剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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47「虚空と龍の斬撃」

 

 【魔王機(ディザスターゴーレム)=アガナド】。

 この階層の突破条件にして、今までのガーディアンの中で断トツの性能を持つ存在だ。

 

虚空斬首(こくうざんしゅ)!」

 

 その呟きと共に奴の大剣の刀身が消失する。

 刀身は俺の背後よりその姿を現し、背へと迫る。

 魔力探知によってそれを察知した俺は振り返りながら魔剣を振るう。

 

「虚空斬首!」

 

 弾かれた大剣は姿を消し、今度は側面に現れる。

 同じように弾き、しかし大剣はまた別角度から俺を襲う。

 

「虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首! フハハハハハ! 対策したのではなかったのかぁぁぁ!?」

 

 馬鹿みたいな笑い声と共に、大剣が何度も振り下ろされる。

 俺はその全てを龍太刀で弾く。

 あれで大地を叩かれれば地面が割れる。

 そうなれば足場の問題で龍太刀の威力が制限され、迎撃できなくなる。

 魔力消費の観点から、できれば飛行術式前提の戦いにはしたくない。

 

「ッチ……」

 

 想像していたよりアガナドの動きが機敏で連撃が速い。

 反撃に移るタイミングが……

 

「羽虫の如き人間よ、貴様等に絶望を教えることこそが魔王()が本懐である。錬成――【二刀の構え】!」

 

 アガナドが新たな術式を起動する。

 それは酷く単純な土属性の操作術式。

 大地や周囲の金属の形状を変え、己が望む形とする魔術。

 

 それが形造ったのはまさしく絶望と呼ぶに相応しい物体だった。

 

「ふざけんなよ……」

 

 ドームの地面の一部を変形させ、アガナドは二本目(・・・)の大剣を呼び出していた。

 

「さぁ人間よ、ついてこい。倍速である。――虚空斬首」

 

 一刀が俺の『左後ろ』の虚空から現れ、横薙ぎの斬撃を振るう。

 一刀が俺の『右前』の虚空から現れ、横薙ぎの斬撃を振るう。

 

 両方を龍太刀で受けるのは不可能。

 

 じゃあ、跳べ!

 

「蒼爆!」

 

 蒼い爆発を真下へ放ち、俺自身は上空へ。

 

「フハハ! 愚か! 虚空断頭(こくうだんとう)!」

 

 魔力探知がその術式の発動方向を察知する。

 それは俺の頭上、奴が右手に持った刃先が(オレ)を向いた状態で現れる。

 このまま上昇すれば俺の身体は真っ二つだ。

 

「クソが! 蒼爆!」

 

 右側へ向けて更に爆炎を放ち、俺の身体にかかっていた跳躍の軌道を無理矢理ズラす。

 

 大剣が額を掠め、血が飛び散る。

 蒼爆によって逸れた俺の身体は姿勢制御が十分ではなく、地面を二度バウンドしてやっと静止した。

 

「よく回避した。だが、」

 

 機械の身体にスタミナ切れはない。

 あの巨大な大剣を何度振るおうが、電力と魔力が尽きぬ限りアガナドは稼働し続ける。

 そして、このドームもまた四つの塔と同じようにアガナドに魔力供給を行っている。

 つまり、この場所に限ればこいつに体力切れはない。

 

「虚空斬首」

 

 二刀の斬撃が、またも俺を左右前後から挟み込む。

 どうすればいい?

 蒼爆で避けても同じことの繰り返しだ。

 

 回避しきれないのなら何れ俺は死ぬ。

 

 まだ死ねない。

 まだ何も得ていない。

 

 

 ――ダジルを勝たせてくれ。

 

 

 うるせぇんだよクソ親父。

 テメェのためじゃねぇ。

 俺は俺のためにこの階層を突破するんだ。

 

「魔剣召喚【龍太刀】」

 

 すでにその術式は発動中だ。

 右手に携えられたその魔剣は圧倒的な迫力を備え、剣聖の奥義を内包している。

 

 だがこの術式の真に優れる点は『別の術式と併用できる』という部分にある。

 『別の術式』ってのは魔剣召喚以外の術式って意味じゃない。

 

 だったらできるはずだ。

 今の俺なら……『紫熱連環(しねつれんかん)』のような複雑な術式すらものにした今の俺なら――行けるはずだ! 信じろ!

 

「魔剣召喚――!」

「何……?」

 

 魔剣召喚は魔剣召喚と併用できる!

 

「【龍太刀】!」

 

 左手に現れる右手の刃と瓜二つの二刀目。

 

「ガキでも考え付くシンプルな理屈だぜ。一本より二本の方が強いなんてことは」

 

 ただ、魔剣召喚という高等術式でそれをやるための技量が五年前の俺にはなかった。

 水の中で藻掻き続け、魔力の制御技術を向上させたことでやっと、この戦術は実現した。

 

「テメェの発想、真似(パク)らせて貰ったぞ」

 

 二刀流――

 

「龍太刀!」

 

 俺を挟み込むように振るわれた大剣による斬撃に対し、左右の魔剣で回転しながら龍太刀を放つことで……

 

 キィィィィィィィンンンンンン!

 

 俺はアガナドの二刀流から放たれた『虚空斬首』を受け切った。

 

「面白い……お主は敵の技を模倣することで進化するというわけか……」

「そうだな。俺の得意なことは結局それだ」

 

 俺のオリジナルなんて転生術式くらいのもんだ。

 それ以外は全て、本とか伝聞や他人から盗んだ模倣だ。

 

 だけどそれで問題はない。

 最強に才能なんか必要ねぇんだよ。

 

「行くぞアガナド、満足いくまで打ち合おうぜ?」

「……フハハハハハ! 我が剣を前にそのようなことを宣ったのはお主が最初だ」

 

 構えた大剣による連撃が再開する。

 合わせて俺も龍太刀を構えた。

 

「虚空斬首!」

「龍太刀!」

 

 アガナドの攻撃を受ける。

 受け流し、弾き飛ばす。

 幾らでも、何発でも、たとえ魔剣が折れようとも、何度でも再召喚を繰り返し――

 

「フハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!」

「あははははははははははははははは!!!!」

 

 声の限りに嗤い続け、絶やすことなく己が奥義をただ放つ機械へなっていく。

 

「虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首! 虚空斬首!」

「龍太刀! 龍太刀! 龍太刀! 龍太刀! 龍太刀! 龍太刀! 龍太刀!」

 

 一撃一撃が地形を変えるほどの斬撃。

 

 その応酬は楽しかった。

 自分の全力を何度でもぶつけさせてくれる。

 そんな相手はそう多くはない。

 

 一度の戦闘でここまで龍太刀を放ったのは初めてだ。

 

 それに龍太刀を撃つ度にアガナドの動きの意味や転移の先読みの精度が上がっていくのを……俺が、強くなっていくのを感じる。

 

 できることなら永遠に……

 

 しかし、その応酬は突如として終わりを告げた。

 

 ――パキリ。

 

「ぬ!?」

 

 奴の大剣に亀裂が走る――

 

 いくら魔力を纏っているとしても。

 いくら頑丈な作りがされているとしても。

 

 これだけ龍太刀を受けて刃零れしない武器なんざ聖剣くらいのもんだろう。

 俺の魔剣だって何度も破損している。

 

 だが『魔剣召喚』よりもアガナドの『錬成』は発動が遅い。

 土から剣を作りだし、それを手に持つまでの間に三秒ほどの空白がある。

 二刀が使えなくなる刹那、その余白に俺は反撃を差し込んだ。

 

「残念だぜ魔王」

 

 だけどきっと、お前は俺に加減なんかされたくねぇだろ。

 

 終わりだ。

 

「龍太刀ッ!」

 

 俺の斬撃は【魔王機(ディザスターゴーレム)=アガナド】の装甲を切り裂き、その身体を上下に斬り裂いた。

 

「やるではないか、勇者よ……」

 

 上半身と下半身の別れた魔王はそのまま後ろへ倒れ、虚空からの斬撃は完全に止んだ。

 

「はぁ……このダンジョンに居たガーディアンの中じゃレべチだったぜお前」

 

 もうその機能が失われていることは分かっていた。

 それでも言葉が漏れたのは、想像以上に満足感を感じていたからだろう。

 それほどまでに良い戦いだった。

 

「――【魔王機(ディザスターゴーレム)=アガナド】の破壊を確認。条件達成を確認」

 

 なんだこの声……?

 アガナドから出てるのか?

 倒したんだよ、な……?

 

「――封印を解除します。【魔王機(ディザスターゴーレム)=アガナド】――真形【神災(カラミティ)】」

 

 倒したはずのアガナドの切断面から黒い靄のような、スライムのような何かが這い出てくる。

 

「なんだこりゃ……」

『ネル……』

「なんだ? 何か知ってるのか?」

『……あの機兵は、おそらく女神のパーツを呑んでいます』

女神(おまえ)のパーツ?」

 

 そういやこいつ、前に自分の力は弱まってるだとか制限されてるだとか言ってた気がする。

 パーツが足りてないからって意味だったのか?

 

『はい。あの機構はこのダンジョンに使用されている他のテクノロジーの数段上を行く機能です。そんなものを運用できるのであれば、このダンジョンの機能がここまで低レベルであるはずがありません。しかし女神のパーツを持っているのなら、話は別です』

「あの化け物がそいつを持ってるとして、具体的にどうなる?」

『おそらくあれが吞んでいるのは女神の血肉と言える金属【赫蒼合銀(ミスリル)】です。それを内部に蓄えていることによってあれは――【自己進化】の機能を獲得している』

「進化? つまりこっから更に強くなるって意味か?」

『戦闘経験を自己学習し、その敵に対して確実に勝利できる形態へ自己を改変し進化する。――つまり、貴方では勝てないということです』

 

 勝てないか……

 ビステリア、テメェは俺が燃える言葉をもう学習してんだな。

 

「こいつが進化したとしても勝つのは俺だ」

『えぇ……貴方ならそう言うと計算できていました。故にお願いいたします。女神(わたし)血肉(パーツ)を取り戻してください。もしこの願いが叶うのならば、拡張された機能によって可能な限りの支援を貴方へ捧げましょう』

「今なんでもするっつった?」

『言っていません』

 

 さいで……

 まぁいいや。

 どうせこいつが何を言おうが俺のやることは変わらねぇ。

 

「お前の言いてぇことは理解した。そのパーツとやらが手に入ったらリンカに渡しといてやる。だからちょっと黙っとけ。まだ一騎打ち(タイマン)の最中だ」

『感謝いたします』

 

 音声通信の切断と共に、その変化が加速していく。

 

 真っ二つにしたはずの胴より伸びたスライムのような中身が、外装全てを包み込む。

 鋼鉄とは思えない不定形な蠢きを見せた奴の身体が膨張していく。

 十五メートル程度のサイズだった身体が風船のように膨らんでいく。

 それはドームの天井があった部分を優に超え、壁を突き破った。

 

 全長は五十メートルオーバー。

 黒い巨体にはすでにアガナドだったころの様相は皆無だ。

 

「戦闘データの解析完了――顕現完了【虚月の銀霊=アガナド】」

 

 でっか……

 見上げてると首が痛くなりそうだ。

 

 飛行術式を展開し奴の全貌が見える真正面へ移動する。

 

 それは巨大なクラゲのような形状をしていた。

 脚……触手は地面から完全に離れ浮遊している。

 ドス黒い泥のようなもので構成されたその身体は異様で異質。

 

 だが、俺のやるべきことは変わらない。

 

「取り合えず変化は終わったみたいだな。じゃあ斬るか」

 

 構えた二本の魔剣を振り上げ、同時に振り下ろす。

 

「二刀流【龍太刀】!」

 

 二本の飛翔する斬撃は一直線にその頭部へ進んで行く。

 今までこの技を避けられたことや武器で受けられたことはあった。

 しかし、身体に命中して斬れなかった相手は存在しない。

 あの白龍すらも斬り飛ばした斬撃だ。

 

 だから、こんなことは想定もしていなかった。

 

「弾かれた……?」

 

 俺の龍太刀はクラゲ頭に傷一つ付けることなく力を完全に殺されていた。

 理屈は全く分からないが、龍太刀は完全に無効化されていた。

 

「ッチ、ふざけんなよ。(そう)ば――」

 

 術式名を宣言するより早く、奴の下半身に生えた触手の一本は横薙ぎに振るわれる。

 全く俺に届く距離ではないが、その先端がアガナドの時と同じように消失する。

 転移の力は健在かよ……

 

 だがその数は今までの比ではない。

 転移してきた触手の数は十本以上。

 

「龍太刀!」

 

 触手を斬り飛ばそうと斬撃を放つが、頭に当てた時と同じように龍太刀は接触した瞬間に掻き消される。

 ……いや、あれは龍太刀の魔力を吸収しているのか?

 

「ガハッ!」

 

 魅入ってしまった俺は、その一撃に対して回避動作を行うことができなかった。

 吹き飛ばされる身体を止めるため後ろ向きに蒼爆を使って減速しようとするが、その時にすでに奴の触手が転移の術式によって俺を取り囲んでいて……

 

「……これが、自己進化?」

 

 そう呟くと同時に、俺の身体は三本の触手から同時にぶっ叩かれた。

 

 

 ◆

 

 

「いきなり何をするんですか?」

 

 私の放った『光弾』の魔術をその獣人は握り潰す。

 白い魔力を籠手のように纏う術式、それに触れた瞬間私の術式が無効化されたようだ。

 

「貴方を殺せば、あの男はどんな顔をしてくれると思いますか? 光弾連聚(こうだんれんしゅ)

 

 七つの魔法陣より発射される無数の光弾。

 

「ネル様の知り合いですか? なんで私がここに来ることを知ってるんですか?」

「コーズ殿下に教えていただきました。私は貴女の首をあの男の前に転がして、その絶望を見たいんです」

 

 しかし彼女(リンカ)は私の魔術を完全に見切っていた。

 光弾が次々と籠手(ガントレット)によって掻き消されていく。

 

「私の死体をネル様に晒す? どうしてそんなことをしようなんて……」

「あいつは私に言ったのです。私よりも、貴女(リンカ)の方が好きだと」

「……なるほど、理解しました。要するに貴女は、自分の方が私より強いということを証明したいということですね?」

 

 あいつが好きだと言うだけのことはあるのだろう。

 私の魔術を容易く無効化する技能。

 それにこの人も、あいつの好意の基準が強さにあることを理解しているらしい。

 

「仲、良さそうですね」

「? 関係ありますかそれ」

「ないですね。金色の炎帝(ジルレイド)千の夕凪(サイレス)を越えて」

 

 あからさまな魔力の膨張。

 あからさまな高等術式の発動。

 魔術的な素養もありそうだし、初見とはいえ『完全詠唱』を理解できていないわけじゃないだろう……

 なのに驚いている素振りもなく、彼女(リンカ)は私の詠唱をただ聞いている。

 

理想の桃都(シャングリラ)空隙(くうげき)を埋めた」

 

 動くこともなく、彼女(リンカ)は私の詠唱が終わるのを待っている。

 

「ただそこに道を切り啓け(ゴルディアス・ノット)――【虹魔天剣】」

 

 私の魔術は完成する。

 その光景を見た彼女は、小さく呟くようにその名を詠んだ。

 

「【聖鎧】」

 

 呟かれたその言葉と同時に、リンカの全身を白い魔力が覆った。

 私の光弾を掻き消して見せたあの魔力が、『全身』をだ……

 

「私が授かった力は魔術に対する完全な耐性。つまり〝無敵〟です」

 

 虹魔天剣。

 虹色の光を宿す巨大な宝剣は、彼女の肌に触れた瞬間――掻き消えた。

 

 あれはネル様が使っていた聖剣召喚という術式と同系統の力。

 魔力と反発する魔力。

 

 この世に存在する全ての生物はすべからず魔力を持っている。

 その全てを無効化できるその力は、なるほど確かに『無敵』と呼ぶに相応しい。

 

 だけど……

 

「その術式を永久に起動できるとしたら、無敵(そう)かもしれませんね」

「……あの、一つ聞いていいですか?」

 

 私の煽りに動じた様子もなく、彼女は私へジト目を向けた。

 

「なんでしょうか?」

「貴女はネル様をどうしたいんですか?」

「死んで欲しい。いや、私が殺したい」

「あぁなんだ、じゃあ……」

 

 私の言葉を聞いたその獣人は、まるで友人でも見つけたかのような穏和な表情を浮かべて言った。

 

「私と同じですね」

 

 

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