鏡の魔女結界に存在する通称ターミナル。それは株分けの結界を繋ぐ役割を果たしている。
そこに新たに出来た鏡が異なる世界と繋がったことで絶望を望む者同士が出会い、そして混ざり合った。
異変はすぐに魔法少女たちの知るところとなった。
“その者”が鏡の魔女の力を奪い結界内部を作り変えてしまったからだ。
魔法少女たちが見上げる先には巨大な校舎が聳え立っている。
だが立ち入ろうとする者は一人としていなかった。
いや“入れない”と言うべきだろうか。
校舎内へと通じる門には無数の鎖が巻き付き如何なる攻撃をもってしても破壊することが出来なかった。
「一体何が起きているというの?」
「分からん。ミラーズが結界の中でも特異であるとはいえ、このようなことが起きるというのは理解が出来ん。そもそも“希望ヶ峰学園神浜分校”とはなんだ?」
神浜市の顔役である二人をもってしても対応方法が分からず立ち尽くすしかなかった。
校舎の中。廊下に横たわっていた少女が目を覚ました。
「・・・なに、ここ?」
辺りを見渡し自分が通っている学校ではないことに気付く。
金属板が張り付けられた窓に黒い染みが続く廊下。
このような場所が馴染んだ校舎である筈がないのだが下校してから今に至るまでの記憶がない。
(わたしはどうやってここまで来たのだろう?)
不安に押し潰されそうになりながらも出口を探すために歩を進めていく。
廊下の途中に上り階段があることからどうやら今いるのは1階のようだ。
もっとも出口が上階にあるとは思えないのでそのまま廊下を進んでいく。
しかしこの学校はどうなっているのだろうか。
歩いた時間で考えても自分の知る校舎の規模を超えている。
同じ場所を歩いているような気がしてくるが扉が見えてきたのでようやく出口に着いたのだと分かる。
それに他にも人が集まっているので自分一人ではなかったことに安堵の気持ちが湧いてくる。
扉の前には2人の女性がいて何かを話しているがこちらには気付く様子がない。
変わった服装をしていることが気になったが思い切って声をかけてみた。
「あの、すみません」
2人の中で1番背丈がある人が振り返る。
「あらぁ?晴海ちゃんじゃない」
不可解な状況には似合わない間延びした声だが知り合いだと分かり安堵の溜息を吐く。
【八雲 みたま】
「みたまさんだったんですね!いつもと服装が違うから気付きませんでした」
「あらぁ、見られちゃったわねぇ」
「塩屋さん。お怪我はないでございますか?」
【天音 月夜】
「月夜部長もいらっしゃったのですね。しかしその服装は?」
「えっと、今は内緒でございます」
「内緒、ですか」
「申し訳ございません。事情があって今はまだ話せないのです」
「ごめんなさいねぇ」
「分かりました、今は待つことにします。ところでお二人は何を話していたのですか?」
「ああ、それはね」
二人は再び出口扉に目を向ける。
それに合わせて塩屋も扉を見るとそれには鎖が幾重にも巻き付けられ巨大な電子錠が取り付けられている。
「なんですか、これ?」
「鍵、なんでしょうねぇ。問題はなぜわたし達が閉じ込められているのかということよねぇ」
「そうでございますね。誘拐されたのだとしても縛られていないのは変でございます」
「お二人はここに来る前のことは覚えていませんか?」
「うーん、それが何も覚えていないのよねぇ」
「わたしもでございます」
他の出口はないのだろうか。探すことを提案しようとしたそのとき。
『キーンコーンカーンコーン』
聞きなれたチャイムが校内に響き渡る。
『あー、あー。マイクテスト、マイクテスト。校内放送、校内放送。聞こえているかな?聞こえているよね?校舎内にいるオマエラは至急体育館に集まってね』
みたまと月夜にとっては聞きなれた声。しかし感情を持たないはずの“それ”が発した声には極限まで煮詰めた悪意が含まれているのを感じさせる。
「・・・今の声って」
「行って確かめてみましょう」
どうやら二人には声の主について心当たりがあるらしい。塩屋はそのことについて聞き出そうとしたが強い緊張感を発しているのでタイミングを逸してしまった。
3人がいた出口付近には校内地図が張り出されている。
体育館は塩屋が歩いてきた道を戻る必要があったがその道中に3人が言葉を交わすことはなかった。
無限に続くと思わせるほどの廊下を歩き抜きようやく体育館に着いた。
扉は解放されていて他にも少女が集まっているのが見える。
見知った仲なのか既にいくつかのグループが出来上がっていた。
「月咲ちゃん!」隣にいた月夜が駆け出していく。振り向いた少女は月夜と瓜二つの顔をしている。
【天音 月咲】
「月夜ちゃん!?」揃った双子は手を取り合って喜んでいる。
「ピーヒョロの姉もいたワケ?ほんとノイジーなんですケド」
【アリナ グレイ】
体育館には全部で16人の少女がいて塩屋を除いては皆一様に変わった服を着ている。
彼女たちは何かを警戒したり、状況について話し合っているので遊んでいたとは思えないがバスケットボールが無数に転がっている。
理解できない状況ではあるがみたまの紹介で他の少女たちと言葉を交わしていく。アリナを除いては穏やかな人たちだと思えた。
「自己紹介は済んだかな?」
招集をかけた声が再び響き渡ると一同が身構える。それと同時にステージ上からスモークが噴き出し“それ”が姿を現した。
「きゅっぷい~。やぁオマエラ久しぶり!それとも初めましてかな?」
声の主の姿は右半分が可愛らしい白猫、左半分は禍々しい黒い悪魔のような四足の動物の姿をしており両耳から伸びた器官の右には神々しい環、左には棘の付いた環が嵌まっている。
皆が驚愕の顔を浮かべる中、みたまが声を発した。
「あなた、誰?」
いつもの親しみやすい話し方とは異なり明らかに敵意が滲んでいる。
「きゅぷぷぷぷ。ボクはモノべえ」
「モノべえ?キュゥべえじゃないのぉ?」単衣に似た服を纏った少女が問いかける。
【紅晴 結菜】
「オマエラにはそっちの方が懐かしいのかな?でもボクとしてはこっちの方が好みなんだよね」
「みたまさん、ぬいぐるみが喋ってます」
この中で唯一キュゥべえを知らない塩屋が混乱した様子で話しかける。
「ぬいぐるみじゃない!この学校の学園長なのだ!」
「学園長?何を言っているの?」
「きゅぷぷぷぷ。今日から君たちはこの“希望ヶ峰学園神浜分校の第一期生”となったんだよ。そして今日は記念すべき創立記念日なのさ」
「入学した覚えはないわぁ。妹たちが待っているから帰り方を教えなさい」
「相変わらずプロミストブラッドは短気だね。まあいいか。帰りたいなら方法はただ一つ、この中にいる人を殺せばいいんだよ」
モノべえの言葉に絶句した者が多いが反論する者もいた。
【由比 鶴乃】
「わたしたちは仲間なんだよ!殺しなんてする訳ないよ!」
「それはどうだろうね?君たちが戦ってきた魔女だって元は同じ魔法少女だ。それに結菜は神浜の魔法少女を何人も殺しているのだから簡単だろう?」
「姿と同じで考え方も醜くなったのねぇ。でも、殺しはもうしないと決めたのよ」
「すぐに殺したくなるさ。その為の動機だって用意してあるんだからね」
「あの、魔法少女とかよく分からないのですがあなたの目的は何ですか?」
「んぅ?君は・・・そうか。ツイてなかったねぇ。きゅぷぷぷぷ」
「え?」
「すぐに分かるさ。それよりもボクの目的だったね。それはオマエラにコロシアイ学園生活を送ってもらう為なのだぁ!」
「なによ?コロシアイ学園生活って」
「君たちにはこの学園で生活してもらう。それだけのことだよ」
「聞いているのはコロシアイの方だよ!」
「説明するのも3度目だし飽きちゃったんだよね。生徒手帳を用意しておいたから確認してよ」
モノべえの言葉と同時に床が開き生徒手帳が飛び出してくる。
①生徒たちはこの学園内だけで共同生活をしましょう。共同生活の期限はありません。
②夜10時から朝7時までを夜時間とします。夜時間は立ち入り禁止区域があるので注意しましょう。
③就寝は寄宿舎に設けられた個室でのみ可能です。他の部屋での故意の就寝は居眠りと見做し罰します。
④希望ヶ峰学園神浜分校について調べるのは自由です。特に行動に制限は課せられません。
⑤学園長こと“モノべえ”への暴力を禁じます。また監視カメラの破壊を禁じます。
⑥殺人を行ったクロは“卒業”となりますが自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません。
⑦”魔法少女”は以下の条件をもって死亡したものとして扱います。
・ソウルジェムが砕けたとき
・魔女に変化したとき
・肉体が著しく欠損したとき
※校則は随時追加されることがあります。
生徒手帳を確認した少女たちから敵意が溢れだしモノべえに向けられるが当の本人は気にした様子がない。
「ねえ、アナタに攻撃したらどうなるワケ?」
「退学」
「そう。この才能っていうのは?」
「キミたちの特技や個性を表現したものだよ。二つ名があるなんて中二病みたいで格好いいだろう?」
【八雲みたま 超高校級の調整屋】
【アリナ グレイ 超高校級の芸術家】
【天音月夜 超高校級の双子】
【天音月咲 超高校級の双子】
【由比鶴乃 超高校級の幸運】
【紅晴結菜 超高校級の生徒会長】
【氷室ラビ 超高校級の使用人】
【都ひなの 超高校級の科学部】
【栗栖アレクサンドラ 超高校級の合唱部】
【青葉ちか 超高校級のネイチャーガイド】
【七瀬ゆきか 超高校級のギャンブラー】
【加賀見まさら 超高校級の水泳部】
【竜城明日香 超高校級の薙刀部】
【静海このは 超高校級の投資家】
【江利あいみ 超高校級のガンマン】
【塩屋晴美 超高校級の???】
「あの、わたしだけ???になっているのですが」
「ん~、キミは不運とでもしておこうか。それじゃあ早く卒業生が出ることを期待しているよ。解散!」