ガチャ転生~SAO編~   作:気まぐれ荘

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泥棒の王

sideキリト

 

?「やあ、どうかな、この魔法は?次のアップデートで導入される予定なんだけどね、ちょっと効果が強すぎるかねぇ?」

 

キリト「須郷!」

 

オベイロン「チッチッ、この世界でその名前はやめてくれるかなぁ。君らの王に向かって呼び捨ても戴けないね。妖精王、オベイロン陛下とそう呼べッ!」

 

声の語尾が、高く跳ね上がって絶叫に変わり、同時に何かがキリトの頭を打ち付けた。首を動かすといつの間にかそこに立っている男がいた。

キリトは直感的に理解する。この男が須郷だと。

 

アスナ「オベイロン ー いえ、須郷!貴方のした事は、全部この目で見たわ!あんな酷いことを・・・許されないわよ、絶対に!」

 

オベイロン「へえ?誰が許さないのかな?君かい、この彼かい?それともまさか神様かな?残念ながら、この世界に神はいないよ。僕以外にはね、くっ、くっ!」

 

耳障りな笑いの混じった声で言うと、須郷は一際激しくキリトの頭を踏み下ろした。圧し掛かる重力に耐え切れず、キリトは床に押し付けられた。

 

アスナ「やめなさい、卑怯者!」

 

アスナの言葉には耳も貸さず、須郷は身を屈めると、背中の鞘からキリトの剣を抜き取った。

 

オベイロン「それにしても桐ヶ谷君、いや・・・キリト君と呼んだ方がいいかな。まさか本当にこんな所に来るとはねぇ。勇敢なのか、愚鈍なのか。まあ今そうやってへたばってるんだから後者の方かな、ククッ。

それよりも・・・ここまでどうやって登ってきたのかな?」

 

キリト「飛んできたのさ、この翅で」

 

オベイロン「まあいい。君の頭の中に直接訊けば解ることさ」

 

キリト「・・・なに?」

 

オベイロン「君はまさか、僕が酔狂でこんな仕掛けを作ったと思ってるんじゃないだろうね?

元SAOプレイヤーの皆さんの献身的な協力によって、思考・記憶操作技術の基礎研究は八割がた修了している。かつて誰もなし得なかった、人の魂の直接制御という神の業を、僕はあと少しで我が物にできる!」

 

キリト「そんな・・・ことが、できるわけが・・・」

 

あまりに途方もない台詞に、愕然としながらキリトが呟やくと、須郷は再び右足をキリトの頭の上に乗せ、つま先を動かした。

 

オベイロン「バカだね君は。そこにいる試作品に目が向かないのかな?君も知ってるだろ・・・旧SAOの剣聖、ナイト君を」

 

キリト「・・・まさか・・・」

 

オベイロン「そのまさかさ!ナイト君の記憶を覗き見したり、意識を薄くして活動させたりね・・・ああ、なんて楽しかったんだろう!そのお陰で研究はだいぶ進んだよ。それに、命令もだせる従順な下僕だよ!」

 

アスナ「そんな・・・そんなこと、許さないわよ須郷!ナイト君を元に戻しなさい!」

 

オベイロン「小鳥ちゃん、君のその憎悪が、スイッチ一つで絶対の服従に変わる日も近いよ」

 

陶酔した表情で言うと、須郷は剣の刀身を指先でぬるりと撫でた。

 

アスナ「・・・キリト君、今すぐログアウトして。現実世界で、須郷の陰謀を暴くのよ。私は大丈夫」

 

キリト「アスナ・・・」

 

キリトは一瞬、体を引き裂かれるような葛藤を感じた。しかし即座に頷くと、左手を振った。 ー だが。ウインドウは、出現しなかった。

 

オベイロン「アハハハハ!言ったろう、ここは僕の世界だって!誰もここからは逃げられないのさ!」

 

須郷は体を折り、腹を抱えて哄笑した。体を跳ねさせながら踊るように歩き回り、突然左手を掲げる。指が鳴らされると、闇に塗り込められた上空から、二本の鎖が落ちてきた。

鎖の先端には、幅広の金属リングが鈍く輝いていた。須郷はその片方を取ると、アスナの右手首に嵌めた。次いで、闇の中にまっすぐ伸びている鎖を引く。

 

アスナ「きゃあっ!」

 

鎖が巻き戻り、アスナは右手から釣り上げられた。つま先がぎりぎり床につくかどうかという所でがくんと停止する。

 

キリト「貴様・・・何を・・・!」

 

須郷はキリトに目もくれず、鼻歌交じりにもう片方のリングもアスナに嵌める。そちらも巻き戻り、アスナは両手を強く引かれる格好で宙吊りになった。

 

オベイロン「いいね。やっぱりNPCの女じゃその顔は出来ないよね」

 

アスナ「・・・っ!」

 

アスナはキッと須郷を睨みつけると、俯いてきつく瞼を閉じた。須郷はアスナの後ろに回ると手を伸ばす。長い髪に触れる ー その瞬間、須郷の手が叩き落とされる。

 

オベイロン「また貴様か・・・!下僕!いつも邪魔しやがって!」

 

そう、ナイトだった。ナイトも重力の影響を受けているようだが、アスナをオベイロンの魔の手から救うため、無理に動いているようだ。

 

オベイロン「今日という、今日こそお前に罰を与えよう!システムコマンド!ペイン・アブソーバ、レベル五に変更!」

 

須郷はキリトの剣を振り回し、ナイトの体を斬り裂いて行く。ナイトは抵抗もせず剣を無防備に受けていく。しかし、須郷の前から動かずずっと立っていた。

 

オベイロン「なんだよ・・・なんなんだよお前!いい加減に倒れろよ!システムコマンド!ペイン・アブソーバ、レベル二に変更!」

 

更にペイン・アブソーバを下げると剣をナイトの胸に差し込み、捻り回す。

 

キリト「やめろ・・・須郷!」

 

アスナ「い・・・今すぐナイト君に攻撃を辞めなさい、須郷!」

 

キリトとアスナは須郷の凶行に必死に体を起こしながら叫んだ。

 

オベイロン「ペイン・アブソーバは三以下になるとログアウト後もショック症状が残る恐れがあるらしいね・・・なら、もっと切り刻んでやるよ!」

 

キリト「須郷・・・貴様・・・貴様ァァァ!」

 

絶叫しながらキリトは立ち上がろうとする。しかし

 

オベイロン「おとなしく・・・這いつくばってろ!」

 

キリトは背中に衝撃を受け、床に叩きつけられる。背中からキリトの剣が胸を抜け、床に深くくい込んだようだった。

 

アスナ「き・・・キリト君!」

 

オベイロン「システムコマンド!ペイン・アブソーバ、レベル八に変更」

 

ペイン・アブソーバは一人一人に変更が必要なのか、ナイトとは違うレベルの変更が起きた。しかし、キリトは鋭い純粋な痛みが背中に疾る。

 

キリト「っ・・・ぐっ・・・(レベル八でこの痛み・・・レベル二ならどんな痛みなのか・・・)」

 

キリトはナイトが感じる痛みに気が付き、顔を青ざめる。ナイトは今も須郷によって斬られ続けている。

 

キリト(誰か・・・誰か俺に力を!鬼でも悪魔でもいい!今、俺に友達を助ける力を!)

 

キリトは祈る。両手の指を引っ掻きながら、一ミリでも前に進もうとしながら念じた。しかし、何も起こらない。

キリトは怒りと絶望の炎が自分を呑み尽くし、思考が白く焼ききれていくのを感じていた。諦めに近い考えが頭を巡り、思考を放棄しかけている。

 

?「逃げ出すのか?」

 

キリト( そうじゃない、現実を認識するんだ)

 

?「屈服するのか?かつて否定したシステムの力に?」

 

キリト( 仕方ないじゃないか。俺はプレイヤーで奴はゲームマスターなんだよ)

 

?「それは、あの戦いを汚す言葉だな。私に、システムを上回る人間の意志の力を知らしめ、未来の可能性を悟らせた我々の戦いを」

 

キリト(戦い?そんな物は無意味だ。単なる数字の増減だろう?)

 

?「そうではないことを、君は知っているはずだ。さあ、立ちたまえ。立って剣を取れ ー 立ちたまえ、キリト君!」

 

その声は雷鳴のように轟き、稲妻のよいにキリトの意識を切り裂いた。

 

キリト「う・・・お・・・お・・・おおぉ・・・う・・・ぐ、おお!」

 

歯を食い縛り、瀕死の獣にも似た声で唸りながら、体を持ち上げる。背中の中央を貫いた剣が固く、重く圧し掛かってくる。

 

キリト(こんな物の下で無様に這いつくばるわけには行かない。あの世界の攻撃はもっと重かった。痛かった)

 

キリトは全身全霊の力を込めて立ち上がる。剣が床から離れ、背から抜け落ちて転がった。

ふらつきながら立ち上がるキリトを、須郷はポカンとした顔で見つめた。すぐに眉を寄せてナイトの胸に刺さった剣から手を離す。すると、ナイトはキリトの方を向いて笑った後ナイトの体はアスナの隣に崩れ落ちるのだった。

 

オベイロン「やれやれ、オブジェクトの座標を固定したはずなのに、妙なバグが残っているなあ。運営チームの無能どもときたら・・・」

 

呟きながらキリトの前まで歩き、右拳を振り上げてキリトの頬を殴り飛ばそうとした。しかし、キリトが左手を伸ばし、その拳を空中で掴んだ。

 

オベイロン「お・・・?」

 

キリト「システムログイン。ID<ヒースクリフ>パスワード・・・」

 

複雑な英数文字の羅列を唱え終えた途端、キリトを包んでいた重力が消失した。

 

オベイロン「な・・・なに!?何だそのIDは!?」

 

キリト「システムコマンド、スーパーバイザ権限変更。ID<オベイロン>をレベル一に」

 

須郷の手の下からウインドウが消滅した。目を剥き、何度も左手を振る。しかし何も起こらない。

 

オベイロン「ぼ・・・僕より高位のIDだと・・・?有り得ない・・・有り得ない・・・僕は支配者・・・創造者だぞ・・・この世界の帝王・・・神・・・」

 

キリト「そうじゃないだろう?お前は盗んだんだ。世界を。そこの住人を。盗み出した玉座の上で、独り踊っていた泥棒の王だ」

 

オベイロン「こ・・・このガキ・・・僕に・・・この僕に向かってそんな口を・・・後悔させてやるぞ・・・その首をすっ飛ばして飾ってやるからな・・・」

 

須郷は鉤(かぎ)のように曲げた人差し指をキリトに突きつけ、金切り声を上げた。

 

オベイロン「システムコマンド!オブジェクトID<エクスキャリバー>をジェネレート!」

 

だが、システムはもう須郷の声に従わなかった。

 

オベイロン「システムコマンド!言うことを聞けこのポンコツが!神の・・・神の命令だぞ!」

 

喚き立てる須郷から目を逸らし、キリトはアスナとナイトを見た。アスナは吊り上げられたままだが、外傷はなさそうだ。ナイトは胸の傷以外は打撲で済むだろう。

 

キリト(すぐ終わらせる。もう少し待っていてくれ)

 

アスナはキリトの言いたいことが伝わり、小さく頷く。傷だらけのナイトを再び見たことによって、キリトの中に新たな怒りの炎が噴き上がった。

 

キリト「システムコマンド。オブジェクトID<エクスキャリバー>をジェネレート」

 

キリトは出現した最強の剣を掴むと、目を丸くしている須郷に向かって放り投げた。

キリトの左足が床に転がったままの自分の剣の柄頭を強く踏むと、ぎゃりっと音を立てて、回転しながら垂直に飛び上がった。落ちてくるその柄に向け、右手を横薙に振る。重い響とともに、剣がキリトの手に収まる。

 

キリト「決着を付ける時だ。泥棒の王と鍍金(めっき)の勇者の・・・」

 




昨日から冬休みが終わり学校が始まりまして、投稿する頻度は少なくなります。だいたい夜に投稿する予定ですが、たまに朝にも投稿します。

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