十傑集が我が家にやってきた!   作:せるばんてす

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今回は難産だった。真面目にプロット書く必要性があるな(今更


少年の始まりの日

 

 僕にとって長いGWが終わった。しかしそのおかげで――というかそのせいでGW前の僕とはもう違う。まず第一に目標が出来た。友達を作るという大きな目標だ! もう高校3年で今更と思わないでもないが、高校最後の年だからこそ素晴らしい青春を送りたいのだ。

 

 幸いなことに今日は1限目から体育でドッジボール。休みの間に少しは鍛えたし、普段あまり目立たないようにして隠している実力を見せつければ→『おっ、あいつやるじゃん』→『キャー。山野君カッコいい。付き合って』→学生時代は酒池肉林のハーレム→成人後、彼女たちの家を回り養ってもらいながら過ごす。

 

おいおい。どうしよ僕に残されているのは栄光の道しかないじゃん。

 

困ったな~(棒読み)

 

「へぼぁっ!」

 

 

 

 

 

 

 

 目立つということには成功した僕だが、これじゃない感が強い。頬にドッジボールの直撃を受けた僕は流れるように保健室へと連れられてしまった。そしてボールを投げた相手も付き添うようにして傍にいるわけだがものすごく気まずい。

 

「本当にすまなかった。え~と山里だったっけ?」

 

「い、いや山野です」

 

 何を隠そう阿良々木君だ。昨日の今日で阿良々木君にまた会うとは……昨日はスル―していたけど同じクラスだから羽川さんとも仲良いみたいだし、ひょっとして付き合っているのかな? 少し気になる。

 

「あのさ、昨日のことなんだけど……」

 

「うん?」

 

「……やっぱりいいや。それより忍野には気を付けろよ。あいつに関わると碌な事にならないぞ」

 

 その忍野さんと親しそうに深夜建物から二人で出てきたのは阿良々木君、あなたなのですがそれは? 字面だけだと犯罪臭が凄いな。ひょっとしてそっち側の人なのか!? 忍野さんに関わるなとは自身こそが真の恋人だから近寄って欲しくないというジェラシーなのか!?

 

 僕は神妙な心持ちで頷いた。安心して。僕は女の子が好きだから――でも決してそういう人たちを馬鹿にしてるわけでもないからねっ!

 

阿良々木君も満足そうにほほ笑む。

 

「ボールぶつけておいて言うのもなんだけど、山野って意外と丈夫なんだな」

 

冗談っぽく言う言葉に思わず苦笑してしまう。

 

「こ、こう見えても少しは鍛えているからね。まぁトレーナーに言わせれば話にならないレベルらしいけど」

 

トレーナー=十傑集。ドゥーユーアンダースタン? 彼らが言うには車に撥ねられてもケガ一つないのが最低限だ。ちなみに十傑集クラスになると轢こうとしたロードローラーの方が吹き飛ぶ。

 

「トレーナーなんているのか? 随分本格的だな」

 

「別にこっちから鍛えてとお願いしているわけでもないんだけどね」

 

「ふ~ん」

 

し、しまった。会話が途切れてしまった! せっかく阿良々木君と仲良くなれそうだったのに……

え、え~と話題、話題。ご趣味は? お見合いじゃあるまいし。

 

「じゃあ行ってくるよ。山野も平気そうなら戻ってこいよ」

 

「あっ、うん」

 

 行ってしまった。頬は痛くないが胸は痛い。あの時気のきいた一言でも言っていれば――いや、ネガティブになるのはよそう。今日こそは友達を作ってボッチ人生からおさらばするのだ! そうと決まれば行動あるのみ。残りの時間は作戦の計画に充て、次の数学で挽回する。自ら挙手して数式を華麗に解き注目を釘づけにするのだ。

 

「見える。見えるぞ。僕の青春が!」

 

 

 二時限目。髪を7:3に分け、厚いレンズの眼鏡をかけた教師の錦戸が教卓に立つ。声も小さいしどうも暗い印象が絶えない――と僕に言われるのは錦戸にとって不本意だろう。今までの僕ならそうだったかもしれないが今日からの僕は違う。残念だったな錦戸先生、一歩先に高みへ行かせてもらおう。授業は粛々と進んだ。錦戸の授業は教科書を淡々と読み上げて時折思い出したかのように生徒に問題を解かせる、どこぞの有名大学受験予備校の講師にこっぴどく叱られそうなタイプである。しかし世の中そういう教師がほとんどであることはもう全国的な共通認識であって、結局のところ生徒がどれほど自習できるかで成績は決まってくるわけだ。何を隠そう僕も自習タイプの人間である。

 

教師に分からないとこを聞きに行くのすら億劫な僕には自習という手しかなかったともいえる。

 

閑話休題

 

 まずは僕が錦戸の問題に答えられるか、それが問題だ。今の教科書の進行から問題に出されそうなところを計算して予め解いておく。すると「あ、この問題。進○ゼミでやったとこだ」と、安っぽい付録漫画のようにスラスラ答えられるわけだ。問題は緊張して頭の中が真っ白にならないかということ。誰も手を上げない中、自ら手を上げわかりませんではこの先学校生活では日の目も見れなくなる。

 

「では、この問題分かる人は?」

 

来た。震える手をもう片方の手で支え上げる。錦戸は珍しい物でも見たかのような顔をした後、

 

「では山野」

 

コツコツ

 

 ローファーが床に響く。教壇にまで立った僕の背中は既にじんわり汗ばんでいた。ズボンの裾で汗ばんだ手を拭い、チョークを手に取り黒板に答えを書き込んでいく。途中式が無いと減点される場合もあるので一つ一つ慎重にだ。そして何度も見返しておそらく完璧な答えを僕は完成させた。錦戸と目線が合うと静かに頷く。間違いない。

 

「はい。よくできましたね」

 

バーーンッ!

 

 突然校舎に鈍い銃声が響いた。それ自体は陸上部のスタートの合図でよく聞いているから特に何も思わなかったが、その後に響く甲高い叫び声が不穏なものにする。何が起きたんだろう?

 

 うちのクラスだけでなく隣のクラスでも騒ぎ始めているようで、隣からは教師の大きな声が聞こえる。そこで我に帰ったらしい錦戸も同様に生徒へ一言注意を促す。ことなかれ主義の錦戸らしく、教室の廊下の窓を隣の体育教師が駆けて行くのを見送ると再び授業を始める。この流れで僕の事はすっかり忘れさられてしまっているんだろうな。

 

 そんなわけですっかり不貞腐れてしまった。窓際の席であることを生かして外の景色を眺める。運動場のトラックには誰の姿も見当たらなかった。ん? じゃあさっきの銃声ってまさか……

 

再び銃声。今度はまるで機銃掃射のように長く続いた。教室は息を呑むような声で埋め尽くされ机の下に隠れる者もちらほら。僕? 固まってましたが何か?

 

 さすがに今度ばかりはおかしい。生徒は未だ目に見えない恐怖が実体化する前に逃げ出そうとするものもいれば、緊急放送がないことはおかしいと訴える自称常識派もいた。焦りと恐怖、それを抑えつけようとする理性との板挟みでそろそろ収拾のつかない事態になっていた。

 

 こんな状況で言うのはあまりにも不相応なのは十二分に分かっているが、あの……催してしまいましてね。今朝食べた納豆が悪かったのか? アキレスとチョコを競うように食べたせいか? なんにせよお腹の具合がよろしくない。こっそり、ひっそり教室から抜け出した。普段から影の薄い僕だからこそできる技(ドヤッ

 

たしかっ三階のトイレは今故障中で使えないはず。二階に急ぐしかない。

 

お腹が痛い今あまり体に衝撃をかけるのも悪い。競歩の選手のようにゆっくりと、でも大胆に道を急ぐ。階段を駆ける足音が反響する程二階は妙に静かだった。廊下に出てその理由も分かる。

 

 小銃を持った軍服姿の男が2人廊下を巡回していた。咄嗟、頭が反応するより先に体が動いた。階段と廊下が垂直に交わり、ちょうど交差点で言う角に速やかに隠れる。

 

ゆっくり時間を数えて1、2、3、4、5。……ふぅ、幸い今の所は気付かれた様子はないが、いつまでもここにいるわけにもいかない。あいつらの正体、目的。色々と気になるところだがそれ以上に切迫した問題がある。奴らの先にトイレはあるのだ!

 

グーギュルルル

 

 ヤバい。もうヤバい。社会的尊厳を失ってしまいそうだ。例えこのまま隠れて生き残ったとしても精神的には死んでしまう。友達を作って遅い高校デビューを果たそうとしている僕にとってそれは何よりも避けなければならない! だったら――僕はこの命を懸けよう(キリッ

 

 床を強く蹴って僕は飛び出した。走る痛みを堪えながら奔る。もうこのシチュエーションだけで大作を一本書けそうな気持ちだ。相手方は最初こちらを見て驚いた様子だったが、線の細い少年が何の武器も持たずに突っ込んでくると知ると笑いだした。

 

聞いたことのないニュアンスの言葉だ。外国人だろうか?

 

 一人は銃を背にかけて僕を取り押さえる為に両手を突き出して待ち構える。僕一人に弾を使うのは勿体ないと考えたのか? それとも確実に仕留める為にあえて接近戦に持ちかけたのか? どちらにしろ侮ってくれるのはおおいに結構。しかし、ここで予想外なことがおきた。廊下の反対側から誰かが飛び出してきたのだ。あの特徴的な鬼太郎ヘアーは阿良々木君か!?

 

 あろうことかこちらに向かって突進してくる。阿良々木君の目的はこいつらなんだろうか? さすがにそれはあまりにも無謀だ(棚上げ) 僕を取り押さえようとしていた兵士はさすがに二対二の状況になるのはおもしろくないと考えたのか、背負っていた小銃を構えこちらに向ける。距離は7m。逃げようにも近すぎるし、飛び込みようにも遠すぎる。絶体絶命ってやつだ。

 

「アキレス!」

 

 僕の影から雄々しい黒豹が飛び出し、兵士の腕に噛みつき瞬く間に無力化する。全く僕には勿体ないくらい頼りになる相棒だ。阿良々木君の方も気を取られた兵士の頬を殴り抜いた形で僕達とすれ違う。その時一瞬目が合ったがお互い何も言わずに去っていく。これこそが男の友情ってやつだ。友情ってやつなのか? 友達がいないのでよくわからないがきっとこういうのが友情なんだろう(適当) まぁ僕の行き先はトイレなんだけどそれは気にしない方向性でお願いします。

 

 

 ……ふぅ。すっきりしたところで問題は山積みだ。トイレの窓から外を覗くと校舎を取り囲むようにカーキ色の軍服を着た兵士が押し寄せてくる。あまりの出来事に現実感が薄く、いまいち危機感がない。しかし響く地響きと怒号は間違いなく現実のそれで……アキレスどうしよう? 『俺に言われても知らんがな』みたいに顔を背けられた。そういうのマヂ傷つく。リスカしょ。

 

――本気で心配するアキレスが可愛すぎてやばい件について

 

『なにそう心配することもありますまい』

 

孔明通信の時間の始まりか。不定期とか言ってたけど随分都合の良い時にだけ繋がるんですね。助かるけど……

 

『これもビッグ・ファイア様の日ごろの行い故のこと。まことに感謝の念に尽きませんな』

 

お、おう。せやな。そ、それで?

 

『まもなく事態は収束するということです』

 

それはいったいどういうことですか?

 

『ご自身の目でお確かめください』

 

 とはいってもそんな大きな動きは見受けられない。相も変わらずゾロゾロと兵士が校舎に侵入してきているし、この二階に兵士が辿り着くのもそう遠くない話だろう。こんな高校を襲撃してきても何も良いことなどないだろうに。

 

「ハーハッハッハッハ!!」

 

 あの時代錯誤の笑い声はレッドさん!? しかし声は聞こえても姿は無し。いったい何処に?

ゴゴゴゴゴゴッ 突然の酷い横揺れに思わず地面に膝を付ける。グラウンドの兵士は更に酷いもので大地に伏せ、誤って引き金を引く者すらいる。

 

 ここでようやく目に見える異変に気付く。グラウンドのちょうど中央の地面から土埃が大量に舞い上がっている。上からだと良く分かる。あそこを中心に辺り一帯が大きく揺れているのだ。そして事態はそれだけでは収まらない。地面は隆起し始め、見る間に校舎の屋上と同じ高さまで達する。そしていったい何時からだろうか? 円形に隆起した天辺に複数の人影がいた。全員同じスーツに同じネクタイ、顔全体を覆う赤いロードコーンのような形に口の絵柄が描かれた揃いのマスクを被った十人。十人、そう十人なのだ。――なんだか猛烈に嫌な予感がするのう。

 

「何奴だ!?」

 

この光景を見た全員の声を代弁したかのような兵士の声に思わず頷く。というか孔明さん、事態が収束するどころか悪化しているんですがそれは?

 

『……これもビッグ・ファイアの日ごろの行い故のことです』

 

こいつ全部僕に投げやがった!

 

「我らは世界征服を策謀する秘密結社BF団である。全ては我らがビッグ・ファイアの御威光を世界に知らしめる為、まずは貴様らを掃除させて頂こう!」

 

 いったい何傑集かは知らないが、僕を担ぎあげて堂々と犯罪行為をするのはNG。そんな僕の気持ちなど知らず十傑集は辺りに散って次々と兵士たちを薙ぎ倒していく。小銃の十字砲火の中を散歩でもするかのように悠々と進み、衝撃波が奔ると次の瞬間には嵐が通り過ぎた後になる。まるで子供が紙で作った兵士を一息で吹き飛ばすかのようだ。前後左右上下。物理法則が何とやらと言わんばかりに縦横無尽に戦場を蹂躙する。もはや通常の現代兵器では太刀打ちできるようなものではない。

 

 ヒィッツさんが兵士に囲まれる中素敵なダンスを披露すると全てが真っ二つになる。爺様が指を振っただけで五人ぐらいが吹き飛んだ。怒鬼さんが一睨みしただけでバタバタと倒れて行く。銃弾の上に乗って辺りを針の山へと変えていく残月さん。

 

全盛期のネタが素で出来る恐ろしさ。確かに前々からおかしいとは思っていたけど、現代兵器相手に無双する様を見せつけられたらもう笑うしかない。ぐへへへへ。

 

「ここにいらっしゃいましたかビッグ・ファイア様」

 

 幽鬼さん、相変わらず顔色悪いですね。え? 僕の顔のほうが真っ青? ……ちょっと頭が痛くてね。いつの間にか校舎内の兵士も全員無力化したようで廊下は正に死屍累々といったところ。もう滅茶苦茶だよ。GWが終わり、僕にとっての日常が返ってくると思いきや、僕の日常までもが非日常に浸食されていた。今日はそんな少年の始まりの日。

 

 

 




戦闘描写とか細かく書くのはもうちょっと張り合いのある相手が出てきた時にします。

十人動かすと誰かの描写が足りないことが稀によくある。

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