副題:沖縄支部の恩返し
キョウジおじさんなら多分沖縄名家の事も事情も知ってこう動いていると私は信じている……その善性と体当たり人生の因果は善因善果として報われると思うんだ
時は沖縄支部がどうにかこうにか【銃火暴風怨嗟域】を押さえ込み、クトゥルフ神群並びに穢教鳥の軍勢を沖縄海域にて迎え撃ってタワーディフェンスからの終末到来、そして星辰がずれ込むまで日本を護り切ったて迎えた終末到来から暫く経過した時の話
終末到来による混迷の只中にて『やんごとなき一族』の護衛頭となった根願寺一門の顔にして『根願寺最後の命綱』である『今代葛葉キョウジ』氏は常日頃……いや、『やんごとなき一族の護衛』という重責をガイア連合から押し付……もとい、託された彼は更なる深い懊悩に懊悩を重ねていた
基本的に彼が在籍する根願寺は……嘗ての戦争敗北の結果と
それでも十年前までなら身を魂を削り燃やし砕け散る覚悟で会得した本来彼の才覚には余る秘儀……の断片を無理矢理繋ぎ合わせた継ぎ接ぎの技術を以てこの日本の地に蔓延る悪魔怪異の調伏に身命を賭して挑んでいた*1
先に挙げられた様な状況故に帝都以外の異界や怪異には文字通り殆ど手も足も出ず、またガイア連合が解放した日本神からも『メシアンに尻尾を振った裏切り者』扱いされても。そもそも自身の磨き上げた力なぞ所詮は『蟷螂の斧』に過ぎないという残酷な現実を直視しても尚彼は今現実に起きている厄災を防ぐ為に動く事を止めなかった……それこそガイア連合からすれば正に『霊的には最早手足すらまともに動かない様な有り様』だろうと未だ使える口や舌、転がってでもただ独りでも血反吐を吐きながらその使命を果たす為に足掻く様に感銘や敬意を抱く黒札達は多い
彼の足跡……殆ど無才無力な男の足掻きのある一つの帰結?いや人生で積み重ねて来た尊い意志が芳醇な果実として実る実例の一つが日本の最南端である『あらゆる意味で最も日本から遠い日本の地』にて見られるだろう
話は戻り……彼こと『葛葉キョウジ』が新潟は魚沼支部という終末対策が非常に行き届いた日本人類生存の重要拠点ともなり得る場所にてその場の支配者*2からの情報を元に先ずは宮城の幼女ネキを頼る前に夜歌山に暮らす人魚ネキという幼女ネキの姉同然の人物の一筆を貰おうと考え、そしてその足をどう確保するかを考えていた
「……しかし、この有り様では交通機関どころか車すらまともに使えない有り様だがどうやって次の夜歌山まで行くべきか?」
今の日本は世界ごと名も知られぬ魔界の僻地に墜落した状態故に……ガイア連合が用意した様々なインフラ以外は殆どが消失してしまった有り様だ。それこそ橋は崩壊し、トンネルは塞がれ、道は荒野と化して様々な悪魔怪異が闊歩する無法地帯である
キョウジ氏自身も非常に運良く魚沼に向かう黒札に同乗させて貰いこの地に向かう事が出来た訳である……少なくともキョウジ氏の実力で単身外の荒野に向かう事なぞ平たく言って『自殺行為』以外の何物でもない
キョウジ氏を送ってくれた親切な黒札も既に自身のやるべき仕事を魚沼にて初めているのでもう彼は頼れない、故にその足や対悪魔……嘗ての彼には一体ですらほぼ対処不可能な『都市壊滅級の大怪異』、そしてそれが比較的弱い分類としてぽこじゃか湧いて出る魔境にどうするかを真面目に考えなくてはならないだろう
今までは日本に張り巡らされた各種交通機関や根願寺の所有車輌で移動は出来た。しかし現状では日本各地の黒札達が築き上げた『対終末シェルター』内部だけが『人類生存可能拠点』であり、今は未だその終末対策に構築した『ショタおじの備え』の一つである『ターミナル』と呼ばれるガイア連合技術の結晶も現状では不安定な状態故に一応は『金札』という『ガイア連合正式メンバーの身内認定』でもある特権を与えられたキョウジ氏でも安全性やそもそもの不通状態、更に言うなら黒札以外のターミナル使用には莫大な費用が掛かる為はっきり言って根願寺の財源でターミナル連続使用は何度もやれば間違いなく根願寺そのものが干上がっておしまいだ
「……夜歌山にアポは取れた、けど何時に向かえるだろうか?この有り様で?」
それこそ一部の高位黒札達なら今すぐにでも自身の乗り物でこの無法地帯を我が物顔で蹂躙横断出来るだろう、暫く後ならガイア連合の技術と人員を用いてシェルターからシェルターを行脚するキャラバンが結成されるし黒札達が今もそのキャラバンの為に終末仕様の道を突貫工事で構築している状況である……しかし今はシェルターの範囲以外には道なぞそもそも無い悪魔の跳梁跋扈する無法地帯である
一応、この魚沼にも何名か転移魔法を使える黒札達による転移サービスこと『密輸課』なる存在が魚沼支部に立ち寄っていてそろそろ次の目的地に向かう為に支度を始めているという話を聞けた……今のキョウジ氏は単身で動いているから交渉に成功すれば多分『相乗り』させて貰える可能性があるかも知れない
「……俺の次の目的地は沖縄だけど、それでも大丈夫か?」
何かのアニメのコスプレにしか見えない、変な赤揃えそう衣服に変な仮面姿の横にも縦にも逞しいケツアゴとその容姿にそぐわぬ涼やかな美声が特徴的なキョウジ氏と同年代と思わしき黒札が協力してくれる事となった
その協力の前に沖縄支部に連絡を入れて……その日のうちに偶々手隙時間がある支部長が面会時間を捻出してくれたとの報告が数分以内にあった
「では、宜しくお願いします」
「了解、でも俺の転移はちょっと独特だけど驚くなよ?」
……即座に沖縄には行けた。だが何故沖縄の廃校になった小学校男子トイレという訳の分からない場所に転移なのかはわからないが
「悪いなキョウジさん、俺は正式には『元密輸課』であって今は沖縄支部みたいなメシアンスレイヤーに協力するフリーの転移屋なんだ」
「……いや、無償で沖縄みたいな遠くまで送ってくれただけで本当にありがたい話です。流石に転移先には面食らいましたが」
その廃校舎から彼らは出て最寄りのガイア連合派出所…… 何故かすぐ近くで待機していた大宜味派出所の親父黒札の協力で沖縄支部の拠点に直ちに送って貰えることとなっていた。どうやら支部長が転移屋を含めて既に手回しを行なってキョウジ氏を現在の沖縄支部拠点である那覇にあるジュネス小禄に連れて来てくれた*3
それから更に十分すら経過せぬ時間で、沖縄支部ことジュネス小禄の中にある異空間こと『裏ジュネス沖縄』内部の貴賓用応接室の中でキョウジ氏は沖縄支部の長であるその男と対談していた
その男は一見すれば中肉中背、何処か眼鏡が似合いそうな優男にしか見えない容姿の二十歳前後と思わしき若者だった。隣に立つ似た年代の、恐らくは彼の専用シキガミなるガイア連合の技術の真髄たる黒札専用パートナーを秘書として隣に侍らせている……確か最初に見た時から彼女の姿は一切変わっていない様に見える辺り間違いなく件の支部長専用シキガミなのだろう
所謂ストロベリーブロンドという髪色と男の理想を極限まで詰め込んだ神懸かりの美貌と肢体を持つ絶世の美女が茶と茶菓子を勧めてくる……今では金と等価扱いの貴重品と化した珈琲と今の日本では贅沢品の極みである砂糖をたっぷり使う茶菓子こと金楚糕なる沖縄固有のクッキー一つ?いやその中に沢山のチョコチップが練り込まれている辺りから間違いなく歓待されている事が分かる
今の日本ではコーヒー豆やチョコレートは『高級路線』を征く沖縄支部か南米直輸入産のほぼ純天然物以外は大概オカルト産の代物か粗悪な偽物、または終末前の遺物以外にはほぼ存在しない……沖縄支部のものはこと味に関しては『味にはうるさい』と評判のグルメ黒札達や料理人黒札達でさえ最高評価を下す『美食特化仕様の霊的食材』である
その分数は少なく、これらを食せるのは稼ぎの良い黒札とその身内、または『味見特権』のある製作者達か沖縄支部と懇意にしている者ぐらいであろう……若しくは余程運の良いガチャ当選者か何かぐらいだろうか?
この茶と茶菓子一つ見ても間違いなくキョウジ氏は沖縄支部から歓迎されているのが分かる……少なくとも今後の『やんごとなき一族』でもそう滅多に食べられる機会の無い贅沢な一品から分かるというものだ
「……さて、話は魚沼からも聞き及んでおります」
普通の若い青年の声色で『沖縄支部長』はキョウジ氏に語りかける……年は推測するに二十歳前後中肉中背、何処か眼鏡が似合うイメージのある柔和そうなスーツ姿の優男、そんな姿からはさっぱり見えない様々な伝説をこの地に打ち立てて来た『沖縄の大英雄にして超越者、そしてニライ=カナイの荒御魂』が口を開く
「……先ず、はっきり申し上げれば沖縄支部。いやその前身である沖縄名家は根願寺にも『やんごとなき一族』にもあまり良い感情はありません。そもそも我が故郷たる沖縄は『本土防衛の捨て石』にされた件やその後を怨み憎む老人達やあの戦争の後始末を押し付けられた比較的若い衆達の存在は決して忘れて欲しくはありません」
真っ先に切り込まれたその内容……戦前からの様々なやらかしやあの戦争の件、それに何より戦後沖縄に押し付けた様々かつ莫大な負債の数々、米軍基地問題からかの悪名高い【銃火暴風怨嗟域】の件やその後始末に『咎穢』と呼ばれる厄災の結晶処理など様々な『本来ならば日本そのものが果たさなくてはならない莫大な負債処理』をガイア連合の力を借りたとはいえ僅か数年でだいたい完済に持ち込み沖縄の地を終末にも負けない世界でも有数に豊かな人類居住の理想郷にのし上げた稀代の大英雄の言葉である
「……」
その内容に何も言えないキョウジ氏。確かに彼も沖縄の地に起きた事、自身の所属する組織がやらかした仕打ちなどは彼の権限で知れる限りは学び沖縄の地から来た霊能者達への支援を自力で出来る限り努めて来た。数年前の沖縄がもう二進も三進も行かない状況にまで悪化した状況では彼の権限の限りを尽くして沖縄の民間人を保護する算段を沖縄霊能者達と懸命に考え相談し合っていた……根願寺そのものはメシア教の顔色をびくびく伺ってまともに身動きを取ってはくれなかったが*4
支部長こと『琉球ニキ』個人としても根願寺や『やんごとなき一族』にも特に興味は無い……少なくとも『やんごとなき一族』をどうこうする気も無いし、根願寺が動かない事にも先に挙げた様に『殆ど手足すら失っている者に他者を救う手立てなど無い、そもそもそんな状態の者なら生きているだけで精一杯の有り様』だと彼らに怨みなぞ持つ気は一切無い。逆に言うなら個人としてははっきり言って『ほぼ無関心』の一言に尽きる*5
そして……そんな状況であろうとも自身に残された僅かな力と権限を駆使して必死に踠き足掻くキョウジ氏には魂から敬意を覚えるものであり、今の沖縄を維持する為に血反吐を吐きながら戦い足掻いて来た沖縄名家達もキョウジ氏の赤心は伝わりどんな反根願寺派、反皇家派の名家組でも『キョウジ氏の懇願』ならばその反感を抑えて一致団結してキョウジ氏の願いに力を貸してくれるだろう
沖縄から出稼ぎに来た霊能者達の中でもトラブルにて窮地を救われた者、沖縄崩壊の危機に自身が出来る全てを以って沖縄県民の避難場所を少しでも調達する為に動いた事を覚えている者、その中でも琉球ニキ自身も今の彼の妻のうち二人である『(旧姓)大崎未亜』並びに『(旧姓)月守小夜』との縁を取り成してくれた恩があるし、彼が身を削ってガイア連合に協力してくれた事を決して忘れる気は無い
それに……例え同族だろうがどんなに小さな力であろうとも彼の長く苦しみに満ち満ちた戦いを侮辱する様な真似は決して赦せないぐらいには琉球ニキもキョウジ氏を気に入っているという個人的思い入れ?いや一人だろうと無力だろうと真に『守りたいものの為に身命を賭すキョウジ氏の心意気』に共感を抱いているというものもある。それは何も琉球ニキだけではなく沖縄支部に所属する者達の基本的な共有見解である
故に……沖縄支部では魚沼支部から連絡が有った瞬間に様々な支部所属メンバー達が有り物やカンパを集めて根願寺や『やんごとなき一族』の為ではなく『葛葉キョウジ氏の願いの為』に『やんごとなき一族防衛用式神』や他にも余剰の装備や資材、予備資金を用意して即座にキョウジ氏に提供する準備を整えていた
流石に『防衛用式神』の準備にはまだ暫く時間が掛かる為この日一日はキョウジ氏に『休暇』として沖縄の地でゆっくりして貰う事にしている……ワーカーホリック具合で言うなら琉球ニキ自身も運営から注意されているからキョウジ氏の事をとやかく言う資格は無いだろうが
「しかしキョウジさん、我々は『貴方の為』なら貴方の希望する支援に全力を挙げて協力致しましょう……少なくとも式神戦力、我々の作成デモニカ、その資材や対亡者穢教鳥用装備や弾丸、他にも大戦時代の骨董品で悪いけど銃器や戦車だって提供出来ます」
琉球ニキの隣に侍る秘書……琉球ニキの妻が一人であるルカがキョウジに様々な書類の入った封筒をキョウジ氏に差し出す。その書類には様々な沖縄支部からの提供装備目録が記載されていた
沖縄支部特製の拠点防衛用式神二種類
アガシオン・スパルトイ二十四体
アガシオン・テラコッタの狛犬状態バージョン二十四体
通常のアガシオン二十四体
沖縄支部謹製デモニカ三種三機セット
提供デモニカ、アガシオン、式神修復用トレーラーなどの周辺機器一式に整備用式神三十体や豊富な修復機材
沖縄支部名物である怨嗟鋼呵責鋼装備やそれを使う弾丸各種が納められた大型輸送コンテナ計三個分
沖縄支部の余剰魔石や傷薬などの薬剤や攻撃用魔法石各種が納められた小型輸送コンテナ一個分詰め合わせ
軍資金や準備金としての魔貨やガイアポイント(鹿児島支部との共同支援)
沖縄支部の酒や砂糖、提供数は限られているが純正のチョコレートやコーヒー、沖縄謹製果実や菓子などの嗜好品贅沢品などの期間限定提供*6
……今の根願寺や『皇族防衛戦力』には非常にありがたい武装の数々について記されていた*7
その中でも『特筆』と記された二種類の式神についてのデータ……その名称は『青鬼』と『しまっちゃうおじさん』という一見すると訳の分からない代物だった。写に写っているやたら頭がデカいブルーベリー色の肌をした全裸の巨人だの二足歩行するピンク色のブチハイエナの謎分身による群れだのを見てどう解釈すれば良いのだろうか?
「この二つは沖縄支部でも実はあまり世には出さずに
琉球ニキの言葉にキョウジ氏は冷や汗脂汗を流してその色々凄まじい内容の書類を読んで理解する……先ず最初に挙げた沖縄支部の名物であるアガシオン・スパルトイというさっき逢った大宜味派出所の者が作成した白兵戦仕様アガシオンシリーズの一種でありその技量は世界各地のデビルバスターから絶大な信頼を寄せられる程に高く篤い大人気商品である。アガシオンシリーズは『主人にちゃんと苦言が言える』ぐらいに思慮が深いので下手な人間よりも頼れるという評判もある
また、他にも拠点防衛用アガシオンの一種としてアガシオン・テラコッタの提供もまたありがたい話である……日本本土の神処に適合する様に沖縄仕様のシーサー型だけでなく狛犬仕様やお狐様仕様など様々なバリエーションで作成された製作者の流派である備前焼に沖縄のやちむん仕様を取り入れた独自の陶器製アガシオンという欧州で言う所の『ガーゴイル』みたいに動く陶器像だが、この擬態能力も含めて拠点防衛には役立つ素晴らしい戦力である
アガシオン・テラコッタの製作者である人物が手掛けた壺に収めておける通常アガシオンや、沖縄支部仕様のデモニカ計九機も皇族防衛には非常にありがたい戦力となるだろう……沖縄支部製デモニカは普通のデモニカユーザーには結構癖の強い機種ではあるが*8
通常の対亡者や穢教鳥戦用武具もまた、皇族防衛戦力やアガシオン・スパルトイに持たせる武装として非常に優れた代物であり、数輌提供された俗に『チハ』と呼ばれる小型のオカルト仕様に改装したリストア戦車も防衛の役には立つだろう。沖縄支部の『へそくり』の一欠片から捻出した軍資金で皇族の生活をある程度は担保も出来るが、キョウジ氏が今一番欲しいものについては……
「……手厚い支援はありがたいのですが。人的戦力の都合とかは……」
「……うちの戦力は大半がメシア教への復讐に狂った復讐鬼ばかりですよ?間違いなく沖縄から離したら暴走待った無しですし、俺らが手綱握らなければ即座に制御不能です……それでも欲しいですか?そもそも未だ【銃火暴風怨嗟域】は荒れ狂っていますし沖縄の海は広いですからむしろこっちが戦力を求める有り様なんですわこれがまた」
「……返す返す申し訳ない」
この会話からも分かる様に……沖縄という地に集う黒札や戦士達は大概が『メシア教への復讐に狂った復讐鬼の群れ』や海外から来た様々国柄の難民達ばかりであり、様々な意味で『皇族の護衛』には不適切の極みみたいな人材ばかりである。特に復讐鬼達は『最後の理性』で沖縄に籠り沖縄でメシア教への復讐に邁進する理性が蒸発しかけた連中ばかりであるからして
一応は沖縄支部の幹部衆なら家格こそそもそも無いが黒札の中でも一際強い理性が有り対貴人教育や礼法も卒なく熟せ、しかも貴人の護衛経験も有る上に幾多の復讐鬼達の手綱捌きも超一流という『キョウジ氏的には喉から手が出るほど欲しい逸材』ではあるだろう……『一時的な協力』なら兎も角、恒久的な護衛とか専属化は沖縄鎮守と維持の見地から絶対的に不可能な話だと即座に一蹴されておしまいになるだろう。それが許されるならそもそもちひろネキを筆頭に運営が彼らを決して遠く遠くの沖縄になど送らず絶対に手放さずに『運営直属黒札マタギ衆』として大切に扱ってゆくだろう
官位を出しても沖縄の神格との付き合いでそんなものを貰っても単なるノイズや邪魔にしかならない為その辺りはむしろ逆効果……兎に角キョウジ氏自身の人徳や過去の積み重ねだけが沖縄支部からの支援に繋がった訳である*9
ちなみに鹿児島支部に『皇族の護衛』が務まる様な人材は……その人員を抜けば鹿児島支部の運営そのものが瓦解しかねない為沖縄支部と同じく人員支援はほぼ不可能との事だ
「……まぁ、こちらも出せる手札は出しました。キョウジさんは明日まで沖縄支部でお待ち頂きたい。支援は明日の朝には全て届いてキョウジさんが指定した場所に搬送致しますので今日は泡盛で一献如何ですかな?」
琉球ニキの言葉に甘え、その日は久しぶりにゆるりと旅の垢を落とすことが出来たキョウジ氏、終末到来から今まで常に気の休まる状況ではない有り様の中で沖縄支部の歓待……沖縄地酒や終末では非常に稀少である新鮮な海の幸という宴席と安らげる場所での安眠に少しだけでもリフレッシュが出来た様である
……キョウジ氏の安眠に、彼に宛てがわれた寝所近くから微かに響く三線の音色と沖縄民謡が心地良く響いていた事は多分関係があるだろう。少なくともここ数年いや十数年の中でこうまで安らかな眠りを享受出来た事は無かったと後々キョウジ氏はそう述懐している
そして次の日……琉球ニキはキョウジ氏にある二つの『キョウジ氏の為だけの贈り物』を渡していた
一つは……琉球ニキ達沖縄チームのコネや伝手を利用した『黒札級ターミナル使用権限』並びに『密輸課への無償協力権限』という今後のキョウジ氏には非常にありがたい権限が付与された書類とカード
もう一つは……彼が名を継承する『初代葛葉狂死』由来の非常に凶悪な呪物装備こと『穢教滅閃砲』と呼ばれる単発銃とその弾丸だった
沖縄支部が開発した初期の仕様に似た造り……ではあるが、品質や精度は段違いの逸品、霊的素質に乏しいキョウジ氏でもパワーを使う弾頭ぐらいは難なく使いこなせる様に沖縄支部の幹部が一人であるガンスミスニキが細心の注意を払って作成した最早神器級とも通常黒札ですら認識するレベルの逸品中の逸品である。勿論これは『葛葉キョウジの為だけに作成された魔銃型専用COMP』だと言える
「沖縄支部、並びに初音郷支部的に貴方の初代には結構感謝しているのですよ……我々は『断末魔砲』と仮に名付けた術式が穢教鳥処理、そして
穢教滅閃の弾丸を弄びながら琉球ニキは何処か凄惨かつ惨虐な……要は非常に禍々しい微笑みを浮かべる。確かに琉球ニキ達沖縄支部を治める幹部衆らは良識的かつ理性的ではあるが、彼らもまた間違いなく根本的にはメシア教や穢教鳥に果てしない復讐心を抱く復讐鬼の一員だという事がまた間違いなく頭でなく心から理解出来た。その手で弄ぶ弾丸の余りにも悍ましい製法を知っているなら尚更だ
そんな琉球ニキの二面性に内心激しい恐怖を一瞬抱いてしまう……しかし、ついさっきまで心から自身を歓待して微笑む、時に厳しくも良識や慈愛に満ちた穏やかな人間性もまた間違いなく彼や沖縄支部の本性である事も間違いない
「メシア教占領下の嘗ての日本を、それこそその僅かな力と権限だけで身を削ってでも日本を護ってくれたキョウジさん、そして貴方の後ろから着いて来てくれた部下の人達……貴方の薫陶を受け継いで
弾丸を執務机に置き、琉球ニキはそうキョウジ氏に語りかける……沖縄支部も名家時代から今代葛葉キョウジには沢山助けられて来た。沖縄名家にとって基本的に本土は殆どアウェーであり、良く詐欺や騙しに遭って酷い目に遭う事も屢々で八十年代にもなるともう本土での出稼ぎにも正攻法を止めて犯罪的手段に転じる事すら視野に入れて考えるぐらい荒んだ有り様だったらしい
その状況下で動いたのが当時は未だ無位無官の一般根願寺霊能者だったキョウジ氏だった……彼の今より遥かに少ない権限と未だ少しはある自由時間で沖縄名家となるべくマシな本土名家の橋渡しが成立した結果沖縄名家は暫くは息を吹き返す事に成功したという恩義から沖縄名家とキョウジ氏の縁が始まった
それこそ最初の頃はまぁ……色々と行き違いや失敗ばかりではあったが、それでも沖縄名家との橋渡し*10にて日本霊能者界隈はまだどうにか最低限の尊厳を部分的ではあるが護れた訳である。間違いなくその功績も有って『葛葉キョウジ』という本来ならば『ヤタガラスの始末屋』……今では『根願寺の調整人』を襲名した訳なのだろう
沖縄名家も基本的には座備家の様な財源たる家系以外は大概一般家庭と大差無い貧乏人ばかり……しかも身体を欠損したりまともに動けない再起不能者を抱えて足掻かざるを得ない有り様故に、キョウジ氏が少しでも動いて彼らの社会生活を僅かだろうと支援に動いてくれたおかげでやはり部分的ではあるが彼らの最低限の生活や尊厳が守られたりもした
故に沖縄ではキョウジ氏とその部下たちだけは手厚い信頼があり、琉球ニキ達が嘗て引き受けた塩漬け依頼は実は結構キョウジ氏やその配下達から出された依頼が多かった……これもキョウジ氏への恩返しの一環である
「一晩改めて考えた結果だが……うちの黒札達はそちらさんじゃ制御不能レベルで我の強い奴ばかりだったり、沖縄支部の重要インフラだったりで無理。日本人金札も皇家への感情が宜しくない古参勢や外人戦力、後はうちの身内ばかりだからそっちも無理、一応はガイアレベル20未満のギリギリ達人級ばかりで悪いけど信頼の置ける教育された銀札数人なら辛うじて?まぁあまり期待はしないで待っていて欲しいかな?」
「いや、ガイアレベル20近くの人員は我々としては非常にありがたい話です。しかしガイアレベル20近くの人員は稀少なのですが……?」
キョウジ氏の疑問は確かだ……本土でそのレベルまで至れる霊能者は間違いなく稀少枠である。そもそも『銀札』という資格は『黒札や金札という保証無き者が得られるほぼ最高資格』故に場所次第では下手な金札や黒札よりも篤い信頼が得られる事だってある資格なのだ。尤も、そういう地帯はほぼ間違いなく『切羽詰まった限界地帯』であるものだが
「沖縄の場合……そのレベルの銀札達は銃火暴風怨嗟域に参加するには厳しいビルドだったり、更に過酷な海域防衛で参加を足切りされるギリギリのレベルである者達が多いのですよ。しかし中にはちゃんと日本人かつ宮内でも対応可能な教育を受けた者達もまた存在するので彼らに出向を頼む事は出来ます。流石に彼ら彼女らの選択肢次第ですがね?」
琉球ニキの言葉に隣に侍る秘書ことルカのガイアフォンに連絡が掛かる……網膜投影で内容を確認すればその内容は
「マスター、キョウジ様、マダオニキ様並びに樽ニキ様からのご連絡です……お二方から低位達人級並びに準達人級人材計20名、そして中級達人*11を合わせて2名出向させることが出来るから『ガイア連合財政界組一同』として軍資金提供と合わせて沖縄支部のキョウジ様支援プロジェクトに一枚噛ませてくれ、との事です」
そう、澄みきった涼やかな声が響く……黒札は流石に無理だったが、一応優秀な人間の戦士は珍しく確保出来た。後々沖縄支部からも5名、初音郷からも12名の出向戦力と初音郷経由支援品を出せたので一先ず40人弱ほど優秀な戦力補充が出来ている
しかし……旧都の慇懃無礼な旧名家や一部の愚かな根願寺メンバーが引き起こす軋轢で財界、沖縄、初音郷出向組にもありその激しいギスギスをどうにかする為に余計に胃痛に悶え苦しむことになるとはこの時の人員確保に内心浮かれていたキョウジ氏は思っても見なかった
しかし……それでも後々、寿命が尽きるまで日本に尽くした彼の腰に下げられた『穢教滅閃砲・キョウジスペシャル』は様々な危機や苦難から彼を護る『沖縄支部の権威にして加護』として幾多の不条理や理不尽から彼が使命を果たす一助となった
「キョウジさん、確か今度は幼女ネキの所に行くって聞いたけど……行くなら人魚ネキの一筆があると良いと俺は思いますね?一応は俺や沖縄黒札代表陣の一筆も添えてはおきますからまぁ交渉の足しにでもどうぞ」
沖縄黒札代表陣の血判入りという何とも凄まじい一筆も有ったものだ……万が一にでもこの一筆を無くせば大事も大事、万が一にでもこれが心無き者に悪用でもされようものなら根願寺の名誉や尊厳は今度こそおしまいだろう
ポンっ、と軽い音を立ててその一筆がキョウジ氏に手渡される……琉球ニキの基準はさておきキョウジ氏の基準からすればこの書類はまるで根願寺そのものを手に持たされた様な、そんな激しい重圧を感じてしまう
そもそもキョウジ氏自身も人魚の元に向かい『幼女ネキへの一筆』を貰いに赴く予定だった……その辺りも考えて更に琉球ニキ自身の『人魚ネキへの一筆』もついでに渡してもおいた
ともあれ、そんなこんなでキョウジ氏の地方行脚沖縄編ははキョウジ氏自身がその支援の重みで押し潰されそうなぐらい激しく上手くいった……また沖縄支部からの支援は何も物質や人員だけでは無い。ある意味『沖縄支部からの箔付け』もまた支援の一つとなるだろう
『沖縄支部からの支援は、キョウジ氏が居なければ先ずまともに成立しなかった』
そんな現実を根願寺や皇家に叩き付け、この支援に紛れて『もしもキョウジ氏を蔑ろにしたら……分かっているよな?』という脅しも込めておいた。少なくともこの支援で『根願寺に於けるキョウジ氏の政治的立場』は非常に高まりキョウジ氏が巻き込まれるだろう『根願寺や宮内、旧都名家関係のいざこざ』への支援にもなれという意図も含めておいた
後はキョウジ氏の戦いだが……必要なら手助けもアフターケアもやる予定だ。だが霊能霊才以外なら間違いなく有能の極みであるキョウジだからだいたいは自力でどうにかするだろう
「次は如何なる思惑も柵も無く心地良く酒を酌み交わしたいものだ」
キョウジ氏が次の目的地に向かい、琉球ニキもまた次の職務に向かう中で一人そう呟いた。それを聞いていたのはこれから直ぐに終末直後からの懐妊が発覚して今は秘書として無闇に動けなくなるルカだけだった
終わり
『穢教滅閃砲・キョウジスペシャル』
この世界で必死になって頑張って来た『今代葛葉キョウジ氏』の為に沖縄支部が作成した彼専用装備。分類的には『魔銃』の一種……に見えて実際には召喚機に分類される魔具。外見的にはかなり精巧な造りの『ダイの大冒険における魔弾銃』そのもの
通常の穢教滅閃砲より様々なオカルト的補強措置を重ねて指定された所有者にかかる負担を極限まで削減する事に特化した造りをしている『ガンスミスニキの傑作』たる逸品。要は『オカルト的才能が殆ど無い霊能者でもなるべく本式穢教滅閃を使いこなせる様にする』というコンセプトの研究成果
この非常に専門的かつ『所有者制限』など様々な縛りを加えて補強したおかげで穢教鳥パワー辺りまでなら補強補正で本来使用を想定されている所有者のパワーアシスト、操作補助を可能としている
基本的にこの精度でこのタイプの召喚機を作成出来るのはこのシステムの設計者であるガンスミスニキのみであり、この作品はガンスミスニキが様々な稀少オカルト素材の……端切れ素材を使ってキョウジ氏の為だけに作成した代物である。端切れ素材とはいえ一欠片でも家が建つ様な超高級素材をその道の第一認者であるガンスミスニキの技術を詰め込んだ正に神器の一種
ちなみにこれは二号機でありプロトタイプの一号機は『座備賀留真』に送られた……半終末期到来に於ける多数の民間人を護り通して生還した事への勲章代わりだという事だ
霊能は兎も角、式神使役技術だけなら沖縄支部所属の古式悪魔召喚士すら参考に出来る技量のあるキョウジ氏故に……この『キョウジスペシャル』により穢教滅閃を巧みに扱う事が可能となる。しかしキョウジ氏の霊力では沢山撃つ力は無いし、そもそも弾丸も非常にお高い代物なのではっきり言ってキョウジ氏もそうそう多くは使えない正に『切り札』である
この技法そのものが『初代葛葉狂死』の絶技故に今代のキョウジ氏に継承されるのはある意味『先祖返り』とも言える……かも知れない