キリト「決着をつける時だ。泥棒の王と鍍金(めっき)の勇者の・・・システムコマンド、ペイン・アブソーバをレベルゼロに」
オベイロン「な・・・なに・・・?」
仮想の痛みを無制限に引き上げるコマンドを開き、黄金の剣を携えたオベイロンの頬に動揺の色が走った。一歩、二歩、後退る。
キリト「逃げるなよ。あの男は、どんな場面でも臆したことはなかったぞ。あの ー 茅場晶彦は」
オベイロン「か・・・かや・・・茅場・・・ヒースクリフ・・・アンタか。またアンタが邪魔をするのか!」
そう・・・キリトに声をかけたのも、システムIDを与えたのも茅場晶彦だったのだ。
オベイロン「死んだんだろ!くたばったんだろうアンタ!なんで死んでまで僕の邪魔をするんだよ!
アンタはいつもそうだよ・・・いつもいつも!いつだって何もかも悟ったような顔をしやがって・・・僕の欲しいものを端から攫って!」
絶叫を続けていた須郷は不意に剣をキリトに向ける。そしてそのまま突撃する。キリトは軽く剣を一薙ぎする。
オベイロン「アツッ!い・・・あああっ・・・」
キリトの剣が頬を掠める。須郷は左手で頬を押さえ、飛び退った。
目を丸くして悲鳴を上げるその姿は、キリトの怒りを更に燃え立たせた。大きく一歩踏み込み、正面から剣を振り下ろした。須郷の右手が断ち切られ、黄金の剣と手首が闇の彼方へと消えていった。
オベイロン「アアアアァァァ!手が・・・僕の手がああぁああ!」
キリトは更に一薙し須郷の胴体を真っ二つに切断した。
オベイロン「グボアァァァ!」
キリトは須郷の髪を掴み、持ち上げた。限界まで見開かれた両目からどろりとした涙を流し、口をぱくぱくと開閉しながら悲鳴を放ち続けている。
その姿は、キリトに嫌悪しか与えなかった。須郷を垂直に放り投げる。大剣を両手で握り、体を捻って直突きの構えを取った。
キリト「・・・うおお!」
撃ち込んだ剣は、須郷の右目から後頭部へと抜け、深々と貫いた。
オベイロン「ギャアアァァァ!」
須郷は消滅するまでの数秒間、途切れることなく叫び続けていた。やがてその声が徐々にフェードアウトし、姿が消え去った。
世界に静寂が戻ると、キリトはアスナの縛っていた鎖を斬る。崩れ落ちたアスナの体を抱きとめ、膝をつく。
アスナ「信じてた。・・・ううん、信じてる・・・これからも。君は私のヒーロー・・・いつでも、助けにきてくれるって・・・」
キリト「・・・そうなれるように、頑張るよ。さあ・・・帰ろう・・・現実世界は、多分もう夜だ。でも、すぐに君の病室に行くよ」
アスナ「うん、待ってる。最初に会うのは、キリト君がいいもの」
アスナはふわりと微笑んだ。そしてどこか遠いところをみつめながら、囁いた。
アスナ「ああ・・・とうとう、終わるんだね。帰れるんだね・・・あの世界に」
キリト「そうだよ。・・・色々変わっててびっくりするぞ」
アスナ「ふふ。いっぱい、いろんなとこに行って、いろんなこと、しようね」
キリト「ああ・・・きっと」
キリトはアスナを一際強く抱きしめると、右手をうごかした。ログアウトボタンに触れ、アスナが完全に消えるまで、強く強く抱いていた。
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sideナイト
ナイト(ようやく終わったか・・・)
ナイトはアスナが世界から消え去るのを確認すると立ち上がる。
ナイト「そこにいるんだろう、ヒースクリフ」
ヒースクリフは茅場の姿で現れた。
茅場「久しいな、ナイト君。もっとも私にとっては ー あの日のこともつい昨日のようだが」
ナイト「やっぱり、貴方はデータとして生きていたんだな」
茅場「君は分かっていたのか?」
キリト「ナイト!」
そこでキリトが合流する。そして茅場に目を向けると
キリト「生きていたのか?」
茅場「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。私は茅場晶彦という意識のエコー、残像だ」
キリト「相変わらず解り難いことを言う人だな。とりあえず礼を言うけど ー どうせなら、もっと前に助けてくれてもいいじゃないか」
茅場「それはすまなかったな。システムに分散保存されたこのプログラムが結合・覚醒したのが、つい先程だったものでね。それに礼は不要だ」
キリト「・・・なぜ?」
茅場「君と私は無償の善意などが通用する仲ではなかろう。もちろん代償はひつようだよ、常に」
キリト「何をしろと言うんだ」
茅場はキリトに何かを差し出す。それは小さな卵型の結晶で、内部に微弱な光が瞬いている。
茅場「それは、世界の種子だ」
キリト「何?」
茅場「芽吹けば、どういうものか解る。その後の判断は君に託そう」
ナイト「茅場さん、世界の種子は必ず世界に渡る。貴方ならわかるだろう?」
ナイトの言葉には答えず、短い沈黙の後、素っ気無い挨拶だけが返ってきた。
茅場「では、私は行くよ。いつかまた会おう、キリト君、ナイト君」
そして唐突に、姿と気配が消え去った。
ナイト「キリト、俺も現実に戻る。また会おう」
キリト「ああ・・・また」
現実に戻ったナイト・・・蒼は病室で目を覚ます。
蒼「ここは・・・どこの病院だ?」
周りを少し見渡した後、立ち上がる。腕に付いていた点滴を外し、病室の外に出る。そして、隣の病室のネームプレートを見ると ー 結城明日奈 ー と書かれていた。
蒼(そうか・・・明日奈と同じ病院なのか。都合がいい・・・このまま外にでよう)
蒼は人に見つからないように病院の外に出る。雪が降っており、病院着では肌寒い。
蒼(・・・居た)
蒼は目当てのオベイロン ー 須郷を見つけ近ずいていく。
蒼「須郷!お前はここで止める」
須郷「・・・!なぜここにいる!?」
須郷は蒼が現れたことに驚きながらもナイフを構える。
蒼「須郷、お前はもう終わりだ。あんな大き過ぎる仕掛けを誤魔化しきれるものか。おとなしく法の裁きを受けろ」
須郷「終わり?何が?何も終わったりしないさ。まあ、レクトはもう使えないけどね。僕はアメリカに行くよ。僕を欲しいって企業は山ほどあるんだ。
僕には今までの実験で蓄積した膨大なデータがある。あれを使って研究を完成させれば、僕は本物の王に ー 神に ー この現実世界の神になれる」
蒼「いいや・・・ここで俺がお前を止めればいいだけだ」
須郷「その前に、幾つか片ずけることはあるけどね。とりあえず、キリト君は殺すよ」
蒼「させねぇよ」
須郷「まだ痛覚が消えないよ。まあ、いい薬があるからいいけどね」
蒼(こいつ、話が通じない・・・いや、わかってないのか)
須郷は仮想世界の痛みと薬の乱用によって意識が混濁しており、自分で何を話しているのかもわかっていないようだった。
須郷は表情を変えずすたすたと歩み寄ってきた。右手のナイフを無造作に突き出してくる。
蒼(・・・ぐっ!しまった・・・体が)
蒼は避けようとしたがまだ意識が戻ったばかりで体の力が入らないのと、仮想世界での痛みによって、体がうまく動かずバランスを崩し、駐車場に倒れ込んだのだった。
須郷「おい、立てよ」
須郷は焦点の失った瞳孔で蒼を見下ろした。直後、革靴の尖った先端で蒼を蹴りつける。何度も蹴りつけた衝撃は右腕に強烈な疼きを生み出す
蒼(くそ・・・さっき、かすっていたのか。無傷で終わらせて病室に戻る予定が)
蒼は病室を抜け出したことがバレないように無傷で須郷を制圧して病室に戻る予定だったのだ。
須郷「ほら、立てよ。立ってみろよ。お前、あっち側では僕に従順だったくせに、何も出来なかったくせに。
解ってんのか?お前みたいなゲームしか能の無い小僧は、本当の力を持っちゃいないんだよ。全てにおいて劣ったクズなんたよ。
なのに僕の、この僕の足を引っ張りやがって・・・この罪に対する罰は当然、死だ。死以外有り得ない」
抑揚のない声でぼそぼそと言い終えると、須郷は蒼の腹の上に左足を乗せた。体を屈めた須郷は、右手にもった凶器を高く振りかぶり、瞬き一つせず、それを振り下ろした。
蒼「甘いぞ!須郷!」
蒼は振り下ろした右手首を受け止め、反対の手で須郷をみぞおちを殴る。
須郷「ぐぅ!」
須郷がひしゃげた声を上げ、仰け反る。蒼は体を捻り両手を使い須郷の右腕の関節を固める。ナイフが路面を転がると、手を離し須郷の顎を蹴り飛ばす。
蒼「須郷・・・終わりだ」
アスファルトに座り込みぽかんとした顔で蒼を見ている須郷に向かって拳を振るう。その一撃は須郷の顎に当たり、気絶する。
蒼(さて・・・後は病室に戻るだけだな)
?「ナイト・・・?」
後ろで声が聞こえる。振り向くと和人が呆然とした姿で立っていた。
蒼「キリトか・・・しまったな」
和人「おい!そいつ須郷じゃないか!」
和人は蒼の怪我と須郷の近くにあったナイフを見て、察したようだった。
和人「ナイト、怪我は見えてるそれだけか?血が凄いぞ・・・治療しないと」
蒼「キリト、俺がここにいたこと内緒にしてくれないか?」
和人「なんで?それよりも血を止めないと」
蒼「放っとけば止まる。それより明日奈に会いに行け」
和人「そうだ・・・明日奈。ナイト!お前、人呼んでくるからここで待っとけよ!」
そう言うと、和人は病院の受付に向かって走って行くのだった。
蒼(さて・・・人が来る前に逃げるか)
蒼は誰も居なくなった受付の前を通り病室に向かうのだった。