七英雄は。   作:ややや

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ダンターグは諦観した。

 三十、六十、…いや、いっそ水を足して八十まで煮るか…?だが、灰汁抜きすれば肉の旨みが死ぬ。苦味を香味で誤魔化すのも手だが、雑味になるのは…ならば、下茹でと割り切って塩味を身に馴染ませ…うーむ。

 

 …来たか、オアイーブの傑作よ。

 

 ここに来たということは、俺を殺す算段がついたと同義。定住して凶暴化した魔獣の根元を断ちにきた、そのように考えておこう。スービエのように何もかもを大神官(カス)に紐付けしても、気が滅入るだけだ。

 

 コレか?見ればわかるだろう、料理だ。クジンシーが語る『ジビエ料理』とやらの真似事だな。奴が生きていた頃は食事はアイツの独壇場だった。あの場所で食事にそれなりに苦労しなかったのは感謝するしかない。まあ、七英雄向けだが。毒茸も旨み漬けに利用してるから…死ぬほど美味いぞ、言葉通りな。皇帝陛下なら食えるかもしれんが、保証はしない。

 

 >ピコン。

 

 …はなし、話か。ただの乱暴者に政治や恨み言を連ねても薄い話にしかならんな。戦勝を積み重ねる貴様に戦自慢を口にするほど馬鹿馬鹿しいモノも無い。素晴らしき皇帝様が納得する話題など、果たして存在するか。

 

 ………ふむ。

 

 そうだな、やはり()()()といこう。どれだけ高貴な存在も、誰かの愚かさを茶化す話題に暗い感情を浮かばせる。他人の失敗は己が上位に値すると錯覚出来る酒のようなもの。ソレが敵であれば尚更だ。

 

 生きるとは勝つことだ。死とは敗北だ。最高の生き方は最強であることだ。強者を打ち倒した時、俺の生命は最高に輝く。俺は常に輝くべく強者との戦いを求め、望んだ。だが、本当に必要だったのは弱者の─負けた時の起き上がり方だったのかも知れぬ。

 

 …歳を喰えば目線が下がる。下を観れば後悔が生まれる。失ったモノを欲求するのが老人だ。老いさらばえた俺の眼には、お前達の顔すら区別がつかんのだ。

 

 そして、俺は皇帝様を見分けることが出来る。…出来てしまう。

 

 お前は化け物になった。それは自覚をしておくがいい。

 

 俺が受け入れた吸収の法は、モンスターの血肉と経験を文字通りに()()()()とする外法だった。その力は強大で、かつて古代人が支配する世界を壊さんと邁進したタームの女王達に一代で立ち向かうことが出来るほどだった。

 

 当時の俺はそれをただ便利な増強剤と考えていた。『吸収』の認識を履き違えていた、今ならそう思う。生物なら当然の仕様として備わる他者を取り込み、自らの栄養源とする。それを拡大強化した技に何を恐れる必要があるのか。学の無い俺にはてんで理解が及ばなかった。

 

 決壊は、ボクオーンに先日の夕餉を尋ねた時だった。

 

 何の気なしに話の種にと問いかけたそれに、奴は答えることが出来なかった。あれほど流暢に蘊蓄を垂れ流していた知恵者が作った無言に、俺達の誰もが口を出せなかった。食事が出来たとクジンシーが呼びにくるまで、誰一人そのメニューを思い出せなかったからだ。

 

 単純な記憶の劣化ならそれで良かった。だが、生憎その希望は潰えた。肉体の機能の向上に伴って維持されたはずの技が上手く繰り出せなくなった。手足二本の肉体に不要なものが生え揃い、その操作が万全に行えなくなった。吸収の限界を超え、脳が無意識にこなしていた付加処理が削られた結果、俺達の不要な何かはどんどんと失われていった。

 

 肉体の増設は受け止める情報密度の低下をもたらす。人が放つ蹴りに蟻と象でダメージが異なるように、俺達が過ごしていた単調な日常は曖昧無辜な代物として捨て去られていた。感性の低下は共感の減少と等しく、俺達はどんどんと誰かのためという行動を取れなくなってしまった。仲間と認めていたはずのクジンシーを顎で使ってしまうほど、俺の品性は劣化してしまった。

 

 俺は獣に成り下がったのだ。そう理解するのに時間はかからなかった。或いは、かかり過ぎてしまった。こうして俺が一人で過ごしているのも、結局は友として信頼を誓った仲間達を見守るのが辛かったからだ。一介の野獣として死を選ぶことも出来ず、こうして死に損なっているのが、俺だ。

 

 雑に言えば介護から逃げただけだが。アイツらも女に介護された方が気分が良いだろう。俺は獣らしく縄張りを放浪して一生を過ごすつもりだった。お前らに狩られるのは悪くないが、何がいけなかったんだ?

 

 >ピコン。

 

 密猟。

 

 >ピコン。

 

 い、いや。繰り返す必要は、うむ、ない。…だが…み…つ…。りょう。

 

 …ふ、ふふふ。ハハハハハ!!そうだそうだそうだよなぁ!?他所の山で獣狩りをする俺は!小賢しい密猟者だよなぁ!ヒハハ!無駄に!強い!荒くれ者のバカが俺か!不法侵入の犯罪者が俺の末路か!

 

 だが!腐っても俺は七英雄!我が暴力を持って!貴様達をふみ潰してくれるわ!!

 

 

 

 

 

七英雄 ダンターグ

七英雄 ダンターグ

七英雄 ダンターグ

 

 

 野生において強くなるとは()()()()()()()()だ。単一種となった七英雄にとって、その言葉は生命力の増強が値した。子を残す機能をとうに失った俺達には、跡を残す存在さえ見失った俺には、生きること、それのみが喰らったモノと同意できる代物だった。

 

 ひたすらに。巨体に。肉体は頑強に。皮膚は硬く、体重は喰らうがままに増え続ける。強者として君臨すべく努力していたはずの俺の人生の終着点は、まともに歩くことすらままならないあらゆる角が消えた肉の塊だった。

 

 俺は、欠片でも正気に戻れた俺は、俺がヒトであるべきでは無いと諦めた。流されるままに各地を駆け巡り、思い出してはかつての故郷を取り戻そうと災害が収まらない地へと突貫し、無駄死にをする。ただ一匹の寿命ある獣としての一生を真似事する老いぼれが今の俺だ。

 

 …最近、迷い込んで来たガキがいた。

 

 アイツの口からは武術を習ったと嘘っぱちが出るだろうが、俺は何もしていない。アイツと俺は無関係の間柄だ。そもそも、ぶちかましを主軸に戦う俺が技など教えようもないから、な。

 

 だが、そうだな。

 

 久しぶりに、良い夢を見れた気がする。膿んで、腐って、太り続ける生き方に。だからこそ、ゴミはゴミとして同情するな。

 

 お前が人間を主張するなら、ゴミに寄り添うことは、しては、ならない。俺は、惨めに、みじめにしぬのが…ただしいのだ。

 

 何をしても、惨めに。

 

狂獣討伐 その武威衰えを知らず

 本日未明、軍団長からナゼール地方にて活動していた狂獣を討伐したとの発表があった。この討伐により、バレンヌ帝国は実質的に近辺の四つのダンジョンに対しての優位権を所持する形となる。この討伐劇の背景として、ナゼール地方に住むサイゴ族との融和政策に対しての政治戦が──

 

— バレンヌ帝国xxx新聞記者、マリ・ジョーン




ダンターグ
 理性を保った一人。でも介護は嫌だったので分体に意識を預けて逃げ出した。暴力の無意味さを図らずとも知ってしまったことにより、誰よりも暴走する可能性のあった男は唯一完全に吸収の法を克服してしまった。皇帝は強さを求めた己の理想型として羨ましく感じている。
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