シャドウ様を殺りたくて!   作:海老天 進司

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はいどうも、少しばかりテンションが高い海老進でございます。皆さんにお気に入り登録してもらえて非常に嬉しい限りです。感想もしっかりと目を通しております。モチベーションにつながっているので気楽に感想をくださるとありがたいです。


第4話 今宵も月は煌めく

「あれって、アレクシア王女と付き合ってるシドくん?」

 

「そうだよ〜。そういえば、アレクシア王女が行方不明になったって誰かが言ってたっけな?それ関係で話を聞きに来たんじゃない?」

 

「そっか。あとさ、昨日の実習の時に負けた方が明日の定食奢りって話覚えてる?」

 

「イヤチョットナンノコトカワカンナイナー」

 

「棒読みにも程があるでしょ。昨日は私が勝ったんだからカナデが奢るんだよ。忘れてるとは言わせないよ?」

 

「ちぇ〜、まぁでもこの前ミツゴシ商会のチョコをもらったしいいけどさ〜」

 

「ありがとね〜、しっかりとカナデのお金の味を堪能させてもらうね」

 

「その言い方かなり気持ち悪いよ」

 

「んな失敬な」

 

そんな他愛のない会話をしながらカナデと教室に向かう。

 

その後実習も終わり、すぐさま寮の自室に戻った。

 

扉を開けると私の心を読んでるのではないかと言わんばかりの完璧なタイミングでクロアが窓から部屋に入ろうとしていた。

 

「んぁ?ああ、アペルおかえり」

 

「ただいま」

 

「なんか嬉しそうだけど……」

 

自分では気づいていなかったが顔が綻びていたみたいだ。

 

「そうね。まぁ、それはともかくとしてクロアに命令があるの」

 

「もしかして……、やっと動き出すのかい?」

 

「そうよ。王都の裏の世界を調べてきて。どんな組織がいるのか。そいつらのアジトはどこなのかとかね。1週間後、何かが起きる。それまでにできる限りの情報を集めてちょうだい。私は最近体が鈍っているから修行をしなきゃいけないの。よろしくね」

 

「アペルがそういうならば、私は従うまで」

 

クロアはプライベートだとあの有様だが、こっちのときは公私混同をせずしっかりとしているからありがたい。

 

こちらは前世のぼんやりとした記憶ではあるが、ディアボロス教団の存在や、ある程度の展開までは知っているため動くことができるが、彼女は違う。だが、私が直接教えるのでは彼女のためにならない。

 

どこまで調べれるかはわからないが、最低限は調べることができると信じている。

 

「それじゃあ、よろしくね」

 

「了解」

 

そう返事をすると、瞬く間に闇に消えていった。

 

「わたしも、できるかぎりの準備はしとかないといけないよなぁ……」

 

スライムスーツのデザインも、戦う理由付けも、シャドウ様を倣ってかっこいいセリフも考えなきゃだし……

 

「やることいっぱい……。でも、シャドウ様と会える。ようやく会える。念願のシャドウ様。シャドウ様ぁ……。でも、殺すための下準備は終わってないし、そもそもの実力自体がどれだけ離れているのかもわからないし……」

 

いろいろ考えて考えた末に、一つの結論に至る。

 

「今できる最大限をやりきろう」

 

単純なことではあるが回り回って一番重要と言っても過言ではないと。

 

それからは、学園が終わったらすぐさま帰宅し、ひたすらやるべきことをこなし、基本から重点的に見直しつつ修行を重ねた。

 

 


 

 

建物が漆黒の一太刀に切り捨てられ、王都は喧騒に包まれる。

 

「始まったわね。この騒動に凡夫の私たちがどれだけ介入できるのかしら」

 

「私たちができる最大限をやり切るだけでしょ?アペル」

 

さながら忍者と言わんばかりの装束に身を包み、柑子色の髪の毛は静かになびき、萌木色の瞳はこの都市の全てを見据えている。

 

「ふふ、そうね。クロア、あなたも己の心の赴くままに動けばいいのよ」

 

「わかってるよ。ふむ……」

 

クロアが目を凝らす。その瞳に何が映ったのか。

 

「それじゃあ、アペル。幸運を祈るよ」

 

屋根伝いに駆け出していく。

 

「あなたもその命、無駄にしないでよね」

 

この言葉が届いたのかはわからない。だが、ほんの少し反応を示した……、ような気がした。

 

「私も動きましょうか。クロアが調べてくれた怪しげな地下水道近くのアジト、おそらくそこにアレクシア王女が囚われているのだろうけど……。信じてるわよ」

 

屋根伝いに走っていると、教団の兵士と思わしき人物たちや、シャドウガーデンの構成員であろう人々がいたが、もちろん無視である。

 

所詮は小物どもに過ぎない。シャドウ様と比べれば道端を歩く蟻未満である。

 

今回で殺せるとなど甘い考えは持っていない。ましてや、実際の実力を見た時に圧倒的な差を感じるかもしれない。

 

だが、来たる決戦の時まで、全ての準備が終わり、シャドウ様を殺す最大の舞台が整った時、人生の絶頂となるその瞬間にたどり着くために、私は動き続ける。

 

地下水道への入り口に辿り着く。下へと降っていくと長く入り組んだ通路に出た。遠くから金属がぶつかり合う音が鳴り響いている。

 

気配を消して歩く。ただ、その場所に向かって。途中から金属がぶつかるのとは違った軽い音が鳴り響くようになった。

 

おそらくはシャドウ様がアレクシア王女を窮地から救ったところだろう。急がねば。

 

「舐めるなァァァァァァァアッ!!」

 

この声はゼノンだろう。学園で一度だけ見かけたときに聞いたことがある。

 

ようやく辿り着いた。前世からずっと追い求めていたシャドウ様。ようやくお姿をこの目に入れることができた。

 

死角となっているところから戦いを見つめる。

 

「ぁあ……」

 

思わず声が漏れてしまった。あまりにも美しいシャドウ様の剣。

 

求めていたものが目の前に。

 

興奮が止まらない。これが私の到達点にして越えるべき壁。筆舌に尽くしがたいこの気持ちの昂り。堪らない。

 

そんな興奮をよそに、辺りに青紫の緻密に練られた魔力が漂ってくる。それは線となって、シャドウ様の刀に集中する。

 

ただの突きの構えである。だが全てが詰まっている。大地が震えているのか、大気が震えているのか、私たちが震えているのか。否、森羅万象が震えているのだ。

 

核に挑み続けた者の到達点。

 

「美しい……」

 

さまざまな入り混じった感情の全てが凝縮された末に絞り出した呟きである。

 

そして、穿った。ゼノンなど跡形もなく、天まで穿った。衝撃波は私のいる場所など優に超えて、王都全体を包み込んだ。

 

この身で感じたアトミックは言葉などというちんけなもので表せるようなものではなかった。

 

ようやくシャドウ様と戦うことができる。私は彼の佇む場所まで跳躍し、

 

「ごきげんよう、シャドウ。単刀直入に言わせてもらうわ。お手合わせをお願いしたいわ」

 

「ふむ。そのような宴も悪くない」

 

アレクシア王女は意識があるのかないのかわからない。ただ呆然とそのばに立ち尽くしている。

 

「ここでは、アレクシア嬢を巻き込んでしまうわ。少し場所を移しましょう」

 

「よかろう」

 

この会話が、アレクシアの記憶に微かに残った。

 

「ここでどうかしら?」

 

場所は移り王都の郊外、少し木々が生い茂るその場所で彼と対峙する。

 

「それでは始めよう」

 

その声を皮切りに戦いが始まる……、訳ではない。

 

一歩、また一歩と間合いを詰める。戦いは対話だ。剣先の動きから、呼吸の一つ一つ、魔力の動き、全てを把握した上でようやく話せる土俵に立つことができる。

 

あと半歩で間合いに入る。練り上げられた魔力を全身に循環させ、どんな動きにも対応できるようして。

 

間合いに入った。その瞬間には私が動き出す。一太刀、また一太刀と剣を振るう。だが、容易く避けられる。

 

そこまでは想定済み。ここで、剣の軌道を変える。彼の顔が少し動いた。

 

「しまっ……」

 

誘われていた。少し体勢が崩れる瞬間を。下から滑らかに彼の刀が襲う。

 

どうにか半歩引いたが、スライムを超えて皮膚を切り裂かれた。傷口からは鮮血が滲んでいる。

 

迷わず後退を選ぶ。思考の時間を最小限に収める。少しでも迷ってしまったら断ち切られる。

 

「ふふ」

 

一度距離を取ったところで思わず口角が上がる。シャドウ様……。今までに体感したことのない強さ。この壁を越えることができるのなら。どれほどの幸福に包まれるのだろうか。

 

「では、今度はこちらから行くぞ」

 

シャドウ様の方から向かってくる。殺気はない。自然な剣。だからこそ、感覚で反応してはいけない。

 

出鼻を見極めて、一つ一つを防ぐ。スライムがぶつかり合う音が辺りに鳴り響く。

 

少しずつ切り傷が増えていく。致命傷は避けているが、このままではせっかく戦っている意味がない。

 

剣の合間にカウンターを入れようとするが全て見切られている。頭では理解していた。実際に剣を交えて体でも理解した。シャドウ様の圧倒的強さ。それでも。

 

すっと、テンポを崩す。そして、そのまま連撃に繋げる。

 

「ほぉ……」

 

攻めに転じることができた。一撃一撃を繋げていく。パズルのピースをピッタリとはめていくように。途切れぬように。

 

シャドウ様が距離を取った。

 

「強いな」

 

一言つぶやいた。たった一言、されど一言。体の奥底から湧き出てくる快楽物質。全身の穴という穴からいろいろと漏れ出してくる。

 

シャドウ様に認められた。スタートラインに立つことを許された。そのことが嬉しくて堪らなかった。

 

シャドウ様、シャドウ様、シャドウ様、シャドウ様……、嗚呼……シャドウ様。

 

興奮で頭がおかしくなりそうだ。

 

「名をなんと言う」

 

「アペルピスィア。いずれ貴方を越える者よ」

 

「ほぅ……、面白い」

 

そして再び切り結ぶ。少しでも揺らいだ瞬間、終わりが来る。

 

だが、少しずつ蓄積していたダメージが何かのきっかけで一気にのしかかる。足が揺れる。ほんの一瞬の隙、当然の如く見逃されず容赦のない一振りが、私の体を深く抉る。

 

終わりが来てしまう。このままだと私は死んでしまう。それだけは避けなければならない。ようやくシャドウ様に出会えたのだ、認められたのだ。ここで終わるわけにはいかない。

 

距離を取る。これが今宵、最後の一撃。シャドウ様に勝つためには、己自身がシャドウになればいい。つまりは、魔力による核の再現の再現。

 

まだまだ、贋作で本物には到底及ばないが、この状況を切り抜けることならばできるはずだ。

 

橙色の濃密かつ緻密に練った魔力が私に集う。

 

構えは基本の正眼の構え。基本を忠実にこなす。基本は全ての原点にして頂点。これが今の私の最強の一太刀。

 

『奥義ベーシック・オブ・アトミック』

 

音を飲み込み、爆ぜた。

 

この力の奔流は留まることを知らず、天へと駆け抜ける。

 

衝撃波は辺りの木々を灰塵へと変化させ、王都全体へと響き渡った。

 

森に住む魔物たちの存在が消え去った。

 

澄み切った変わりのない星空。

 

その下で彼に一筋の傷がついていた。

 

アペルはその一撃とともに、素早くその場から駆け出した。月は、見事なまでに煌めいていた。




ふぅ……。今回はかなり個人的に執筆のカロリー消費が激しかったですね。今回は、アペル念願のシャドウ様との初対決となりました。私自身はシャドウ様を神格化しているため、書くのに苦労しました。
ここまで読んでくださった方々、良ければお気に入り登録や感想等いただけると幸いです。次回も来週の木曜日までには投稿できると思いますので、次回も良ければ読んでいただけると嬉しいです。それでは、また次のお話でお会いしましょう。
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