剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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48「悪魔の杖」

 

「クソが」

 

 触手に吹っ飛ばされた俺は森林の地面に叩きつけられる直前に【紫熱連環(しねつれんかん)】を使って衝撃を回避した。

 頬がジンジンするがダメージはその程度だ。

 

「ネル、大丈夫?」

「坊ちゃま!」

 

 後ろから声が掛かる。

 そこに居たのはシルヴィアとクラウス、それにシャルロットや使用人の姿も見える。

 

 こいつらは塔の攻略組や俺が怪我をした時の救護班とその護衛だ。

 シルヴィアやシャルロットの役割は準備の段階で終わってる。

 だが、こいつ等自身の意向で自分たちにもできることがあるかもしれないと付いてきた。

 

 どうやら俺は拠点にしていた場所まで吹っ飛ばされたらしい。

 

「ミラエルとカエデとケネン、それとリンカはどうした?」

「ミラエルと剣聖、それにケネンも帰ってきた。少し予定は狂ったけれど無事よ。今はテントの中で休憩してる。けどリンカさんはまだ戻ってきてない」

 

 リンカが?

 いや、実際に結界は解除されてる。負けたわけじゃないだろう。

 あいつなら心配はいらねぇはずだ。

 

「大丈夫?」

 

 そう聞いてきたシルヴィアの表情は、めちゃくちゃ心配してそうだった。

 それはコーズやシャルロットも同じだ。

 

「一発食らっただけだ。いちいち心配すんなっつの」

「ネル、これを持っていけ。魔力の回復薬だ。肉体が魔力の生成する効果を一定時間向上させる。無論無尽蔵というわけではないがな。ただし三つも使えば中毒症状は抑えられない、使用は最小限にすることを勧める」

 

 コーズが差し出した三つの青い瓶の内一つの中身を一気に煽る。

 ちょうどよかった。

 実際『龍太刀』を撃ちすぎてかなりギリギリだった。

 

「助かる」

「ねぇ……」

「なんだよシャルロット」

「私も戦う」

 

 芯のある目をして、シャルロットはそう言った。

 その声に反応するようにテントから塔を攻略した奴らが出てきた。

 

「僕も一緒に戦うよ」

「ミラエルが行くのなら私も行きます」

「私もだ。私の固有属性があれば少しはアレにもダメージを与えられるだろう」

「私も、あんたは知らないだろうけど私だって力を得たの。その力があれば私だって戦力になれるわ!」

 

 ミラエル、カエデ、ケネン、それにシャルロット。

 四人は一様に俺を手伝うと、そう言いだした。

 

 一体いつこんな好感度を稼いだんだろうな……

 

 

「はぁ……マジで、邪魔なんだよ」

 

 

 俺は歩き出す。

 あの怪物(クラゲ)に向かって。

 

「カエデ、ちゃんとここ守っとけよ」

「……いいのですね? 助力は要らないのですね?」

「あぁ、お前らみたいな雑魚は要らねぇ」

「……分かりました」

 

 物分かりのいい剣聖で助かる。

 こいつがここに居るなら俺の戦いに巻き込まれることはねぇだろ。

 

「え?」

「ちょっと待って」

「ネル……」

 

 俺の経験値だ。

 俺が倒すと、そう決めた相手だ。

 

 渡すわけねぇだろ。

 

 一度も振り返らず、俺は進んだ。

 こんだけ拒絶すれば流石については来ないだろう。

 そう思ったのに……

 

「――待って」

 

 そんな声と共に後ろ手が掴まれた。

 俺を追いかけてきたのは唯一人。

 その女は魔力の籠った瞳で俺を見ていた。

 

「邪魔だシルヴィア、離せ」

「ごめんね……」

「何言ってんだ?」

「君の目的は分かってるの。だから……」

「俺の目的? そんなのあのクラゲを一人で倒すことに決まってんだろ」

「えぇ、そうね……君は兄弟(わたしたち)を守ってくれているのでしょ?」

 

 ……全く、他人の願いを知る魔眼なんて、めんどくさい力だ。

 

「でもお願いネル、私は君にも死んで欲しくない。皆で倒せばいいじゃない」

 

 皆で……ね……

 それをやった結果、白龍の時はネオンが俺を庇って死にかけた。

 エルドたちは普通に死んだ。

 今生きてるのはビステリアに都合の良い機能がたまたまあったってだけの話。

 偶然だ。

 

「あいつが使う転移術式には距離、間合いの概念がない」

「え?」

 

 アガナドから進化したあの巨大クラゲも触手を転移させてきた。

 一度にどれだけ転移術式を発動できるか知らないが、おそらくアガナドの時よりも手数は増えているだろう。

 

「観測されればどこからでも、誰でも、常に狙われる可能性がある」

 

 ヤミと一緒にアガナドと戦った時点で結論は出ていた。

 

「俺でも庇えない」

 

 ボロボロのミラエルも。

 戦闘経験の殆どないケネンもシャルロットも。

 防御性能に欠けるヤミも。

 

 あいつの前に、立たせるわけにはいかない。

 

「でも……」

「黙っとけよ、お前は戦えねぇんだから」

「……」

 

 俺はシルヴィアの手を振りほどき、振り返ることなく進んだ。

 

 

 ◆

 

 

「あれ、なんですかね?」

 

 獣人(リンカ)は空を見上げながら私にそう問いかけてくる。

 その視線の先にはクラゲのような形状をした黒く巨大な魔獣が居た。

 発生元はネル(あいつ)と行ったこの階層の中央にあるドーム付近。

 

 多分、あのアガナドというガーディアンの本性といったところだろう。

 

「そんなことはどうでもいいでしょう。それよりどういう意味でしょうか?」

「何がですか?」

「私と貴女が同じという話です」

「あぁ、単純な話ですよ。私もネル様を殺してやろうと思ってるんです」

 

 この人も私と同じ目的を持ってる……?

 いや、違う。

 あいつの顔を思い出しているであろうこの女が浮かべる表情は『憎悪』じゃない。

 

 寧ろ、逆。

 

「世界最強……そんな言葉に囚われたあの怨霊(かた)は、そこへ到達するまで終われない。そのためならあの人はそれ以外の全てを簡単に捨ててしまう」

 

 そうだ。

 あいつは最低な人間だ。

 責任感も愛情も、欠片程も持っていない。

 

 あいつの好きは、全部自分のためだ。

 

「私はそんな可哀想な人生を終わらせたいんです。そのための方法は二つ。その世界最強(ゆめ)を叶えるか、もしくは【諦めさせる】か」

「だから殺すと?」

「はい。どちらにしても、私の行動は同一です」

 

 やっぱりお前は私とは違う。

 きっとお前は私よりもあの人の愛情に触れられたのだろう。

 だからそんなことが言えるんだ。

 

 自分のためにネル(あいつ)を殺そうとしている私と、あいつのためにあいつを殺そうとしているお前は全く違う。

 

「ネル様を殺し続ければあの人の進化は加速する。もしくは、圧倒的で絶対的な差を見せつけて、ネル様の心を折って、『転生』を諦めさせる。それが私の願いです」

「……てん、せい?」

「……あぁ、知らなかったんですね?」

 

 彼女(リンカ)は少し焦ったような表情をしたが、その顔はすぐに平静に戻る。

 

「でも、貴女は知っていた方がいいような気がします。ネル様は殺しても死にません。次の人生を自らの魔術によって獲得できるから」

「――は?」

「それがあの人の特異性、あの人が最強を目指す方法」

「そんな戯言信じるとでも……」

「では想像してみてください。貴女がネル様を追い詰めて、四肢を捥いで、魔力を枯らして、確実な勝利の元、喉元に刃物を突き付けたとして……ネル様はどんな表情でなんと言うと思いますか?」

 

 想像上のあいつは笑っていた。

 

 笑って、私に言う。

 

『次は俺が勝つから待っとけ』

 

 どうして……?

 

 転生……

 言葉通りの意味なら、あいつは何度も人生を繰り返してる?

 いったい幾つの人生を……けれど、それなら納得できる。

 

 あの異常な強さ、見識、達観したような雰囲気も。

 

 でも、それでも……関係ない。

 

 あいつが私にしたことに変わりはない。

 あいつへの悪意にとめどはない。

 どんな理由があるとか、そういう問題じゃないから。

 

「だから殺すんです。殺して殺して殺して殺して殺して、ネル様が諦めるまで、もしくはネル様が自分の力に納得できるまで……ずっと、何度でも……」

「……」

「だからお友達になっていただけませんか? ヤミさん」

「…………私があいつが、ネルが嫌いです。あいつのためにあいつを殺そうとする貴女とは仲良くできない」

「本当に? 理由はそれだけですか?」

「どういう意味でしょうか?」

「ただ、浮気が許せないだけですよね?」

 

 ――あぁそう。

 

「殺す!」

 

 正直、あいつ以外にこの術式を使う必要があるとは思っていなかった。

 だけど認めよう。

 確かにあいつ(ネル)の言った通り、彼女(リンカ)は二週間前の私より強い。

 

 でも、今の私よりは――弱い。

 

 私の長所は属性の親和性。

 普通の人の場合、最も得意な属性との親和性を100とすればその次に得意な属性は精々50程度。他の属性との親和性はもっと下がる。

 だから多くの魔術師は一つの属性を極める。

 

 だけど私は属性ごとの親和性の違いがあまりない。

 

 最多の魔術師になるべく育てられた。

 あらゆる属性の魔術を満遍なく覚えられるように。

 より多くの術式を使えるようになるためだけに、私は育てられたのだから。

 

 光属性を100として他の七つの基本属性の全ての親和性が80以上ある。

 

 一つで勝負はしない。

 一つで足りないのなら重ねればいい。

 

 混ぜ合わせることで数多は極光へ至るのだ。

 

 そのための術式が禁書庫にはあった。

 

 召喚系統、闇属性術式――

 

「【悪魔(あくま)受聲杖(じゅせいづえ)】」

 

 杖を向けた地面から禍々しい装飾の杖が姿を現す。

 それは人が持つには巨大で、小さな樹のようだった。

 持ち手の部分には大量の人の顔が彫られていて、その口はモゴモゴと蠢いていた。

 

「その気持ちの悪い杖はなんですか?」

 

 これは魔術媒体じゃない。

 手に持つ必要もなく、術者から独立した術式。

 

「この杖は私が使用できる全術式の中から三秒ごとにランダムで術式を発動させる」

「使役獣みたいなものですか? 貴女のキャパを使わない術式発動は確かに凄い効果ですが、その程度の追加効果なら意味はないと思いますよ」

「一本なら、そうかもしれませんね?」

「なるほど……」

(ナインス)――【悪魔の受聲杖】」

 

 禁書庫を封じる【五神盾(アランテス)】を含めて十の魔術の同時発動。

 それが今まで私の限界だった。

 

 だけど、この二週間で私に更に術式の制御能力を向上させた。

 今の私は最大で十一種の魔術を同時に発動させることができる。

 自分の魔術使用を控えながら、九本の【悪魔の受聲杖】を使えるということだ。

 

「三秒に九回、つまり毎秒三つの術式が絶え間なく貴女を襲います。どうぞあの鎧でガードしてください」

 

 彼女が使う【聖鎧】という術式には明確な弱点がある。

 それは魔術を撃ち消すたびに白い魔力を消費するということだ。

 彼女(リンカ)の魔術総量は私より少なく、あの白い魔力を生み出すには通常の魔力を多量に消費している。

 

 つまり魔術を当て続けることで、それは削り取れる。

 

 毎秒三つ、しかも効果はランダムで発動するまで分からない。

 私の持つ数百の術式(てふだ)が常に展開され続ける。

 私の魔力が尽きるまで(おまえ)のターンはやってこない。

 

「ここから先は一生私の番ですよ」

 

 私が二週間懸けて体得した奥義とも呼べる術式だ。

 これならあの男にも勝てると確信している。

 

 なのに――

 

「術式の嵐といったところですか。うん、楽しそっ」

 

 どうしてお前は快活な笑みを浮かべているの?

 

(うた)え!」

 

 私の言葉を引き金に、杖の先についた口が動き始める。

 

 3、2、1――

 

 九本の杖が一斉に唇を動かし始め、術式名が唱えられると共に術式を放った。

 

「ファイアボール」「アクアベール」「エアシールド」「ロックランス」「アイシクルレイン」「ライトニングストライク」「光縛鎖(こうばくさ)」「ダークスラッシュ」

 

 炎が、水が、風が、土が、氷が、雷が、光が、闇が――

 

 一斉に、彼女(リンカ)を襲うその刹那。

 呟かれた彼女の通りの良い声がして……

 

「――獣魔纏伏(じゅうまとんぷく)【黒狼】」

 

 それは獣人の英雄にのみ許された、獣の性質(サガ)を解放する力。

 その茶髪が一気に黒へ、全身を黒い毛が覆った。

 

 火球を避け、水素の霧の中でも獣人固有の五感で魔術を察知し、風の防壁を殴り壊し、岩の槍を掴み取る。

 雹と雷の嵐すらも避け切って、巻き付いた光の鎖を引き千切り、闇色の刃を噛み砕く。

 

 それをたった三秒でやってのけた。

 

 だけどまだだ。

 次の魔術はすでに完成している。

 

「避けゲーって感じで楽しいですね、コレ」

 

 そう言いながら、余裕の表情は崩れず、放たれる術式を次々と越えていく。

 身体能力の次元が人間とは別格だ。

 

 いや、だとしてもただの『身体能力』で私の全開が砕かれるなんて……

 

「なんで……」

 

 どれだけ私が頑張っても、意味ないって言うの?

 

 最多の魔術師としての研鑽も、完全な詠唱術式という前人未踏も、お爺様との約束を破って禁書庫から得たこの術式も……

 

 全部……無意味?

 

「ふざけないで……!」

 

 【悪魔の受聲杖】による術式発動は、完全なランダム。

 そしてその中には当然、私の使える最強の術式も含まれている。

 

金色の炎帝(ジルレイド)千の夕凪(サイレス)を越えて――】

 

 来た。

 重なれ!

 

金色の炎帝(ジルレイド)千の夕凪(サイレス)を越えて――】

金色の炎帝(ジルレイド)千の夕凪(サイレス)を越えて――】

 

「ははっ……」

 

 運は私に味方した。

 完全詠唱術式の三つ同時発動。

 

「杖の一つ一つがヤミ(あなた)と同じ演算機能を持っているわけですか……素晴らしい技術、素晴らしい魔術です」

「褒めてる場合ですか? もう私にもこの術式発動は止められませんよ」

 

 私一人じゃこの術式を複数同時に扱うことはできない。

 私の脳の全てを捧げてやっと一つの発動ができる。それくらいこの術式は集中力を要する。

 

 だけど【悪魔の受聲杖】はその制約を突破する。

 

 これが禁術。

 街一つを滅ぼせる性能を秘めた術式。

 

理想の桃都(シャングリラ)空隙(くうげき)を埋めた。ただそこに道を切り啓け(ゴルディアス・ノット)――】

理想の桃都(シャングリラ)空隙(くうげき)を埋めた。ただそこに道を切り啓け(ゴルディアス・ノット)――】

理想の桃都(シャングリラ)空隙(くうげき)を埋めた。ただそこに道を切り啓け(ゴルディアス・ノット)――】

 

 三つの完全詠唱。

 加えて他の魔術も六つ発動している。

 その魔術の嵐が、一人の女性に向かって解き放たれた。

 

【虹魔天剣】

【虹魔天剣】

【虹魔天剣】

 

 三本の巨大な宝剣は、虹色の輝きを放ちながらリンカへ突き進む。

 絶対の一撃。今までこれを当てて倒れなかったものは居ない。

 それが三つだ。

 

「聖鎧――」

 

 その光量じゃこれだけの魔力を一瞬で消し去るのは無理でしょ。

 無魔の光ごとすり潰されろ。

 

「終奥――」

 

 白い魔力が、彼女(リンカ)の体内で回転を始めていく。

 まるで、とぐろを巻いた蛇のように……

 

「【龍魔一擲(りゅうまいってき)】!」

 

 そしてその魔力は一つの塊へと集約され、一気に拳へ。

 

「飛ぶ……拳戟……」

 

 【悪魔の受聲杖】によって放たれた完全詠唱の【虹魔天剣】が三つだ。

 運に味方されなければ放てない、私の限界を超えた一撃だった。

 それでも、その拳戟は私の努力を嘲笑うかの如く、私の魔術の全てを撃ち消した。

 

「なんで……どうして……」

 

 これだけやって……

 ネル様に認めて欲しいと頑張っても……

 その全てを捨てて、あいつを殺すことだけに全てを懸けても……

 

 私の本気は――無価値……

 

 無意識に私の膝は折れていた。

 未だ続く魔術の奔流を彼女は難なく進んでくる。

 全てを避け、捌き、なんでもないように。

 

 その歩みは、私の目前に辿り着いた。

 

白魔障壁(はくましょうへき)。これで終わりのようですね」

 

 背中に向かって放たれる魔術を白い魔力の障壁で防ぎながら、リンカは私の首に触れて私に言った。

 

「あの杖、解除して貰えますか?」

 

 なんで……

 こんなに頑張ったのに……

 全部を、本当に全部を……魔術に捧げたのに……

 

 無意識に涙が溢れた。

 私じゃ勝てない。

 無意味で無価値で無力で、何の幸福もない。

 

 私の人生は『無駄』だったんだ。

 

「うっく、ひっく……えぐっ、うえっ……」

「なんで泣いてるんですか?」

「ううっ……くだらないから、私って人間の全部が……」

「くだらない? どうして?」

「私が生まれたのは魔術を覚えるためだった。一生をあの司書室で過ごすしか選択肢はなくて……」

「……」

「それだけだったら良かったのに、あいつのせいで私は外に出たいって思ってしまった……幸せを教えられて、なのに捨てられて、追い縋ろうとしても無理で、殺そうとしても無理で……」

「それは、本当にネル様のせいなんですか? ネル様と出会う前の貴女は本当に外に出たいとは思っていなかったのですか?」

 

 …………

 

「……私孤児だったんですけどネル様に拾われたんです」

「え?」

「ちゃんと親の居る人たちが羨ましかったんです。でもネル様がその代わりになってくれて幸せだった。だけどあの人、目の前で死んじゃったんです」

「……」

「私その時転生魔術のことなんて知らなかったから本気で死んだと思ってたんです。凄く悲しくて、龍の腹の中(くらやみ)でずっと考えていました。起きたらどうすればいいの、って」

「…………」

「正直その時の私にはネル様以外に生きる理由なんかなかったから、自殺しようかと思ってたんですけど……起きたらあの人普通に居たんですよね。でも嬉しかった。生きようと思えた。好きとか、嫌いとか、そういうのじゃなくて……」

 

 そっか、私の想いは浅かったんだ……

 

 この人はもっと深い場所でネル様のことを想ってる……

 

「――私はただ、ネル様に幸せになって欲しいんです」

 

 そっか……

 

「あぁ、私はただ同じ学校に通っていた家の事情とか関係なく青春してる人たちが羨ましかったんだ……」

 

 ネル様を使って青春したかっただけ……

 幸福も憎しみも、全部自分のための感情だ……

 

「最低だ。私……」

「そんなことないと思いますよ、だって多分貴女の変化を見ればネル様は喜ぶと思いますから」

 

 確かに……

 あいつは今の私を喜びそうだ。

 それに、私が最低だとしても、あいつを殺してやりたいって気持ちは変わらない。

 

「……ふっ、私って都合のいい女になってる気がします」

「私もです。ネル様って恋愛する気ないくせに女一杯居るし……普通に最低だよね?」

「うん、私もそう思う」

「……だから肩組んで一緒に殺しに行かない?」

 

 そう言ってリンカは、私に手を差し出す。

 

「お友達になってくれますか? ヤミさ……」

「ヤミでいいよ。こういうの、青春っぽい感じがする」

 

 私はリンカの手を取った。

 なんかいいな、こういうの。

 ジッとリンカを見ているとリンカは照れたように顔を背けた。

 

「な、なに?」

「なんか、顔可愛いなって思って……」

「え、結構毛深いよ私……」

「そーゆーところも可愛い」

「友達って、私初めてなんですけどこんな会話するものなんですか?」

「んー、私も初めてできたから知らない。ていうかリンカちゃんまた敬語出てるよ」

「リンカ……ちゃん?」

「あ、嫌だった?」

「いや、いいよ。ヤミ……ちゃん……」

 

 すごく照れる。

 でも私よりリンカちゃんの方が照れてるからなんか平気だ。

 

「ていうかヤミちゃん、いきなり褒めるとこ顔ってネル様みたいだよ」

「え、ほんとに? じゃあやめよ」

「ふふっ」

「ははっ」

 

 あいつのことを忘れられたわけじゃない。

 でも、少しだけ楽になった。

 

「私もっと頑張ってみるよ。あいつを殺せるくらい」

「うん。私も同じ。一緒に頑張ろ」

 

 魔術に全てを捧げてきた私の、初めての友達……

 私はリンカちゃんを大切しようと思った。

 

 

 

「はぁ……くだらん話やなぁ……」

 

 

 

 それはリンカちゃんの後ろから、魔力障壁の外から聞こえた声だった。

 声の主の姿はどこにも見えない。

 あるのはただ、私が発動している【悪魔の受聲杖】が九……十……二十……え?

 

 いつの間にか、【悪魔の受聲杖】が増えていた……

 

 

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