりな後輩どもに内心で引き攣った。
(俺から盗むつもりだっ!? いや、盗んでやがる!? 勝ちやすい位置取りまで俺から盗みやがったっ!? 勝てる位置取りしながら腕盗むとか! 最近の若いやつはどうなってんだ!? 先輩に対する敬意は無いのか! 敬意は!?)
ある意味で先輩への敬意に満ち溢れた騎乗をする後輩たち。
一緒にレースして無ければ「その飢えた姿勢や良し」と褒めただろうが、一緒のレースで自分から盗んで勝ちやすくしているならば別だ。しかも、サニーブライアンに勝てる可能性がある二頭でやられると言葉もない。
あんまりな畜生っぷりに大里は思わず心の中で罵った。
このまま走るしかないから。
逃げ馬であるサニーブライアンは最良のコースを最良の騎乗で進むしかない。
先頭でゴールするために。
技術を盗まれるのは重々承知な上で。
こちらをマークするなり追従するならば、セイウンスカイとホワイトグリントを荒れたコースで走らせる策を用意していたのだが、大里の騎乗を参考にして騎乗するなどという手に出られては不発だ。
策抜きで実力で勝つしかない。
大里は腹を括った。
最初のジャパンカップ。
日本競馬全てが海外勢から低評価された最初のジャパンカップ。
そこで唯一、ただ一人だけが称賛された男がいた。
その騎乗技術を激賞された騎手の名は大里直弘。
天才と呼ばれた田柳調教師をして日本有数の騎乗能力を持つと断定された騎手。天才福長父をして、息子に大里から盗めと言わしめた騎手。
そんな騎手が持つ日本トップクラスの騎乗技術、世界レベルの騎乗技術を、
『サニーブライアンに鞭が入ったぁ! 黄金世代よかかってこい! 最強古馬は迎え撃つ!』
ロングスパート。
最終コーナー前からのロングスパート。
サニーブライアン鞍上大里は、昨年と同じ、愛馬が最も得意とするレースを仕掛けた。
衰え始め、それ以外の手では黄金世代には通じなくなった愛馬を最後まで勝たせるために。
『遅れじとセイウンスカイにっ! そして、一拍遅れてホワイトグリントに鞭が入りましたっ! 出し抜きなどしないっ! 黄金世代は正面から最強の称号を奪い取りにいくっ!』
【素晴らしい。素晴らしいレースです。前の三頭の鞍上は愛馬の実力を誰よりも信じている。
自分の馬ならやれる。と信じている】
加速するセイウンスカイとホワイトグリント。
先頭を逃げる鹿毛に葦毛と白毛は真っ向から挑んだ。
盗む時間は終わった。後はお礼に勝つだけだ。抜かして勝つんだ!
『その後ろからグラスワンダーも迫る。他は遠い! やはり、この4頭! この4頭だ! 最強古馬と黄金世代で決まる!』
【的羽騎手もですね。的羽騎手も愛馬を信じています。
こんな真っ向勝負を見れるなんて、やはり有馬記念は何かがあります】
鹿毛に挑む葦毛と白毛と栗毛。
最強古馬に対して挑む黄金世代。
馬券を握りしめた客が勝つと思った4頭が決戦する。
真っ向勝負だった。
真に強い馬たちだけが勝負に絡める真っ向勝負。
強い逃げ馬。
あまりにも希少な馬が居る時にしか見れない真っ向からの競馬が有馬記念で行われていた。
『並んだ! セイウンスカイ並んだ! だが、そこまで! 抜かせない! 抜かさせない! 最強古馬は抜けさせない!』
自らを上回るセイウンスカイの末脚に対して、最後の力を振り絞りサニーブライアンは同等の末脚をもって応えた。
『ホワイトグリント! 笑顔の白馬が来て! 抜かせない! 抜かせないぞ! 最強古馬と二冠馬は抜かさせない! 鍔迫り合い』
二度は負けない。雌にも負けない。セイウンスカイの負けじ魂が燃え盛る。
勝つ。勝って皆に喜んでもらって、もっと気持ち良くなる。ホワイトグリントの不屈の意志が吠える。
黄金世代。
古馬戦線に乗り込んで二ヶ月弱。
ただそれだけの期間で、古馬たちを子供のように打ち破り続けた怪物たちの内二頭が死力を尽くす。
何頭もの古馬が抗する事さえ出来ず敗れた死力──
『鍔迫り合いだ! 競り合いだ! 抜かせない!』
──それを凌ぐからこそ、その馬は最強古馬と呼ばれる。
『二冠馬が! 七冠馬が! 競り合うも! 抜かせない! 若馬たちは! 黄金世代は! ただ一頭の古馬を抜かせない! これこそが最強古馬だ! これがサニーブライアンだ!』
サニーブライアンは衰え始めている。なのに抜かせない。
くそがっ!?
ホワイトグリント鞍上とセイウンスカイ鞍上は歯を噛み締めた。
騎手の差が出ていた。
追い技術の差が出ていた。
──何よりも愛馬と乗った年期の差が出ていた。
サニーブライアンと大里のコンビ期間は、このレースにいるどのコンビよりも長かった。
だから、大里は誰よりも愛馬に合った追いを行い。
だから、サニーブライアンはどの馬よりも鞍上と息を合わせた。
相棒を乗せて抜かされなどしない! 皐月賞からずっとそうだった! と。
最強古馬。
そう呼ばれる年期と意地によって、黄金世代の若馬二頭とその鞍上は攻めきれずにいた。
『サニーブライアン! セイウンスカイ! ホワイトグリント! 競り合う! 鍔迫り合う! 並んだ! 並んだまま坂へ!』
【三頭の差はセンチ単位でしょう。意地と意地と意地。少しでも力を抜くともう勝てないと、死力を尽くしている。こんなレースを見ることが出来るなんて】
中山名物の急坂が始まる。
残り180メートルから残り70メートル地点にかけて設けられている上り坂。2.2メートルの坂が。最大勾配の2.24%の坂が。
10場最大の坂が。
それゆえに瞬発力では勝ち辛い。
つまりは先を行く優駿三頭で決まる。
坂を上り始めた優駿三頭が急坂で失速するならば別だが。
『残り200を切って! 坂を上る! 失速しない! 三頭譲らない!』
サニーブライアンもセイウンスカイもホワイトグリントも、ここで失速しない領域の怪物だった。
日本競馬史上有数の本物の怪物。
その姿を見た誰もが確信した。
三頭で決まると確信した。
三頭の決戦だと確信する。
小回りの中山。瞬発力ではどうしようもない他は無理だと確信する。
そこに──
『並んだまま! 並んだままだ! 逃げ切るのかサニーブライアン! 凌ぐのかセイウンスカイ! 捻じ伏せるのかホワイトグリント! ──あっ』
──ただ一人の男と一頭の馬が、否と咆哮する
競り合う鹿毛と芦毛と白毛だけを追っていた人々は見た。
解説も馬主も調教師もファンも。
競馬場でテレビ越しでその目で見た。
(完璧だ)
三頭に熱中する視界ギリギリに映る黄金を。
三頭を拡大するテレビ画面ギリギリに映る黄金を。
『後方から迫っ』
脚を十分に溜められたポジション。
目前には走りやすい荒れが少ないグリーンベルト。
坂を登るだけのスタミナが残った愛馬。
先に行かせた白馬により決死で鍔迫り合い、射程圏内に居るのにこちらから一時的に意識を外さざるを得ない名馬たちとその鞍上─大里さえも!──。
全てが、全てが揃った完璧な状況。
それ即ち──
『いや、もう追いつく』
──マーク屋の戦場である。
(こうして、俺は──)
スーパーサバンナ。ダンスパートナー。ミホノブルボン。メジロマックイーン。男と愛馬にマークされた名だたる名馬たち。
『並ぶ、もう並ぶ』
(愛馬たちと──)
メジロファントム。カネツクロス。そして──ライスシャワー。男と共に名馬たちをマークして仕留めた愛馬たち。
『あと! 半馬身!』
(数多の名馬を──)
今、男と愛馬にマークされた名馬の名にまた新たな名が刻まれる。
『サニーブライアンとセイウンスカイとホワイトグリントに! 並ばないっ! 抜いたっ!
ぬいたぁぁっ!!
そこがゴール板っ!!!』
(──仕留めてきた)
今日、此処まで共にマーク戦術に携わり名馬を仕留めた愛馬の名は
『グラスワンダーだあああ!』
黄金が白と葦と鹿を撃ち抜いた。
『グラスワンダー! グラスワンダーが差し切ったあああ! 的羽だ! 的羽だ! マーク戦術が炸裂したあああ!』
良くやったとポンポンと優しく愛馬の首筋を撫でる。
何時も通りウイニングランはしない。
これ以上、疲れ切った愛馬を疲れさせたくない。
必要もない。
『2着は分からない! だが1着は! 1着だけは分かる! 中山の直線を! 中山の坂を! 黄金が翔びました!!!』
誰の目にも、俺とグラスが勝ったと分かるのだから。
『ならなかった! この男とこの男が乗る馬を自由にしてはならなかった! 有馬記念を制したのは最強古馬でも二冠馬でも三冠牝馬でもない! グランプリという極上の獲物を仕留めたのは黄金世代の雄! マルゼンスキーの再来! 中山の急坂を翔んだ黄金!』
愛馬をゆっくりと歩かせながら左手を上げた。
『的羽剛とマル外の怪物グラスワンダーだああぁぁっ!』
わああああああ!!??
大歓声。
愛馬に相応しい大歓声に笑みをこぼした。
そうだ。
勝った。
俺たちの勝ちだ。
…………このレースの纏め
「お兄さまを一時的にでも自由にするなんてっ! 危機感の足りない人たちっ!!!(フンスフンス)──ですよねっ。ミホノブルボンさんメジロマックイーンさん」by至福の絶頂のあまり米を撒くライスシャワー
「「ソウデスネ」」byトラウマ発症中のミホノブルボン&メジロマックイーン
…………的羽を自由にするな
アメリカでも多くの馬券が売れたこの有馬記念の売上は、日本円にして1263億2136万円という史上最高額だった。
その報告を聞いたJRA理事長は恍惚の表情で倒れ伏したとされる。
売上を原資に時の総理の地元である群馬県は前橋に競馬場が作られ始めたというのはあくまでも噂である。