十傑集が我が家にやってきた!   作:せるばんてす

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展開が早い気がする(汗

また時間を見て書き直そうかな


少女と少年

 

 

 せっかくのGWだというのにその日は朝から雨だった。十傑集は朝から何処かに出かけていて久しぶりに静かな午後だ。こんな日は有意義に惰眠を貪るに限る。何度目かの二度寝で気付けば既に辺りは真っ暗だった。一日を無駄に過ごした後悔と十二分な睡眠による軽い酩酊感に包まれながらも、身体は食事を求めていた。ちょっと遠いけどご飯も炊いてないし、コンビニまで行こうかな。

 

 雨はやみ、霞んだ星空だが見慣れた景色にホッとする。少し冷えるが上着をとりに帰るのも面倒なのでそのまま自転車に乗りこむ。着くころには体も温まるだろう。

 

 交差点を曲がり坂道を立ちこぎで駆けあがると息も上がってくる。深夜も2時。人通りも少なく見慣れた景色でも不気味に思えてくる。早いところコンビニに行こう。途中、高架下の暗がりで悪そうな若者の集まりの姿も見つかり、ペダルをこぐ速度はどんどん速くなる。そういえばここらへんはクラスメイトが話してた悪の溜まり場ではなかっただろうか?

 

誘蛾灯のバチッという音も不吉な前触れに感じた。

 

 そこで僕は見てしまった。見るべくして見てしまった。何かの影が縫うように若者たちの集いへと一人一人接触すると不意に地面へと倒れていく姿を。何が起こっているのかは分からないが、『逃げなきゃ』それだけをただ思って足が動きだす。手汗でグリップが滑ってしまいそうになるが根性で握り続ける。不味い、拙い。

 

目で見なくとも、音を聞かなくとも背後からこちらを追っているのが分かる。粘着質な視線で絡みとられているかのように体が重く、手足の先が震えてきた。

 

「あっ!?」

 

 ついに手が滑って、体全体に走る衝撃。身動きどころか息一つできない。後ろの方から自転車のタイヤが空回りする音が妙に空しい。だがそれも謎の襲撃者の一撃で愛車は頭上を飛び越し、電信柱にぶつかってぺしゃんこになった。

 

「残念だったにゃ~人間。ま、お前は良く頑張ったよ。俺の存在を感じ取って直ぐに逃げ出す辺りは良い勘してるけど、何分相手が悪かったにゃ~」

 

女性の声が近づいてくる。恐怖は実体を持って現れた。

 

「た、助けて……お願い、します」

 

「何言っているのか分からないにゃ」

 

 歯茎が震える。今まで他人に恐怖を抱いてきた僕だが、自分の命が他人の手で握られているということをここまで強く実感したことはない。恐ろしかった。強く生を実感した。

 

そして生きたいと願った。

 

 ここまでの危機に際してようやく僕は生きたいと初めて思えたのだ。言ってしまえば今までの僕は死んでいた。日々をただ苦痛として生き、いつ死んでもいいとさえ思っていた。

 

 どこか他人事のように自分の人生を考えていたのだろう。そうすればあまり傷つかなくて済むから。命を強く感じ、自身という存在を強く認識できた僕の心に浮かんだのは後悔だった。あの時こうしていたら、今となっては取り返しのつかない話だが、それでも悔いることはあまりにも多い。日々がくだらないと文句を言う暇があるなら、まず何かしら行動に移してから不平をこぼすべきだった。僕にとってまずは――友達作りとか。

 

「委員長ちゃん。随分愉快な恰好しているね。おじさん正直ショックだな~、君みたいな子がそんなはしたない恰好するなんて。いや、君のような子だからこそなのかな?」

 

 目の前にサンダルにすね毛の生えた脚が現れる。見上げるとこれもまた最近見慣れてきたおじさんがそこにいた。おじさんとはいってもレッドさんぐらいの歳だろうか。短くツンツンに尖らせた金髪にアロハシャツ。見るからに怪しい、見る人が見れば一発職質コースって感じだ。ん? それは十傑集もか?

 

 なにはともあれこの人は襲撃者の知り合いらしい。もしかして助けてくれるかも? 見ず知らずの人に助けを求めるなんて今までの僕には出来なかっただろうが、今はとにかく生きて難を逃れたい。

 

「お、お願いです。た、助けて」

 

「嫌だね。そんなこと言ってる暇があるならさっさと逃げた方が賢明だよ少年」

 

ガーンだな……出鼻を挫かれた。

 

「またお前かにゃ? 飽きずに良くもまぁ、結局は暇人にゃんだろ?」

 

「女の子を落とすためには懲りずにアタックすることが大事でね」

 

 足は麻痺して動けないので手だけでこの場から急いで離れる。後ろからもはや人間の出す音じゃない破壊音が僕を急かす。足が動くと気付いた時には既にアパートが見えていた。

 

「……なんだかなぁ」

 

 アパートには僕の部屋以外全てに灯りがついていた。いつの間にか十傑集も帰ってきたのだろう。空も薄らと白けてきている。ジーンズの埃をはらって軋む階段を上ると、あまりにも日常的な風景に胸の内が暖かくなる。ああ、僕は生きているんだな。

 

「ふ~ん、ここがお前の住処か。貧相な見た目にそぐわずボロっちい小屋だにゃ」

 

「大きなお世話――って何故ここに!?」

 

「そんにゃの決まってるだろう? あの男をサクッと返り討ちにしてお前の後をついてきただけだぜ」

 

そこで僕は初めてその襲撃者を真正面から目視した。

 

一言で言うなら猫だ。というか猫の耳と尻尾を着けてコスプレした女性がそこにいた。しかも黒の下着姿で、しかも黒の下着姿で。

 

 なんというか、僕は命の危機にあって生きることの素晴らしさを実感したわけだが、この我儘ボディを目の前にして僕は再び生きることは素晴らしいと思った。結論:生きてればいいことある。

 

「隙だらけにゃ」

 

 気付けば目の前に女性の口が広がっていた。血の付着した犬歯が、生臭い匂いが死への現実味を僕に呼び戻す。そうだ彼女は紛れもなく化け物なのだ。人から一方的に搾取し、明確にどちらが強者でどちらが弱者なのか子供に諭す為の空想の存在。人というのは本当にか弱い存在だと気づかされる。

 

…………ん? 何も起きない?

 

 これだけの時間があれば、あの化け物であれば僕の頭を丸呑みにしてもおかしくないというのに。恐る恐る目を開けてみるとそこにはかなりシュールな光景が広がっていた。

 

「女。筋一つでも動かしてみろ。生まれてきたことを後悔させてやるわ」

 

 女性は周囲を十傑集に取り囲まれており、首はアルベルトさんの今にも爆発しそうな赤黒い衝撃波に、上半身は七節棍、あるいは蟲、針、忍刀。とにもかくにもオーバーキルにも程があるんじゃないかと思うほど過大な戦力が一人に集中していた。

 

ウゴゴ、人とは一体? か弱い? 弱者? あれは一部の例外だから(震え声)

 

 猫さんはさすがにこの状況ではどうしようもできないと悟ったのか、冷や汗をかきながらも隙を見て逃げ出そうとしたけど、樊瑞さんが何か呪を唱えるとあっさり気絶した。それだけなら110番をして終わりだったんだけれどその後が事態を複雑にした。

 

 気絶した猫さんの白い髪の毛は根元の方から黒毛へと変わっていき、耳と尻尾も引っ込みただの女の子の姿へと変貌したのだ。いや、正確には戻ったのか。その子は長い髪の毛に黒の下着姿と普段見慣れない姿ではあったが、確かに僕の知る羽川 翼さんだった。

 

「猫の化生にでも憑かれたのでしょうな」

 

 樊瑞さんの顔には理解の相は見えたものの、助ける気は一切なさそうである。それは他の面々も同じようで、そのうち結局始末はどうするなんてことも聞こえてくる始末だ。僕としては……正直まだ心の整理ができていない。未だ襲ってきたのがあの羽川 翼さんであるとか、化け物が本当に存在するとか、非日常が一気に押し寄せてきて現実味があまり無くなっているのかも?

 

 けれど、これだけはハッキリ言える。僕の目の前で眠っているのは何の害もない女子高生だ。そんな彼女が猫の化生とやらのせいで人を襲う化け物と化しているのなら、助けてやりたいと思うのも実に人間らしい勝手な考えであって――僕はそんなエゴを……貫いた。

 

「ねぇ樊瑞さん。この子助けられないかな?」

 

「しかし、この女はBFを襲ったのですぞ!」

 

「そ、そこを何とか」

 

「う~む」

 

「樊瑞」

 

樊瑞さんに一声かけたのは幽鬼さん。最近常に一緒にいることもあってか心強い。

 

「我らがビッグ・ファイアがこの女を憎からず思っていることは分かります。だが、私は貴方様の為にあえて言いましょう。この女は始末するべきです」

 

「えっ? そ、それは何でですか!?」

 

「この女の思考は恐ろしい。私のテレパシ―に対応し疑似思考を3通り巡らすばかりか、十傑集が一人マスク・ザ・レッドの潜影術に気付く洞察力。今はまだ直接的な戦闘能力こそないものの、この者の下にそのような駒が出来れば面倒な存在になる。かの諸葛孔明を思わす策謀家よ」

 

「まさか、それほどの者とは……」

 

「そのような智力は子供の持つようなものではない」

 

 なんだかよくわからないが、とにかく羽川さんが凄いということは伝わった。突っ込みどころは色々あるが、まず始末とか戦闘とか物騒な発想しかこの人たちは出来ないのだろうか? うん、できないだろうね(自己完結)

 

「しかし、それだけの智力を持つのなら逆にこちらに引き込んでみるのはどうだ?」

 

 学帽とマスクを一体化させたような被り物を着けたおじさん:白昼の残月さんの発言に周囲がどよめく。

 

「到底上手くいくとは思えんが――」

 

「――しかし、ここで恩を売っておけば率先して敵対することもあるまい」

 

「それだけでは十分とは言えんな。何か釘を刺しておく必要があるだろう」

 

 議論が白熱する。僕としては羽川さんさえ助かればいいので後のことは十傑集に任せようと思う(丸投げ)

 僕も命の危機が間接的にとは言え羽川さんによって引き起こされたことに何も思わないことはないので、それが必要な処置だというのなら黙認するつもりだ。あまりエグイのは僕の精神衛生上NGだけど。勝手に救って、勝手に釘を刺して。全く人間らしくて嫌になるね。

 

ピンポ~~ン

 

 軽く鬱になっている所に拍子抜けする音が玄関からする。アパートの年季が入ってるので脱力するような上擦った軽い音しかしない。十傑集は議論に熱中しているので隙間を縫いながら玄関に向かう。

それにしても羽川さんが寝ているから余計狭く感じるな。

 

ピンポ~~ン

 

「はい、どちらさまで……すか?」

 

「やぁ、さっきぶりかな」

 

またオッサンかよ。

 

 

 

 

 

 例の金髪オッサン。僕が羽川さんに襲われていたところに現れた彼の名前は忍野 メメというらしい。見た目に反して随分可愛らしい名前だこと。何でも羽川に取り憑いた怪異と呼ばれる化け物の専門家らしい。何でも羽川さんの件で話があるとか。しかし唯でさえ狭い部屋にこれ以上の増員はアパートの床が抜けてしまう恐れもあるので、羽川さんが寝ている部屋とは別に爺様のお部屋に移動することに。爺様の部屋は新品の畳の良い匂いに包まれていた。部屋の中は桐箪笥に炬燵と実に落ち着く。

 

 爺様。今度個人的にお邪魔していい? 喜んで? ありがとう!

 

 部屋の中には羽川さんを治せるかもしれない樊瑞さん、部屋の主である爺様、僕の護衛を名乗り出た眩惑のセルバンテスさん、訪問者忍野メメさん、そして何故か僕。これ僕いらないよね。羽川さんと同じ学年だけど関係者ってほど親しくもないし。

 

「いきなりお邪魔して悪かったね」

 

「い、いえ。僕は構わないんですけど……」

 

チラッと爺様を横目に見ると、気にしてないと言わんばかりに黙礼で返してくれた。

 

「僕は回りくどいのが嫌いでね。単刀直入に言わせてもらうよ。あの委員長ちゃん。羽川 翼の身柄をこちらで預りたい。勿論謝礼は弾むよ」

 

何を言っているんだこのオッサンは?

 

「若造。目上の者にその口の聴き方は感心せんな。まずは礼を覚えて出直して来てもらおうか」

 

「生憎こればっかりは性分でね。気分を害したのなら謝るよ」

 

「……そうだね。こちらも何の説明もなしになんて虫がいい話だ。長い間生きているとつい簡単な方に靡いてしまう。説明させてもらえないだろうか?」

 

 

 

 忍野さんの言うところによると羽川さんは4月29日に一匹の猫の死体に出会ったらしい。それは怪異である『障り猫』であった。死んだ猫の姿をして埋葬した人物に取り憑き、宿主のストレスを人を襲うことによって発散・解消しようとするらしい。それだけなら本人にとっては良い怪異なのかもしれないが、憑依した状態は『障り猫』にとり込まれる恐れもあるらしく人格さえも無くなってしまうかもしれないそうだ。

 

「肝心の対処方法についてはストレスを発散させるか、『障り猫』の力そのものとなっているストレスを抜き取るしかないんだけど、僕にはその手がある――というかツテがあるというべきか。ここはどうか任せては貰えないだろうか?」

 

 忍野さんの言うことが本当ならば、任せてもいいんじゃないかと思う僕自身に驚いた。普通ならこんな怪しそうなおじさんを信じるのはおかしいのだろうけど――胡散臭くはあるものの、嘘はついていない。そんな気がする。しかし樊瑞さんはそうは思わなかったようで

 

「話にならんな。そもそもお前が術者であるかどうかも怪しい。それに例えお前の言うことが本当であったとしてもあの女を渡す理由にはならん。どうかお帰り願おうか」

 

「……最後に一つだけ聞いてもいいかい?」

 

「何だ?」

 

「君ならあの子の怪異を祓えるのかい?」

 

「それを聞いてどうする」

 

「オッケー。確信が持てたよ。じゃあね少年」

 

 そう言い残して煙草を咥えながら忍野さんは去って行った。結局あの人最後まで火を着けなかったな。苦虫をかみつぶしたかのような表情の樊瑞さんが印象的だった。

 

 結局のところ樊瑞さんの仙術とやらで一時的に『障り猫』を祓うことは出来たらしい。幸いなことに羽川さんは人間の姿に戻れたので『障り猫』に取り込まれるまでは行ってなかったみたいだ。だがそれも一時的な対処らしく、また過大なストレスを背負うと現れる可能性は十二分にある。ストレスの原因であるストレッサ―をどうにかしない限りどうにもならないので、結局彼女次第ってことだ。

 

 羽川さんが目覚める前に彼女の家の前まで幽鬼さんが連れていくのを見届けると、僕はドッと疲れが胸の内に溜まっていることに気付く。爺様がそれに気付くと僕の部屋まで送ってくれた。もう二、三度瞬きすれば完全に堕ちてしまいそうな眠気に包まれながら爺様が何か言っているのを聞いた。

 

「ゆっくりおやすみなさい。もう心静かに休める期間はあまりないのですから」

 

 

 


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