やあやあ!皇帝様御一行!
俺の名はスービエ!七英雄のスービエだ!この海域を乗っ取らんと海の主と縄張り争いをしているモンスターである!皇帝様には武装商船団を率いる反帝国組織の悪党と言えば聞き覚えがあるかな?
>ピコン。
何故?何故とは!君はモンスターが縄張りを荒られて暴れ回るのに深い理由があると信じてるのか?海の主は娘を庇ったとかなんなり語ってるだろうが、定住する俺に橋を壊してまで逃げ回る必要などあるものか。俺としては海中にある遺跡の調査さえ出来ればアレと争う理由などない。
支配者が気の迷いで裏切ることは多々ある。別種族であるならば尚更だ。見下すとは、無干渉とは、即ち何をしても気にしない無慈悲の理屈と等しい。敵がいない強者ほど驕り誤ることが多い。敵がいてこその安定なのだよ。
皇帝様も、身を持って知っているだろう?
裏切らないとは到底否定出来まい。見下しはいつだって差別と理不尽を押し付けるための理屈だ。対抗するには獣らしく力を見せつけるしかない。
>ピコン。
話が違う?海の主と君達との態度が違うのは当然だろう?社会性を持つ人間とあの畜生を同じ扱いとするのは君達にこそ失礼だ。純粋な縄張り争いに負けて今更馬鹿にしていた別種に縋り付く輩と同一視するのは違う。アレは単一で強者として振る舞えなくなった
ヒトとは!
…生き物は、目的を持って生きるから、必要なのだ。
だからこそ、害悪モンスターとして私を討伐しに来た貴殿らには誠意を持って受け答える。誇りある生物として、討たれることに何の恥があろうことか。俺は
害悪の俺が死ねば幸せになるだろうが
つまり!君達とは交渉の余地があると言う訳だ。古代人の遺跡にあるだろうカスどもの逃げ先。次元転移を行った座標を知りさえすれば、俺はこの世界で何一つするつもりはない。確約さえしてくれれば鉱山奴隷の如く、氷山の先─未開発地の開拓作業も受け入れよう。極地下で年中無休に働く大型魔獣。刑罰として悪くない提案だと思うが。
>ピコン
そうか。だろうな。モンスターの戯言など受け入れる道理などない。俺を討伐するのも当然だ。俺は単一の国家が強大になった末の腐敗を実感している。皇帝が暗殺すらできない超人ならば、暴走の対策として敵が必要だと彼らは語った。今や彼らは寿命で亡くなったが、今も武装商船団の理念は違えていない。皇帝の敵として、俺はテイムされた魔獣として敵対するだけだ。
─そう、決してオアイーブの手下が憎いわけではない。
まだ、俺はりせいてきだ。あのアマが神を名乗って憐れな傀儡として拵えた君達を、無碍にすることはない。君は哀れな犠牲者だ。大神官の娘が大神官となった証明などない。だからだからだからだから…
大神官の手先がぁ!!!この世に!!存在するなぁ!!
俺は幸せだ。どこへ行っても海と一体化してきた。海は喜びであり、生命の循環と共に俺はある。いつか吸収の法の限界が訪れ、この身が朽ち果てる時が来ても、俺は海と交わるだけだ。欲も、徳も、善悪なく全てを許してくれると、信じるくらいは、俺にも権利がある筈だと、祈りたい。
そうだ、俺達は幸せになるべきなんだ。法を守って、自然を共にして、やがて当然の死を惜しまれる、存在であるはずなんだ。
だから、だから。この景色は俺の空想だ。俺は海の中で泳いでいる。暗い空気など吸ってはいない。此処は水の中だ。足元で叫ぶ鼠の断末魔など聞こえはしない。此処は陽射しの中だ。暖かい、日に焼ける身体を好ましく感じる俺だ。それが嘘になるはずがない。
現実のおれが切り取った空間にへばりついて海の景色を見ているはずがない。空間越しに磯の匂いなど嗅げる筈もないのに鼻を潰してまで顔を押し付ける必要もない。ここに、ここに、ある、あるのだ。壊れた俺が、体を縛り付けられて海だけを見続けることなど、現実であるはずがない!
そうだ。俺は死ぬんだ。ここで死ぬんだ、次など、次などないんだ。ないはずなんだ。なんで、なんで、おれは、こんなに。
こんなに。
スービエ
大神官への復讐と海への禁断症状により目的以外の言動が破綻していた。彼にとって分体は気を紛らわすための命綱であり、本体の彼は完全に壊れている。皇帝は憎い敵(推定)に踊らされた生贄と信じている。