七英雄は。   作:ややや

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一番壊れた男。


ワグナスは縋った。

 ひひ、ひひひ。

 

 我が浮遊城へようこそ!

 

 待っていたとも、君を。オアイーブの懐刀よ。七英雄である私達を次々と滅ぼし、最終皇帝と呼ぶべき君は圧倒的な強さで私達に匹敵するほどの強さと分かる。さて、ここまでは楽しんでいただけたかな?

 

 >ピコン。

 

 それは良かった。短い命とはいえ、感性は我々と同じ。私という存在が君の思い出のひとつとして残ってくれれば嬉しい限りだ。負けを想定してはいないが、やはり君を目前にすれば恐怖が前に出てくるよ。

 

 君は神からの使徒なんだろう?クジンシーが語る神は私にはよく理解できなかった。あの時に一割でも彼を理解出来れば私はクソゴミにはならなかっただろう。だから私は皆を救えず、世界を滅ぼす化け物なんだ。神から決められたんだ。

 

 私は古代人を守るためにノエルから吸収の法を学んで、進んで化け物となった。君の感覚はわからないが、当時の敵、タームは恐ろしいほどの強敵だったんだ。毎日山のように死者数が増加し、葬儀場は休む暇もなく国営事業として続けさせられた。タームの卵は肉を栄養とする。巣穴で亡くなった遺体を棲み家とするのは当然だった。燃え盛る火の中、骨まで灰となった遺体を纏めて共同墓地に祀るのが古代人の日常だった。力を付けるには時間が足りず、一騎当千の英雄こそが必要とされていた。

 

 私達は吸収の法を使いながらタームを何万何千と駆逐した。少しでも多くの古代人を救うべく、政治に嘴を差し込んでもサグザーに次元転移装置の開発を急がせた。だが、どれほどタームを滅ぼしたところで、一向に災害は治らない。クジンシーが相も変わらず陰謀論を発表して投獄されても、何一つ改善しない現実は私達を打ちのめした。督戦隊としてクジンシーが私達の元へ派遣され、ついにはタームの女王を殺し切ろうとも、世界は容赦なく古代人を殺しにかかった。世界は、最早風前の灯に思えた。

 

 クジンシーが唱えた寿命教を除いた大部分の古代人が転移する中、私は国王暗殺の容疑で死を迫られた。私が想像した以上に不老の政治家達は腐敗し、たかが一人の化け物すら飼い慣らせないほどに耄碌していた。その無能さは無策でギロチン刑にかけるくらいだ。己の細腕で殺せないとようやく理解した彼らは、寿命教にいたクジンシーを捕らえて間に合わせの刑罰を与えた。助けに来てくれた残りの七英雄諸共与えられた刑罰は追放刑。何処かも知らぬ別世界へ放り出す無責任さをあらわしたかのような処刑だった。

 

 >ピコン。

 

 憎しみは無論あったとも。それ以上に悲しみがあっただけさ。恩に仇なす卑劣な裏切りもそうだが、あれだけ身を粉にして古代人のために働いた結果が、銅像ひとつ建てさえしない言葉だけの感謝だ。寿命教の末裔ゆえと笑えば良いのか、あるいはそれ以上に恨まれていたのか。

 

 >ピコン。

 

 同化の法による災害の拡大化。君が口にするなら真実なのだろうな。古代人が死を恐れるごとに度を増すそれが災害を生み出した。私が目指すべき救済は同族殺しが最適だったとなるのか。社会を敵にしていたクジンシーはいつも正しいことばかりをしていたのだな。

 

 >ピコン。

 

 …アレとクジンシーは同一視しないでいただきたい。彼はもっと愚かで、効率を度外視した、破天荒なバカだった。正義の馬鹿だ。胸を張って死を迎えられる、勇気と度胸しかない男だった。私も彼の様に世間の評判など無視すれば良かった。古代人を同類だと信じた私は仲間の足を引っ張るだけだった。

 

 この世界に残る古代人は誰もが同化の法を使わない。恥を恥として大人しく私達の裁きを受け入れるような、クジンシーを思わせる存在ばかりだった。あれだけ古代人を区別せず皆殺しにしようと決意していた私の心は、下げられた頭を前にぐらぐらと揺れ曲がるだけだった。復讐も自死も、何も遂げられない私には、無為に遊ぶしかないと確信したのだ…

 

 社会も、世界も、ヒトも、動物も、何もかもが私に変えることができない存在だ。どれほど私が努力しようとも、どれだけの労力を何かに込めようとも、君のように全てを潰して回る理不尽が私の前に現れる!私は怪物などでは無く、ただのデカいだけの野鼠に過ぎない!

 

 負けるのは私だ!ババを引くのは私だ!神の敵は私だ!私が例え好き勝手しなくともオアイーブは私を殺しに来ただろう!あの逃げ続ける裏切り者の娘は結局はその血を肯定する人生を過ごしている!人の意思など、鼻で笑う程度の価値しかないのだ!物理的な価値を生んだ貴様の伝承法がそれを指し示している!!お前は皇帝ではなく!伝承法が皇帝なのだ!!

 

 貴様の最後の戦い、最高の死闘を繰り広げよう!!

 

 

 

 

七英雄 ワグナス

七英雄 ワグナス

七英雄 ワグナス

 

 

 …私は。

 

 常に天を見上げ異変の予兆を捉えんとしてきた。だが、天は何も語ってくれなかった。星は何も告げはしなかった。ならば自ら天に登り地上に起こる全てを差配せんと飛び立った私には、地で叫ぶ見下した男の警告を受け取りはしなかった。

 

 世の安寧と自らの幸せは別だと分かっていても、犠牲にした責任を実感出来るほどの器は私には無かっただけだったのだ。

 

 嗚呼、罰が来る。死が来る。クジンシーが告げた最期の言葉が実現する。世の安寧と切り捨てられた側に回るとは、これほど恐ろしいものなのか。

 

 神に愛された君が、本当に羨ましいよ。

 

狂鳥討伐 七災も後ひとつ

 生体エネルギーによる災害の拡大化が発見されてはや数年。帝国軍は災害鎮魂対策として浮遊城に住み着く拡大化レベルⅤの討伐を行ったと発表した。浮遊城はチカパ山に近く、異常気象による火山の噴火などを懸念した形となる。これにより災害規模調査隊による報告書には拡大化レベルⅤを超える生物は大氷原のみとなり、最低限の人員を除いて災害討伐隊は解散することが決定する予定だ。最終皇帝も厄災討伐後は王位を含め退役することを発表しており、今後の共和政に──

 

— バレンヌ帝国xxx新聞記者、カリア・ジョーン

 




ワグナス
 責任感と罪悪感でSAN値を失った。裏切りと吸収の法の失敗により自信を失った彼は、あらゆる行動に仲間の命を優先する。浮遊城に拠点を構えたのも、高所から見下ろせば仲間の危機に気付けるだろうという浅知恵から。彼の頭には仲間を見つける術は無く、無意味に飛ぶ害鳥と化していた。皇帝は神の使いと怯えている。
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