なんだか大変なことになったな。
森の奥で腐肉がふんだんに入った樽を開けて辺りに振りまくゴンベエを見ながら、自分はこの作戦が果たして本当に成功するのか不安になっていた。
ちらりと横を見るとウコンと目が合う。
「なんでぇあんちゃん。ゴンベエが心配か?」
「そりゃあ心配もするさ。俺が会ったあの化け物が本当に出てくるなら幾らゴンベエが大柄だって言っても無理があるだろ」
「まぁ普通はそう思うだろうが、あいつなら大丈夫さ」
真っ直ぐにこちらを見るその瞳には一切の心配がない様に見える。
(ウコンがここまで信用しているってことは、なにかしら抵抗できる手段があると見ていいのか?)
流石に武器もなしで生身で戦うはずもないしな。
どんな手を使うのか気になりウコンに確認すると、奴は笑ってそれを否定した。
「いや別に何もないさ。あいつの強さはどんな武士よりも凶悪だからな。ボロギギリが相手をしたとしても問題はないと思うぜ?」
「いやいやあの化け物を素手で? 無茶を通り越して無謀だろう。それにアンタだってさっき心配していたじゃないか」
「あーよくよく考えればそれはいらん心配だったと思ってな。ま、見ていればわかるさ」
ウコンが会話を切ってゴンベエの方を向いた時、現場に動きが見えた。
草陰から餌につられてサソリに似た虫がぞろぞろと現れてくる。
あれがギギリか。確かに自分があの時見た奴と比べて小さいな。あれなら大人の男なら対処も可能なんだろう。
だがあれが現れたって事は近くに親玉であるボロギギリがいてもおかしくないってことだ。
ゴクリと喉を鳴らす。
緊張で体が強張っている中、眼の前でゴンベエが無双する姿が目に映る。
えぇなにあれぇ……。
言葉が出ないとはこのことを言うのか。
眼の前でギギリを殺戮する
「な? 心配するだけ無駄だってわかったろ?」
悪戯小僧の様な顔で言ってくるウコンに、少し腹が立つ。
でも今はそれが頼もしいと思える。
それにしてもなんだよあの強さ、ギギリを千切っては投げ千切っては投げとこの数分間だけでも周囲に無数の死体が出来上がっているぞ。
もうあの人一人でよくない? 自分もう帰って良くないか。
思わずクオンに帰っていいかと顔を向けると苦笑で返される。
まぁ流石に駄目か。それはそうだよな。
けど実際問題、自分達の助けは必要なさそうだが。
規格外の強さに緊迫する空気が緩みそうになった時、遂に奴が現れる。
「あいつがボロギギリか」
ウコンのセリフに先程の緊張感が返ってくる。
ギギリとは比べるまでもなく巨大な体躯、赤黒く硬い甲羅と尖そうな鋏はあの時見たボロギギリで間違いない。
いよいよ作戦の第二段階に移行するのかと思ったが、ゴンベエが閃光弾を使う素振りが見えない。
なんで使わないんだ?
「あのバカ、ここで迎え討つ気か」
「は? なんでまたそんなこと」
「被害が他にいかないためだろうさ。あいつはそういう男だ」
頭が痛いと顔に手を置くウコンに、本気かと自分が驚愕していると状況は進んでいく。
ゴンベエが周りのギギリ達を蹂躙しながらボロギギリまで迫り、拳であの巨躯を吹き飛ばしたのだ。
「「「えぇぇえええ!?」」」
自分と後ろに控えていたウコンの部下達の驚愕の声が重なる。
凄い凄いと思っていたが、あの巨体を吹き飛ばすなんて常識外れな事するとは思わんだろ。
「こりゃあこのまま討伐した方が早そうだ」
「おいウコン、お前も行くのか?」
「なぁにあそこまでボコボコにしているならここで仕留めたほうが確実さ」
刀を鞘から取り出したウコンがゴンベエに向かおうとした時それは起こった。
「な!? あいつ逃げ出したぞ!!」
ウコンの部下が信じられないと言った顔で指をさした方向には、ギギリ達がボロギギリを守るようにゴンベエの前に立ちふさがるように身を投げだし、ボロギギリは脱兎のごとく逃げ出していた。
「チッ! しゃあねぇ。俺とゴンベエで後を追うから他の奴らはギギリ共の殲滅を頼む!」
「あ、おい!」
言うが早いかウコンが飛び出した。
これはもうあの二人に後のことは頼むしかないか。
「全く、自由すぎるだろあの二人」
「まぁそのお陰でこっちは楽できるんだし、いいんじゃないかな?」
ため息を吐き出す自分にクオンが苦笑する。
ま、それもそうか。あんな化け物と正面から挑むなんて死んでもごめんだしな。
後のことはあの二人に任せるか。
予想外のことが起きたんだが!?
まさかボロギギリが逃走を選ぶとは。
「このバカ、作戦通りにしねぇからだ」
「うぐ、し、仕方ないだろ。なんかこのままいけそうだな~って思っちまったんだから」
「だから馬鹿なんだよバカ」
「バカバカうっせぇよ!?」
ウコンと俺はボロギギリを追うために並走しているんだが、あの巨体の癖に走行速度が早くていまいち追いつけずにいた。
このままだと逃げられる。
「おいゴンベエ閃光弾は持っているよな」
「んあ? あぁ持っているな」
「俺にそれをくれ」
ウコンの言葉に頷き俺は懐から閃光弾を投げ渡す。
「よし、そんじゃ俺がなんとかしてこれを投げて奴の逃走を妨害する。ンでおめえが動きを止めたヤツを仕留める。シンプルでわかりやすいだろ?」
「いいなそれ。じゃあ頼んだ」
俺の言葉を聞いた後、ウコンは抜き身の刀を構える。
「せやぁ!!」
ゴウッ! と剣圧だけで暴風が吹き荒れる。
地面も深い溝が出来る程の地割れが起きてボロギギリを断ち切るかと思われたが横に回避された。
だがその行為によって一時的に動きが止まる。
「そらいくぞ! 目を瞑って走れ!!」
素早くボロギギリに近づいてウコンが閃光弾を投げつけたと同時に俺は走る。
数秒後カッ! と目を瞑ってなお眩い光が辺りを包み込む。
「これでしまいだああ!!!」
地面を大きく踏み込みジャンプし、ボロギリリの脳天目掛けて拳を振り下ろす。
メリィと硬い甲羅を突き破り、勢い余って地面に叩きつけた瞬間嫌な音が耳に響く。
あ、これやばいかも。
そう脳裏に過った瞬間地面がピシピシと亀裂の音が鳴ると地面に風穴が開く。
「のわあああああ!?」
ボロギリリと一緒に一瞬の浮遊感を感じたあと地面に衝突する。
「いってててて……ここは」
暗くてよくわからんが、洞窟みたいだな。
辺りを見つつボロギギリが生きているか確かめると、しっかり頭が潰れて死んでいることがわかった。
「おーーいゴンベエ! 生きてるかー!?」
「問題ねぇ! だが、ここからそっちに行くのは無理そうだ!」
ウコンに返事をしつつ俺はなーんかこの場所に既視感を感じていた。
何か大切なことを忘れているような……。
まぁそれはこの場所を抜け出してからでもいいか。
さっさと帰って風呂入りたいしな。
役目を終えて油断していた時、緊迫したウコンの声がする。
「ゴンベエ! 今すぐそこから離れろ! タタリが来てるぞ!!!」
え? タタリ? タタリってあのタタリ?
緩慢とした動きで振り返ったらネバネバした真っ赤なスライムが口を開けて迫っていた。
「ぬぉぉおお!!! なんでタタリぃぃぃいいい!?」
気づいた瞬間足に力を込めてその場を離脱する。
そうだ。そうだったよ。この洞窟はタタリが凄んでいた場所だ。
既視感があった理由がよくわかった。でももう少し早く思い出したかったよ。
内心で愚痴を言いつつ必死に走る。
めっちゃ頑張って走ってるけどなんだかタタリとの距離が遠くなるどころか近くなってません?
なんでその見た目でそんな早いんだよ!
スライムならスライムらしくのっそり来いよ!
若干涙目になりながら足を動かしていると一雫の光が見えた。
「そのまま走ってこい!!」
ウコン、今お前のことをコレほどまでに頼もしいと思ったことはないぞ。
後は全力で逃げ切れば俺の勝ちだ。
「うぉぉおおおおおお!!!」
迫るタタリ振り切り俺は入口に向かって飛び込んだ。
「そら! これでしめぇだ!」
ウコンの刀が振り抜かれたあと後方からガラガラと岩の崩れる音が鳴り響く。
どうやら道を塞いでタタリを閉じ込めてくれたようだ。
「た、助かった……」
「流石のおめぇでもタタリにはどうしようもねぇか」
「当たり前だろ。あれに拳を叩き込んだら俺の手が溶けるわ」
手を差し伸べるウコンに俺は苦い顔で掴む。
「ギギリも手下共があらかた退治したと聞いた。負傷者もほぼいないってな」
「コレ以上ないほどの戦果だな」
「だな。今回はおめぇが来てくれたおかげで随分と助けられたな」
「なに
俺の軽口にウコンは豪快に笑う。
「コイツぁ良い
「おま、俺が今一番気にしていること!!」
評価感想ありがとうございまっする!
お陰さまで色が付いてにっこにこです。皆様が楽しめる二次小説をこれからも頑張って書いていきたいと思いまっする!!
よろしくおなしゃっす!