あの日私はこの世界の裏側をほんの少しだけ見た気がした。
紅い月が浮かぶ不気味な夜にその月よりも赤い目、紅の双眸
と呼ぶのが相応しいあの瞳を私は一生忘れる事は出来ないだろうと思った…
私がその人と初めて会ったのはバイト先だった。
その日は朝から夕方までのシフトで私はちょうどバイトが終わり更衣室でバイトの制服から着替えて更衣室を出た時
目の前にボサボサの髪を無造作に纏めた私より少し歳上な印象を受ける青年がいた。
「ったく店長もこんな時間に呼び出すなよな!まだ眠いってのによォ〜」
ひとりでそう呟きながら無造作に纏めた髪に手櫛をかけるその人はまだ目の前の私に気付いてないようだったので声を掛けた
「あっ…あの!」
「ん?あぁ〜すまん気付かなかったわ!つか誰?」
気だるそうにしているその瞳に私がうつる
「わ…私はバイトの丸山彩です。き…今日は…もう上がるとこで…」
「ふ〜んそっか、俺は暁、大空暁。よろしく!普段は深夜から朝方までの勤務だから初めましてだね」
「はっ…はい。よろしくお願いしみゃす!」
「ん?今噛んだ?」
「あぁ〜すみましぇん!って!あぁ〜」
「そんなに緊張すんなって!つっても滅多に会わねぇのにいきなりは無理だわな!まぁ、とにかくよろしくな!」
「はい!」
そうして私達は握手を交わした。
私はその人の仕事ぶりが気になってお客さんとしお店に入る
と同じタイミングで暁さんがお店に立つと雰囲気が変わり
お手本のような接客態度でお客さんに対応していてあの気だるそうで面倒くさげな感じからは想像も出来ない程だった。
-帰り道-
「不思議な人だったな〜接客は丁寧なんだけど仕事とは別で一線引いてる感じで上手く言えないけどやっぱり不思議な感じとしか言えないけどさ」
あの人の事を考えながら私はのんびり家路を辿った。
それから数日後
その日は夕方から夜までのシフトで私はいつもより帰りが遅くなってしまった。
「なんか不気味な夜…」
空には紅い月が不気味に浮かんでいる
「なんか今日は不気味だしなんか怖いし早く帰ろ!」
そう言って家路を急いでいたらふと路地裏に気配を感じた
「な…何!?人の気配とは…なんか…ち…違う」
私は一応アイドルだし危ないファンももちろんいるけどそういうのとは全然違う危険で妖しい気配を強く感じた。
私は危ないとわかっていてもその気配がある路地裏をこっそり覗いてしまった。
そこには首から血を流して倒れている女性ともう1人、男の人がいた。
「な…何!?…あ…あれ…」
私は全身に鳥肌が立ったのと同時に震えが止まらなくなった
「わ…私…もし…かして、さ…殺人事件の現場に出くわしちゃった!?」
震える声で小さな声で呟いた
「どうしよう…逃げないと…いや…でも…警察!?」
私がその場から逃げるのが遅れたのが悪いのか全てのタイミングが悪かったのかその男の人が私に気づいた
「誰だ?」
「え!?」
男の人が暗い路地裏から紅い月の下に出てくる
「え?…もし…かして…暁さん?」
「あ?お前…なんで俺の事…ってお前バイト先のJK!」
「丸山彩です!なんで名前覚えてないんですか!」
気が抜けたのと同時に思わず叫んでしまったけど問題はそこじゃない
「口から…血が…」
「ん?あ!やべ!」
彼は慌てて口元拭うと手で顔を覆いながら独り言を呟き始める
「やっちまった!たまにある事とは言えまさかのまさかバイト先の奴にバレるなんてよォ〜!でも…仕方ないな…」
彼は私の方を向いて目を閉じ深呼吸してから目を開けた。
その目は空に浮かぶ月よりも紅い色の瞳が光っていた。
「俺、人間じゃないって言ったら…笑う?」
「え!?えっと…あの…人間…じゃないって…」
「見ての通り、俺さ都市伝説とか御伽噺の中によく出てくる吸血鬼、バンパイアってヤツなんだよね…と言っても半分だけなんだけどさ」
「えっと…」
正直、話に着いていけない吸血鬼?半分だけ?じゃあさっきのあれは血を吸ってた?え?人間じゃない?わかんないけどとりあえず私は聞いてみたい…なんでそんなにも悲しそうなのか…綺麗な紅い瞳が陰る程に悲しそうな表情で私を見ているのか
「なんで?」
「あ?」
「なんで…そんなに…悲しそうなの?」
「俺はさ、俗な言い方すれば化け物なんだけどよ、人に紛れて静かに暮らしたいだけなんだよ。でも…自分じゃあ時々抑えきれない程に渇きが襲って来てな正気に戻ると酷い惨状なんてのは茶飯事でなだから、この姿を見たヤツは記憶を消してるんだ」
「記憶を…」
私は記憶を失くすのは嫌だった
「記憶を失くすのは…嫌」
「あ?なんだと?」
「記憶を失くしたくない!」
「忘れろ!今日の事も俺の事もな!」
「嫌!絶対に嫌!」
「ならどうする?俺の事は正直忘れた方が幸せだぞ」
「忘れたくないから!私の幸せは私が決めるから!」
「俺は記憶を消すくらいしか出来ないんだよ!それに何時また渇きに襲われるかわからない!」
「その渇きって抑えられないの?」
「無理だな…輸血用の血を飲んでも治まらない」
「原因はわからないの?」
「可能性ならあるが…正直俺はやりたくねー事だからこうして時々頭のイカれた連中から血を貰っている」
「頭のイカれた人?」
「あそこに倒れてんのは女詐欺師だ」
「死んでるの?」
「な訳ないだろ!ちょっと貧血にはなるだろうがな」
「あのさ!血が必要なんだよね?」
「あぁ、半分は化け物だからな」
「ならさ!記憶を消さない代わりに私の血をあげるって言ったら?」
「要らねー!最も俺が嫌う血の摂取方法だ!」
「どういう事?」
「俺はまぁ、はっきり言えば人を襲う事で血を得ているが
合意の上で血を得るってことは血の契約になるんだ」
「血の…契約…」
「あぁ、この先お前以外からの血は一切合切受け付けなくなっちまうんだよ、仮にだ!俺が死ぬ程の怪我をして血が足りなくなった時血を得られなければ理性を失い完全な化け物に成り下がる!半分化け物でも吸血鬼ってのは高貴な生き物なんだ」
「そんな…」
「それに知らないと思うか?お前、アイドルだろ?身体が命とも言える仕事なのに俺に献血なんてしてみろよ!下手したらくたばるぞ!」
「それでも!私はあなたとの!暁君との出会いを否定したくない!だからお願い!記憶を消さないで!この出会いを無かったことになんてしないで!」
「ならどうする?場合によっては血の契約に近い形が取れるけど?」
「できるの?」
「あぁ、その代わり俺を恐れることになるな!」
「どっちにしろやだよ!」
「なら忘れろ!それが一番だ!リセットだ!」
「嫌!」
「なんでそこまでする?俺との事なんて忘れたって苦でもなんでもない」
「苦だよ!せっかく知り合った人の事を忘れるなんて!」
「ハァ〜なら夢でしたってオチしかねーな」
「夢?」
「吸血鬼の力で俺が使えるのは催眠と血の操作魅了とかそ言うのは使えねえが催眠と暗示で悪い夢を見たって事にする」
「それは忘れるのとどう違うの?」
「記憶が曖昧になるだけだ」
「じゃあ!記憶が消える事は無いの?」
「曖昧になるだけだよ」
「これで終わりじゃないんだよね?」
「あぁ、多分な!つっても殆ど会うことも無いだろうがな」
「どうして?」
「バイトの時間を完全に深夜から朝方に絞るし、早くても夕方以降になるだろうからな」
「そんな!」
「決定事項だ!」
彼はそう言って紅の双眸を輝かせたのと同時に私の意識は遠のいて行った…私が出会ったのは紅の双眸が闇夜に光る半吸血鬼の男の人、大空暁君との関係が進むのはまだまだ先の話
お久しぶりです。全然他の作品投稿できなくてすいません
リアルが忙しいのと友人との共同作の方にも時間を使っていまして中々こっちまで手が回りません。
この作品は友人にバンドリを進めた際にアイドル×異形男子との恋を書いて欲しいと頼まれたので書きました。
ものすごく不定期にはなりますがこの作品も投稿して行くので今度ともお楽しみに
次回「再会、そして新たな恐怖」