感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります
状況は破滅的だ。
「まだだ。まだ追い込むぞスペシャルウィーク!」
「はい、お願いします! トレーナー!」
「あの」
「なんだ? ゴールドシップ」
「つかぬことをお聞きしますが、スペシャルウィークを木からぶら下げ振り子のように振るだけでなく、綿で先端を覆った棒で顔を叩くのは何故でしょうか?」
「動体視力と直感の鍛練だ」
「どうたいしりょくとちょっかん」
「レースを走るときに重要なのは荒れが少ないルートの見極めなのは分かるよな」
「はい、もちろんわかっています」
「その為に必要なのは動体視力と直感なのは分かるな」
「はい、考えている時間なんてありませんから」
「それを鍛えているんだ。顔を叩く時と叩かない時を振り子になっているスペシャルウィークには知らせず、綿の部分に書いた文字を読ませている」
「………………効果はあるのでしょうか?」
「ある。素晴らしいほどにある。ホワイトグリントの超前頭姿勢を参考にしたのは正しかった。なあ、スペ」
「はいっ! トレーナー! 文字が読めます! 少し前まで読めなかった文字が! これがあのウマ娘が!
「その通りだ。スペ。超前頭姿勢を続けたことによるコースの見極めの確かさ。砂や小石に顔を叩る激痛に負けず笑顔を浮かべることが出来る精神力。あのコーナリングの素晴らしさと直線でのスムーズな末脚移行を可能とする動体視力と直感は、その二つがあってこそだ。
今、お前は白い閃光に遅れてとはいえそれを手にしつつあるんだよスペシャルウィーク」
「トレーナー、さぁん(感涙)」
「…………(ガクガク)」
「宝塚までに確実に手にするぞ」
「はいっ! お願いしまぁすっ(歓喜の号泣)」
「…………(ブルブル)」
「ゴールドシップ」
「はいっ!!! (直立不動)」
「お前もどうだ。追い込みを得意とするお前も身に付けるべ──」
「いえ、私は通常のトレーニングで頑張らせて頂きます。生徒会に用事があるのでこれで失礼します」
もっとも頼りにすべき直接のトレーナーは
「すてーじぃすてーじぃ」
「ほら、カイチョー落ち着いてよ。今から幼稚園に会いに行くんだからさぁ。格好いいとこ見せないと」
「うんっうんっ」
「……………………どうだ?」
「駄目ですわね。心に大きすぎる亀裂を負いました。今や学園ではテイオーさんの言葉しか耳に入らないほどの亀裂です」
「そんなに」
「えぇ、診断では、一度喪ってからその素晴らしさを何十年も再確認し続け焦がれ続けた存在が突如と現れ、それを奪われたような亀裂と言われました。
医師は主戦魂病であり、明日からは入院だと」
「?????」
「そんな不思議そうな顔をされても私にも分かりませんわ。聞いたことの無い病名ですので──私は、ガルダンの迎えもありますから幼稚園に一緒に行きますが。あなたはどうされますか?」
「アタシは…………あー、あっちいくよ」
「……よろしくお願いいたします」
「あいよ。お互いに」
「かいちょう……私を……人でなし……私は……人でなし」
「そんなことないですよ」
「え?」
「副会長は、エアグルーヴさんは頑張っていますよ。何か手伝えることがありますか? あれば手伝います」
「……ありがとう。そう言ってくれるのはお前だけだゴールドシップ……わかっていたよ。お前はいざというときにはふざけたりしない礼節を弁える者だとわかってたよ……ナリタブライアンのナリタブライアンのやつはぁっ! 遊んでっばっかりっ!?」
次に頼りにすべき生徒会は組織不全に陥った。
「あの、もう一度言ってもらえます? ゴールドシップさん」
「皇族を誘拐した事例とその判決を教えてください先生」
「…………分かりました。お答えしましょう」
「はい」
「そのような事例はありません」
「……無いんですか」
「はい、1947年に不敬罪が廃止される以前も以後もありません。不敬罪廃止後は、降嫁された方に対する誘拐計画はありましたが、事前に皇宮警察により逮捕されました」
「皇宮、警察に、よる……事前の逮捕……ですか」
「はい、当然ですが厳重な警備体制対象ですから」
「厳重な、厳重な警備、体制……なら、あの白い小さいのなんなんだよぉ、しごとしろよぅ」
「ゴールドシップさん」
「はい」
「皇室に対する犯罪行為を想定するのは学生の姿勢として認めましょう。しかし、極めてセンシティブな問題です……ここだけの話にするから、他では口に出してはいけないわよ」
「はい……あの先生、もう一つ、質問が」
「何でしょう」
「もし、何らかの理由で、皇室の方が、行方不明になり、さ、いえ、一週間が経っているのに騒ぎになっていないとしたら、どんな理由があるのでしょうか?」
「専門家ではないので想像でもいいかしら?」
「はい、お願いします」
「何らかの政治的な問題があるかもしれないわね」
「せいじてきなもんだい」
「常識的に考えて有り得ないことだから常識外を想像するしかないのよ」
「じょうしきてきにありえない」
「えぇ、無理に無理を重ねれば外国に亡命政権を樹立する象徴にすることが出来るお立場だから」
「ぼうめいせいけん」
「えぇ、そんなお立場の方が一週間も姿を消して騒ぎになっていないとしたら、政治的な問題を想定して色々な所が動いていてもおかしくないわ。まぁ、有り得ないことだけど」
「せ、せんせい」
「どうしたの? 顔色が真っ青よ」
「だいじょうぶです。あた、わたしはだいじょうぶなんですっ」
「そう、なら良いけど」
「も、もし、一週間行方不明の皇族の方を見つけて通報するとしたら、通報した人はどうなると思います。その周りの人も含めて、た、例えばトレセン、で学園で、見つけて通報したら」
「間違いなく厳重に取り調べられるわね。恐らくは学園全員が。何らかの反政府組織が関与しない限りは、行方不明になった皇族がトレセン学園で急に見つかるなんて有り得ないでしょうから……それ以上は私には想像さえも出来ないわ」
「はんせいふそしき……り、理事長は、理事長は今、どうしてますか」
「公表している通り、三週間前からURAよ……直ぐ終わるはずの会議なはずなのに長いわね。どうしたのかしら、何か三週前にあったのかしら」
「れ、連絡はとれないのですか? どうにかして連絡を取ってください! 知らせないといけないことがあるんです! 理事長に知らせないといけないことが!!!」
「(こんなに青褪めて震えて)……言っては駄目なのだけどね。同行したたづなさん含めてとれないわ」
理事長含めたURAにも頼れなかった。白い小さいのがグラスワンダーさんの部屋に潜り込んでから三週間経過しているなんて先生には言えなかった。
「どうかしましたか? ゴールドシップさん」
「いえ、何でもありません」
「そうですか。さぁお茶をいれましたよ。めしあがれ」
「いただきます」
そして、今、一番自分を追い詰めている白い小さいのの茶会に居て、茶を頂いている。
茶を含み美味しいと言えば小さいのが満面の品がある笑顔になる。
ちっとも、味がしない。
「こんな美味しいお茶初めてデース」
「ああ、旨いな」
「こら、胡座をかくなブライアン」
「いいんですよ」
「良いのか、その礼儀が……悪くないか」
「いいえ、この場にふさわしいとおもいます。茶はたのしくおもしろく、が第一ですので」
「そうなんですかぁ。なら、私も」
「なら、ボクも、脚を崩させてもらおう。いやぁ、実はずっとだるかったんだよ」
「うふふ」
「しかし、アレよね。こんな上手なアリスちゃんが、今までお茶会したこと無いって信じられない」
「そうですよね。和の極み。そう呼びたいくらいですのに」
「ありがとうございます。かぞくは喜んでくれるのですが、お客さまをお呼びすることがむずかしいらしいのです。ですので、はじめてのつたない茶を、そう言っていただきうれしく思います」
もったいない、お客さん呼ばないどころか友達さえ作らせないなんて厳しいんじゃなくて酷い、カワイソウデース、ちっちゃいのにしっかりするわけだ、私たちが友達だよ。
ワイワイガヤガヤ。
大切な大切な友達たちが、白い小さいのをそこらの子供と同じく撫でたり抱き上げたりするのを見るゴールドシップの視界は点滅する。
意識が落ちて起きてを繰り返しているからだ。
何でどうしてこんなことにどうすれば良いのよ反政府組織なんて無いんです私以外気付いてないんです信じてください大人に今さら言えませんどうすれば良いのか誰か教えてください友達たちを護りたいんです。
ただ、それだけが頭を巡る
「どうかされましたかゴールドシップさん」
そんな時に心配そうな顔の小さいのが間近に来て周りのみんなの注意が薄くなったのを見たゴールドシップは腹を括った。
直接聞く。向こうから話しかけてくれたんだから、皇族へは話しかけて下されてから返答しなければならないルールはクリアされたから大丈夫。だぶんきっと。
「あの」
「はい」
「あなた、天止雨殿下でいらっしゃいますよね」
「? 私はアリスワンダーですよ」
即答で切り返してくる天止雨殿下。
幼い顔だけでなく目にさえ心底不思議そうな感情しかない。
あ、そうですか。と思わず認め──るわけがない。
だって魂が叫んでいるからね。
見たことない大型草食獣の形──想像で描かれて奉納された大栗馬乃命さま像そっくり──の魂が叫んでいるからね。
『騙されるな! ソイツは、「こんな長い距離走ったこと無いのですが、みんなに良いところ見せたいので最後の直線まで一緒にゆっくり走っていただけませんか。少しだけでも」と自分の美貌を武器にした挙げ句。
「かかりましたね」と直線で俺たちを差しきって春天手にした悪女だ!
騙されても後悔しないスケベな身体と美貌に騙されるな! 騙されても許しちまうどころか嬉しくなる綺麗な身体と顔に騙されるんじゃない!
つーか! お前! 俺より歳上じゃねーか! なのに、ガキの体して恥ずかしいと思わないのかよ! 若作りすんな! ババ──』
「ゴールドシップさん」
あまりの圧力に心臓が止まった。
叫んでいた魂はキューンキューンと屈服した。
「はい」
お父様お母様先立つ不幸をお許しください。
人生のピリオドを打つ覚悟を決めたなか、小さいのはふにゃりと笑い、声を更に潜めた。
「…………ここだけの話にしていただいても」
「もちろんです。祖父母と父母に誓って」
他に何が言えるというのか。
「全てごぞんじです」
「え」
「全てごぞんじなのです」
「え、えぇ、えぇぇ、それ、へ、へい──「しいっ、お声がおおきいですよ」はいっすみませんっ」
「なんねんかしたら、私がアリスワンダーとしてトレセン学園ににゅうがくする。そのためのまえだんかいとして──全てごしょうちの上です」
「い、いや、だって、お付き、とか、は」
「まえだんかいは予行でもあります。そばには誰もおいてはならない知るものはごくわずか──全てごしょうちした上でのことです」
地獄の中で蜘蛛の糸を垂らされた心境が今の自分ほど分かる者は居ないだろう
「ほ、ほんとうに」
「ちかって」
「…………………………おーし、甘いもんくれ甘いもん! 黒蜜っ! 炭酸で黒蜜割ってくれー!」
「お、ゴルシ元気になったな」
「あら、そうですね。お茶会に誘ってよかった」
「たんさんは難しいですが、くろみつを茶にたらしましょうか」
「おうよ。それで頼む」
かくて、全ての憂いを無くしたゴールドシップは何時も通りの姿を取り戻したのである。
めでたしめでたし
同時刻
理事長の母親──理事長は避難させられた──を含めたURA上層部と宮内庁が胃に穴が空きそうな思いを噛み締めながら、天止雨殿下がアリスワンダーと名乗りトレセン学園に滞在しているのは、事前に調整されていたという文書を捏造作成しているとは知らないゴールドシップちゃんだった。