きっと色んな意味で修羅場になる
※勢いだけの習作なので続くかどうかさえ未定
そのためなーんにも決まっておりません
キヴォトス有数の学園、トリニティの謝肉祭は大成功に終わった。
マリーにセリカやアヤネ、ステージに上がった生徒達のパフォーマンスを思えば私の心も温かくなる。
とても可愛かった。もっと何度でも拝み倒して、終わった後の汗をぺろぺろしたくなるくらいには素敵だった。
あれが今回一度きりだなんて、キヴォトス滅亡レベルの損害ではあるまいか。そんなこと、あっていいはずがない。
思えばこの学園都市にはなぜかアイドルグループが広く普及していない。生徒は皆可愛いのに、なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?なぜ?
そんなことを考えながら歩いていた時、ふと目に入ったある広告。
『君と出会い、夢に翔ける――学園アイドル☆スター』
私はそれで閃いた……そうだ、プロデューサーになろう。
――――――――――
゛というわけで、私に皆をプロデュースさせてください゛
「せ、先生? 急にどったのー?」
「あら……なにやら面白いことが始まりそうですね☆」
「とてつもなく嫌な予感がするんだけど……」
善は急げと必要な書類の山を片付けてまず向かったのは、思い出深いアビドス高校だった。
いや、ここキヴォトスに思い出のない学校などありはしないが、それでも一番印象に残っているのはこの学校だったのだ。
初めて私がシャーレの先生として大きな事件に立ち向かった日々、陰謀、覆面水着団。どれも昨日のことかのように思い出せる。
だからやっぱりこういうことを話すときはアビドスの生徒達が思い浮かんでしまうというのはひいきだろうか。
一応アビドスを選んだ理由はそれだけではなくて、彼女達ならば乗ってくれるだろうという見込みがあった。
゛皆でアイドルをやりましょう。私がプロデュースします゛
「なんで!? 先生急になんで!? アイドルならもうやったじゃない!?」
゛ええ、とてもいいステージでした゛
「あ、ありがとう……じゃなくて! それで約束は果たしたでしょ!? あとその口調も何なの!?」
゛師曰く、これがプロデューサーのあるべき姿とのことでまずは形から入ろうかと゛
「まあ、先生にも先生がいらっしゃったのですね~」
「先生の先生……きっととても偉大な人、一度会ってみたい」
「そ、こ、じゃ、ないでしょ! 約束、やくそく!!」
「えーと、トリニティの謝肉祭で既に一度アイドルやりましたから……」
アヤネとセリカが難色を示している。しかしこれは計算の内、ここからが私の培ってきた交渉技能の見せどころだ。
゛確かに二人は一度アイドルになりました゛
「そうそう、そうよ!」
「恥ずかしかったです……」
゛ですがホシノさんはそれだけで満足ですか?゛
「……」
゛……ホシノさん?゛
「ホシノ」
返事がないことを不思議に思って見てみれば、金と銀のオッドアイが冷めきった目線を寄越していた。
゛え?゛
「ねえ先生、どうしていきなりさんをつけるの? 先生の先生が何か言ってたのかなあ?」
゛えーと、それは……゛
臨戦状態、そんな言葉が脳裏を過る。ホシノはいつものだらけた姿ではなく、列車砲の時の鬼気迫る姿を再び見せているのだ。
口元が小さく笑っているのに、目は私を吞み込まんとばかりに見開かれている。ちらりと一瞬目配せされた先には教室の扉がある。蛇に睨まれた蛙という言葉を、ふと思い出した。
……おかしいな、過去の事件で銃弾を受けた傷が急に痛みだしたような気がする。
「ね、せんせ?」
゛プロデューサーはアイドルと節度をもった付き合い方を……゛
「……へえ。それで?」
゛……万が一にも誤解を受けぬよう……゛
「そうだねー。だから?」
゛皆のアイドルであるために必要なことです゛
「……ふーん」
いつの間にかホシノは席を離れ、私の目の前に立っていた。ホシノは首を反らして私を見上げるほど小さいのに、呑み込まれてしまいそうな迫力を発している。でも至近距離で見上げてくるホシノはそれはそれで可愛かった。
「せーんせ♪」
にこりと頬を緩めているのに、目が一ミリとて笑っていない。
゛なんでしょう゛
「今すぐさん付けをやめるのと先生がアイドルになるの、どっちがいい?」
「先生が……!?」
「ん……アイドル先生、やるべき」
゛……私がするのは流石に勘弁してください。過労死だけじゃない命の危険を感じます゛
「えーだめぇ? 急に距離を感じたからさ、おじさんてっきりね? 皆のアイドルであるってそっちの意味かなーって、先生がアイドルになるってことかと思っちゃったんだよね? それくらいの覚悟を持ってさん付けしたのかなーって。でも違うんだ?」
ホシノの目が細められる。冷や汗が止まらない。何故だか震えが止まらなくなった手をそっとホシノが両手で覆った。
「違うんだよね?」
゛……はい゛
「まったくもー。……性質の悪い冗談はやめてよね」
一際低くどすの利いた声で小さく呟いたかと思えば、次の瞬間にはへにゃりと笑ういつものホシノに戻っていた。
「おじさん傷ついちゃったから二度とさん付けなんてしないでほしいな~」
゛わかりました゛
「ん、さっきの先輩ならキヴォトス最強になれる。さっそく銀行強盗を……」
「ストーップ! ストップですシロコ先輩! それだと死人が出ちゃいます!」
「……二人ともおじさんのことなんだと思ってるのかな~」
「ん、最強の暁のホルス」
「え、えーっと、最近はちょっと変わられたなーと。特に先生が絡むと……」
「うへへ~、二人とも後でオハナシしようね~」
「「ひっ」」
悲しいかな、犠牲者が増えてしまったようだった。でもこれに関しては二人から危険地帯に突っ込んだのだから私にはどうしようもないことだ。
心の中で無事を祈ることしか私にはできないよ……。
「それで先生。話を戻すけど二人をまたアイドルにするってどういうこと? そっちも冗談?」
゛そっちは本気です。マジです。それに今回はセリカとアヤネだけじゃなく、アビドスの皆へのお願いです゛
「へえ……」
「あら、わたしたちもですか?」
「強盗系アイドルとして、観客の財布から合法的に盗んで見せる」
「シロコ先輩は一旦強盗から離れてください! もう! わたしはむ、無理ですからね!? もう一回は恥ずかしくて死んじゃいます!」
「わたしも嫌よ! もう約束は果たしたんだから!」
堂々巡りの言い合いだが、今回は違う方向に進みそうだった。というのもホシノが意味深げにこちらに目配せを寄越したからだ。ちらりと見えたのは悪ノリの予兆を感じさせる愉悦の色。
「うへ~。でもおじさん一回だけじゃちょーっと満足できないかも~」
「うぇっ! ほ、ホシノ先輩!?」
「それにさっきおじさん酷い扱いされて泣いちゃいそうだよー」
「絶対嘘でしょ、ねえ!? ちっとも泣きそうにないじゃない! からかってるんでしょ!?」
「うへー、セリカちゃんが酷いよー。ね、助けてせんせー?」
「ずるくない!? 先生に頼るのずるくない!?」
果たして先程までの胃がきりきりと痛くなるような雰囲気はどこへ行ってしまったのだろうか。
目の前のコントじみたやりとりに思わず吹き出しそうだ。けれどちょうどいい具合に場は整った。これで仕切り直せという意図を込めてだろう、ホシノもウィンクをしながら私の胸に飛び込んできた。
゛よしよし、ホシノはいい子ですね゛
「えへへー」「……ん、先生の覆面のアイデアを受信……」
「先生!? ちょ、それはもっとずるいじゃない!?」
「あらー、セリカちゃん、それってどれのことでしょうかー☆」
「あ、それは……ってあああもう! どうすればいいのよー!?」
゛セリカも来ますか?゛
「行かないわよ、馬鹿!」
゛そんな、セリカは私のことを……゛
「ちがっ、そ、そういうのじゃなくって……」
゛というのはさておいて。アイドルとして皆さんをプロデュースするというのは皆さんのためでもあります……プラナ、お願い゛
『はい、先生』
ここ数日で作った謝肉祭以降のデータをまとめた資料をプラナに頼んでホログラム投影してもらう。アロナを呼ばなかったのはぐっすり気持ちよさそうに眠っていたからだ。ここ数日徹夜に付き合ってくれていたというのもあって、起こすのは忍びなかった。
「これって……」
゛トリニティの謝肉祭以降のキヴォトスにおけるトレンドです。ここ数日アイドル関連のワードがトップに上がっており……結論から言えば、今この都市は空前のアイドルブームを迎えています゛
マリー、サクラコ、ミネのトリニティでも有名な三人がアイドルユニットを組み、大舞台でパフォーマンスを披露した。この事実はかつてない程の反響を呼んでいた。
要因はいくつか思い当たる。
まず一つは舞台がトリニティであったこと。
キヴォトス随一のお嬢様校であるトリニティに対して他の学園の生徒が抱くイメージは基本的には固いものだ。
上品であることが大前提、その裏に陰謀や陰口を当たり前のように忍ばせている魑魅魍魎の社交場。トリニティ仕草なる言葉が作られる程に特殊な文化を持った学園。アイドルなど世俗の文化として触れてもいないのでは?
そんな風に敬遠されている学園から、突如アイドルユニットが湧いて出たのだ。そのインパクトは凄まじい。
第二に、そのユニットが色んな意味で話題性に溢れていたこと。
シスターフッドの長として畏怖を集めるサクラコ、色んな意味で有名な救護騎士団の団長ミネ。どちらもティーパーティにとっても無視できない有力組織の首長だ。そんな二人を差し置いてリーダーとなったマリー。これで話題にならないはずもない。
そこにステージでのパフォーマンスが合わさってしまったのだ。
サクラコは笑顔が怖いと恐れられがちなのに、大人びたスマイルで数多の生徒を悩殺した。今頃シスターフッドへの『おしゃべり』希望者は膨れ上がっていることだろう。私も彼女のハートマークで死ぬかと思った。
ミネは元々ぬいぐるみが好きな可愛らしい子だ。彼女独特の救護理論が物騒すぎるせいでほとんどの人がそんなイメージを持っていなかったところに、彼女のそういうシュガーな面がぶち込まれたのだからギャップで要救護者が多数発生してしまった。私もぜひ救護してほしい。物理的にされると死ぬのでメンタル的に。
そしてマリー。彼女がこのキヴォトスにおけるアイドルのスタンダードになったことは間違いないだろう。なんせ可愛い。見た目からもう可愛さ全開なのに、サビのアルカイックスマイルでそれにダメ押しを掛けていた。
それだけでなく、すわティーパーティを巻き込んだシスターフッドと救護騎士団の戦争か!? とトリニティ全校が注目する中で全ての誤解を解き、アイドルになる宣言をしてみせたのだ。この話がトリニティだけでなくSNSを通じてキヴォトス全土に広がったことでマリーは一躍有名人になり、注目していた人間をあのパフォーマンスで虜にしたのだからとんでもない。私などは虜を越えて魂を持っていかれている。もっといっぱい写真を撮らせて欲しい。
ちなみにマリーがヘルメット団からバイクをヒッチハイクした件もSNSで知られてしまったのだが、むしろ親近感を覚えるだとかかっこいいだとかで全く炎上する気配がないのはキヴォトスクオリティというべきか。
つまるところ、ギャップとインパクトだ。それが観客の心を撃ち抜いた。それもオーバーキルで。
その結果キヴォトスでは皆がアイドルを求め始めたのである。
しかし現状キヴォトスにおいて、アイドルは外の世界程浸透しているとは言い難い。
多少のリスクは許容しえたアビドスの借金返済プランにおいてもアイデア段階で終わる程度には稼げない職業。それは何もアビドスの子達だけの認識ではない。
女の子の憧れではあるけれど稼げない。その程度に思われていた小さなマーケットに突然大きな需要が発生したのだ。当然供給は追い付くはずもない。
マリー達はと言えばそもそも三人のうち二人が大きな組織の長なのだ。言うまでもなく忙しい。現在は手分けしてソロライブをすることで何とかしているが、それだけでは焼け石に水だ。
これらの状況が噛み合った結果、キヴォトスはアイドルに飢えることとなった。
゛以前とは状況が変わりました。今であれば、アイドルとしてお金を稼ぐのはかなり現実的な手段となっています。一攫千金も夢じゃありません!゛
「おお……」
「なんか、思ったより真面目ね……」
゛ですからそう言っているでしょう。今回はマジだと゛
「ん、本音は?」
゛皆のアイドル姿が見たいです。一度きりなんて勿体ない! ホシノやノノミのアイドル衣装ぺろぺろしたいです!゛
「へんったいね」
「うへーちょっと照れくさいねー」
「やっぱり先生は正直ですね☆」
゛はっ……!゛
つい選択肢を間違えてしまったような気がする。完璧な理論武装がカイザーのゴリアテの如く一瞬で風穴だらけになる幻聴が聞こえた。
私の、夢が……。
「……ねえ先生、この資料作るのにどれくらいかかったの?」
゛謝肉祭から今日まで、仕事と寝る以外の時間は全部これでしたねえ……゛
「あ、すごい隈が出来てるじゃないですか……これ、支援物資の中にあったおしぼりです。使ってください」
゛ありがとうございます、アヤネ。……暖かい……」
――――――――――
「……寝ちゃいましたねー☆」
「ん、寝つきがいいのは良い子、強盗にあっても狙われにくくなる」
「それはちょっと違いそうですけど☆ でも実際どうしましょうか?」
「うへ~おじさんにアイドルなんて難しいよお」
「えーホシノ先輩可愛いじゃないですか、行けますよ☆」
「ん、覆面水着団再始動の準備は出来てる」
「あはは……そのグループ名のままだと売れなさそうですけど……」
「これ、新手の詐欺……なわけないわよね。先生がそんなことするはずないし」
「実際悪くない案だと思いますよ。わたしはやってみたいです☆」
「うぅ……なんだか騙されてる気もするけど、他にいい案が思いつかない……」
「すっごく恥ずかしいです、けど……でも、今度は五人でということです、よね……?」
「今度は約束じゃないからねえ。でもアイドル、アイドルかあ……」
『ホシノちゃんホシノちゃん! 砂祭りをまた開けたらね、ゲストを呼びたいの! アイドルなんてどうかなあ!」
「……うん、いいかもね。それに先生がここまでしてくれたんだから、応えないと」
「ん、プロデューサー用のマスクも用意してある」
「シロコ先輩、そのマスクは……? なんだか禍々しいですけど」
「昔セリカが騙されて買わされたものを改造した。なんでもアビドスの奥深くで宝を見つけた偉人の遺物だとか」
「そうよ! 人類に黎明をもたらして、数多くのスポンサーを獲得できる魔法の仮面らしいんだから!」
「セリカちゃん、多分本物だったらとってもやばいやつだと思いますよ☆」
「大丈夫。これは間違いなく偽物。ちょっと光るだけ」
「あはは……偽物を買わされちゃったんですね……」
「ところでホシノ先輩? どうして先生の頭を触っているんですか☆?」
「やだなあノノミちゃん。お昼寝は誰かと一緒にするといいんだよ?」
「あら、でもお昼寝するだけなら先生の隣じゃないほうが寝転びやすくないですか☆?」
「やだなあノノミちゃん。おじさんは寝転ばなくても寝られる熟練のお昼にゃーだよ?」
「ん、ホシノ先輩とノノミ先輩のガチバトル。どちらが先生を膝枕できるか見もの」
「ほ、ホシノ先輩……! 先輩もお疲れでしょうから、ここはわたしが……!」
「そ、そうよ! 一番後輩のわたしとアヤネちゃんが交代でやるから先輩達も休んでて! 先生が目覚めたらレッスンで忙しいんだから!」
「……先生の頭がそのうちもげそう。今からでも仮面をつけておく、べき?」