感想、ここすきなど皆さんありがとうございます。頑張ります。
多くの感想と多くのここすきと多くの高評価のお陰で何とか少しずつ書けています。皆さんありがとうございます。
「落ち着かないなぁ」
「だなぁ」
北野オーナー親子は溜め息をついた。
「いかがされましたか」
「あぁ……紅茶を」
「僕も、紅茶を」
「畏まりました」
即座に傍に控えていたお付きバトラー(!?)というか執事さんが近寄ってくるので、遠ざけんと茶を頼むが、お付きの給仕(!?)に指示しまた傍に控えるのを見てゲンナリする。
((貴族趣味すぎるだろ。止めてくれよ。俺ら成り上がりなんだからさ))
ヨーク競馬場にて、北野オーナー親子はイギリス式馬主待遇を味わい嫌になっていた。
「何で先生と一緒に観れないんだよ。瀬戸内先生の解説聞きながら観戦したいのに」
溜め息を噛み殺して傍らの息子に小声で嘆く。
「階層が違うんだってさ。馬主と調教師じゃ。サーを持った貴族調教師でなければ同席は無礼」
「んな、馬鹿な」
「イギリスだとそうなるんだよ。イギリスだと……因みに騎手はもっと階層が違うらしい。馬主が直接話しかけたら駄目らしいよ。調教師かお付きを介してしか駄目なんだって……今までにいた唯一のサー騎手以外は」
「……沙藤騎手と抱き合うのは?」
「基本駄目、沙藤騎手から頭下げてそれを受ける形で握手するなら良いんだとさ」
「馬鹿馬鹿しいっ」
「俺もそう思う。けど表に出さないでくれよ。こちとら客人の身、郷に入れば郷に従う必要があるからね」
「わかっている。しかし、こんな、だったのか。イギリス。つまらん。息がつまる。来るんじゃなかった。フランスは……渡辺さんは楽しそうだよな」
「フランスは馬主に対するサービス凄いからね。けど、調教師や騎手や厩務員へはそれぞれ待遇差付けるらしいよ。だから、陣営の空気悪くさせないために渡辺さんホテル借りきってる。多分、いや、間違いなく、重なる出費に溜め息ついてると思う。ウチと同じく」
「当たり前だろ。随行してくれた厩務員の皆さんを、厩舎の近くのあばら屋のような宿泊施設に当たり前のように入れようとしたんだ。ホテルくらいこっち持ちで借りるに決まっとる。快適に休んで貰ってこそ良い仕事があるんだ。お前も俺の後を継いで経営者になるなら、その辺りの飯と寝床の格差の怨みは事業失敗に繋がるから怖いと理解して気配りを……ホテル手配してくれたのお前だったな。ありがとう」
「いや、当然でしょ。一見して愕然としたよ。シャワーから湯が出なくて30年前の寝具なんて」
「イギリスは格差社会と聞いてたが、ここまでとは……アメリカは良かったな」
「カネは取られたけど皆にしっかりサービスしてくれたね。カネは取られたけど」
「そんなのは経費だ。わざわざコッチでホテル探すなんてしてないだけでもサービスが違いすぎる」
「ある意味では十分サービスしてるつもりなんだと思うよ。ただ馬主・調教師・その他で分けるのをごく自然としているだけで、さ」
「はぁぁっっ、貴族趣味だなぁと思ってしまう。が、それは日本的な考えか。こちらの考えを貫くのもしんどい、適当に折り合うか」
「それが良いよ。陣営の打ち上げは手筈通りホテルで無礼講にすれば良いし」
「そうだな……しかし、遠征ってカネかかるなぁ。ヨークシャーオークス1着でも賞金15万ポンド、2200万円くらい、か……今の段階で5000万円を越える出費。帰るまでには億は越えるだろ……赤字だな。大赤字」
「セイウンスカイ陣営は滞在費ある程度負担して貰ってるらしいね……いや、従業員のホテル代はウチと同じく自分たちで出してるから変わらないかな」
「西森さんなら、安くして貰えるの馬の滞在費だけだから宝塚の賞金が吹き飛びますよ。と溜め息ついてたな。まさか、重賞勝ったのに500万円くらいの賞金とはなぁ」
「勝利騎手へのボーナス含めて雇い主の馬主が払うからとか、馬主は貴族か金持ちだからだとか、重賞は名誉第一とか、色々あるらしいからこの賞金でも問題ないらしいね」
「お前、それ信じてるのか」
「まさか、どう考えてもこのままじゃ馬主の財布が空になって詰むとしか思えない。此処までくると文化が違うね同じ競馬でも……日本競馬のほうが肌が合うなあ──どう考えても未来が明るいのは日本競馬のやり方だし」
「あぁ、客の入りからして違うからな。見ろ。G1日なのに何千人しか客が居ない。来てくれた日本のファンの大半を服装がどうのこうのと締め出しやがった。もう富のほぼ全てを貴族が握ってた時代じゃない。裾野を広くして客を入れる興行こそが生き残るんだ。こっちのサッカーのように」
「だね。イギリスの詳しい数字は分からないけど、日本競馬馬券関連の市場規模5兆円。ギャンブルにしても大きすぎる。イギリスも市場規模で兆単位いってるらしいけど、英国競馬公社とかいう民間法人だけで問題なく運営できる額じゃない。何よりも、馬券がブックメーカー扱いで運営に入らないなんて、破滅する気としか思えないよ」
「ああ、兆単位の売り上げを誇るギャンブル興行は国が持たないと色々不味い。日本はヤ○ザを法的にも物理的にも制圧してから国か地方公共団体が運営して収益を手にしているが、それこそが正しいんだ」
「アメリカも国営にして大成功しつつあるのだから、その辺分かるだろうに」
「わかってるさ間違いなく、ただ、300年くらい続くとそう簡単に変えられんのだろうな。日本の茶の湯が出来てから200年くらい経った江戸時代に庶民階級が手にしようとすると、礼儀作法や流派をどんどん難しくしていって窓口締めていった結果、上流は抹茶で下は煎茶とした挙句に黒船で全部吹っ飛んで見るも無残な状態となってから、生き残るために女性の嗜みと化したように。文化ってのは何かデカいこと起きんと何処も変えられん」
「イギリス競馬はもう文化だものね。日本のような娯楽じゃない。娯楽ではなく文化になったら詰む、か」
「人間ってのは、娯楽から文化になった途端に窓口締めるからな。外から見るとつまらん」
「日本とオーストラリア、あとは改革したアメリカくらいかな。娯楽だから競馬の未来が明るいのは。未勝利戦でも勝てば人間一人の年収を超える賞金を出しているところだけ」
「ああ、娯楽、つまりは興行である以上そうなるだろうな。重要なのは賞金だ。最低でも一戦勝てばその国の平均年収を超える賞金を出す興行は人とカネが集まり、公平と熱狂と──何よりも未来がある」
「黄金期の1950年代と賞金ほぼ変えず、デビュー戦勝ちで6万円のボクシングは悲惨な事になってるからね。金を払うってのは、それだけ携わる人々を評価しているということだもの。また未勝利戦から賞金上げるらしいし、日本競馬の未来は明るいね」
「でも、そんな未来が明るい日本競馬はパート2国なんだ。二流だと蔑まれているんだ。だから黄金世代の皆さんと決めたんだ。目にものみせてやると、な。ウチのシロが秋戦線海外G1の初手だ。日本のためにも勝ってくれシロ」
「セイウンスカイと併せ馬して絶好調だしやれるさ」
「ああ、しかし、牡馬の誰もが夢中になるシロと併せ馬しても襲いかかりもガン見もせずに確り調教パートナー努めてくれるなんて──セイウンスカイは何て優等生なん」「お茶です」「「えっ???」」
北野オーナー親子は、給仕さんと執事さんが持ってきたお茶の周りにタワーとなった食べ物を見て異文化理解の難しさを確信した。
それから、「茶を頼んだな。さぁティータイムだ」と押し寄せてくる馬主たちとのハイソな遣り取りでレースまでに疲労しきった。
なお、奥方とご息女と長男嫁は「面倒臭いことになったわね。女は居なくても良いらしいから去るわ。じゃ、レースで」男勢を見捨ててショッピングに出掛けている事を明記しておく。
北野牧場で旦那のオグリキャップと共に牧草ハミハミしているホーリックスの胎内で育まれている子が、イギリス競馬を根本から変える4年前のことだった。
(我らが女王陛下の目は曇っておられる)
名牝ラムルマの調教師。リーディングに11回輝いた調教師。リファレンスポイントなどを手掛けたイギリスを代表するセミル調教師は確信している。
「私は、あの日、サラブレッドを、人の手の作り出した最高の芸術を初めて眼にすることが出来たわ。あの牝馬こそが人が300年も追い求めていたサラブレッドなのよ」と涙しながら絶賛の限りを尽くした女王陛下。
東洋の島国にそんなサラブレッドが居るはずがない! 記載されていた新聞を思わず破り捨ててしまった。
(いかんな。紳士たる態度ではなかった)
馬を育てて35年経つ。
その間もそれ以前にも女王陛下がそのように馬を賞賛することはなかった。有り得ないことだ。目を曇らせておいでなのだ。多忙のあまりに。おいたわしや──でなければ東洋の馬を!
勿論、例外はいる。ハイペリオンの末であるセイウンスカイのような。あれほどの素晴らしい馬が自分の厩舎に預託されていない──イギリス馬の仔なのに! 神は何をしてるんだ!! 売れよ日本人オーナー!!!
(落ち着け、紳士たる考えではない)
……分かっている。神はそういうことをするのだ。イギリスで産まれて育ち私の厩舎に入るべき馬を、極東で誕生させるなどという試練をお与えになるのだ。
だから、契約する馬主のセイウンスカイ売買交渉が不成立に終わり失意の底に沈みながらも、日本のセリ市にも目を向けなければならないと考えを改めた。
だが、彼はイギリス馬であるシェリフズスターの仔。父も母もイギリス馬ではないホワイトグリントなどとは違う。だから、セイウンスカイほどの馬が極東で産まれてしまうことは有り得る。
(最初から最後まで先頭を走って圧勝するという我らイギリスホースマンを虜にしたあの走り。荒れの少ないコースを見極めた騎手の手綱に直ぐ様従う従順さ。ひたむきに前を見詰める精神性。あぁ、あれこそがハイペリオンの血脈の現れ。イギリスの重賞を日本馬で有りながらも獲得するのは当然のことだ)
セイウンスカイは我らイギリス馬の仔──カイフタラを破って重賞2勝した日本内国産馬産駒メジロブライトは心の中の別の棚に『過疎化しているステイヤーだから例外』ラベルを貼って隅にしまっている──なのだから!
だが、ホワイトグリントは違う。イギリス馬の仔ではない。
300年。300年以上を我々イギリス人は馬を交配しサラブレッドを作り続けた。求め続けた。そんな我々よりも100年も経っていない我々イギリスから輸入し続け学び続ける血と育成技術が劣る国。そんな二流競馬国からイギリス馬の仔でもないのに、理想のサラブレッドなどという存在が出るはずがないのは自明の理。
アメリカのダートG1を制した身でイギリス芝G1に挑む心意気は認めるが、そもそもダート馬ではないか。
祖国日本での成績は素晴らしいらしいが、パート2国のなんちゃってG1などに価値などない。忌々しいフランスでフランス馬を叩きのめしているエルコンドルパサーが制したジャパンカップを除いて!
そんな、芝レースで確たる結果を出していないダート馬がイギリス芝G1に挑むとは。
(愚かしい)
このレースで完膚なきまで叩きのめし、女王陛下の目の曇りを拭ってさしあげ──
おぉっ
どよめきの声。
この場に居るのは調教師のみ、イギリスの調教師たる者が馬場入場する馬たちの姿にどよめくとは
(嘆かわしい)
まるで幼子のような声が栄光あるイギリスの調教師たちから出るなどと
「ふぁぁぁっっっ!!!???」
幼子そのものの声と目と口を大きく開けた表情で感嘆するセミル調教師は見た。
その目で、ホワイトグリントを見た。
作者注
この頃のヨーク競馬場は、普段着で行くと招待者に連絡取れるまで入場出来ませんでした。
ガードマンに止められながら「アホか。こんなんやから衰退するんや」と呆れた思い出があります。
それがイギリス文化なんだな。異文化への理解が足りなかったと反省したのが少し前まで。
日本馬来てぇ! 普段着でも誰でも入れるから入場してぇ! と泣き叫ぶ声聞きながら「運営がアホやった」と確信しているのが今日です。
セミル調教師は、この頃のイギリス人にしては日本馬に対する評価が高い方です。
日本競馬はパート2国でした。