第七十四層、SAO開始から二年
七十四層の<迷宮区>に棲息するリザードマンロードとの戦闘を終え、帰り道を辿るナイトとキリト。過去の出来事に話を広げ、現在の拠点である、第五十層の主街区<アルゲード>に向かって歩く。
その道中、不意に聞き覚えのない獣の鳴き声がする。
ナイト「おい、キリト。あれを見ろ」
指の先には超レアモンスターである<ラグー・ラビット>が二匹も同じところにポップしていた。
キリト「・・・ナイト。一匹ずつな」
二人は顔を見合わせほとんど同時に投擲用のピックと短剣を用意し、投剣スキルの<シングルシュート>を放つ。一際甲高い悲鳴が届きHPバーがゼロになる。
キリト「ナイト、俺はあったぞ<ラグーラビットの肉>」
ナイト「俺もだ」
キリトが転移結晶を取り出すのをみてナイトはため息をつきながらも転移結晶を用意する。
ナイト・キリト「転移!アルゲード!」
アルゲードに転移した二人は中央広場を西に抜け、馴染みにの買い取り屋に足を運ぶ。店内には武器から道具、食料と色々なものが詰め込まれている。店の主であるエギルは商談の最中であった。
エギル「よし決まった!<ダスクリザードの革>二十枚で五百コル!」
商談相手の槍使いの肩を叩き、トレードウインドウを出し、金額を入力する。相手はまだ悩む素振りを見せていたが、一睨みされると慌ててOKボタンを押した。
エギル「毎度!また頼むよ兄ちゃん!」
立ち去る槍使いを可哀想な目で見るキリトを横目にエギルへ話しかけるナイト。
ナイト「エギル、俺も買取を頼む」
キリト「うっす。相変わらず阿漕(あこぎ)な商売をしてるな」
エギル「よぉ、ナイトにキリトか。安く仕入れて安く提供するのがウチのモットーなんでね」
キリト「後半は疑わしいもんだなぁ。まあいいや、俺も買取頼む」
エギル「ナイトとキリトはお得意様だしな。あくどい真似はしませんよっ、と・・・おいおい、S級のレアアイテムじゃねぇか。<ラグーラビットの肉>か、俺も現物は初めてだぜ・・・
お前ら、金に困ってねぇんだろ?自分で食おうとは思わんのか?」
ナイト「俺はいつものところにあげようと、思ってな」
キリト「思ったさ。多分二度と手に入らんだろうしな・・・ただなぁ、こんなアイテムを扱えるほど料理スキルを上げてる奴なんてそうそう・・・」
すると、背後か肩をつつかれるキリト。
?「キリト君」
キリト「シェフ確保」
後ろを振り向くとアスナ、そしてミトが困惑した表情で立っていた。
ミト「ナイト、あれどうゆうこと?」
ナイト「レア食材を扱えるシェフを探していた」
ミト「なるほどねぇ」
ナイトとミトはキリトとアスナを見ながらため息をつく。
アスナとミトはギルド<KoB>の二大美少女とも言える見た目でファンも多く、アスナはそれに加え副団長という立場もあり警護が必要であり、護衛プレイヤーが付き従っている。
キリト「悪いな、そんな訳で取引は中止だ」
キリトは無事アスナをシェフとして登用できたようでエギルの顔を見上げていた。
エギル「いや、それはいいけどよ・・・なあ、俺達ダチだよな?な?俺にも味見くらい・・・」
キリト「感想文を八百字以内で書いてきてやるよ」
エギル「そ、そりゃあないだろ!」
この世の終わりかもいうような情けない顔を出すエギル。それを無視して店を後にするキリト達。
ナイト「しょうがない、エギル、俺のをやる」
エギルはその言葉を聞いた途端こちらを見る。
エギル「ほ、ほんとか!?」
ナイト「アイテムの奴をいつもの所に届けたら作ってもらえ」
エギル「分かった!超特急で届けてくる!やったぞ!」
エギルは店を閉じ、慌てて出かけるのだった。
ミト「私もいい?」
ナイト「構わない」
ミト「ありがとう。なら、カイ、今日の護衛はここまででいいわよ」
カイと呼ばれた男はミトと護衛でとても身長が高いのが特徴的だった。
カイ「了解しました。それでは、ナイトさんミトさんをよろしくお願いします」
ナイト「任せろ」
外に出て拠点に向けて歩きだす。しかし、外では騒ぎがあったのか人だかりが出来ていた。
ミト「はあ、どうせアスナでしょ」
ナイト「それとキリトもだな。まあいい、俺の部屋でいいか?」
ミト「ええ」
ナイトの拠点はそれほど広くはないが狭くもないといった、微妙なラインだった。内装は実用的なものしかなく、私物といったものはそれほどなかった。
ナイト「汚いかもしれないが我慢してくれ」
ミト「いえ、そんなことないわよ」
ナイト「楽にしてくれ。それと、料理はどうする?」
ミト「そうね・・・シチューはどうかしら?」
ナイト「解った。それとサラダも作ろうか」
ナイトは<ラグーラビットの肉>を取り出し、調理を始める。テキパキと動き回り、五分もすれば完成していた。ナイトとミトはあまりの美味しさに一言も発することなく食べ切るのだった。
ミト「ああ・・・今まで頑張って生きてて良かった・・・」
ミトは深く長くため息をつき、外を見ながら言うのだった。
ミト「不思議ね・・・なんだか、この世界で必死になって生き残ることをしなくなってから今までずっと暮らしてきたって、そんな気がする」
ナイト「そうだな。最近は血眼になってクリアを目指すやつも少なくなった。だからだろうな、攻略ペースが落ちてるのわ」
ミト「それだけじゃない。皆この世界に馴染んで来てる・・・」
ナイト「最近は俺も、帰りたいと思ってるかすら解らない」
ミト「でも、私は帰る。絶対に。だって、やり残したことが多いから」
ナイト「そうか、なら俺も頑張ろう」
それからしばらくは雑談を繰り返しす。途中でミトは真剣な顔をする。
ミト「ナイト、あなたギルドに入らないの?」
ナイト「キリトが心配だからな。キリトが入るなら俺も入る」
ミト「でも、七十層を超えてからモンスターのアルゴリズムにイレギュラーが増してる」
ナイト「カーディナルシステムの成長だろうな」
ミト「二人だと、想定外の事態に対処出来ないことがある。せめてパーティーを組まない?」
ナイト「キリトがいいって言ったらな」
ミト「今頃、アスナが勧誘してるはずよ」
ナイト「だろうな。多分キリトが下手なことを言って言質を取られるんだろう」
ミト「決まりね。今日の夜アスナと共有しとくわ」
ナイト「護衛は?」
ミト「私の護衛は話が通じる、アスナの所と違ってね」
次の日午前九時、七十四層の広場でナイトとキリトはアスナとミトを待っていた。
キリト「来ない・・・」
ナイト「そういうな、待つのも男の仕事だ」
キリト「そういうものか」
現在、九時十分。迷宮区に向けて出発している攻略組も多い。すると、転移門からテレポート光が発生する。期待せずにゲートに目を向けるキリト。その瞬間、地上から一メートルはあろうという空中に人影が実体化し、ナイト達に向かって吹っ飛んできた。
アスナ「きゃああああああ!よ、避けて!」
キリト「うわあああ!?」
キリトとアスナはぶつかり、ナイトとミトは、上手くナイトがミトを空中でキャッチする。後ろでアスナの叫び声が聞こえ、キリトが更に吹っ飛ぶ。少しすると、アスナとミトはキリトとナイトの背に隠れる。
キリト「な、なん ー」
キリトの疑問は直ぐに解消された。
?「ア・・・アスナ様、ミト様、勝手なことをされては困ります・・・!」
ナイト「確かあいつは・・・そう、クラディールだったな」
クラディール「さあ、アスナ様、ミト様、ギルド本部まで戻りましょう」
アスナ「嫌よ、今日は活動日じゃないわよ!・・・だいたい、アンタなんで朝から家の前に張り込んでるのよ!?」
クラディール「ふふ、どうせこんなこともあろうと思いまして、私一ヶ月前からずっとセルムブルグで早朝より監視の任務に着いておりました」
得意げなクラディールの返事にその場にいる全員が唖然(あぜん)とした。いくらか間を開けて、硬い声で聞き返す。
ミト「そ・・・それ、団長の指示じゃないわよね?」
クラディール「私の任務はアスナ様の護衛です!それには当然ご自宅の監視も・・・」
アスナ「ふ、含まれないわよバカ!」
クラディール「聞き分けのないことを仰っらないでください・・・さあ、本部へ戻りますよ」
クラディールがアスナに触れる瞬間、右手がキリトに掴まれる。
キリト「悪いな、お前さんのトコの副団長は、今日は俺達の貸切なんだ」
クラディール「貴様ァ・・・!」
ナイト「副団長らの安全は俺達が責任を持つ。本部には一人で行ってくれ」
クラディール「ふ・・・ふざけるな!貴様らのような雑魚プレイヤーにアスナ様とミト様の護衛が務まるかぁ!」
キリト「あんたよりはマトモに務まるよ」
クラディール「ガキィ・・・そ、そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟があるんだろうな・・・」
キリトの視界にはデュエル申し込みのシステムメッセージが表示される。キリトは小声でアスナに
キリト「・・・いいのか?ギルドで問題にならないか?」
アスナ「大丈夫。団長には私から報告するから」
デュエルは一瞬で決着が着いた。クラディールのソードスキルに合わせ、キリトがソードスキルで武器を破壊したのだった。
キリト「武器を替えて仕切り直すなら付き合うけど・・・もういいんじゃないかな」
クラディール「アイ・リザイン」
クラディールはよろよろと立ち上がるとキリトに目を向ける。
クラディール「貴様・・・殺す・・・絶対に殺すぞ・・・」
その目にうかぶ憎悪はモンスター以上だった。黙りこんだアスナの傍らに、スッと歩み出てくる人影。
アスナ「クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。本日を以て護衛役を解任。別名あるまでギルド本部にて待機。以上」
クラディール「・・・なん・・・なんだと・・・この・・・」
ナイトとキリトはクラディールの動きに注意していた。たが、クラディールはかろうじて自制すると、ギルド本部があるグランザムへ転移していった。
アスナ「・・・ごめんなさい、嫌なことに巻き込んじゃって」
キリト「いや・・・俺はいいけど、そっちのほうこそ大丈夫なのか?」
アスナ「ええ。今のギルドの空気は、ゲーム攻略を最優先に考えてメンバーに規律を押し付けた私にも責任があると思うし・・・」
キリト「なら、あんたも俺達みたいないい加減な奴とパーティーを組んで息抜きするのも必要だな」
アスナ「・・・まあ、ありがとうと言っておくわ。じゃあ、お言葉に甘えて今日は楽をさせてもらうわね。前衛よろしく」
キリト「いや、ちょっと、前衛は普通交代だろう!」
アスナに文句言いながら追いかけるキリト。それを見てナイトとミトは顔を見合わせ、微笑むのだった。