剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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44「別れ」

 

 しかし塔の敵が邪魔だな。

 【魔王機(ディザスターゴーレム)=アガナド】が言うように、俺もあいつとは一騎打ちがしたい。

 だけど塔の距離感的に飛行術式を最速で飛ばしても移動に四十分近くかかりそうだ。

 ってことは四天王と戦える時間は一体あたり五分。

 

 ダジルのような人海戦術を取るならできるだろうが俺一人じゃ厳しい。

 四天王の性能的にエルドたちじゃ全員で塔一つがいいところだろう。

 

「あの、ネル様……私はまだ……」

 

 縋るように震えた声で、ヤミは俺の袖を掴む。

 こいつじゃ無理だ。

 

「うん、ヤミ」

「言わないでください……やめて……」

「お前帰っていいよ」

 

 にしても塔の攻略どうすっかな。

 できるだけ俺は万全な状態でアガナドと戦いたいし。

 

「ビステリア、今のあいつなら勝てるか?」

『まだ完成はしていませんが、限界突破種(オーバーガーディアン)と呼ばれる個体程度であれば問題はないかと』

「あぁ、じゃあリンカ(・・・)を呼んでくれ」

「誰と喋っているのですか、私の話を聞いてください」

「ヤミ、この階層はお前の力と相性が悪い。俺の盾役としての性能じゃアガナド相手にお前が完全詠唱する時間を稼ぐのは多分無理だ」

 

 こいつの性能は固定砲台としては優秀だが、接近された時点で強みは死ぬ。

 

 そもそも単騎で戦える力じゃない。

 俺が付いてなきゃならないなら四天王狩りにも使えない。

 エルドたちと組ませる……いや、元々塔一つくらいならあいつらでも攻略できる計算だ。

 

 塔を攻略するならドームに亀裂を入れる必要もない。

 

「この階層にお前の役割はない」

「待ってください! 私は貴方のためにこの五年間毎日魔術のことだけを考えて研鑽し続けたんです。お願いします、もう一度……」

 

 懇願するヤミの表情は不安に満ちていた。

 

 違ったってことか……

 こいつは自分の能力を信じていない。

 こいつは詠唱という武器を手に入れただけの『凡人』なんだ。

 

「はぁ――めんどくさ」

 

 本当の天才はヤミじゃない。

 ヤミは俺と同じ、誰かの力を食らっただけの平凡だ。

 本当の天才は、詠唱という技術を発展させた第三王子(コーズ)の方だった。

 

「もういいよお前、俺の邪魔するな」

 

 それに、態々こいつをこのまま連れ添って殺す理由もない。

 

「なんで……? 好きと、そう言ってくれたじゃないですか……」

 

 どうしてこいつが絶望的な表情をしているのか理解できない。

 

 俺と一緒に居ようが居まいが、俺はこいつの人生に責任なんか持つ気はない。

 

 人は自分の責任で自由に生きる。

 それは当たり前のことだ。

 

 なのに、こいつは俺にこだわる。

 自分を変えようとはせずに、俺を変えようとする。

 俺にはそれに応える理由がない、応えたいとも思わない。

 

 こいつの責任にしたいわけじゃない。

 ただ俺はこいつの願いよりも自分の意志を優先させる。

 

「好きだよ、嘘じゃない。ま、リンカの方が好きだけど」

 

 それが俺の本心だ。

 そうか。俺がヤミにときめかなかったのは俺の目的が定まったからなんかじゃなくて、単純にそれ以上に好きな奴が居たからだ。

 

 

「――は?」

 

 

 ◆

 

 

 どうやって帰ってきたのかはよく憶えていない。

 

 気が付くと私は書庫の隣にある自室のベッドに倒れこんでいた。

 

 

 あの人が私を可愛がってたのは私が禁書庫の番人だったからってだけ。

 中に入るために私を口説いていただけ。

 

 私はあの人にとってただの『鍵』だ。

 合鍵(かわり)が見つかったならもう私に意味はない。

 利用価値がなくなればもう私は必要ない。

 

 第一王子(ダジル)殿下に言っていたことを思い出す。

 誰が王になっても自分は禁書庫に入れると、ネル様はそう言っていた。

 それ以前に私が王に無断でネル様を禁書庫に入れようとした時点で、ネル様が私にこだわる理由は消失したんだ。

 

 魔術師としての修練も無駄だった。

 

 あの人を守りたいと思って完全詠唱を会得した。

 でも、意味なんかなかった。

 詠唱術式を使えることよりも、詠唱を解読したことにこそ本当の価値はある。

 私は所詮コーズ殿下の研究にあやかっただけだ。

 

 そんな私の中身の無さがあの人には筒抜けだったんだろう。

 少しばかり知的好奇心の赴くまま私を可愛がってくれたけど、それは所詮モルモットに向けるような好意でしかない。

 

「もういいや……」

 

 魔術とかくだらないし、あの人に認めて貰えないなら意味なんかないし、どうでもいい。

 

 ていうか最初から魔術が好きだったわけじゃない。

 ただ子供の頃からお爺様に後を継げと言われて育てられただけ。

 そのせいで青春とか知らないし、そのせいであの人と出会ってしまった。

 

 こんな幸せ知りたくなかった。

 

 そっか……

 

 

 ――幸せになるということは、それを失う絶望を知るということだったんだ。

 

 

「リンカ……って誰なんだろ……」

 

 あの人は優しかった。

 毎日私に会いに来てくれた。

 

 あの人は頼もしかった。

 料理も家事もできて、魔術も剣術も一流で、王子様だった。

 

 あの人はちょっとチャラい。

 嬉しいことを平気で言うし、私の変なところも笑って流してくれる。

 

 でもそれも全部、私という『鍵』を手に入れるための嘘だったのかな?

 

 偽物で、そんなものは最初から存在しなかったのかな?

 

 頭の中に黒い霧でも現れたみたいだ。

 思考がどんどん暗い場所に落ちていく。

 

 

「嫌だ」

 

 

 嘘なんかじゃない。

 私は幸せだった。

 

 あの人に……あいつに幸せにされたせいで、私は今こんな気持ちになっている!

 

 この気持ちは本物だ。

 あいつが私に灯した炎は、まだ(ここ)にある。

 

 あぁ、気持ち悪い……

 

「死ね」

 

 あいつのせいだ。

 あいつのせいで私の人生は……

 

「死ね、死ね、死ね! 死ねッ!」

 

 無かったことになんかできるわけない。

 このまま元通りになんてできるわけがない。

 

「許さない」

 

 お前だけ幸せになるなんて、許さない。

 

 お前の眼差しも、お前の微笑みも、お前の好意も、他の誰にも渡さない。

 

 それが誰かのものになるくらいだったら――

 

「殺してやる!」

 

 お前が求めているものを私は知っている。

 最強でしょ。子供みたいなくだらない夢。

 でもそれがお前の欲しいものなら、それを奪ってお前の人生もブッ壊してやる。

 

 お前は確かに強い。

 私よりもずっと強い。

 

 私は凡人だ。ただ沢山魔術を使えるだけ。

 私には天才(おまえ)を真似ることはできない。

 

 だったら私の強みはなんだ……?

 

 最多の魔術師。

 完全詠唱術式。

 最堅の結界術式。

 

 禁書庫の番人……

 

『私利私欲に負けてはいけない。禁書庫を預かる立場にあるからといってその中身を見ることを許されたわけではない。自分自身が賊にならぬよう律する心こそが一番大事なことだ』

 

 昔からずっとお爺様にそう言われて育った。

 

 ごめんなさい、お爺様。

 無理でした。

 

 でも、どれだけの愛妻家だって、主に忠誠を誓った騎士だって、敬虔な信徒も、悟りを得ようとする仙人も、結局全部自分を納得させるための行為でしかなくて、人間には『他者のため』なんて感情は終始存在しないでしょ。

 

 敗北を認めないように涙を堪えながら、私はベッドから起き上がる。

 憎悪と嫉妬が頭を埋め尽くしていた。

 

 この絶望はきっと(まき)だ。

 この燃料で私の魔術は加速する。

 

 私は禁書庫の扉を開いた。

 その中に存在するのは数万冊の禁書。

 きっと、この中にあいつを殺せる術式は存在する。

 

 その願いと共に、私は禁書庫の中へ入った。

 

 

 ◆

 

 

 ヤミを帰した後少し探索したが塔の敵と戦うには残りの魔力量が心許なく、結局一時間ほど適当に雑魚を狩って俺も城へ戻った。

 

 ビステリアに頼んでリンカを呼んだが、王都に到着するのに一週間ほど掛かるらしい。

 加えてリンカが第五階層に到達するのにもそれなりに時間がかかるだろう。

 

 一カ月くらいは暇そうだな。

 現状第六階層に一番近い継承戦参加者は俺、ダジル、ミラエルの三人。

 だが全員この階層を突破する方法は持っていない。

 

 俺とミラエルは四つの塔を一時間で攻略できない。

 ダジルは塔は攻略できるが魔王(ボス)機が倒せない。

 十二年沼ってるとか言ってたからすぐに攻略する手段があるわけでもないだろう。

 

 ミラエルに関してはカエデが本気を出せばどうなるか分からないが、カエデはこのダンジョンをミラエルの修練場として使っているように思える。

 

 リンカに塔を任せるなら全部の塔の敵と俺が戦うのは無理だろうし今の内に遊んどくか……?

 実際、あの機械の剣士やピラミッド型のガーディアンは強かったし。

 俺を強くするヒントがあるかもしれない。

 

「坊ちゃま」

 

 そんな風に部屋で明日以降の予定を考えていれば、クラウスが扉を開いた。

 

「どうした?」

 

 普段とは違う神妙な顔つきをしたクラウスは、恐る恐るといった風に俺に要件を伝えた。

 その態度からして何か異様なことが起こっているのは明白だったが、それでもクラウスが言った言葉は俺にとってあまりにも意表を突くものだった。

 

「陛下がお呼びです」

 

 

 ◆

 

 

 陛下と呼ばれる人間はこの国に一人しか居ない。

 その男はその私室にあるベッドの上で、青い顔をしながら横たわっていた。

 

「来てくれたか、ネルよ」

 

 そういや最近この爺さんを見てなかったな。

 継承戦の会議だって動きがなければ開かれない。

 

 俺が私室に入ると、医者や使用人たちが入れ替わるように外へ出て行く。

 

 どうやら俺と二人で話したいことがあるらしい。

 

「随分具合が悪そうだな、親父」

「次の王の確定を急がねばならない」

 

 弱々しい小さな声で、この国の王『ザイサル・オール・ヴィジェクト・サエラ・クラニス・レイサム』はそう言った。

 ベッドの横へ移動しながら俺は話を続ける。

 

「わざわざそんなことを言うために俺をここに呼んだのか?」

「……そうだな、本題に入ろう」

「そうしてくれ。あんたの容体なんざ興味ねぇ」

 

 何故か少しだけ寂しそうな表情をした国王(ザイサル)は、隣に置かれていた赤い花に視線を逸らしながら話し始めた。

 

「ダジルを勝たせてくれ」

「は? なんだそれ……」

 

 意味が分からねぇ。

 ダジルを次の王にしたいなら勝手にそうすりゃいいだろ。

 この爺さんにはその任命権があるんだから。

 

「ダジルを王には選べない。あやつには勝って王へ至るという筋書きが必要なのだ」

「説明しろ」

「儂には十人の妃が居る」

「なんだそれ、ハーレム自慢?」

「そしてダジルは第一王妃の息子……ということになっている」

「ってことは、本当はそうじゃねぇってことだな」

 

 親父は短く頷いた。

 

「儂がまだ王になる前の話だ。身分を隠し、密かに街に下りるのが趣味だったころにあやつの母親と儂は出会った。ただの遊びで抱いた女の一人で、その女は儂が王族であることなど知りもしなかった。ただそのすぐ後に儂は王へ至り、多忙さから街へ出向く機会は減った」

 

 大切な何かを思い出すように綴られるその言葉に、俺は……

 

「王になって五年ほど経った頃、多忙さにも慣れた儂は久方ぶりに街へお忍びで出かけた。一度抱いただけの間柄ではあったがその女から住所は教えられていたから、なんとなく会いに行ってみようと思ったのだ」

 

 胸がざわつくのはこいつの話の帰結がきっと俺の意図しないものだと、俺自身が悟っているからなんだろう。

 

「それはすくなくとも当時の儂には『家』とは認識できぬほどボロボロの廃墟のような場所だった。その女は貧民街の出身だった」

「この王都に貧民街なんかあるのか?」

「……今はないな。儂は戸を叩いたが中から返事はなかったが、儂は意を決して戸を開けることを決めた。開けた瞬間、その中から一気に鉄の匂いが溢れた。中には死体が四つあり、床には血の海ができていた」

 

 死体……

 血の海。

 

「死体は男が三人と女が一人、女は儂が抱いたあの女で相違なかった。だが中に居たのはそれだけではない。血が滴るほど強くガラス片を握りしめた少年が一人、部屋の中央に立っていたのだ」

 

 こいつの過去なんかどうでもいい……

 なのに……

 

「少年は感情を無くしたような表情で、一筋の涙を流していた。話を聞けば三人の男は強盗の類だったらしい。男たちが強姦に及ぼうとして少年は必死に母親を守ったということだ。だが少年を庇うような形で母親は死んでしまった」

 

 そのはずなのに、俺はこの話を遮る気にはならなかった。

 

「守れなかった。今でもあやつが放ったその言葉、その声を鮮明に思い出せる」

「それが……ダジルなのか?」

「そうだ。儂はその少年『ダジル』を引き取り育てることにした。とはいえ貧民街の小僧だ。王族としての教育をする必要があり、それ以上にダジル本人が母親を守れなかった後悔から『強さ』を望んだ。儂はその願いを聞き届け、ダジルを暗部に送って育てさせた」

 

 ダジルの強さの理由はそれか……

 確かにそれなら暗部を後ろ盾にしている理由にも納得がいく。

 

「母親が死んだ今となっては、ダジルが本当に儂の子なのかは分からない。年齢は近いが、その女がその時期に儂以外にも抱かれていない保証はないからな」

「それがなんで第一王子になってんだよ?」

「……無理矢理そうした。第一王妃の間にできた第一子を暗殺から守るという名目をでっちあげて十歳から公表した。事実を知るのは儂と第一王妃とダジル本人、そしてお主のみだ」

 

 聞きたいことは山ほどできた。

 猛りもある。

 だけど、そんなことよりも何よりも、一番疑問に思うことは……

 

「……なんでそんなにダジルを贔屓する?」

「ダジルと出会った時、その貧困を見て儂は決心したのだ。王として、この国を平和にして見せると」

「それがダジルを贔屓する理由にはならねぇだろ。本心を言えよ」

「……儂が引き取った後、ダジルは儂に認められるためだけに鍛錬を重ねた。王族としての礼儀作法や覇気を身に着け、暗殺者としての殺気や武術を手に入れた。ダジルは儂に言ったのだ。『貴方の息子として恥じぬ人間になりたい』と……」

 

 だからなんだよ?

 イラつく。

 殺したくなる。

 

「だからこの継承戦を行った。いつかダジルのその真相が貴族や民衆にバレたとしても、他の王族よりも優秀であることを示したという実績があれば糾弾は最小限に抑えられる」

「じゃあお前の本当の子供は、息子や娘はなんなんだ!? ダジルに箔を付けるための捨て駒か!?」

「儂はただ次期国王にはダジルが相応しいと思っているだけだ」

 

 じゃあ最初からこの戦いに意味なんかないじゃねぇか。

 俺がこいつに認められることなんか……ないんじゃねぇか。

 

「民のためにとか、国のためにとか、そんな言葉は何だったんだよ……?」

「嘘ではない。ダジルが国王になることが最もそれに近いと考えているだけだ」

「勝手に俺たちのことを知った気になってんじゃねぇよ。あんたはミラエルの才能を知ってるのか? シルヴィアの眼は、シャルロットの覚悟は、ケネンの愛は、コーズの知性は、あんたはそれを全部理解してるってマジでそう思ってるのか?」

 

 俺が転生者だってことにすら気が付いてないあんたが――

 

「全部分かってる、なんて到底思えねぇ。そもそもダジル以外を見る気がねぇだけだろ」

「そうかもしれぬな……だとしても、やはり儂の願いは変わらぬ。ダジルを勝たせて欲しい。禁書庫は解放しよう」

 

 何が王族に産まれた時点で人間性は二の次だ。

 自分の好きな奴を贔屓してるあんたはただの人間だ。

 だからこそムカつくんだ。

 

 その感情がありながら、継承戦が始まるまで俺とろくに顔も会わせなかったことが。

 

「禁書庫にはあんたが死んだ後に入れる。急ぐ必要はねぇ」

 

 つうか、俺にここまで言うほどダジルが王に相応しいと思ってるくせにダジル単独じゃ第六階層に至れないと思ってるのかよ。

 禁書庫を封じてまで俺をこの戦いに参加させたのは、ダジル単体では突破できない階層を何とかして突破させるため。

 

 俺をダジルへ協力させるタイミングをずっと伺ってたってわけだ。

 

 ダジルのためにそこまでするその感情が、親心以外のなんだってんだよ。

 

 そんなモンが内に存在してるクセに、それは俺や他の兄弟に向かないのかよ……

 

 きっとこの男にとって本当の息子はダジルだけなんだろう。

 他は王の責務として産ませた子なんだ。

 もしくはダジルの当て馬にするために……

 

「あんたが嫌いだ。さっさとくたばってくれて一向に構わねぇ」

「そうか……話は終わりだな。すまなかった、ネル」

 

 今更謝ってんじゃねぇよ……クソ親父……

 

「けどな、俺は最初から王座になんか興味ねぇよ。だから俺が持ち帰ってあんたに渡す第六層の物品をダジルのものにしたって俺に文句はねぇ。むしろ王座から逃げられてラッキーだから」

「ネル……」

「これでいいんだろ? 親父」

「あぁ……感謝する。ありがとう……」

 

 涙ながらに親父は上体を起こして頭を下げた。

 胸を掴んだ左腕は震えていて、かなりキツそうだ。

 

 なんの病気か知らねぇが、あんまり長くはなさそうだ。

 医療は受けてるだろうし単純に寿命なんだろう。

 

 第五階層の攻略、急がねぇとな……

 

「じゃあな、王様(・・)

 

 これでいい。

 これでやっとこの気持ちから解放される。

 この爺さんはもう俺の親父じゃない。

 

 こいつの息子はダジルだけなんだから。

 

 手切れ金が第六階層の物品っていうならそんくらい取ってきてやるよ。

 

 

 ◆

 

 

「お疲れさま、ネル」

 

 扉の前で、全てを見透かしたような表情をして第二王女(シルヴィア)は待っていた。

 

「お前は知ってたんだな。国王がああいう考えだってことを」

「えぇ、この継承戦は最初から第一王子(おにいさま)のための出来レース。くだらない戦いなのよ。だから私の望みは一つ、誰も死なず、できうる限り傷つかず、早々たる終戦を――」

 

 もう一度、シルヴィアは俺に手を伸ばした。

 他者の願いを知る魔眼。

 こいつには最初から分かっていたのだろう。

 だからこいつは焦っていなかった。

 

 俺の目的を可視化した時点で、こいつの勧誘はもう蛇足でしかなかった。

 

 全ての人間の願いの結果がここに終着するということを、シルヴィアは知っていたんだ。

 

「君が居ればダジル以外の王子の協力は取り付けることができる。君を含めて性格に少しばかり難のある人たちだけど私なら纏められる」

「最初からこの流れがお前の目的か?」

「何百年も至れていない場所を目指すのに、船頭が揉めてばかりじゃ無理でしょ?」

「確かに、そりゃそうかもな」

「終わりを記すピースはこれで全て揃った。今度こそ私に協力してくれる? ネル」

「あぁ、さっさと終わらせよう」

 

 俺はシルヴィアの手を取った。

 

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