十傑集が我が家にやってきた!   作:せるばんてす

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説明回です。


訪問先は気になるあのこの部屋

 

 

『緊急ニュースです。本日午後二時頃、富士山近辺の観測所で山頂から噴煙が観測されました。そして午後3時26分噴火。未だ火山灰とスコリアの噴出が確認されており周囲5kmに避難指示が出ています。登山客の安否は山頂付近の山小屋にいまだ閉じ込められているかたが数十人いる模様です。ここで中継の大槻さんに代わってみましょう。大槻さ――プチッ』

 

 聞くに耐えなくて僕はTVの電源を直接手で消した。振り返ると狭い部屋いっぱいに十傑集が密集している。皆重々しい顔で思案顔だ。さもありなん。正直僕たちがやった訳ではないけど、全く関係ないわけでもない。むしろ不用意に相手方を刺激した結果こうなったと言っても間違いないだろう。

 

その沈黙を破ったのは十傑集のリーダー樊瑞さんだった。

 

「さて残月、十常寺、ヒィッツカラルド。十傑集が3人もいながらここまでの失態を犯した訳を話して貰おうか」

 

 語気も強く明らかに今回の件に納得のいって無い様子。僕は何だか凄く申し訳なくなって、樊瑞さんに呼ばれた3人に謝罪の意思を込めた視線を送った。正直僕が庇えば一番いいのだが、怒った樊瑞さんが予想以上に怖くて部屋の端に体育座りで目立たないようにしている。

 

「ビッグ・ファイア様を危険な目に遭わせたのは確かに我等3人の責任だ。しかし今回のことは私たちの予想を超えた事態だった。それだけだ」

 

 残月さんはそれだけ言うと沈黙を守った。ヒィッツさんも今回の件で反省しているのか、頷きながら項垂れている。十常寺さんも追従する。

 

「我等この国来りて尚早。井の中の蛙大海を知らず。知小謀大なるも仕方無きこと」

 

「言い訳はそれだけか? 我等十傑集は例えどんなことがあろうともビッグ・ファイア様をお守りし、その意思を遂行するものだと思っていたのだがな……」

 

 比喩ではなく空気がピリピリする。早くこの場から出て行きたい。

 

――そういえばこの部屋僕の部屋じゃん。つまり逃げ場はないってことですねわかります。

 

「樊瑞、気を静めよ。ビッグ・ファイア様が気に中てられているのが分からないわけではあるまい」

 

「しかしカワラザキの爺様……」

 

 さすが十傑集の良心。爺様の言葉に空気が少しだけ軽くなった。

 

「今回の件で分かったではないか。我等BF団も今や少数手勢。幾ら個の力が強かろうと情報収集等、力の及ぶ範囲は限られている。今回の件もビッグ・ファイア様がご無事ならそれ以上追及する必要はあるまい」

 

「うむ、爺様の言うことは正しい。今回はという条件付きだがな……」

 

 続いて幽鬼さん。何やらまだ不満そうだが今回は許されたらしい。少し空気が和んで来たところで僕は台所に立つ。道中人の間をコソコソと動きながらやっと辿り着くとお茶を入れる準備をする。セルバンテスさんに代わりましょうと言われたが、普段何もやってないのでこれぐらいはお世話したいではないか。そう断ったら、せめて湯呑だけでも用意しましょうと甲斐甲斐しく手伝いしてくれた。

 

 十傑集の議論は白熱する。前回現れた学校を襲ったテロリスト、今回判明した朱雀院、玄武派という二つの組織。お互いが調べた情報を出し合って不明の部分を埋めようとするが、あまりにも分からないことだらけなので補完しようにも出来ない。十傑集はそもそも戦闘畑の人間が殆どで情報は別の諜報員や孔明さんによって伝えられる物でしかなかったようだ。知らないものは知りようがない。

 

『全く情けない限りですな』

 

突然の孔明通信にお盆の上の湯呑をこぼしそうになったけど、何とかバランスをとる。

 

『お久しぶりですね。その感じだと孔明さんは既にどんな組織か知っているんですか?』

 

『幾ら私が稀代の策士だと言っても、碌に把握できない土地の情報などある筈がないでしょう』

 

相変わらずのねっとりした口調に少し安心してしまう僕。これはだめかもわからんね。

 

『ですよね~。さすがの孔明さんでも分からないですよね。一瞬期待していましたけどそれは酷ってもんですもん。あっ、別に孔明さんを責めてるわけじゃないですからね!』

 

『…………かといって心当たりがないわけでもないですが』

 

『いや、別に無理しなくていいんですよ。分からないなら分からないと言ってくれたほうが安心しますから』

 

『あの忍野メメという男です! あの男に聞けば何かしら情報が得られるかもしれません!』

 

 普段冷静な孔明さんが声を張って主張するなんて、たまげたなぁ。とはいえ確かに良い案だ。あの怪異博士なら社会の裏にも精通していそう。この間真正面から危険て言われちゃったから何かしらの対価は要求されそうだけど、このまま何も分からないまま次の事態に巻き込まれるよりはマシだ。

 

 

 

 そういうわけで忍野さんの住む廃墟、学習塾跡に行くことになったのだが……

勿論、お守が付きます。僕としてはあまり忍野さんを警戒させたくなかったから僕+アキレスで行こうとしたのだがさすがにそれは認可できないと一同に拒否された。そして選ばれた一人の護衛が、

 

「ビッグ・ファイア様とこうして出歩くのも久しぶりですな」

 

「ん。た、確かにそうかもね」

 

 ピンクのマントにスーツ。整った渋い顔立ちに顎鬚のTHE おっさんと言っても過言ではない十傑集のリーダー樊瑞さんです。正直さっきの怒りの表情が未だ忘れず内心ちょっとびびってます。正直この人選はどうかと思う。だって樊瑞さん人一倍ならぬ十傑集一倍僕に仇なす存在に厳しいじゃないか。こっちは冷静に情報を聞き出さなくてはならないというのに……。あまり熱くなってもらっては困るな。

 

「あ、あの樊瑞さん。今回はあくまでこちらがお願いする立場だから冷静にね」

 

「相手の態度次第ですが、努力致しましょう」

 

 なんだろう、言い表せない不安が胸を覆う。相手の態度次第ってあたりがこっちの状況を把握してない気がするんだけど……後は神に祈るしかないか。

 

 学習塾中は雨漏りでもしているのかところどころ地面から苔が生えている。本当にここに人が住んでいるかも疑わしい程だ。探索すること数分、かつて教室として使われていたであろう部屋の奥に忍野さんはいた。錆だらけで台座から中の生地が破れ出ているパイプ椅子に座りながら煙草をふかしている。

 

「やぁ待ってたよ少年」

 

「い、意外ですね。次会った時はもっと敵対されていると思ってたんですけど」

 

「それはまた自意識過剰だね。危険だからといって君はナイフを手荒く使ったりするかい?」

 

たしかに、最もな意見だ。しかしこちらに敵意がないのならば僕としては好都合でもある。

 

「正直僕としてはそろそろここから出てゆくつもりだったんだけど、いろいろあってそうもいかなくなってね」

 

「その点においては残念だが、今回ばかりは間が良かったな」

 

「ちょっと、樊瑞さん!」

 

言った傍からじゃないですか! ええぃ、こうなることは予想出来ていたはず。何とか僕が舵を切ってこの場を乗り切らねばっ。

 

「す、すみません忍野さん、今回はお話に来たんですよ」

 

「それはまた奇遇だね。僕も君と、君たちと話したいと思ってたところさ」

 

 わざとらしく口角を上げてにやけ面でこちらを眺める様子はいかにも胡散臭い。こちらを舐めているようにも見える。――いや、これは策略なのだ。余裕のある表情でこちらの感情を逆撫でして、交渉の場で優位に立とうとしているに違いない。孔明さん、あなたは僕の純粋な感情を犠牲に人を疑う心を与えたんだね(悟り

 

「では先に忍野さんからどうぞ」

 

「いいのかい? こう見えて僕は結構の修羅場をくぐって来たからね。自慢じゃないけど話のネタに尽きたことはないんだよ」

 

「ええ、構いませんよ。何時までも付きあいましょう。その代わり僕と樊瑞さんがここにいる間決して逃がしませんけどね」

 

「……少年も何時までも少年じゃないんだね。頼むから、からかい甲斐のないつまらない大人にだけはなって欲しくないな」

 

「だ、大丈夫ですよ。目の前に立派な反面教師がいますから」

 

「――参った。降参だよ。こうして下らない掛け合いに時間を取られている暇は無い筈だ、お互いにね。ここは腹を割って話そうじゃないか」

 

 ふぅ、なんとか立場をイーブンまで持ってくることが出来た。やはり人と話すのは苦手だな。正直気疲れしてしまったので後は樊瑞さんに任せよう。なんだかんだ言って十傑集のリーダーだ。忠誠心が暴走することもあるけど思考力、判断力等は僕を遥かに上回っている。

 

「それでは聞かせて貰おう。朱雀院、玄武派。この二つの名に聞き覚えはあるか?」

 

「まさか君達からその名前を聞くとはね。君たちだからこそと言うべきかもしれない。――おっと話が逸れたね。答えは……Yesだ」

 

「それで詳しい情報は」

 

「――その前に何故、何処でその名を聞いたのか教えて貰ってもいいかい?」

 

 樊瑞さんがこちらに視線で同意を求めたので僕は軽く頷いた。そもそも富士山の件はこちらも分からないことばかりなので、事情を説明してこうなった訳を教えて欲しいぐらいなのだ。隠す必要などあろうはずもない。

 

樊瑞さんの口から語られる内容は当事者の僕からしても明らかに疑わしい類の話だったが、忍野さんの表情は真剣で時折納得がいったとばかりに頷くこともあった。

 

「なるほど。ここ数年で大分状況が進んでいたみたいだ。それにしても君は次々と厄介事に巻き込まれるな。阿良々木君といい君といい、ひょっとして勝負でもしてる?」

 

 するわけねーだろおっさん。大体僕は被害者なんだっ! 阿良々木君みたいに毎回何だかんだ可愛い女の子と親しくなるような嬉しいご褒美なんてものはないし、大抵十傑集に巻き込まれているだけだから! あ~どっかに可愛い女の子でも落ちてないかな(清廉潔白

 

「事情は説明した。次は貴様の番だ」

 

「分かったよ。どうやら今回の件においては、君たちは被害者のようだ」

 

 

 

 朱雀院と玄武派。

 

この二つの組織の歴史は長い。まず朱雀院。

 

 名前の通り元々は平安時代に天皇の累代の後院として有名な建物だ。天皇の住まう大内裏に次ぐ大きさから転じて天皇の右腕として政治、宗教、戦争、それらに干渉していたと言われるのが朱雀院と呼ばれる組織。現代でも強い影響力を残しており、報道機関や警察機構にも関係者が多くいる。

 

 主に京の陰陽師や公家の流れを汲む者たちによって構成され、その秘伝は絶えることなく継承され続けている。

 

 それに対して玄武派。

 

 こちらも四神繋がりなのは一緒だが、創設者が朱雀院とは異なっている。全ての武人のトップである征夷大将軍が影から朝廷を支配することを目的に設立された。政の側面が強い朱雀院に比べ、玄武派は実動部隊としてより特化している。忍や武士を中心に幾人の権力者を暗殺し、徳川の世には確固たる地位に着いたが、近年その力は衰退しつつある。

 

 

「風の噂で玄武派の残党が何やらきな臭いことを企んでいるとは聞いてたけど……まさかここまでするとはね」

 

 

…………あれ? ビックリカメラのプラカードを持った人がまだ出てこないな。救いを求めて樊瑞さんへと視線を向けると真剣そうに何やら考えていた。そういえば貴方もそっち側の人間? でしたね。いや、待てよ。普通に考えると忍者や陰陽師、侍なんてもういないが、十傑集という非常識が現実存在するなら十分実在していてもおかしくない。エイリアンや吸血鬼も実在するかもしれないし、下手をすると二次元の存在すら……夢が広がって来たな。むしろもう社会の底辺である僕の時代だな(過信

 

「忍野とやら。貴様の話が本当なら納得のいかないことがある」

 

「なんだい?」

 

「目的は違えど奴らの護国の意思は共通だろう。何故日ノ本の象徴たる富士を噴火させようとした?」

 

これは憶測でしかないけどと、忍野さんは前置きして説明した。

 

「明治維新で権力争いに敗れた玄武派は関西圏に左遷され、朱雀院は現代の中心地である東京等の関東圏を勢力地にしているらしいんだ。つまりそういうことだよ」

 

「なるほど」

 

ん? どういうこと。樊瑞さんは分かったようだけど誰か僕に分かりやすく教えてプリーズ。何度もチラ見を繰り返していると、さすがに見るに見かねて樊瑞さんが説明してくれた。

 

 まず単純に東京と富士山の距離は近いということ。偏西風によって火山灰も首都圏に降り注ぐこともあり、首都機能の麻痺も狙える。実際麻痺とまではいってないが、東京の交通機能はかなり停滞している。それに朱雀院の立場と取って替わろうとしている玄武派からしてみたら国家転覆の狼煙としては最適だ。

 

「ということは?」

 

「近くこの二つの組織が激突することになるだろうね。君達も血気盛んな玄武派にあれだけのことをやらかしたんだ。何か動きがあってもおかしくないかもよ」

 

「我々のビッグ・ファイアには指一本触れさせんわ」

 

「そう期待してるよ」

 

「あ、あのもう一つ聞きたいことがあるんですけど……」

 

 僕は学校を襲ったテロリストの話をした。意外なことに忍野さんは困ったような顔で頭を掻く。頭垢がこっちに落ちないか不安で仕方ない。

 

「阿良々木君も同じようなことを言ってたけど、その件については僕も語ることはそうない。なんせ仕事で出かけていたからね」

 

「え~。忍野さんにしては抜けてますね」

 

「僕の本業は情報屋じゃないからね。餅は餅屋さ」

 

 さりげなくこれ以上は頼るなとのお言葉。確かに僕も敵意が無いことに甘えて頼り過ぎていた節がある。十傑集然り、そろそろ自立しなきゃな。チョコとアキレスの毛並みからは何時まで経っても自立できる自信は無いけど。

 

 さて結構長居したからそろそろお暇しようか。いつまでも廃墟に居たくないってのもあるけど、前会った時以来忍野さんはあまり一緒にいたいキャラでもない。名前の通り可愛い幼女だったら少しは考えるが、もう僕の中では忍野メメって名前から可愛い印象は浮かんでこないしね。

 

「そ、それではそろそろ失礼します。色々とありがとうございました」

 

「今度会う時は怖い付き人は抜きがいいかな」

 

「――抜かしおって。貴様はビッグ・ファイア様によって生かされているに過ぎん。それを忘れないことだな」

 

「どうだかね。年をとると忘れっぽくなってしまって――困ったもんだよ」

 

 いい大人がいがみ合うのを横目に僕は帰路を急いだ。これ以上ここにいても得るものはない。むしろ濃い男に囲まれて、僕が学校生活で溜めてきた癒しの羽川成分が失われていくだけだ。

 

「あ、少年」

 

後ろで僕を呼びとめる忍野さんの声がしたが勿論無視。

 

「貸し一つだよ」

 

 耳元でそっと言われたような気がして思わず身震いした。ゆっくり振り返ると胡散臭そうな笑みでご満悦の様子。本当どうも忍野さんとは合わない。きっと相手も同じことを思っているのだろうけどさ。

 

 


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