『先頭は、エルコンドルパサー! エルコンドルパサー先頭!
逃げる! エルコンドルパサーは凱旋門賞で逃げている!
頑張れ! 頑張れ! エルコンドルパサー!
リードが三馬身保っている! エルコンドルパサー先頭だ
リードは三馬身保っている! さあ二番手、二番手が横に広がってきた!
懸命にグリークダンスが突っ込んできた! グリークダンスが突っ込んできた!
が! エルコンドルパサー先頭突き放す!
リードを三馬身から四馬身取った!
エルコンドルパサー強い! コンドルが飛んでいく!
リードを四馬身取って! 後400メートル!
差を広げる!
二番手とは五馬身以上開いたっ!
凱旋門賞目の前だ!
凱旋門賞は目の前!!』
勝ちパターンに持ち込んだエルコンドルパサーの姿に、実況も現地で観戦するか生放送を観ている日本ファンが大歓声を上げる。
ファンだけで無い現地関係者も、日本も欧州も関係ない人々がエルコンドルパサーの勝利を確信するなか。
とある陣営だけが諦めていなかった。
とある陣営が立てた戦前の予想通り、ラビットが仕事出来ない強さであるエルコンドルパサーへの勝ち筋を見定めた名手と愛馬が躍動する。
『モンジューだ!
モンジューが来た!!
直線なかばにしてモンジューが二番手!!!
モンジューが早くもやって来た!!!!
四馬身! 三馬身! いや、一馬身!
なんという豪脚!
エルコンドルパサー頑張れ! エルコンドルパサー頑張れっ!
あと200! 叩き合う! 叩き合う!
外からモンジューだ! 内エルコンドルパサー粘る粘るっ!
叩き合う! 叩き合う!
あと僅か!!
エルコンドルパサー頑張れっ!
くそっ!
モンジューだ!
モンジューが差した! なんという豪脚と勝負根性!
エルコンドルパサー二番手!
モンジューが一着で今ゴールイン!!!
死闘をモンジューが制しました!!!』
逃げるエルコンドルパサーの妨害どころか影すら踏めない役立たずのラビットたちを無視して、自力で勝つために速めにスパートをかけたモンジューの豪脚と勝負根性の前にアタマ差でエルコンドルパサーは敗れた。
包囲網を敷かんとした18頭の駿馬たちから逃れる為に逃げを選んだから負けた。セイウンスカイと一緒に挑めれば。いや、モンジューがホワイトグリントであれば、惚れた美貌牝馬であれば、差し返せた。と日本のファンは嘆いたが。
「モンジューが強かった。ただ、それだけです。悔しい限りですが彼は本当に強い馬です」服を皺くちゃにした渡辺オーナーが評したようにモンジューの強さを認めた。
「日本の怪物たちを漸く凌げたな」フランス競馬界は戦慄しながら安堵した。
ムーラン・ド・ロンシャン賞で破ったシーキングザパールを除いてタイキシャトルとエルコンドルパサーに一矢を報いることが出来なかったフランス競馬が漸く勝ったのだ。
──相手は格下のパート2国なのに、漸く凌げたとパート1の我々が安堵している。
その意味を十全に理解しながらも、安堵出来たフランスは幸せだろう。
何故なら
《セイウンスカイだ! セイウンスカイ先頭!
ニューマーケットの坂をものともせずに逃げる!
ハイペリオンと同じく坂をものともせずに先へ先へと進む!
アルボラーダが遅れた! 昨年の覇者が遅れたぁ!
シーヴァも遅れたっ! 日本生まれの! イギリス調教馬が遅れたっ!
いや、潰されたぁ!
セイウンスカイに追いつけず潰されたぁ!
連合王国の! アイルランドの! フランスやアメリカ……はどうでもいい──我ら連合王国とアイルランドの優駿が日本調教馬に潰されたぁ!!!???
セイウンスカイ先頭!
五馬身はつけたっ! 他はつぶれて追いかけられないっ!
悠々と楽しそうに日本調教馬セイウンスカイが逃げているっ!
芦毛の怪物が逃げているっ!
120年以上の歴史を誇るチャンピオンステークスが!その頃には競馬そのものが無かった日本調教馬に!
400年を誇るニューマーケットがパート2の外国産馬に!
イギリス最古の! 世界最古の歴史を誇る競馬場のG1がパート2の外国産馬にっ!
ハイペリオンの末とはいえパート2の外国産馬に!
とられるっ!?
そんなァっ?!
強い逃げ馬なんてずるいぞ!!! 日本っ!!!》
強い逃げ馬なんて希すぎて歴史の彼方に去ってしまったが故に、糞真面目にセイウンスカイを末脚で捕らえられる範囲に置こうとして「よし、大逃げした振りして息入れよう」横田のポツン戦術により強い逃げ馬に不馴れな優駿たちは息を入れる事が出来ず尽く潰される。
──だって、最適なタイミングで速度を落として自分たちに息入れさせてくれるラビットしか逃げを知らない馬ばかりだもの──
そんな悪夢のような光景を見せつけられ、「さ、後は最後まで逃げきろうな。スカイ」と鞍上により適切に息を入れられて一頭だけ逃げるセイウンスカイの姿に、心の平行を粉砕され皮肉を忘れて内心を曝け出すほど追い詰められ、マイク越しに悲鳴を上げている実況を含めたイギリスホースマンたちに比べればマシだ。
「ダービー馬のオーナーになるのは一国の宰相になるより難しい(ダービー馬のオーナーになりたいっ!!!)」とイギリスの名物宰相が言ってもいないのに、だろうなダービーオーナーには絶対になりたいもの。と共感され広く信じられているのがイギリスの上流階級における競馬だ。
そんなイギリス有数の高額レース、チャンピオンステークス。
高額賞金な為、チーミングをしても誰も彼もが勝ちに行くレース。つまりは、イギリス中距離最高峰のレース。
カネと何よりも高い名誉を得られるイギリスホースマン垂涎のレース。
そんなレースで誰とも組んでない二流競馬国の馬が、自分たちの愛馬を正々堂々潰して完全な勝ちパターンを得た。
そんな悪夢に紳士淑女の外面を砕かれたイギリスホースマンたちに比べれば、フランスは本当にマシだ。
「はっ、ラビットに慣れすぎた連中はこれだから」
「久しぶりに争うことになった強い逃げ馬がセイウンスカイだという事を呪うんだな」
仲良くサディスティクな喜悦の笑みを浮かべる西森オーナー親子を除いて、無言で真っ青になった人しか居ない馬主席。
そんな有様に、((これぞアウェイで戦う本懐よ!))セイウンスカイの遠征により新たに知った愉悦に、心地よさげに喜悦の笑みを深める西森オーナー親子。
そんな二人の笑みは、二度目にして強い逃げ馬にどうすれば良いのかを掴み理解した世界一の騎手と愛馬によって固まる
《デイラミが来た!
デッターリとデイラミが来た!
凱旋門賞ではなくイギリスの誇りを護るために残ってくれたデイラミが来てくれた!
いけっ! 行ってくれっ!
デイラミ頑張れ!
頑張れ! デイラミ!
負けるなぁ! デイラミっ!
届いたぁ!
デイラミ届いたぁ!
セイウンスカイは伸びない! 逃げ馬はもう伸びられないっ!
よしっ! かっ──なぁ!
差し返したぁ! 差し返す!
デイラミより勝る脚を! 逃げてっ!
そこがゴール板!!
セイウンスカイ! 差し返したぁ!
逃げ馬が差し返したぁ!!!
ハイペリオンの伝説のように差し返してのけました!!!
そのまま進んで、あ、立ち止まりました。大丈夫でしょう。
鞍上が! 鞍上が降りました。降りて、鞍上がただ強くセイウンスカイの首を抱き締めて震えています。
泣いているのでしょう。当然です。間違いなく脚を痛めるのを覚悟の差し返しを愛馬がしてくれました。
騎手として泣くことしか出来ません
見事すぎる意思です! 見事すぎる負けん気です。
悔しいですが認めざるを得ません。
彼の。セイウンスカイの強さを認めなくてはなりません。
ハイペリオンの末、日本のセイウンスカイが、チャンピオンステークスを勝利しました。
日本馬に初めてイギリスのチャンピオンホースの座を持って行かれました。
おめでとう。セイウンスカイ。
おめでとう。芦毛の怪物。
どうか、どうか、無事でいてくれっ》
「僕のミスを補わせてしまった。ごめんごめんよぉセイウンスカイ。ありがとなあセイウンスカイ。よかったぁっ」
馬運車で運ばれたセイウンスカイが、診断の結果、軽く痛めただけであり直ぐ治ると知らせが来るまで、泣きっぱなしだった騎手が知らせを聞くと同時に調教師と馬主と抱き合いながら慟哭するなか。
競馬発祥の地イギリスG1を日本馬がメジロブライトに続いて制した偉業が、セイウンスカイの無事を祈っていた日本のファンたちにも浸透し、大歓声となった。
エルコンドルパサーの敗北に僅かに冷めた熱は更に高まったのだ。
《クラフティーフレンド先頭!
今年から始まったBCダートマイルを制するか!
続いてはアドニス! アファームドサクセス! グラスワンダー、
そして得意のマイルを選んだ一番人気ベーレンズの順!》
アメリカって良いなあ。
遠征先に応援に行った日本人観光客が声を揃えて評価するほど、改革が終わったアメリカは公平だった。
チーミングなど影も形もなく、死力を尽くし合う競馬は美しささえあった。
元々、勝てば認められる土壌があったのもあるが、日本からのファンも併せて13万人以上の観客が入って大歓声を上げてくれているのが大きく。
なによりも──BCダートマイルの優勝賞金は200万ドル! しかも、改革により日本と同じく80%オーナー、10%調教師、5%騎手、5%厩務員が開催翌日朝までに絶対に振り込み! が法律により保証された! しかも賞金には税金無し! それが今まで全て護られた!!
勝てば20万ドル! by調教師。勝てば10万ドル! by騎手&厩務員
チーミングを含めた反則したらゼロ! 出走奨励金さえ取り消し! 何より罰金だけ取られる!! by関係者全員
その現実によりチーミングが消えたアメリカ競馬は公平であり
《四頭が一線に並んだ!
出し抜きなどない!
このまま潰しあって勝つつもりだ!
なんてフェアなんだ!
これが競馬だ!
死力を尽くす競馬だ!》
騎手を含めた関係者は目の色を$にして死力を尽くしていた。
《ステイツらしい前目の潰しあいに、歌う黄金グラスワンダーも臆する事無く渡り合う!
この馬を日本に売った連中は目が腐っている!》
そんな死戦で、グラスワンダーにはアメリカ人からの声援もあった。
これは、昨年のホワイトグリントからスペシャルウィークを経て日本馬ファンが出来たのと、グラスワンダーが歌ったことが大きい。
来た時には芝馬と目されていたため人気を集めなかったグラスワンダー
そんな彼も、歌う黄金と呼ばれる彼以外に出来ないパフォーマンスによって人気を集めるようになっていた。
《ラスト1ハロン! 横に広がった! 叩き合いが続く! 叩き合いが続く! 200を切った! ベーレンズ来るのか! ベーレンズ届くのか!
いや! グラスワンダー! グラスワンダーが凄い脚! グラスワンダーも凄い、グラスワンダーも凄い脚だ! さあアドニスか! 外のアドニスか!
ベーレンズか! グラスワンダーか! アドニスか! 3頭並んだ! 3頭並んだ!
そしてベーレンズか! グラスワンダーか! 2頭になった! 2頭並んで、並んで2頭がゴールイン!
並んでゴールイン! 外グラスワンダー! 内ベーレンズ! 外グラスワンダー! 内ベーレンズ!
グラスワンダーだ! グラスワンダーが僅かに有利!
記念すべき第一回BCダートマイルは歌う黄金グラスワンダーが凱歌を歌い上げました!》
日本からわざわざ空輸した温泉湯船に浸かったグラスワンダーが、招待されたドリフター○と『いい湯だ○』を熱唱。
そんなアメリカンのイベントに対する執念と金の掛けた労力に見合った大観衆の熱狂のなか、アメリカダートマイル最強馬へとグラスワンダーはなった。
黄金の脚は、買った馬主も管理した調教師も、エルコンドルパサーではなくグラスワンダーを選んだ騎手も夢に見ることさえ出来なかった夢を果たしたのだ。
《スペシャルウィーク! サンデーサイレンスの息子が上がってきた! 逆襲のために上がってきた!
訳分からん理由で売り飛ばされた父の逆襲を果たす!》
凄まじい大歓声が轟く。
アメリカ顕彰馬なのにアメリカ産駒が居なかった父サンデーサイレンス。
アメリカ顕彰馬なのに引退から8年経ってアメリカで走った産駒は二頭だけ、しかも日本馬なサンデーサイレンス。
アメリカ顕彰馬にして年度代表馬にして超人気馬として有り得ない状況、「頂点に立った馬が血を遺せない。アメリカ競馬からアメリカンドリームが消えた!」とアメリカ競馬衰退の一因になったサンデーサイレンス。
その息子がBCターフのブリーダーズカップの舞台で勝ちに行く姿に、アメリカ競馬ファンは涙さえ流しながら歓声を上げた。
西海岸東海岸関係なく、売り飛ばされた悲劇の英雄サンデーサイレンスの息子の帰還を応援した。
《外のほうからスペシャルウィーク来た! スペシャル来た! スペシャル先頭に立つか! スペシャル先頭に立つか!
ロイヤルアンセム! スペシャルウィーク頑張れ! 頑張れっ
先頭だ! そして内ロイヤルアンセム! 内ロイヤルアンセム! スペシャルウィーク! スペシャル
スペシャルウィーク頑張れ! スペシャルウィーク頑張れ! スペシャルウィークか! ロイヤルアンセムか!》
今日のBCにおいてただ一頭のサンデーサイレンスの子、それ故に父のファンを全て受け継いだスペシャルウィーク。
《頑張れっ! ロイヤルアンセムを抜かせ! 勝つんだスペシャルウィーク! 勝ってくれ! サンデーサイレンスのマイサン!》
アメリカの実況からしてアメリカの馬ではなく、スペシャルウィークの応援をするという。日本馬なのにアメリカ東海岸までもがホームグラウンドとなる摩訶不思議な状況になっていた。
《ロイヤルアンセムか! スペシャルウィークか! 僅かに外! 外のスペシャル! 2頭並んでゴール板前! 僅かに外!
僅かに外! スペシャルウィークだ! スペシャルウィークが勝った! スペシャルウィークだ! サンデーサイレンスの息子だ!
サンデーの!
クラシック二冠馬にして!
ブリーダーズカップクラシック馬である! 年度代表馬! その年最高の馬!
なのに!
馬主にして牧場主ハンゴッグ氏が絶対に売らないアメリカで種牡馬にすると必死に戦ったのに!
一度もチャンスすら与えられず日本に売り飛ばされた悲劇の英雄!
サンデーサイレンスの息子が!
日本のダービーを制してから逆襲にきたスペシャルウィークが!
ブリーダーズカップを制しました!!!
お、めで、とぅっ》
『芝アメリカ最強馬となりました! 黄金世代の海外挑戦はこれ以上ない締めとなりました!
1981年のジャパンカップにおいて! メアジードーツを始めとする海外勢に蹂躙され18年!
ただ一頭の優駿ではなく五頭の同年代の馬が海外G1を制しました!
遂に日本競馬は逆襲を! 攘夷を果たしました!
その大トリを飾ったのは!
日本総大将!!! スペシャルウィーク』
泣き崩れたアメリカ実況の代わりに日本の翻訳が受け継ぐ形となったレースをスペシャルウィークは制した。
昨年度エクリプス賞最優秀3歳牝馬に選ばれたホワイトグリントに引き続き、エクリプス賞最優秀芝牡馬に日本馬スペシャルウィークが選ばれるほどの結果を出した。
イスパーン賞・サンクルー大賞(エルコンドルパサー)
ヨークシャーオークス(ホワイトグリント)
ウッドワードステークス・BCダートマイル(グラスワンダー)
愛チャンピオンステークス・英チャンピオンステークス(セイウンスカイ)
ハリウッドターフカップステークス・ターフクラシック招待ステークス・BCターフ(スペシャルウィーク)
黄金世代の五頭は僅か一年で海外G1・10勝した。
加えてカドラン賞をも勝利し、海外長距離G1を2勝したメジロブライト。そしてアーリータイムズターフクラシックステークスを制してそのままアメリカで種牡馬になったサイレンススズカと合わせ、日本馬は海外で、パート1国における13のG1を一年で制した。
遠征の不利、格下パート2、それらをものともせず完全攘夷を果たしたのである。
ファンは熱狂し、馬産界は感涙に咽び、トレセンは万歳三唱し、騎手は何時か自分たちもと闘志を燃やし──
──JRAは、国際交流競走出走馬の家畜衛生条件の60日を改正する根回しをしながらも、間に合わないと知ると速やかに特例を作り、本来ならば遠征後の検疫で三カ月以上日本のレースを走れないホワイトグリントを除く黄金世代たちに、十全な調教とジャパンカップと有馬記念に走れるようにした。
帰国直後に引退してしまったメジロブライトに対し悲しみの涙を流しながら、「黄金世代はジャパンカップと有馬記念でホワイトグリントと決戦して客とゼニ呼んで」と悲鳴を上げたのである。
また荒らされたら間隔開けます