剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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46「駆け抜けて」

 

「どういうことですか……?」

 

 マミヤ・カエデは自分以外は誰も居ない静寂に包まれた『北の塔内』でそう呟いた。

 

「どういうことだ?」

「誰も居ないじゃないか……」

 

 同時に『南の塔内』でケネンとバレッタは息を呑んだ。

 

 本来であれば各場所には限界突破種(オーバーガーディアン)が存在するはずだった。

 しかし、その場には何も居なかった。

 

 いち早く事態を把握したのはカエデだった。

 

「私が来る前に誰かが倒した? いや、そもそも私はここに居るはずの限界突破種(オーバーガーディアン)の魔力をさっきまで感じ取っていた。もし誰かが私より先に限界突破種(オーバーガーディアン)を倒したならここへ来るまでにその下手人の気配があるはず……だとすれば、そういうことですか!」

 

 風を纏う術式によって加速したカエデは塔の外に出て、ミラエルが居る西側の塔へ疾走した。

 

 

 ◆

 

 

「あーっと? モテ期到来した?」

 

 目の前の限界突破種(オーバーガーディアン)『三機』を見ながらそんな声が漏れた。

 各塔には一機ずつの限界突破種(オーバーガーディアン)が配置されているという話だったはずだ。

 

「ピピ」

「ピピ」

「ピピ」

 

 なのに、どうして三機も西の塔に集まっているのかな。

 これって師匠とケネン兄さんのとこに居るはずの『機械剣豪(ソードマシタリー)』と『蜘蛛糸鉄兵(スパイダーメイデン)』とかって名前のガーディアンだ。

 西塔に居る『球体機兵(ボールソルジャー)』と合わせて三体。

 

 それがなんで僕の担当する塔に集結してるのかな……?

 

「そう言えばネルが言ってたな。塔の攻略せずに中央のドームに行くと塔のガーディアンが転移してくるって……」

 

 塔からドームだけじゃないってことか。

 

「同時に塔が攻略されそうになったら塔(から)塔への転移もできるってわけね。そして、その集合先は塔を攻略する面子の中で一番弱そうな奴ってところかな……」

 

 自嘲的な笑いが漏れる。

 ネルはあんまり参加しなかったけどこの二週間で作戦会議は何度かした。

 ケネン兄さんもシャルロット姉さんも力を得たらしい。

 

 僕も少しだけケネン兄さんと手合わせしたけど、あれは相当強い術式だった。

 二週間で多少の武術を習えば、すぐに今の僕でも勝てなくなった。

 リンカっていうネルが連れて来た人も相当強そうだったし。

 

 このガーディアンたちがその力を感知しているとしたら、僕のところに来るのは当然だろう。

 でもなんで四体じゃないんだろ?

 まぁ今はラッキーってことでいっか。

 

「はぁ……ネルが待ってる。逃げたりはしないよ」

 

 剣を抜く。

 

「【疾風(ハヤテ)】【迅雷(イナズマ)】」

 

 風と雷を纏い、身体強化を行う。

 

 そんな僕の行動を見た瞬間、三体のガーディアンが動き始める。

 剣士に蜘蛛にダンゴ虫。

 普通の魔獣とは違う鋼鉄に覆われたそれらは、攻守共に通常の魔獣より強い。

 

 しかもそんなガーディアンの中でもこの塔内だけでしか起動できない強化種。

 今までの階層の突破条件になっているようなガーディアン以上の性能だ。

 

「さて、めちゃくちゃピンチだ。どうしよっかな……」

 

 剣士の一撃を受け流す。

 それだけで僕の余力は削り取られる。

 術式なしの剣士としての技量だけならネルに並ぶかそれ以上だこいつ……

 

 糸を伸ばして頭上へ昇り巣を形成した蜘蛛型の口から粘着性の糸弾が発射される。

 それが僕の脚に張り付いた。

 

 なんとかネルから真似(パクッ)た【燃身】の熱で糸を焼き切ろうとしてみるが、この術式の燃焼効果は極僅かだ。

 機動力を奪われた僕へボールのような形状をしたガーディアンが高速回転しながら突っ込んでくる。

 

 無理だ。

 捌き切れない……

 

 そう思った瞬間、ガコンッっという音と共に僕の身体は宙を舞った。

 

 脚を粘着していた蜘蛛の糸が千切れるくらいの衝撃。

 

 目がちかちかする。

 頭がくらくらする。

 世界が二重に見えて、思考が定まらない。

 

 何された?

 激突されたんだ。

 で、僕は吹っ飛んだ。

 

 そのまま背中で地面を滑った。

 

「ピピ」

 

 不快な音を鳴らしながら剣士が一歩ずつ近づいて来る。

 

「ピピ」

「ピピ」

 

 蜘蛛は頭上から僕を狙い、ダンゴ虫は回転を加速させている。

 

 勝てない。

 負ける。

 

 今の一連の行動だけでそれがほぼ明確に思えた。

 

「ピピ……」

 

 傍まで迫った剣士の剣の切っ先が僕を向いていた。

 

 あのガーディアンが腕を伸ばせば、僕は死ぬ。

 

 死にたくない。

 やっと人生が面白くなってきたんだ。

 

 それに……

 

 せっかくネルが僕を頼ってくれたのに……

 せっかくネルに恩を返せると思ったのに……

 

 僕は(あいつ)に何もしてやれないのか?

 

「あはは、けっこう頼られて嬉しかったんだけどなぁ……」

 

 ごめん……………………………………………………………………………………………………………………………………

 

 

 ――いや、やっぱりダメだよね。

 

 

「僕は兄なんだ、弟のおねだりの一つや二つ叶えて上げないとダメだよ」

「ピピ」

 

 僕の言葉なんて理解してないだろう。

 

 鉄の剣豪の刃が僕へ突き立て――

 

疾風(しっぷう)迅雷(じんらい)

 

 られる直前、僕の身体は加速した。

 

 それは師匠の……剣聖マミヤ・カエデの開発した秘儀。

 だけど僕には術式制御能力も身体能力もない。

 見様見真似で師匠の術式をコピーしただけ。

 未熟な(ぼく)の不完全な術式だ。

 

「わお、めちゃくちゃ苦しいなぁ……」

 

 纏う雷と風。

 それが僕の反射神経と身体速度を超加速させる。

 迅速は得られても制御することすら難しい。

 

 ――だけど僕には、負けられない理由があるんだ。

 

 確かにこの状態は『最強』と言って差し支えない。

 だけど、この状態どれくらい持つだろうか?

 

「三十秒でケリを付けよっか。おいで?」

「ピピ――」

 

 上段から振り下ろされるその一刀を回避するのに特別な技や動きは必要なかった。

 認識し、身体へ動きを命令し、回避する。

 通常の身体操作で軽々とその一刀は避け切れた。

 

「多分雷が弱点なんでしょ?」

 

 魔力を付加した刀剣や鋼鉄を突き破り、ガーディアン剣士の太ももからその中へ入る。

 そこへ纏った雷を流し込む。

 

 通常の生物とは全く異なるガーディアンだけど、雷を内に流すと通常の生物のように焼き切れるまでは行かずとも麻痺する。

 

「ピピ!」

 

 それを見た蜘蛛のガーディアンが頭上から粘着性の糸を吐き出してくるが、今の僕をその程度の発射速度で捉えることは不可能だよ。

 

 壁を走りそれを追う。

 迎撃するように蜘蛛のガーディアンは何度も糸を吐き出すが左右に身体を揺らせば簡単に回避できた。

 

 情報の認識速度が上がっている。

 口の角度を見れば糸が吐き出される地点は先読みできる。

 僕の方が速度に分があるんだから当たりはしない。

 

「ピ――」

 

 その眼球(レンズ)に刃を突き刺し、内部に電流を流し込む。

 すると蜘蛛の巣に張り付いていたガーディアンは動きを止めて宙にぶら下がった。

 

「あと一匹」

「ピピピピピピ」

 

 回転を強めた球状のガーディアン。

 それが地面を弾いて跳躍する。

 しかしその動きは僕を直接狙ったものじゃない。

 壁に跳ね返り、加速していく。

 

 速度で僕へ迫ろうとしていた。

 このまま待ってれば速度の有利を失う。

 けどあの高速回転に剣を突き立てるのは無理だ。

 

 どうすれば、あのダンゴ虫の殻を破れる?

 

 決まってる。一つしかない。

 

 蜘蛛のガーディアンを一先ず放置。落下して地面に着地する。

 僕の動体視力と魔力感知なら敵を見失うことはない。

 剣を敵へ向けて構え続ける。

 

 あいつはいつか必ず僕を狙う。

 その瞬間が最大の好機。

 

「来なよ。僕は君には負けないよ。だって師匠が言ったんだ、僕は【天才】だって」

 

 剣聖マミヤ・カエデと初めて出会ったのは東の国に旅行に行った時だった。

 東にはサムライと呼ばれる武人が沢山いて、僕はその人たちと少し遊んでた。

 

 ここにも僕の相手をしてくる人はいないのかって思ってた時、あの人は現れて、あの剣術を見せてくれた。

 

 その時、僕は人生で初めて敗北を感じた。

 僕は魅せられたんだ。

 

 その剣技の名は――

 

「完成させなきゃ死ぬんだ。覚醒するには十分な理由だろ?」

「ピピ!」

 

 限界突破種(オーバーガーディアン)球体機兵(ボールソルジャー)】が僕へ向かって跳弾する。

 それに合わせて、僕は剣へ雷を纏わせた。

 

「――魔奥【雷切】」

 

 圧倒的な振りの速さを持つ斬撃であり、それは【連撃】だ。

 

「P――」

 

 その音を最後に、球体機兵(ボールソルジャー)は粉々に砕け散った。

 

「やっ――」

 

 た、という言葉は出なかった。

 前を見ていたはずの僕の視界一面には地面が映っていた。

 

 【疾風迅雷】は神経の動きを超加速させる。

 その術式に耐えるには感覚器官の強化と繊細な魔力操作が必須。

 僕の技量はまだその域にない。

 使い過ぎだ。

 

「ピピ――」

「ピピ――」

 

 剣士と蜘蛛の麻痺が解けたみたいだ。

 流石にあの雷撃一発で倒せはしなかったよね……

 

 迎撃しなきゃいけないのに指一本動かない。

 こんなに倒したい相手は初めてなのに、意志に反して身体がついてこない。

 もっと修行しとけばよかった……

 

「ヤバ……」

「よく耐えました」

 

 その声を聴いた瞬間、僕の心は安堵した。

 

 剣聖の一撃が放たれる。

 

「【雷切】!」

 

 いつもより少しだけ声を荒げて師匠はその奥義の名前を呟く。

 僕のモノマネとは違う、本当の、本物の――

 

 幾重にも重なった雷の斬撃は、二体のガーディアンを細切れに切り裂いた。

 

「ミラエル、大丈夫ですか!?」

 

 焦った表情で師匠は僕の傍へ駆け寄ってくる。

 

「ごめんね、一体しか倒せなかった」

「謝るのは私の方です。私が相手にすべき敵だったのに」

 

 凄く悲しそうな顔をして、師匠は僕の身体を支えてくれた。

 

「師匠……」

「どうしましたかミラエル……どこか怪我をしたのですか? すぐに治療を……」

 

 僕は知ってしまった。

 ネルから、こいつらから、教えて貰った。

 

「ミラエル……?」

 

 負けるっていうのは、こんなに悔しいことなんだって。

 

 師匠の視線が僕が破壊した球体機兵(ボールソルジャー)に向いていた。

 

「雷切を……使ったのですか?」

「ねぇカエデちゃん。僕さ、もっと強くなりたい」

 

 どうしてだろう。

 カエデちゃんの顔が僕を『怪物』と罵った人たちと同じに見えた。

 

 

 ◆

 

 

 結果が解け、ドームの天蓋が割れるように開いていく。

 

「予定より十分遅れか。何かあったか? いや、どうでもいいな」

 

 今は目の前に相手のこと以外を考えている余裕はない。

 

「やはりお主か。よくぞ参った」

「これでいいんだろ? お前の望み通り一対一で相手してやる」

「あぁ、それでよい」

 

 赤い瞳が光量を増した刹那、大剣が振るわれる。

 十五メートル以上の体躯を持つアガナドが振るう大剣は、その刃の部分だけでも八メートル近くある。

 

 だが、それはつまりあいつの【虚空斬首】によって刃が転移する場所は俺の周囲八メートルに限定されるということ。

 

 そしてヤミが察知できたということは、転移先には刃が飛び出すより早く魔力の反応が現れるということ。

 

 俺の魔力感知は対象を見ることに特化していた。

 しかしそれを周囲八メートルの全方位へ向け、異常を察知する。

 ヤミの技術を模倣した魔力感知の応用――魔力探知(・・)

 

「【虚空斬首】」

「視えてんだよ!」

 

 後方、五時の角度から入射してくるその大剣に俺は術式を合わせる。

 

「魔剣召喚【龍太刀】」

 

 相手が超巨大かつ超質量を持つ大剣であったとしても、『龍太刀』なら――撃ち合える!

 

「ぬぅ!」

 

 大剣を大きく弾いた。

 転移の術式は脅威だが、そこにメモリの殆どを使ってるせいか大剣が纏った魔力量、つまり攻撃力は高くない。

 

「なるほど、対策はしてきたようであるな。それでこそ勇者だ」

「魔王、テメェは俺をどれくらい強くしてくれる?」

 

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