ディアボロった   作:鼻筋ナーゾ

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小悪党

 ソリッド・ナーゾを名乗った男は、コソ泥である。

 強大な力(スタンド能力)を持っているが、コレを使うのは空き巣犯として侵入するため。

 手口はこうだ。家主の居ない家屋に接近し、防犯装置の有無を未来視で確認。その時間を、時飛ばしで消し飛ばしてから過程を削除してピンポイントで窓のカギを破壊して屋内へと侵入。この際に窓を割るのも開けるのもスタンド任せ。

 適当な金品を頂いて、部屋を後にする。

 徹底しているのは家主と顔を合わせない事。続いて、金銭の価値が分かってからは数日を過ごすに十分な額以上は盗らない事。

 コソ泥が何を、という話だが彼なりの僅かに残った良心の呵責故の行動である。

 因みに、もう一つ彼は犯罪に手を染めていた。

 それは、この街を蝕む現象が関係している。

 

 “ホロウ”と呼称される異空間現象。

 外部からは、カラフルな図形がランダムに踊る半球形の内部を見通せないドーム。内部からは外を視認可能。

 このホロウに入るには、エーテル適性というものが必要だった。適性が無ければ、エーテルと呼ばれるホロウ内を満たすエネルギーに侵されて怪物と化してしまう。

 

 彼はこれら前情報を持たずに、このホロウ内に入ってしまった。

 理由は、人目を避けるために仕方なく。

 結果的に、彼はエーテル適性を持っており、ホロウ内でも活動が出来て且つホロウ内に出現する怪物エーテリアスを打倒する事が可能な実力を有していた。

 このホロウ内での拾い物が、外では高く売れる。中には、男に対して依頼をしようとする者も居た。

 もっとも、後者に関しては逃げたのだが。見られる事も気付かれる事も無く逃げ出すのは得意中の得意。

 依頼を受ければ、非合法でも比較的安定して収入を得る事が出来るだろう。それをしないのは、偏に安全性との天秤にかけた上での判断。

 ホロウの中は無秩序だ。それは物理法則にまで及び、道が道として機能しない。

 加えてエーテリアスの存在。大半は雑魚同然だが、中には強力なものが少なからず存在する。

 勝てるからといって、態々怪物を相手取るほど男は蛮勇を募らせてはいなかった。

 

 もっとも、そろそろ空き巣業からは手を引くべきかもしれないが。

 

 

 

 

 

 

 

 

「治安官、か」

 

 夜闇の下でフードを目深にかぶり、男は眼下を見下ろした。

 彼が座り込んでいるのは、とある商店の屋根の上。下からは軒先が影になって微妙に見え難い場所だ。

 その足元では、昼間に自身へと職務質問をしてきた女性と同じ種類の制服を着た数人がキョロキョロと動き回っている。

 彼らの目的は、ここ最近新エリー都のあちこちで起きていた空き巣事件の捜査。

 打倒する事自体は、難しくないだろう。だがそれは、あくまでもこの場の数人だけ。

 個人で組織を打倒するというのは、ほぼ不可能だ。人数差というものはそれだけ強大で、個人で覆せる要素ではないのだから。

 とりあえず、この場を離れよう。男はそう決めて立ち上がり、

 

「……何だ?」

 

 不意の耳鳴りに、フードの上から耳を抑えて周囲を見渡す。

 強くなる気配。空間がギュッと縮まった様な錯覚を覚えた直後、一気に異空間が広がった。

 地面から突き出すエーテル結晶。全身にまとわりつく言い様の無い重圧感。

 

「……ホロウ災害、という奴か」

 

 面倒な事になった、と男はフードの下で眉根を寄せた。

 ここ新エリー都は、“新”の名の通り新たに作り上げられた都市だ。その原因がホロウ災害にある。

 対策を施されたこの都市ですら、突発的なホロウ災害からは逃れられない。故に、男は知らない事だが日夜インターノットにはホロウ災害に巻き込まれて何かしらの依頼をしたい者というのが一定数存在していた。

 どうしたものか、と男は顎を撫でる。ここで人命救助が第一に来ない辺り、彼が完全な善人とは言えない一面だろう。

 ただ、基本的にホロウ災害に巻き込まれた場合、大抵はエーテリアス化してしまいヒトとしての一生を終える。仮に適性があっても、湧いて出てくるエーテリアスに襲われて命を落とす。

 そう言う場所なのだから、自分の命を最優先にしても文句を言われる筋合いはない。

 屋根から飛び降りて、男は歩き出す。

 ホロウの発生と同時に街中は一気に作り替えられたのか、酷い有様だ。オマケに、あちこちから戦闘音が聞こえてくる。

 

「出口は何処だ……」

 

 辺りを見渡す男の周りに、異形存在が現れる。

 頭部が光の歪んだ黒い穴の様になった体が鉱物の様なもので構成され、端々に入った亀裂から緑の結晶を輝かせる者達だ。

 彼らこそが、エーテリアス。ホロウ内でしか生きられない異形の怪物であり、同時に巻き込まれた被害者の成れの果てでもあった。

 

「「「――――!!!」」」

「何を言ってるか分からないが、オレも死ぬ訳にはいかないんでな」

 

 生きているのだから死にたくない。抗う理由など、それだけあれば十分だ。

 

「――――『キング・クリムゾン』」

 

 射程距離は二メートル。持続力は無いが、瞬間的な攻撃を連発するだけならば大した疲弊は無い。

 何より、射程距離が短いという事は裏を返せば自衛手段を常に自分の周囲に用意できるという事でもある。

 キング・クリムゾンの場合は、その破壊力とスピードはスタンドの中でもトップクラス。

 

「道を開けろ……!」

 

 エーテリアスの群れの中を突っ切るだけで、その悉くが力強い拳のラッシュで粉砕されていった。

 本来の体の持ち主(ディアボロ)は、こんな手段を採らないだろう。時飛ばしと未来視の二つを大いに活用して、エーテリアスを粉砕していったはずだ。

 ただ、そこは男の考え方の問題。

 スタンドは、使えば使う程に馴染んでいく。それは、純粋な格闘戦のみならず能力の扱いに関してもだ。

 自転車や自動車の運転に近いだろうか。使い込めば使い込むほど慣れていくが、逆に使わなければその腕前は一気にさび付く。乗れない事は無いが、全盛期には劣るだろう。

 男にとってスタンド能力は文字通りの生命線だ。能力に頼りきりではなく、基礎戦闘力から鍛えていく。

 周囲のエーテリアスを退けた事を確認して、男はスタンドを解除した。

 

「まずは、出口か。とはいえ、適当に歩き回ってどうにかなる物じゃないんだが……」

 

 ホロウ内の鉄則は、下手に動き回らない事。物理法則が機能しない以上、道に沿って動き回ったとしても出られる保証はない。

 一応、この無軌道な空間への対処法として、キャロットと呼ばれるホロウ内のパターンを測定して脱出ルートを形成する地図情報が存在する。

 ただこれも、一定時間で内部構造がひっくり返る様なホロウ内では限定的な効力しか発揮しない。

 何より、情報端末の類を持っていない男にとっては知っていたところで無用の長物に過ぎない。

 そこで役に立つのが、未来視(エピタフ)であった。

 

墓碑銘(エピタフ)

 

 ザラりとフードの中の髪が揺れて男の視界を遮る。

 その内側に映るのは、これから数十秒先の事。自分がこのまま直進した結果どうなるのか。

 

「問題はない……か」

 

 男が注目するのは、歩数だ。

 何歩進んで自分の身体が空間の歪みに飲み込まれるのか、或いは飲み込まれずに直進できるのか。

 問題なく進めるのなら、それで良い。歩数を数えて覚えて周囲の地形と同期させて簡易的なマッピングを行うだけだ。

 何処かへと吹っ飛ばされるのなら、それはそれで空間の繋がり方を知れる良い機会となる。

 時折絡んでくるエーテリアスを砕きつつ、未来を確認しながら道を進む。

 その道中で、彼不思議な映像を見る事になった。

 

「……人、か?」

 

 地面と平行に落ちていく人の姿。

 飛ぶと呼ばなかったのは、その人が足を先頭として一直線に空を横切って行ったから。

 未来視で見た地点に立って空を見上げれば、未来視と同じ光景が起きる。

 空を突っ切っていった誰かは、優れた動体視力と身体操作能力を持っていたらしく鉄骨の隙間を縫ってかなり向こう側で腰に差したマチェーテを利用して止まり地面へと降り立った。

 男には、二つの選択肢がある。

 一つは、先の人物との合流。どんな経緯であれ、ホロウ内で迷っているのなら道連れが出来るのは何かと便利。エーテリアスとの戦闘も有利に運べるだろう。

 もう一つは、無視。このまま単独行動を決め込んで、ホロウ内を動き回る事。

 幸い、男の巻き込まれたホロウ災害は発生したばかりで、超大型の様な強力なエーテリアスは居ないらしい。単独で動いても何とかなる、かもしれない。

 何より、下手に接触すると迂闊にスタンド能力が使えなくなる。いや、これは正確ではない。

 人前で、時飛ばしや未来視をする訳にはいかなくなる。こちらが正しいか。単純なスタンドでの殴打などは可能だ。

 間をおいて、男は動き出す。

 彼の選択は、限定的な最初の選択肢。

 つまり、接触はしないが一定の距離から観察し脱出の糸口となればそのまま便乗。面倒な事になりそうなら、適当な所で見切りをつける。

 

 全ては、生き残るための選択だ。何をおいても、自分を優先するのみ。

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