十傑集が我が家にやってきた!   作:せるばんてす

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少年は十傑と出会う

 ある日家に帰るとおじさんがいた。それも何人も。都心の外れで四畳半、月4万のボロボロアパートだから部屋の中は差し詰めサウナ状態と化していた。

 

 何人かはおじさんというには若い人物もいたが、お爺さんと呼んでいいような人もいて平均的にはおじさんと言ってもいいだろう。ともあれ今はどうしてこんな状況になったかを知るべきだ。

 

……果たして誰に声をかけるべきだろう? 

 

 僕はいわゆるぼっちというやつで、人に話しかけるとどうしてもあがってしまって冷たい態度しかとれず、録に友達もできたことがないという筋金入りのコミュ障だ。そんなコミュビギナーどころか万年落第生の僕に目の前の面々は少々――いやかなりきつい。

 

 右目に眼帯を着けたハートの髪形のおじさん、赤いマフラーに仮面を着けた忍者、白目むき出しの蟹頭。ザッと見ただけで個性と身体がビリビリと震えるような歴戦の威圧を感じる。言葉どころか悲鳴すら出ない。家の中に不審者がいるのに逃げだそうにも足は地面にひっついたかのように動かなかった。ほとんど諦めの境地で、どうしようもなくおじさんたちを眺めているとあることに気付いた。

 

 居直り強盗にありがちな部屋の乱れはないし、おじさんたちの表情はただただ驚きの表情。突然家主が帰ってきたことへの驚きではなく、僕の顔を見て驚いているようだった。

 

「失礼。あなた様のお名前は?」

 

 おじさんたちの中から一人。白髪のお爺さんがそう尋ねた。他の誰かならきっと僕の口は固まったままだったろうけど、見た限り温厚そうな爺様って感じだ。言葉づかいも丁寧で、すぐさま暴力で返されるってこともないだろう。震える肩を押さえながら恐る恐る口を開いた。

 

「山野 浩一です」

 

 

 

~~十傑集が我が家にやってきた! ~~

 

 

 

「すみません。人数分のコップがないので紙コップで我慢してください」

 

「いや御手を煩わせるなど恐れ多い。この素晴らしきヒィッツカラルドにお任せ下さい」

 

「貴様十傑集のリーダーを置いて点数稼ぎに走るとは、これはいったいどういうことだ!?」

 

「十傑集裁判にかけられぬ内に全てを明らかにしたほうが良いぞ」

 

 なんだか自分の名前を名乗ると急にひれ伏して、恭しい態度をとりだしたおじさんたち。十傑集と呼ばれる集団らしい。結局どういう人たちなのかさっぱりだ。白目のカニ頭、ヒィッツさんを囲んで指先にレーザーらしきものを溜めている辺りから危ない人種であるのは間違いないだろう。

 

 ともあれ何故ここまで持ち上げられるのか? 僕の顔を見て驚いていたのと何か関係があるのだろうか? 名前を聞いてあの反応だから、どこかで僕のことを知っていたのだろうか? とはいえあの濃い面子なら一度見たら間違いなく忘れないだろう。 疑問は尽きないばかりだ。

 

とりあえず、

 

「あ、あの。すみません。どうして家にいたんですか?」

 

 一番の疑問を投げかけてみる。随分大人しくはなったものの、そもこの理由如何によっては国の取締機関に通報せざるを得ない。僕の質問に答える為か、狭苦しい部屋の奥からピンクのマントにスーツという異色の服装の人物が現れた。40代ぐらいのダンディなおじさまという風貌だが、この人物の放つプレッシャーは集団の中でも一番強いような気がする。クラスで平穏に過ごすために鍛えてきた僕の強者レーダーがそう反応しているからだ。……悲しい。

 

 少し仲良くなった爺様が彼は十傑集のリーダーである混世魔王 樊瑞さんと耳打ちしてくれた。さもありなん。

 

「うむ。まずは何から話してよいか」

 

少しの逡巡の後、樊瑞さんは静かに話しだした。

 

 

 

 

 

 BF団ペンタゴン地下基地。かの大国の国防総庁の地下を支配下においているということは実質的にその国を支配しているのに等しい。BF団の中でもやはりその基地の重要性は高く、時折最高幹部である十傑集が集まることもある。

 

その重要施設に甲高い警告音が鳴り響いていた。

 

『第一級緊急態勢、全員各部署を動くべからず。第一級緊急態勢、十傑集といえども動くことは許させない』

 

 暗く長い通路をシズマドライブの赤い警戒色が照らしだしている。そこを硬質な革靴の音を響かせながら件の現場へ向かう人物が一人。いや二人。

 

 二人目はまるで幽霊のように静かな足取りで前を行く人物にピッタリと着いていく。まるで生きた影のようだ。警告をまるで意にも介さずに自信を持って進む様はそれなりどころではない地位を予感させる。やがて二人の前、通路の先に光が漏れだす。

 

 一人目の姿が見えると、現場で作業を行っていた全身黒タイツの団員の手は一斉に止まり、片膝を地に付け頭を下げようと身構える。

 

「止めよ。今は事態の究明が何よりも先決。現場責任者以外の者は皆作業に戻りなさい」

 

 そう重々しく命令したのは孔明。片手に羽毛扇を持ち、口角に髭を蓄えた細身で長身の男性。年の頃は30は過ぎているだろうがそれ以上は分からないことの方が多い謎の人物。BF団の全ての作戦を計画・立案している稀代の策士であり、それゆえに最高幹部である十傑集を凌ぐ権力を持っている。BFが基本不在である現状、実質的な最高権力者といってもよい。その彼が現場にいる。そのことが事態の大きさを強調していた。

 

「報告します」

 

 基本黒タイツが団員の制服の中、白衣に身を包んだ美しい女性が孔明の前に出て厳かに告げた。孔明は静かに頷いて先を促す。

 

「昨日1400(ひとよんまるまる)、最高会議場に突然発生したテレポートエリアに十傑集御仁が巻き込まれ依然行方不明となっている件についてですが、わずか数秒の出来事で調査は難航しています。鑑識班、化学班、超能力班共同で原因調査を続けていますが有力な手掛かりは未だありません。御方達の行方の唯一の手掛かりは十常侍様の残された命鈴鐘(めいりんしょう)のみ。どうぞご覧ください」

 

ハンドベルのような鐘を手渡された孔明は二度ほどそれを振った。すると澄んだ鐘の音とともに光の粒子が天井近くまで登っていくではないか。そのまま粒子が一点に集まると何かの陰影を生み出していく。いつの間にか周囲はすっかり暗くなっていた。

 

 色つきの影はよりリアルな現実の映像へと変わっていく。場面は十傑集が集まっているという違いはあるもの、部屋や椅子の配置から間違いなくこの場所だ。残念ながら音声はないものの、一人ずつ青いテレポート光に消えていく異常な事態への対応から場面の緊迫は十分伝わってくる。ある人物は驚異的な身体能力で範囲外へ脱出しようとし、あるものは身代わりの術で逃げようとするがその全ては尽く失敗した。十常侍は逃げられないと悟ると、自身の命を操るという特性上、例えどこに飛ばされても命の確保はできるという計算から保身ではなく、情報の収集に全てを注いだのだ。そして映像が途切れる瞬間、僅かに空間の切れ目から奥の屋内らしき映像が垣間見えた。

 

「さすがは十傑集が一人、十常侍。あの一瞬でそこまで判断するとは……」

 

孔明は羽毛扇で口元を隠しながら、それでも隠しきれない笑顔に目じりが上がる。

 

「先ほどの転移先の映像の解析を急ぎなさい。必要ならA級エージェントの招集も許可します」

 

「はっ!」

 

 それだけ言い残すと孔明は踵を返して歩き出した。後に続くは呼延灼。赤い大鎧を身に纏い、顔全体を覆う面頬から容貌を推測することさえできない。ある意味孔明よりも謎に満ちた人物だ。普段は影に潜み十傑集の監視・援護・陽動など様々な仕事に駆り出されているが、今は孔明をより専属的に守るため、影から姿を現している。十傑集にあのような事件が起こったならば、次はより上位の孔明にも牙を剥かれる可能性は高い。唯でさえ今回の事件は孔明の予想外の出来事なのだ。十傑集がいない今、国際警察機構にその所在を問われることになればGR計画の成功は遠のくことになるだろう。

 

「これも全て我らがビッグ・ファイアのため――さて、草案を練り上げますか」

 

二人の影は静かに通路の奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまり結局何故ここにいるのかわかってないってことですね?」

 

「誠に情けないですが、そういうことになりますな」

 

 さすがリーダーらしく堂々としている。その方向が少し情けないけど、自分に何の自信も持てない僕からして見ればとても羨ましいものだ。

 

 とはいえ、これは予想外だ。怪しい犯罪集団なら警察を呼べばすむが、この人たちは威圧こそすごいもののこちらに対する敵意はゼロ。むしろ崇められているような気さえする。そうして油断させる手口なのかもしれないけど、もしそうならコミュ障で対人関係のほとんどない僕にそんなこと分かるはずがない。かと言って現在身の置き所がないこの人たちに出て行ってくれ! なんて言ったら逆上されるかも? 実はヤのつく自由業でこの後事務所に連れてかれるかもしれないし、はたまた怪しい宗教団体で、怪しげな壺を買うまで居座る気なのかも? いかん、考えたら怖くなってきた。――つまり、僕には対処できそうにない。

 

 その結論に達した時、急に目の前の景色が歪んできた。うっ、気持ち悪い。

あれ? 十傑集さんが2重に……これ以上は、もう勘……弁、してくださ…………い。

 

「ビッグ・ファイア様っ!」

 

ビッグ・ファイアって……誰?

 

 

 

 

 

 

 

浩一が倒れてから数分。

 

 今は布団に寝かされて安らかな寝顔を浮かべている。それをとり囲むように十傑集が深刻な顔で思案に暮れていた。幸い浩一の気絶はただの疲労で命に関わるようなものではなかったが、それで一安心と考える人物はこの場の何処にもいなかった。浩一を寝かしている今、さすがに全員が入る余裕もなく幾人かは部屋の外でこれからの事について議論を交わす。

 

「どう思う?」

 

 樊瑞の視線の先には衝撃のアルベルト。ハート形に固められた髪形、右目に眼帯を着けたミドルエイジが葉巻を燻らせながら口を開いた。

 

「どうしてこんな所にテレポートさせられたか――そんなことが聞きたいわけではないようだな」

 

「確かにそれも我らの帰還の為には必要なことだろう。だが、アルベルト。お前はあの御方を置いて本当にこのまま帰れるのか?」

 

その問いに答えを返す者はなく、ただ葉巻の煙が空に漂う。

 

「あの御姿。あまりにも似すぎている。十傑集が突然謎のテレポートを受けて、その先には我らがBFの幼名と容姿を同じくする人物の存在が。余りにも出来過ぎているとは思わんか」

 

 言葉には出さないがアルベルトも考えを同じくしていた。髪の色こそ黒と違うが、あの深淵をのみ込むかのような深い瞳。そっくりだけの人物なら他にもいるだろうが、確かにアルベルトはあの少年からBFの存在を感じ取ったのだ。しかし、同時にそれを否定する自身も存在する。あの少年は人との接触に怯えているように見える。そこに我らがBFの威厳はなく、なにより本物のBF様はバベルの塔でGR作戦の進捗を静かに待っているはず。とはいえ――

 

 

「――全くの無関係ということは有り得ないだろうな」

 

「うむ。セルバンテスはどうした?」

 

「私はここさ。全く爺様も人使いの荒いことだ」

 

 空間から音もなく姿を現したのはこれもまた中年の男性。アラブの石油王が身につけていそうな白い服、カンドーラを白いスーツの上から着こみ、サングラスをかけている。その名も眩惑のセルバンテス。名前の通り幻術を主に使い、多重世界を自由に行き来できる能力を持つ。衝撃のアルベルトとも親しく、互いに盟友と呼び合うほどの仲だ。

 

「それで調査の結果は?」

 

「結果から言うと調査で得られた情報は分からないの一言だ」

 

「何? どういうことだっ!?」

 

 樊瑞から普段聞くことのない驚きの声が上がる。さもありなん、現状からセルバンテスの能力が帰還する唯一の方法だとばかり思っていた為にその落胆も大きかった。

 

「そもそも多重世界とは、一つの世界から可能性の数だけ広がった世界のことだ。わたしはその可能性の中を自在に行き来できるが、この世界のように、一つの世界として独立した世界では身動きがとれない。つまりそういうことだ」

 

「つまり我々は今までの世界から隔絶された異世界に飛ばされたというのか?」

 

「有り体に言えばそういうことだ」

 

「ふむ、弱ったことになったな」

 

 行き詰まりの状況に自然と視線が一人に集まる。

待っているのだ。命令ではなく許可を――リーダーに。

 

樊瑞は一つ咳払いをすると、改めて口を開く。

 

「各々方。これより我らは情報収集班、工作班、“護衛班”の三班に分かれ、帰還の方法が見つかり次第撤収する。それまではこのアパートを本拠地とし、逐次作戦を遂行していく所存だ。よろしいな?」

 

「うむ」

 

「了解だ」

 

「全ては――我らのビッグ・ファイアの為に!!」

 

 

同時期、世界の到る所で異変が起きる。

 

聖杯を求め集うサーヴァントとマスター

 

人知れずAKUMAを増やし勢力を増やしつつある千年侯爵

 

生徒と賑やかな日常を送る魔法先生

 

聖域にて女神アテナを守る為に闘う聖闘士

 

あるいはまだ見ぬ新興勢力

 

 

その全てが真っ赤に熟れて今にも落ちそうな、大きな紅い月を空に見たという。

 

 

 

 

 


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