憑依先がヴライとかマ?   作:明太子餅

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今回はオシュトル視点です。


ヴライという男に興味が出た右近衛大将

 御前試合で戦った男、ヴライの様子が以前と全く違う事に最近気付いた。

 あの男にとって聖上に対する忠誠心と己の力を高める以外に興味がないものだと思っていたが。

 

 だが、最近は雰囲気? というのか、張り詰めた空気が全くなくなり周囲を無闇に威圧することがない。

 ヴライの変化したという噂が経った一夜で広がっていたほどだ。

 女官や一般隊士にご苦労だとか、いつも助かるなんて言って行列が出来る店のお菓子を配ったりしていたらしい。

 あの巨体と強面で腕に一杯のお菓子を抱えながら配る姿はミスマッチ感が凄かったなど噂話が広がっていた。

 

 ヴライを知る存在なら、いや誰? となるだろう。かくいう某もそれはいったい誰だと首を傾げたものだ。

 だからこの目で確かめたいと思い、某は隠れてヴライの行動を監視したのだ。

 

 結果……噂は本当だった。

 

 信じられない事だが、ヴライが本当の意味で人が変わったという事になる。

 この衝撃は未だに忘れられないだろう。

 強さこそが全て、そんな自分の物差しでしか測れない男が弱者に寄り添うなんて天地がひっくり返ってもありえない。

 そんな常識を覆したのだから。

 

 ついこの前、御前試合で戦う機会があったが実力は相変わらずの強さ、某もそれなりに自信があったが彼の男が繰り出す圧倒的な暴力は某をもってしても厳しいと言わざるを得ない。

 辛くも引き分けとなったが、あのまま戦っていたらどちらかが大怪我を負っていたことだろう。

 

 人が変わったとは言えその身に宿した闘争力は昔と変わらず凶暴なものだった。

 ただ敵意や殺意が全くなかったのには違和感を覚えたが。

 

 だからだろうか。試合が終わったあと握手を求めたのは。

 昔のヴライならその手を取ることは万に一つもない。だが今のヴライならばと。

 

 期待した通り奴は某の手を取り会話すらした。

 驚愕と面白さが胸に去来し、勢い余って遊びの誘いなんて事をしてしまったが。

 遊びの誘いも無事了承されて白楼閣で宴会することになった。

 

 その宴会にミカヅチと家に一人にするのは悪いと思いネコネを呼んだ。

 今のヴライなら大丈夫と謎の信頼感があったのだ。

 

 実際にネコネとヴライは思いのほか仲良くなっていた。宴会後の朝など和やかに会話をしていたぐらいだ。

 ミカヅチがそのとき目を点にしていたのは傑作だったな。あんな表情をするのは珍しい。

 まぁあやつはネコネと仲良くなろうとあれこれ不器用ながら頑張っているからな。

 

 結果はいつも徒労だが。

 

 まぁそれはいい。それよりもネコネとヴライの事だ。

 

 あの後も高頻度に会っていたりする。主に鍛錬や酒飲みが多いが。

 酒飲みといえば何故か某がヴライに酒を誘うとネコネが「あまりヴライさんを困らせちゃ駄目なのです」と非難めいた言葉を言ってくるのだ。

 どうしてなのか某よりもヴライの方を常識人扱いしている節がある。

 

 これだけは納得できない。こう言ってはなんだが某は公明正大で名が通っている。それはネコネとて同じ。

 ヴライはちょっと前までは暴君のような扱いだったはずなんだが。

 

 どうしてそっち側にいくのだネコネ。

 

 確かにネコネが率先して仲良くなれる存在が増えることは兄として嬉しい。

 嬉しいがこれは嬉しくない。そこは某の味方になるのが自然だろう。

 

 ちょっとヴライに嫉妬を覚えるが悪いことではないから目を瞑るが。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだウコン。浮かない顔をして」

「なんでもねぇさ“ゴンベエ”」

「それならいいさ。それじゃあ俺はあいつらと一緒に積荷を運んでくるぞ」

 

 大男は強面ながらに表情を崩した笑みを見せて手下達の所に向かう。

 威圧的な見た目に反して愛嬌を感じるその表情に周りの男衆が声を掛けてくる。

 

「ゴンベエさん、これ運んでもらっていいかい?」

「おう任せとけ! 俺の力は世界の誰よりも強いんだぜ!!」

「よっ! 頼れる男、ゴンベエ!」

 

 盛り上がる手下達を眺めながら俺は遠い目をする。

 

 どうしてか聖上への献上品を届ける事と、ルルティエ様を護衛する任務を承った俺について行きたいとヴライが言ってきたのだ。

 そう、あの快活な大男はヴライの仮の姿だ。

 

 実は前々からヴライはウコンやサコンみたいに身分を隠して行動したいと言っていてな。

 面白そうだからと三人で考えて作り出したのが目の前の巨漢だ。

 

 髪を黒色に染め髪型はオールバックに変えて、後は口調や服装などを変えたぐらいだが、まさかヴライだと気づく奴はいないだろう。

 見れば分かるが性格が違いすぎる。あんな満面の笑みで冗談を言ったりしない。

 

 もしヴライだと知っている者があれを見たら卒倒すること間違いないぞ。

 

 未だに俺も慣れない所はあるが、あれはあれで奴の本心なのだろう。

 違いすぎるだろとツッコミたいが俺も人のことをあまり言えないからな。

 

「あ、ゴンベエさん。そりゃあこっちの積荷のやつだぞ」

「おっと、こりゃあーうっかり! すまんすまん」

 

 ペシペシと自分の額を叩きながら笑うゴンベエに手下共はしょうがないなぁと呆れている。

 まじで真剣にどっちが素なのか気になってきたんだが。

 

 友人の変貌に悩んでいるとゴンベエがこちらに歩いてくる。

 

「積み荷の準備は終わったぞ」

「あぁありがとよ。ところでなんだが、そのよ」

「ん? どうした?」

「いやな、お前のそれって素……なのか?」

 

 俺が周りに聞かれないように小声で問えば、ゴンベエは元気よく答える。

 

「どっちも嘘偽りのない俺さ。まぁどちらかと言うとこっち寄りではあるが」

 

 意外だと思ったが、存外ゴンベエとしての姿が似合っているから本当にそうなんだろう。

 友人の新たな一面を知って、距離が近づいたような気がする。

 それにしてもこの姿をもしライコウ辺りに見せたら、どんな反応をしてくれるのか途轍もなく気になるな。

 

 益体もない事を考えながらも、俺はクジュウリに向かうために部下たちに号令を出したのだった。

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