蒼海の巨城たち〜大西洋の旭日旗〜   作:刀持ちの烏

4 / 4
第二話 英国生まれの翼竜

10月下旬、千葉県霞ヶ浦上空では一機の戦闘機が飛行していた。

 

その機体は、日本海軍で採用されている九五式艦上戦闘機や九六式艦上戦闘機らと比較してかなりスマートな全体像をしていた。主翼の形状も先端が丸みを帯びた形状となっており、どことなく芸術品のような美しさを感じさせる。

 

まるで日本機ではないようなフォルムであるが、その機体は濃い緑色の塗装に身を包んでおり、主翼には特徴的な鮮やかな赤い日の丸が塗られていた。

 

 

 

「新型は性能がいいなぁ」

 

日本海軍の戦闘機パイロット、来島駿介大尉は気の抜けたような声でそう言った。瓜実顔に細い目となため、どことなく胡散臭そうな顔つきをしている。

 

彼自身何度か戦闘機に乗ってきたことがあったが、これほど乗り心地のよい機体は今まで乗ったことがないほど、この機体は良いかもしれなかった。

 

来島は下の方を覗いた。機体はかなりの上空を飛行しており、水面が穏やかな霞ヶ浦や紅葉が目立ち始めた筑波山も小さく見える。彼の感覚でもおそらく10kmは超えてるんじゃないかなと思われるほどだ。

 

「流石だなぁ、ここまで飛べるってのは…うちの国が作ってたものとは大違いだわ」

 

彼は、どことなく底が見えない顔に苦笑いを貼り付けながらそう呟いた。

 

 

 

彼の乗る九九式局地戦闘機[龍電]は元は日本のものではなく、三菱重工業がイギリス製のスーパーマリン[スピットファイア]をライセンス生産したものだった。ただし、対爆撃機のために、武装は元の7.7mm機関銃8基から20mm機関銃4基にしたりと、機銃の口径を上げるなどの改良を行っている。

 

イギリス製にした理由は、以前から結ばれている日英同盟による恩恵によるものだった。日露戦争直前に日英同盟を結んでから35年近く、この両国は戦争時の手助けだけでなく、軍事的な技術交流も盛んに行っていたこともあって、この[龍電]のライセンス生産についても二つ返事で了承されたのだ。

 

それに、[龍電]は局地戦闘機として考えるなら、かなり有力な機体であった。

 

13.2mm機銃4基という重武装もさることながら、特に目を見張るのは来島も感じていたその高空性能であった。

 

だが、流石に欠点もあり、日本が液冷エンジンを採用するのは初なので整備に問題が出ること、現在試験中の艦上戦闘機と比較すると格闘戦闘能力は劣るという問題があった。

 

前者は液冷エンジン特有のどうしようもない問題だが、後者に関しては、これはあくまで空母艦載機と比較するとというだけであって、爆撃機を撃ち落とすなら、一撃離脱と高空性能が高いこの機体の方が向いているといえた。

 

 

 

もちろん、機体を採用する上で反対意見も多かった。ライセンス生産な上に、最初は慣れない液冷エンジン搭載の機体を運用することに難色を示すものが多かったのだ。

 

しかし、それらの意見は米国のB-24[リベレーター]の情報を知るないなや相殺された。

 

このB-24は、仮想敵国たる日本と戦争するうえで高い航続距離を考えて設計されていた。流石に日本本土に届くほどではなかったが、その航続距離は3000kmにも及び、将来的には日本本土も危ういと思われるほどだった。

 

かくして[龍電]のライセンス生産は決定したわけである。

 

 

 

問題こそあったが、載ってみた感じだと[龍電]は有力な機体だと彼自身思っていた。

 

その高空性能や速度もさることながら、やはり高空での機動性がいいのが彼にとって良かった箇所であった。翼端渦低減のために独特の楕円型の翼を採用したことが功を制したと言えるだろう。

 

『できれば欧州とかに送られるとかあったらこいつに乗せてもらいたいもんやなぁ…』

 

来島大尉は心の中でそうぼやきながら機体を左に旋回させた。機体の動きは軽く、軽やかに左へと方向を変える。

 

当たり前ではあるが、いくら彼自身操縦に自信があるといっても、技量にだけでは限界があるので、どうせ乗せられるなら良い機体がいいと思っているし、それに、今のような試験飛行ならまだしも、現在のドイツとの関係を考えるなら戦場で飛行することが多くなりそうであった。

 

ドイツと戦うなら配備されるのはイギリスかフランス。そうすれば堕とす相手はドイツ空軍の爆撃機か要撃機になりそうであった。だから、その手の相手にはこの[龍電]のようないわゆる局地戦闘機が向いているというわけである。

 

来島大尉は、そんなことを思いながらその周囲を一周して飛行場に戻った。

 

 

 

 

1939年11月、イギリス、コーンウォール州の気温は10°近くまで低下していた。

 

街には例年のように防寒着を着て歩く人が増え、通行人吐く息も白くなっていた。ただ一つ今までと違うところを挙げるとするならば、夜になっても街の明かりがいつもより少なく、出歩く人々の中でも兵士の割合が多いことだ。

 

このトアポイント区にある「オレンジ・キャット」という居酒屋(パブ)でもそれは変わらなかった。小ぢんまりとして、内装も控えめなこの店では、黒や白の軍服を着た人々がふざけ合いながら酒を飲み交わしている。

 

プリマスの向かい側にあるこの街は、昔から海軍に縁のある場所で、その関係からか、航海に疲れた水兵を癒すための居酒屋などの数が昔から多かった。

 

それに、理由はもう一つある。第二次世界大戦が起こったことだ。

 

戦争が始まったとなれば、予備役も集められるため当然兵士が増えるし、それに、今現在イギリスと同盟を組んでいる日本が参戦したことにより、たくさんの日本人兵士がイギリスへとやって来ているというのも大きかった。このプリマスの人口も、日本人水兵の割合がここ最近上がっている。

 

 

 

窓側の席に座っている大河原大尉もその1人だった。観艦式の時の服装ではなく、日本海軍の黒い第一種軍装を着用している。彼の顔は酔ったせいか少し赤くなっており、手にはビールの入ったジョッキが握られていた。

 

「大丈夫か?一旦水でも飲んで休むか」

 

彼と同じ服に身を包んでいる春川大尉は、心配そうにそう言いながら頼んでいたフィッシュ&チップスの魚のフライを切り分けていた。(オーク)で作られた小さめなテーブルには彼のフィッシュ&チップスと、大河原が注文したマッシュポテトが添えられた鶏肉のソテー、そして、あらかじめ苦味を弱めてもらったビールのジョッキが2つ並べられている。

 

「これぐらいどうってことはねぇよ。それに、明後日から任務なんだから惜しみなく飲んでおきたいと思ってたからな」

 

そう言って、大河原はフォークで刺した鶏肉のソテーにかぶりついた。

 

「まったく、そうやってまた飲みすぎるなよ。なにかあった時面倒を被るのは俺なんだからさ」

 

「大丈夫大丈夫、わかってるから心配すんな」

 

「そうかよ」

 

春川は少し疑うような目つきをしながら切り分けた白身魚のフライを口に入れた。正直、大河原はいつも居酒屋に行って最終的にはぶっ倒れているため、彼自身あまり信用していない。

 

そんでもって春川自身酒はあまり得意ではないため、彼のジョッキにはいっているビールの量はあまり減っていない。

 

 

「そういえば、お前はどんな任務につくんだ?海外の艦に乗るとは聞いているが」

 

春川は口の中のものを飲み込むと、そういえばと言うような表情で聞いた。

 

「俺が乗るのは、イギリス重巡洋艦の[ノーザンバーランド]。俺が選ばれたのは英語が喋れるから…とか言われた。まぁ、だけど厳密にいえばすぐに乗るわけじゃない」

 

大河原はそこで一旦言葉を切るとビールを一口飲んだ。

 

先ほど彼自身が言ったように、大河原は英語がそれなりに話せる。これは父親が貿易業の関係で外国人にそれなりに関わっていたため、彼自身も幼少期から外国語に慣れていたからであった。

 

「[ノーザンバーランド]は、現在ブラジルのリオデジャネイロに入港してるから、まずは別の船でリオデジャネイロまで行く。そこで、合流してから乗艦ってとこまでいくわけだよ」

 

「なるほどな」

 

春川はうんうんと頷いた。

 

「それで、お前はどの艦に乗るんだ?」

 

「俺は…あれだよ」

 

彼はそう言って、白く塗られた木で仕切られた窓の外から見える港を指差す。見てみるものの、時間帯だけに外は暗いし、おまけに、たくさんの艦が停泊しているし建物が邪魔だしで大河原にはどれがどの艦なのかわからない。

 

「どの艦だよ」

 

「手前の艦だな。戦艦[陸奥]、ほら、でかい船体が見えるだろ」

 

大河原はよく目を凝らして窓の先を見つめた。たしかに長門型特有の湾曲煙突が小さいながらもぼんやりと確認できる。

 

長門型戦艦は1924年に行われた改装で、排煙対策のため1番煙突が後方へと湾曲されていた。それ以後も、その他小改装が行われており高角砲や機銃の増設が行われている。

 

ようやく[陸奥]を確認できた大河原は感心したように言った。

 

「しかし、お前目がいいな。あんな遠くの船がどんなのかわかるなんてすげぇぞ」

 

「目がいいんじゃない。軍艦が好きなだけだ。それに長門型の煙突が特殊だってのもあるしな」

 

春川は、そう言ってモルトビネガーがかけられたフライドポテトを口に入れた。

 

「しかし、[陸奥]というと長門型だっけか、お前もいい船に乗ることになったもんだなぁ畜生。俺も一度は戦艦に乗ってみたいもんだよ」

 

大河原は心底羨ましそうな表情でそう言った。長門型は艦船に疎い彼が知っているほど海軍の顔であり、他の八八艦隊計画艦艇とともに日本海軍の代表格の一角として君臨していた、

 

「へへ、いいもんだろ?」

 

春川はそういって小さく笑った。

 

「まぁ、でもイギリス艦も悪くはないぞ、あの国は植民地警備のために艦内設備が良いっていう話を聞くからな。もしかしたら[陸奥]よかいいかもしれんぞ」

 

「なるほど、なら一応期待はしておくか」

 

大河原はそう言って納得すると、空になったジョッキを勢いよく置いた。同時に大声で店員に注文をする。

 

「おーい、こっちビール追加でお願い!!苦味弱めたやつをジョッキ2個で!!」

 

あっけに取られた春川は、ハァと呆れたような表情で後頭部をかいた。大河原が酔い潰れたのはそれから1時間後のことであった。

 

外伝の話をやるとしたらこの中でやってほしいのはありますかね?

  • タイ海軍に売却された戦艦[三笠]
  • 四カ国を転々とした露戦艦[イズメイル]
  • 死闘をを繰り広げる仏戦艦[ガスコーニュ]
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。