森の奥の方から煙が見える。ふと覗きに行くと、村が燃えていた。ちょうど襲撃されたようだ。
そのとき、ふと体の大半が腐った少女と思わしきものが視界に入る。それが何なのか。言葉はいらない。ただ、出会えた。それだけでいい。
状況を整理しよう。立ち
そしてそこに赤く染まった剣を持って佇むフードを被ったいかにもな男。
その後ろには同じような格好をしたものが数名。気配からして前がボス、後ろが部下といった感じだろう。
ボスの男もそこまで強くはないように思える。だがそこらの盗賊とは比べ物にならない。そこそこ楽しむことはできそうだ。救出はその後でいいだろう。
気配を消して背後から部下の首を一気に刈り取る。
それに男が気付き、剣を薙ぐ。だが切り裂かれたのは空気。
「なっ……、誰だ!」
「危ないわね。レディに対して失礼だと思うわよ。それと、名乗るならまずは自分からじゃないかしら」
「ずいぶん余裕そうだな。3rdを3人殺したところでいい気になるなよ」
「ええ、余裕よ。だってあなた、弱いんだもの」
「弱い……?舐めるなよ!俺は『一騎当千』のポーン!ネームドチルドレンの力、思い知らせてやる!」
私はただ構える。構えるだけでいい。
距離を詰めてきたポーンは、間合いの寸前で動きを止める。
彼は迷った。間合いに入るか、距離をとるか。
彼は間合いを詰める選択をした。だが魔力の動きから彼の行動などはすでに読めている。
彼の動き始めに合わせて圧縮させていた魔力を解放させ、彼の首筋を撫でる。出鼻だ。
動き始めにはどうしても隙ができる。そこを狙えば攻撃を当てることなど容易である。
「見えなかった……。クソっ!まだだ!」
怒りに身を任せて斬り掛かる。
「感情的になったらだめよ」
刃の軌道を剣の側面でずらす。彼は自分の勢いでバランスを崩してしまう。
「このようにね」
先ほどより深く無防備な背中に傷跡を残す。
「ぐっ……」
彼はバックステップで間合いを外す。私は追わない。まだまだ楽しみ足りないから。
彼は構えなおす。その顔からは苦痛が感じ取れる。
私はただ歩く。彼は私の一挙手一投足を真剣に見据えている。どうやら防御に徹するつもりのようだ。
前へ、また1歩前へ。ジリジリと間合いを詰めていく。彼はたまらず、間合いを外した。悪手だ。
私は彼に合わせて一気に前へ飛び出し、腰に浅くない傷を残す。彼は徐々に紅く染まってきている。
「なにがっ、目的だっ!」
「ただそこの英雄の子孫を救いにきただけですの」
「何故知っている……。いや、貴様はっ、どこまで知っている!」
「どこまで……、そうねぇ、“全て”かしら?」
「何故手加減をしている!いや、私を死なせてはならない理由があるのだろうなぁ!ならば……、死なば諸共よ!」
そう言うと彼は懐から赤い錠剤を取り出し、その全てを取り込む。
彼の纏う気配が変わった。
「『覚醒』したのね」
「そこまで知っているのかぁぁぁ!やはり、生かしてはおけぬ!この命を失おうとも貴様を潰す!」
圧倒的なスピード、パワーが、少女に襲いかかる。虎が兎を殺すのに、小細工などいらない。
ただ、力を振るえばいい。少女を吹き飛ばし、体勢を立て直す暇もなく、ポーンの追撃が襲う。
少女はマリオネットのようにどんどん吹き飛ばされ、結果は明白に思われた。
そのとき、ポーンの肩から鮮血が舞う。少女は
「あぁあ……」
言葉にならないような恐怖が彼を支配する。
「貴様は、いっ一体……、何者なんだ」
「そうねぇ、私は、貴方に絶望を与える者。”
それと同時にポーンの体は両断される。
その一刀には濃密な魔力があった、絶大な力があった、圧倒的な速さがあった、洗練された技量があった。そして、何よりも……“狂気“があった。
「だめね、貴方。最期まで戦う意志を持たないとだめよ。オルバって人はシャドウ様に最期まで渾身の力をぶつけたの。でも貴方は途中で折れた、諦めたの。まあ、故人と故人を比べたところでって話だけれどね」
「あぁ、ゾクゾクするわ」
2ヶ月ほど経っただろうか……。
<悪魔憑き>を手に入れた日のことを思い出していた。治療は困難を極めた。この魔力の扱いにくい状態で、魔力を流し込んでいくことは非常に難しかったのだ。
だが、ああでもない、こうでもない、を繰り返して、どんどん治療に近づいていき、魔力の神髄が見えていくことに喜びを感じ、毎日上機嫌で治療にあたっていた。
どんどん魔力の制御が緻密に、繊細に、力強くなっていき、完全に制御できたとき、そこには
完全に<悪魔憑き>を治す方法がわかった今、この子はいらないのだが……、この恩は忘れない、貴方のためならなんでもできるとか言っている。
君の未来に栄光あれ〜って感じで送り出そうとしても留まっている。
「貴方の実力なら私を気絶させて放ることぐらい簡単よね?貴方はとんでもない狂気を秘めた眼をしているのよ。何故私にそうしないのかしら。嫌ならば実力行使で追い出せばいいじゃない」
驚いた。私の狂気を見抜き、その上で追い出される覚悟をしていたような、芯の太い精神……。気に入った。
「そうねぇ……、私も同じことを考えたわよ。ただ……」
「ただ?」
この子になら話してもいいわね。
「私なりの美学、よ」
「美学……?」
「貴方には見抜かれちゃったけれど、私は狂人なの。絶望を好む歪んだ女よ」
「それで……?」
「私は絶望は2つに分けられると思うの。幸せからどん底まで落ちる絶望と、揺るぎない自信が圧倒的な差によって打ち砕かれる絶望よ」
「なるほど……」
「私は後者が大好物なの。それに対して前者はもはや不愉快とすら感じるわ。貴方の幸せそうな顔を見てそれをどん底にまた落ちさせるわけにはいかないと思ったの。だから貴方を放らなかった。それだけよ」
「貴方にも人の心があったのね。それでも相当狂っていることに変わりはないわね」
「話が逸れたけれど……、私のここを見て」
私の首筋を見せる。
「なっ……、貴方も<悪魔憑き>なの⁉︎」
「そうよ。貴方を助けた理由も私の<悪魔憑き>を治すためなの」
「つまり……、<悪魔憑き>が治るって知っていたってことなの⁉︎」
「そうよ。何故知っていたかはおいおい話すとして、貴方、私に魔力を流してみて」
「魔力を……、流す……?こっ、こうでいいのかしら?」
魔力が流れてくるのを感じる。
「ええ、もう大丈夫よ。魔力の流れがわかったから、この乱れている流れを整えるだけね」
魔力の流れが緻密に、繊細に、力強くなっていく。そして完全に制御することができたとき、黒い痣がなくなっていた。
「これが……、<悪魔憑き>が治ったあと……。すごい魔力ね。さらにどんどん体に魔力が順応していくわ」
「す、すごい……」
「そうでしょう。そういえば貴方、名前は?」
「
「そう、ねえモナク。貴方は私についてくる覚悟はあるかしら?」
「あるわ。そう、たとえ貴方の進む道が茨の道だったとしても、そこに道がある限り、貴方についていくと誓うわ」
「なら、その名前を捨てなさい」
「名前を捨てる⁉︎」
「そうよ」
「失礼、取り乱したわね。答えはyesよ」
よかった。じゃあこの子の名前は這い上がるの意味を持つクロルアップから、
「今から貴方の名前はクロアよ」
「クロア……、いい名前ね。ありがとう」
一息を置いた後、
「私、クロアは、今からどんなことがあろうとも貴方についていくとここに宣言するわ」
「貴方の覚悟。確かに受け取ったわ。ならば私のことを教えないといけないわね。私はアペルピスィア。アペルと呼んでくれてかまわないわ」
「アペル……」
「表の姿は、アヤメ・シヤト。シヤト家の長女で平凡な魔剣士見習いをしているわ」
「なるほど、目立たないことによって貴方の目的に好都合なのね」
「そ、そうよ。よくこれだけの情報でわかったわね」
「貴方についていくためにはこれぐらいのことはできないとね」
「それじゃあこれからよろしくね。クロア」
「ええ、よろしく。アペル」
なんかどっと疲れた。次回も頑張って投稿します。お気に入り登録、感想、評価などしてくださるとモチベーションに繋がります!
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