「やっと目的地に着いたでおじゃる……」
「マロロは体力ねぇなー俺のこの肉体を倣って体を鍛えたらどうだい?」
「ゴンベエ殿みたいな体になるのは不可能でおじゃるよ……」
呆れた視線を俺に向けるのはマロロ。見た目が麻呂顔だからある意味一番派手な男だ。
この任務に同伴として一緒に行動をしている訳なんだが、最初はもう怯えられててこうやって会話すら成り立たなかったんだよな。
初対面時ウコンの背中に隠れていたからな? 俺どんだけ怖いんだよ。
「そんじゃちょっくらこの宿の女将さんに挨拶してくるわ」
「「「「うぃーーす!!」」」」
ウコンが宿屋に入って行くのを見ながら俺は少しワクワクしていた。
なんてったってこの場所に今、原作主人公であるハクとメインヒロインのクオンがいる。
こんなの冷静でいられる訳ないじゃん?
荷解きしようかと思ったけど我慢できずにマロロと一緒に宿に入口まで歩くとそこにはハクとクオンがいた。
こちらに気づいたのかハクが俺を見て驚き、マロロを見て吹き出していた。
うんまぁマロロの見た目は正直吹き出しちゃうよね。
「ん? なんでぇゴンベエ達も来たのかい」
「荷解き前に俺も女将さんに挨拶したくてな」
「あらまぁ、わざわざありがとうございます」
うふふと笑う女将さんは原作でも思っていたけど普通に美人だよな。まず間違いなくこの村一の美女だろ。
この世界の顔面偏差値は高いよマジ。
感心しているとマロロがクオンの容姿を褒め称えてそれナンパなん? とツッコまれて気不味そうにしていた。
「あぁコイツは思ったことただ口に出しただけだから他意はないんだ。だからあまり虐めんでくれ」
「ふふ、ごめんなさい。少し虐めすぎたかな」
「酷いでおじゃる……」
肉体的疲労と精神的疲労で地面に座り込むマロロに苦笑していると、クオンが不敵な眼差しで口を開く。
「それにしても凄い肉体。もしかして名のある戦士かな」
「はは、ありがたい言葉だがこれは見せ筋さ」
「ふーん、まぁ“今は”それでいいかな。私はクオン。縁があればよろしくしてほしいかな」
「俺はゴンベエだ。こんな別嬪の頼みなら喜んで」
あらあらうふふと微笑むクオンに俺は背中に冷や汗をかく。
流石は原作でもウコンに只者ではないと初見で怪しんでいた彼女だ。俺も隠していてもいつかバレそうだ。
「お、それなら俺もよろしくして欲しいね。俺はウコンってんだ。アンタらからは面白そうな気配がするんでね。こちらこそよろしく頼むぜ?」
ウコンの言葉にクオンは快く答えていたが、ハクは一人置いてかれた様子でぼ~としていた。
これは会話するチャンスだな。
「あんちゃんとクオンはこういう関係なのかい?」
俺が小指を立てて言うとハクが慌てて否定する。
「え? 自分とクオンが? いやいや違う違う!! そんな関係なわけないだろ!」
「そこまで否定する必要はないんじゃないかなー?」
「待てクオン、自分は別にクオンが嫌いとかでは……あいたたたたっ!」
顔はにこやかなのに尻尾でハクの顔を締め付ける姿は閻魔大王のような恐ろしさがあった。
ひえぇ……この世界の女性って皆怒ると怖いんだよなぁ。
「その、すまんちょっとからかいが過ぎた」
「た、頼むぜアンタ……」
尻尾から開放されたハクが地面に崩れ落ちた所に俺が謝ると涙声が返ってくる。
うーんこの時からクオンはハクに好意を抱いていたのかな。そう思うとクオンの行動が可愛く見えてくるな。
「おいゴンベエ! そろそろ荷解きするぞ。早く終わらせてさっさと飯を食おうぜ」
「おうそうだな。そんじゃあな。あぁっと」
「ハクだ。アンタはゴンベエだったか、短い間かも知れないがよろしくな」
「こちらこそよろしくな」
きっと長い長い付き合いになるだろうけどな。
ガタンゴトンと音を出しながら荷車を押して山道を歩いている。
あの後、夜の宴会に原作同様ギギリに襲われた男が現れて俺達は村長の頼みでギギリ退治に出ることになった。
今は目的地に向かって進んでいる所だ。
「ひぃ、はぁ、ふぅ」
ハクが疲労困憊といった感じで歩いているのを見て俺とウコンは互いに見合って苦笑いする。
「おいあんちゃん。運動がどうも苦手のように見える。良かったら荷車に乗るかい?」
「すまん。そうさせてもらうわ」
よっこいせと荷車に乗ったハクを横目に見ながら俺はそれとなく荷車に近づく。
「なぁハク。ちょいと聞きたい事があるんだが」
「おいマロロこっちに吐くなよ! ゴンベエちょっと待っててくれ」
「お、おろろ」
顔面蒼白のマロロが荷車の後ろにビシャビシャと音を立てて吐き出していた。
うおあぶねぇ! 荷車にもう少し近づいていたら嘔吐物がかかる所だったぞ。
俺が吐瀉物に戦々恐々としていると、ハクは甲斐甲斐しくマロロの背中を撫でて優しく介護をしていた。
こういう所がハクの良い所の一つだよな。
「うし、これでしばらくは大丈夫だろ。んで自分に何か聞きたい事でもあるのか?」
「いや、ギギリの説明を受けた時に首を傾げていたからな。それがちと気になってな」
「ん、あぁそのことか。そのギギリだったか、あんな“巨大な”奴を相手をするのに余裕そうにしているから、ここにいる奴らは相当な手練れなのかと思ったんだよ」
ハクの言葉に今まで騒がしくも楽しそうに談笑していた全員が突然ピタッと止まる。
異様な雰囲気にハクが困惑しているとウコンが焦りを覚えた表情で詰め寄る。
「ちょっと待てあんちゃん。その大きさってどれぐらいだ?」
「え? えぇっとそうだな。まずゴンベエの何倍も大きくて、こう鋏も人間一人簡単に切断出来るような大きさだったな」
「嘘だろおい。そりゃあただのギギリじゃねぇぞ」
ウコンの硬い表情に俺は安堵の息を吐く。
この時点でこれを知れたのは大きいはずだ。この情報を知らなかったが為にここにいる奴らの何人かは亡くなる。
あんな陽気で良い奴らが死ぬなんて嫌だからな。
「もしかして俺とアンタらの言うギギリってのは全く違うものなのか?」
「あぁ。そりゃあボロギギリだ。詳しくは知らねぇがまともに相手をする奴じゃない事だけは確かだ」
「じゃあこのメンツで戦うのは厳しいのか?」
「無理ではない、だが犠牲が出るのは避けられねぇな」
苦い表情のウコンに俺は声かける。
「俺が囮を引き受ける。後はウコン、お前が仕留める。簡単なことだろ?」
「ゴンベエ。それは幾らなんでも危険だ」
「そうだぜゴンベエ。あんなヤバい奴を相手に一人囮役なんて無謀が過ぎるぞ」
二人の心配する声は素直に嬉しい。だが俺は“あの”ヴライである。
ガウンジという凶悪な怪物を手刀の一刀で絶命させた漢よ。
なめてもらっちゃ困るぜ?
「俺に心配は無用だ。ウコン、お前ならこの意味がわからない訳がないだろ?」
「……はぁわかった。だが少し待てもう少し話を詰めよう。そうだな。あんちゃんならどうするか意見をもらえねぇか?」
「なぜ自分に……」
「なんとなく、お前さんなら良い方法が浮かびそうだからよ。別にないならないでいい。どうだ?」
ウコンの質問にハクは一瞬黙り、真剣な表情で俺を見る。
「ゴンベエ、アンタは囮役を引き受けるって言ったが、それはどうやってだ?」
「その荷車にギギリの好物である腐肉が入っている。それを俺が開けた場所にバラ撒いてボロギギリが来るまでギギリを退治して待つ。そんなところだな」
「それじゃあどうやってもギギリとボロギギリが一緒に来るじゃないか。ならこうしないか?」
ハクが語ったのは難しくないシンプルな方法だった。
まず俺が囮役をする。ここでは俺が出した最初の案を採用し、ボロギギリ達を誘い出したら一度クオンの閃光弾で怯ませて離脱する。
その時に予め俺に腐肉の臭いを付けといてボロギギリ達が俺達を追えるようにしておくのだ。
んで追いかける奴らを分散させるためにここで足に自信がある奴にも同じ様に腐肉をつけて囮になってもらう。
こうすれば数を散らしてギギリの数を減らせるだろうと。
後はぶっつけ本番ってとこだ。
「まぁこんなとこだ。正直行き当たりばったりだし作戦とも言えないが」
「いやこの短期間でそれなら上出来ってもんだ。やるなあんちゃん」
「頼もしい男がいて助かるってもんだ」
ウコンと俺の言葉に気恥ずかしいのかハクは鼻を撫でる。
「よし、準備ができ次第取り掛かるぞ!」
「「「「おう」」」」
この時の俺はまぁ大丈夫っしょと楽観的に考えていた。
それが大きな後悔となることに、この時の俺は気づくことはなかった。
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次回のヴライ達は果たして無事に生き残れるか、乞うご期待!