剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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39「爆発」

 

「違ぇな」

「え?」

 

 ここでのこいつに頼るのは、ただの【逃げ】だ。

 

 海中での戦闘では真面な能力を発揮できない。

 そんな弱点の存在を関知しながら克服しない。

 そんな奴が『最強』になれるわけがない。

 

「俺は一人で行く」

「どうしてですか……?」

「独力でこの階層を突破できるお前と、それができない俺。そのままお前に頼って、そんな関係に甘えたら俺は終わりだ。それはただ寄りかかってるだけなんだよ」

「っ……」

 

 リアは、リンカは、ヨスナは、俺と並ぼうとしてくれた。

 俺はそれに応えたいと強く思った。

 立場が逆なだけで今も同じだ。

 

「最速で隣に行ってやるから待っとけよ」

 

 

 ◆

 

 

 翌日、俺は第三階層の海の上に立っていた。

 入り口の海岸からずっと離れ、周囲は青が覆い尽くす。

 魔道具の力によって水の上に立つ俺は、

 

「解除」

 

 水中戦闘用魔道具『アクアヴェール』の効果全てを切る。

 足場を造る効果も、水中で呼吸する効果も、水圧を無効化する効果も、水の中で音を正確に聞き取る効果も、全て――

 

 海の中を俺の身体が沈んで行く。

 身体中の穴に水が入り込んで気持ち悪い。

 衣服が水を吸って重くなる。

 

 最大まで吸った空気は、それでも数分しか持たず、すぐに口から気泡が溢れてくる。

 

 水の不自由さ。

 それを全身が感じている。

 

 光が……太陽が……遠のいていく。

 炎が、この中では温度を保たない。

 

 海の中では(オレ)は無力。

 ただそれを自覚する。

 これはそのための儀式だ。

 

 そうすることで俺は炎へのこだわりを捨て、きっと他の属性を極めることができる。

 

「火球……」

 

 放った瞬間、それは勢いよく水疱を生み出し上へと消えて行く。

 急速に熱された海水が蒸気になって昇って行った。

 

 

 待てよ……

 

 蒸気……?

 

 

 そうだ。幾ら水の中とは言え、発生させた熱エネルギーが無に帰すことなんてありえねぇ。

 

 炎は水に弱い。

 水のある場所で炎は無駄。

 それは本当に事実か?

 検証された確定情報か?

 

 違う。

 これはただの直観だ。

 ただ俺の脳がなんとなくそうイメージしただけだ。

 

 水をかければ火は消える。

 そんな当たり前の常識から勝手に俺が苦手意識を持っていただけ……

 

 両手を下へ向ける。

 両の掌へ魔力を集中させ、術式を起動する。

 

「蒼爆!」

 

 生み出された炎の温度は千度を超える。

 そんなものが突如水中に現れれば水は一気に気化し、膨張し、爆発力を生み出す。

 

 蒸気爆発と蒼爆の反動が俺の身体を一気に海上へ打ち上げた。

 陸で使った時を超える運動量が俺の身体を襲った。

 何とか身体強化で耐えられたけど、すげぇ爆発力だったな……

 

 水の気化を利用した爆発現象。

 これが『力』じゃなくてなんだってんだ。

 

 そうか、自然界に相性なんて概念はない。

 そこにはただ衝突による物理的現象が存在するだけ。

 

「あはははははははははは!! (オレ)は無力じゃない!」

 

 俺は魔道具『アクアヴェール』を糧にすることで水属性の術式を開発しようとしていた。

 

 けれどそれじゃ効率が悪すぎる。

 俺が得意な属性は『炎』だ。

 だったら炎属性の術式で水中活動を可能にすればいい。

 

 空中に打ち上がった俺は魔力障壁を球体状に全方位展開する。

 さらにそれに炎の属性を付与する。

 

 魔力障壁Lv2

 

「炎属性結界術式――【紫熱連環(しねつれんかん)】」

 

 その球体状の結界を維持したまま、『蒼爆』のエネルギーを失った俺の身体は重力に従って海の中へ落ちていく。

 

 ただし結界によって隔絶した半径一メートル程度のこの領域は完全に外と区切られていて、水は中へ入ってこないし空気は外へ出て行かない。

 

 だが水には浮かばない。

 水と接した下部で水の蒸発が始まり、そのまま自重落下していく。

 

 炎属性を付与したこの結界術式は断層(グラデーション)的な超高温を保持している。

 外側は600度程度。

 内側は蒼い炎を宿した1500度程度。

 その中央では、結界というガラス張りの入れ物の中で赤と青が混ざった紫の炎が揺らめいていた。

 

 術式効果は使用者にダメージを負わせないように調整できるから中の俺は無事だが、普通なら干からびてる熱気だ。

 

 だがこの断層構造のお陰で蒸発はゆるやかになり爆発を起こすこともない。

 そのまま俺の身体は結界ごと水中へ潜っていく。

 

 水は結界の内側に入ってこない。

 これで完全な水圧耐性と呼吸機能を獲得。

 結界の下部温度をコントロールすることで浮力を維持できる。

 そして結界の上に立てば、足場の形成とほぼ同じことができる。

 

 得意じゃない風属性の飛行術式も、魔力効率の悪い魔道具も使っていない。

 俺が得意な炎属性の術式のみによる完全な水中活動だ。

 結界術式を俺の他の術式と干渉しないようにすれば、俺の攻撃は阻害されない。

 

 これなら戦闘で魔力を消費しすぎない限り『魔転吸刃(エーテルスティール)』で魔力を補完可能。

 

 ただこの結界の呼吸機能はタンクのようなもので時間制限がある。

 定期的に海面に浮上しなければならないという弱点はあるが、それでも今までの非効率な術式運用に比べれば段違いの性能だ。

 

「ピピ」

「ピピ」

「ピピ」

「ピピ」

「ピピ」

 

 おあつらえ向きに敵が来た。

 人喰鋼鉄魚兵(ガーディアス・フィッシュ)の群れだ。

 正式名称は『魚型機兵=(モデル)ピラニア』だっけか?

 まぁ名前なんてどうでもいい。

 

 今俺は、この新しい術式を試したくてしょうがない。

 

「ピピ!」

 

 先頭の魚の突撃に合わせて剣を振る。

 結界術式に『俺の魔力と干渉しない』という設定を与えたことにより、剣に魔力を纏わせ刃先だけを結界外に出しすことで斬撃を繰り出せる。

 

 剣先は水圧の影響を受けるが、全身に水圧がかかるのに比べれば大して威力の低下はない。

 

 それに【紫熱連環(しねつれんかん)】は単純に防御力という意味でも魔力障壁以上の性能を持ち、付与された熱によって突っ込んでくる敵に反射ダメージを与える。

 

 とは言え敵は金属の塊。

 熱の通りはあまり良くない。

 結界で止まったところを斬撃で砕いて止めをさしていく。

 

 昨日までとは比較にもならない簡単な作業だった。

 

「こんなのに手こずってたのか俺は……」

『魔術とは言え自然科学を超越するのは術式による効果だけ、発生した物理現象がその場に存在する別の物質に触れれば、起こる現象は物理的に計算できます。属性による有利や不利といった概念も存在しません。貴方の放出する魔力(エネルギー)量を順当に攻撃力に転用できるならこの程度の存在は敵ではありませんよ』

「お前……エルドに協力して貰えって言いたかったわけじゃなかったのか?」

『どちらでも問題はありません。貴方がこの階層を突破する方法は幾らでもありました。ですがそれを言っていれば、このように新たな術式が創出されることはなかったでしょう。出過ぎた真似をしました、申し訳ありません』

「いや、無理なことはそう言うし、嫌なことはやらない。俺はそういう人間だ。だからこれからもその調子でサポートしてくれ」

『……かしこまりました』

 

 そんな会話をしながら機械魚を(ころ)していると、真下から巨大な影が超スピードを迫っていた。

 

『【鋼鉄鮫兵(シャーク・ガーディアン)】です』

 

 ボス魚か……

 

 今までの俺の速度では回避不可能な遊泳速度。

 だが、今の俺には地上以上の回避手段がある。

 

 結界の外へ手を出し――

 

「【蒼爆】」

 

 を使うことで蒸気爆発を意図的に起こし、さっき海面に飛びあがった時と同じ要領で高速移動することができる。

 

 側面へ回り込んだ俺はそのまま結界から出した掌を『鋼鉄鮫兵(シャーク・ガーディアン)』へ向ける。

 

 結界に守られた今だからこそぶっ放せる超火力。

 水中で使っても意味などないと思っていたが、蒸気爆発という原理を使えば十分に攻撃として機能するだろ。

 

「――蒼炎龍咆!」

 

 とぐろを巻く蒼い炎は前方へ進むにつれて消えて行く。

 しかし、そこに発生した指向性に蒸気爆発の指向性が巻き込まれ、火力ではなく爆発力が一気に『鋼鉄鮫兵(シャーク・ガーディアン)』へ襲い掛かる。

 

 

 ――ドッッッッッッカァァァァァァァァンンンンンン!!!!!!!!!

 

 

「は……?」

 

 俺の想定の数倍の爆発は、命中した『鋼鉄鮫兵(シャーク・ガーディアン)』を中心に広範囲の光と水流と爆音を起こした。

 周囲には『鋼鉄鮫兵(シャーク・ガーディアン)』の散らばった残骸と数十秒の激しい水流が残った。

 

 ――条件の達成を確認。

 ――キーアイテム【第四階層通行許可証】を進呈。

 

 一撃?

 いや、幾ら水蒸気が爆発したっつてもこんな威力……

 つうか、今の光はなんだ……?

 

『海水が熱分解されて発生した水素と酸素が反応して爆発した……?』

「原子論か? 専門じゃねぇんだよな……」

『その魔術を海中で使用するのは避けた方が無難かと……』

「あぁ、今の威力はどう考えても過剰だったけど」

 

 この階層の(ボス)が一撃で粉々だし。

 

『本来青い炎の温度は1300~1900度ほどで、熱分解に必要な温度には足りないはず。しかし龍の息吹の再現という効能がその火力をなんらかの理由で押し上げたのでしょう』

「よく分かんねぇ話だな」

『ただし今のは分子の反応が運よく効率的に行われた結果であり、再現性が高いとは思えません』

「毎回あんな爆発が起こるわけじゃねぇってことか」

『はい。しかし貴方の魔術の火力がただの水と炎を合わせただけで水素爆発を可能としたのは事実です』

 

 やっぱ意味が分からん。

 威力が高すぎってこととランダム性があるってこと、二重で使い辛いってことは分かったから取り敢えず水中での【蒼炎龍咆】の使用は封印して置くか。

 

 

 なんにせよ第三階層はクリアだ。

 水の環境は確かに俺を強くした。

 新しい術式も得たし、水中戦闘という弱点はほぼ克服したと言えるだろう。

 目的は達した。

 

 ここで得られるものはもう何もない。

 

「ゲート【第四階層】」

 

 魔道具【アクアヴェール】を腕から外し海の底へ落とす。

 もうこの道具に頼る必要はない。

 

 俺の肉体の転送が始まり、階層が次へ進む。

 景色が一変した。

 

 そこには水も太陽もない。

 岩壁に囲まれた完全な閉鎖空間。

 ところどころから露出した『発光石』の灯りだけが空間を照らす。

 

 第四階層は『洞窟』だった。

 

『ここは金属資源のリサイクル用エリアです。階層突破条件は【鉄蠕龍兵(ワーム・ガーディアン)】の撃破。普段は生成された金属を採取するために地中を掘り進めているようです。この階層の洞窟はそのガーディアンが進んだ形跡のようですね』

 

 ビステリアの説明を聞きながら洞窟を見渡していく。

 ここまで奥の階層になると入り口だというのに冒険者の姿もあまり見られなかった。

 金属のエリアってことは採取できる素材も結構良いものがありそうだが、ここまでこれる人間がそもそも少ないってことだろう。

 

「徘徊型ってことは第三階層と同じで遭遇できるかは運ってことか」

『その通りです』

 

 めんどくせ。

 けど第三階層と違って移動してるだけで魔力を消費するってことはない。

 魔力感知を使ってるだけならそこまで魔力消費は多くない。

 

「で、お前もうバレてるからさっさと出て来いよ?」

 

 そう言うと俺の背後の気配が強くなる。

 暗がりからその女は黒髪を撫で付けながら現れた。

 

「隠れていたわけではありませんよ。ただ貴方を待つにあたって魔獣に見つからないように魔力を消していただけです」

「それを隠れてるって言うんだよ、ヤミ」

 

 そういや天然ボケなんだよなこいつ。

 

「お待ちしておりましたネル様」

「半日も待たせてないだろ?」

「こんな暗い場所に女性を独りで半日も待たせるなんて……シクシクです」

「なんそれ?」

「こうすると男性は優しくしてくれると本に書いていました」

「そんなことしなくてもお前には優しくしてやるから心配すんな」

「なるほど、これがキュンですか……」

 

 何言ってんだこいつ……

 まぁいいや。

 

「約束通り最速で来てやったぞ。それで、一緒に行くか?」

「よろしいのですか? この階層は単独で制覇しなくて」

「まぁ、楽しそうな相手が居ればそうするけど、まだ初日だしな」

 

 にしても昨日とはちょっと雰囲気が違うな。

 なんというか全体的にアクセサリーが増えた。

 チョーカーに指輪、腕輪にネックレス。

 ピアスなんて両耳合わせて十個近く空いてる。

 メインの色は黒で、ワンポイントに別色の装飾が入っているものが多い。

 

「お前ピアスとかチョーカーとかしてたっけ?」

「全て魔道具ですよ。コーズ様や研究者の皆さんにお礼代わりに造っていただきました。私の魔力は黒曜石と相性がいいらしく魔力効率が約30%ほど向上しています」

「へぇ、お前他の男に貰ったアクセサリー付けて俺とデートしてんの?」

「……ん? はい。これがデートというものであるならば」

「良い度胸してんじゃん」

「……何か怒っておられますか?」

「俺がお前に? そんなわけないだろ」

「しかし歩行速度が少し早まって……」

 

 うるせぇな……

 

「ギュシャアァァァァ!」

『【鉱収蜥蜴(ジュエル・リザード)】……鉱物や宝石を食料とし、背にてそれを増幅させる器官を持ちます。蓄えた鉱物量に比例した魔力を生成し龍には及ばないものの疑似的なブレスを可能とした魔獣……』

 

 終奥――龍太刀。

 

「怒ってねぇって!」

「はぁ……そうですか……」

 

 忘れてた。

 今の俺は十六歳。

 面倒な思春期(ねんれい)だ。

 それにこいつは『天才』と呼べる人種で、それはイコール俺の好み(タイプ)の人間ってことだ。

 

 尊敬と性的欲求を混同するのも若者の感覚って感じだな。

 めんどくさ。

 

 吐き出されたブレスごとその体表を切り裂き、全長三メートルほどあった蜥蜴の魔獣は真っ二つになった。

 ついでに壁にもでかい斬痕が残ったがまぁ、ダンジョン内だし問題はないだろ。

 

 消失現象が始まるが、背に生えた鉱石の一部がその場に残る。

 この階層で食った分の鉱石は残るわけか……

 めちゃくちゃ稼げそうだなこの階層。

 

「取り敢えず行けるところまで行くぞ。俺が前衛で……」

「私が後衛ですね。私はこの時を待ちわびていました」

 

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