黄金世代の白雪姫   作:サリエリキキ

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 感想、評価付け、ここすき、皆さんありがとうございます。


 この頃と比べて、本当に競馬はキレイになりました



ジャパンカップ前のスペシャルウィーク陣営の一幕

 ジャパンカップ5日前

 

「さて、勝てるかな」

 

 JRAやらマスコミに対して自信満々に勝利宣言した臼井調教師は、竹優を背に本日五本目の東京競馬場の坂をゆっくりと噛みしめるように登るスペシャルウィークを見ながらつぶやく。

 スペシャルウィークは紛れもなく強い。

 BCターフをも制し、エクリプス賞最優秀芝牡馬に選出されたスペシャルウィークは強い。本当に強い。

 今もひたむきに最後の仕上げを消化するスペシャルウィークに対する臼井調教師の愛情は、過熱のあまり器から吹き零れて噴出している。

 

「だが、ホワイトグリントをどうする。モンジューはええ、ロクに日本のトレセン使えとらんらんからあれじゃ日本の馬場適応出来ん──何時もながらえげつないなあJRA」

 

 あんな状況で戦わないとならないモンジュー陣営に同情する。

 マトモにトレーニングにさせろと咆哮するモンジュー陣営に共感する。

 だからこそ──強敵が一頭無力化されたことに歓喜してならない。

 敵が潰れたことに喜ばない調教師が居るだろうか! 

 

(JRAはホンマ良い仕事するわあ。

 ま、今年遠征した日本馬もやられたんやホームグラウンド有利しぐさは万国共通や。されなければ凱旋門賞もエルコンドルパサーが勝っとった。なのに自分たちがやられる時になれば抗議してくるとか笑わせるで)

 

 サンデーサイレンスの愛息子という事で、スペシャルウィークにはホームグラウンド有利しぐさを一切されないどころかアメリカ馬以上の厚遇をして貰えたので疲労も少なくジャパンカップを走れる事について、心の中の別の棚に仕舞い込んだ臼井調教師は思案する。

 

「ホワイトグリント、どうするかなあ」

 

 モンジュー陣営が何時も通りのジャパンカップ招待馬のように、全力を発揮できないようにされたことは喜ばしいが、問題は解決してない。

 ここまでのホームグラウンド有利しぐさをやられても実力を発揮できた数少ない一頭であるホーリックスの娘にして、完全無敵のアイドル・オグリキャップの娘、ホワイトグリントという問題が。

 

「テンよし・中よし・終いよしの勝負根性に溢れとる10冠馬。18戦15勝18連対。パーフェクトホースや。本物のバケモンよなあ」

 

 酷い酷すぎる。

 包囲網されようがコース閉じられようがぶち抜いて来るレース運びもそうだが、何よりもタフさが酷い。

 半年近い故障による治療があったから、ほぼ2年間走っているが。その間18戦して18連対。つまりは、ほぼ月一間隔で常に全力を出せたことになる

 

「スペちゃんには無理やな」

 

 スペシャルウィークはがんばり屋だが、死力を尽くす重賞クラスが殆どを占めたそんな過密スケジュールは無理だ。

 苦しくて辛すぎて気力が続かないのもあるが、何よりも体力が続かない。

 

「親父譲りのタフは卑怯だろオイ」

 

 思わず半眼で呻く。

 最近になって再び話題になっている『オグリキャップがクラシック出られたらどうなっていたか?』について、臼井は「春の二つは持って行かれる」と確信している。

 未だ若い馬が一カ月に一度とスケジュール間隔が狭くなるなか走る春クラシックにおいては、回復力が無ければ実力など発揮できない。

 殆どの馬が日本ダービーまでの三カ月で三回走る間隔に回復力が及ばず精魂尽き果てるのが春クラシックだ──なのに、オグリキャップという怪物は六カ月間に渡って一カ月に一回全力で走らなければならない重賞を走り、そして勝った。

 圧倒的な回復力の為せるわざだ。

 はっきり言って、距離適性の差で勝る──(最近のインタビューで瀬戸内調教師は「当然菊も勝っていました。親子で牡牝三冠制覇の偉業を果たせました」と断言しとるが、そりゃあそうや。愛馬が勝てないと見る調教師なんていないわ。負け覚悟で掲示板狙って賞金咥えこむこと目標にすることはあるが、オグリはそのレベルやない)──菊のスーパークリーク以外はクラシックで戦うという土俵にさえ立つことが難しいほどの回復力の差がある。だから、間違いなく皐月賞とダービーは持って行かれただろう。

 比較対象になる数がある。

 32戦22勝と16戦8勝と25戦12勝。平成三強であるオグリキャップとスーパークリークとイナリワンの生涯成績だ。

 16戦のスーパークリークが重賞戦線に出る一線級競走馬の普通で、イナリワンの25戦は長いこと頑張ってくれたな有り難うと感謝すべき過酷で

 ──オグリキャップの約三年で32戦は怪物の所業であり、決して真似してはならないと心に刻むべきものだ。

 三年で30戦以上走る馬は勿論いる──が、それは条件馬や短距離専門か生涯勝利数一桁馬であり。断じて……そう断じて、マイルから中長距離において勝率7割でG1・4勝して中央地方合わせて重賞17勝した葦毛の怪物ではない!!! 

 平成においてあれだけ勝った馬を普通はあれだけ走らせないし、馬が応えることは無い!!! 

 

「オグリキャップレベルの馬であんなペースで走らせるなんて有り得んわ。それを可能にするタフさなんてもっと有り得ん──瀬戸内先生が羨ましい」

 

 あれだけ短い間隔でマイルから中長距離のレースを走っても、衰えない勝負根性と肉体はタフとしか言えない。

 だからこそ、あれだけの客を飽きさせずに虜に出来たといえるのだが、「オグリキャップが出来たじゃないですか。だから大丈夫です。皆さんも月一で重賞走りましょうよ。お客さん喜びますよ」とか抜かすオグリキャップに脳が焼け切ったJRA(運営)に騙されてはならない。

 絶対に参考にしてはならないし真似してはならない天性なのだから。

 あのタフさこそが競走馬オグリキャップ最大の武器であり、比較対象外たる理由なのだ。

 

 そして、その娘はその天性を受け継いだのだ。

 

「ずっるぅぅぅぅ」

 

 馬産家が受け継いで欲しいと願ったオグリキャップの最高の美点が、正しく受け継がれるとそうとしか思えない。

 

「どうして、牡馬として受け継がれて生を受け、いや、なによりもウチで産まれ(預かれ)なかったんだ」と嘆く社大代表に共感しないホースマンは居ない。

 預託された瀬戸内調教師や生まれ故郷(自分たちの愛馬になってくれた畜生ども)を除いて。

 

「ひきょうやぁ」

 

 前の年のジャパンカップを見よ。

 疲れが残っていたところを走って有馬記念を回避して休んだスペシャルウィークやメジロブライト、そして秋戦を毎日王冠とジャパンカップだけに絞らざるを得なかったエルコンドルパサー。

 4着までに入賞した馬は死力を尽くしたゆえにそれが限界だった。

 いや、それが普通なのだ。普通のサラブレッドの限界なのだ。

 なのに、あの真っ白いのは、アメリカから帰ってきて、秋華賞走ってエリザベス女王杯走ってジャパンカップ走って、有馬記念も走った。

 その内、2回勝って2回2着。

 つまりは圧倒的な回復力でもって、全身全霊の能力を発揮していた。

 海外遠征しながらほぼ月一レースで通年を全力で走りきったのだ。

 これだけでもあまりの回復力の差に嫉妬を抑えきれないが、臼井が本当に驚愕したのはジャパンカップ直後の騒ぎでのことだ。

 他の馬が消耗しきって水さえ飲めないなか、モシャモシャ子供たちから果物や野菜を貰い食って乗せて歩いてる真っ白な馬の姿。

 自分だけでなく周りのホースマンも唖然として口を開けてしまっていた。あまりの回復力の違いさ、それを齎すであろう内臓の強靭さに、「ウチのスぺちゃんと内臓取り換えろ」と思わず口に出してしまった。

 誰にも聞こえなくて良かった──いや、分かっている。みんな思わず同じようなことを口にしてしまっていたから聞こえなかっただけだ。

 速さを手に入れる代わりに、馬の中でも内臓が弱くなってしまい回復力に劣ってしまったサラブレッドの弱さを覆してのけた理想の姿に、あの日ホワイトグリント陣営を除いたホースマンは嫉妬した。

 

 食える。ただそれだけが強い。

 

 父オグリキャップと同じく、毎回レース直後にモシャモシャ飼葉や野菜や果物食っているホワイトグリントは、一個の命として強い。

 

 野生の力に溢れている。

 

「スぺちゃんは、全力出せるかどうかやな──秋天から一カ月開けたホワイトグリントは間違いなく全力出せるわな」

 

 海外からのジャパンカップ挑戦馬と同じ扱いにするという特例処置を受け、競馬学校内にある国際厩舎地区で5日間の検疫を終え。

 モンジュー陣営を含めて我々にもさせろと絶叫しているが、外国産馬ジャパンカップ挑戦馬にアレコレ理由つけてさせていない──ホームグラウンド万歳! ──東京競馬場を使って好きなだけの調教をして日本の環境と馬場には慣らすことが出来た。戦える。間違いなく。

 だが──

 

「人間の目には回復しきっとるように見えても、馬としてはどうなんかが分からん。全力を、いや全力の中の全力を出せるか? 相手はホワイトグリントやぞ。そうや無いと届かん──頑張れ、頑張ってくれ、スぺちゃん」

 

 愛する牝馬ホワイトグリントに負けないと、竹優が騎乗しての調教をひたむきに消化して調子を上げるスペシャルウィークを見守る臼井調教師は愛情と共に焦燥を噛みしめていた。

 

 後年、ステートキャップ、ウォリック、ラティーナというオグリキャップと嫁との間に産まれた子や、ホワイトグリント産駒全てが内臓の強さから来るタフさを受け継げた事を知り、他調教師と──瀬戸内調教師が後継者残さずに引退してくれて良かった! ──奪いあい、果ては皇室へ直訴して厩舎に迎え入れることになる臼井調教師は焦燥を噛み締める。

 

『あのローテーションで走り怪我一つなく引退したウォリックとアリスワンダーは、現代競馬における参考外である。止めないどころか進んで走らせてのけた、預託された調教師たちの感性と愛馬への信仰に近い信頼が特に。彼等は悪魔から魂を買い叩いていた』後年、アメリカのホースマンにこんな評価をされる臼井調教師は焦燥の中にいた




 史実と同じ事されたのでモンジュー陣営は勝負に絡めません。
 いや、本当に、今の日本競馬は来日した海外馬にちゃんと調教されるようになりましたね。キレイになった
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