剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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56「退屈な瞳」

 

 リアファエス・ステラクセルロディア・ブライドリグレ・アーテリアスライティア。

 

 このクソ長い名前を持つこいつはエルフの名家の息女だ。

 最初の出会いは五度目の人生の時だった。

 その時のこいつは雑魚だった。

 その時の俺にも劣る大したことない、ただ面が少し良いだけのエルフだった。

 才能と言えば、魔力の流れが人より詳しく見える程度。

 

 だけど、八度目の人生で出会ったこいつはその時の俺よりも強くなっていた。

 

 それから五十年……

 今のこいつがどうなってんのか予想もできない……

 

「久しぶりだな」

「そうね、久しぶり」

「よく俺が分かったな?」

「私を『リア』なんて呼び方する奴はお前と私の主くらいしか居ないのよ」

「なるほどね……」

「ネル、なんでこんな場所にいるの?」

「別に偶然(たまたま)って言うしかねぇけど、そっちこそこんな森の奥までご足労なこって、飯でも食うか? それか風呂にでも入るか? それとも、一先ずヤるか?」

「そうね、今のお前が私をどれだけ満足させられるのか見せて?」

 

 何の目的でこの森に来たのか。

 今はどういう立場なのか。

 

 疑問がないわけじゃない。

 

 ただ、そんなことより何よりも俺には知らなきゃならないことがある。

 

 こいつと俺、今はどっちが強いのか。

 

「あ、あの……僕席外しましょうか?」

「いや、見物でもしとけ」

「え、いやぁ……その……」

「表出ろよ」

「いいわよ」

「外でやるんですか!?」

「当たり前だろ。家ぶっ壊れたらどうするんだ」

 

 そう言いながら俺とリアは外に出る。

 それを追ってリョウマも出てきた。

 

 数メートルの間を空けて対面に剣を構える。

 

「あっ、なるほど……」

 

 俺たちは似た魔力の流れを宿していた。

 

「「終奥――」」

 

 互いにそう呟いた瞬間、舞い落ちる木の葉が地面に付いた。

 

「龍太刀!」

「龍突!」

 

 その奥義は肉体が持つ全ての魔力の回転によって押し飛ばす斬撃と刺突。

 故にその攻撃力は内包する魔力量によって確定する。

 

 二十一年しか生きていない俺の身体。

 対してあいつは数百年を生きるエルフの魔術師。

 

 勝敗はその一太刀がぶつかる前から分かり切っている。

 

 だから俺はこの森で死体から拾った錆びかけの剣を捨てた。

 

「魔剣召喚」

 

 斬撃と刺突が衝突し、一点に凝縮されたリアの魔力が俺の斬撃を貫通して飛来する。

 

 俺はそれに合わせて二刀目の終奥を叩き込んだ。

 

「龍太刀!」

 

 終奥の連射。

 これは魔剣召喚を使える俺だけの連撃。

 

 二発目でリアの龍突を完全に打ち消すことに成功。

 

「龍太刀!」

 

 三発目。

 俺の斬撃はリアへと迫る。

 

「凄いわ」

 

 そう言ってリアは身体を逸らし、縦の軌道で放たれた俺の斬撃を容易く躱した。

 

 上から目線の不遜な態度で、リアは手拍子を打っている。

 

「もっと見せて?」

 

 五十年前、お前は俺に魅せてくれた。

 自分の力の限り、その時のお前ができる最大限の魔術を。

 だから俺も出し惜しみはしない。

 

「二刀流・魔剣召喚【龍太刀】」

 

 龍の鱗のような装飾がされた刀が二本。

 左右の手に収まる。

 アガナドとの戦いで得たこの技によって俺の連撃は加速する。

 

風魔纏伏(エアリアル)

 

 リアの口から静かに呟やかれたその術式は風を纏うことで、その身体動作を加速させ『空気の上に立つ』ことを可能とする術式だと思っていた。

 けれど、今の俺の魔力感知【骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)】があれば、その術式の真意が見える。

 

 あれは自分の肉体を風という存在に近付ける術式。

 思っていたよりもずっと強力で圧倒的な術式だ。

 しかし五十年前の時点じゃ分からなかったリアの術式の本領が今の俺には見える。

 それは確実にあいつに追いついているということ。

 

 いや、追い付くだけじゃだめだ。

 俺はあいつを超えなきゃいけない。

 

「お前には感謝してるぜリア」

「……何が?」

「俺がここまで強くなれたのは間違いなくお前と出会えたからだ」

 

 お前が居たから龍太刀は完成した。

 お前が居たから俺の魔術は広がった。

 

 剣士としても、魔術師としても、俺はお前に感謝してる。

 

 構えた二本の龍太刀をリアへ向けて振り下ろす。

 防御の手段も回避の手段も、リアにあるだろう。

 だから何度も振るった。

 俺が放つ数十の斬撃の全ては、剣聖の奥義だ。

 

「……そう」

 

 けれどリアはその斬撃を見ても、退屈な瞳のまま……

 

風腕(エアリム)

 

 腕に纏った風の術式。

 

「は?」

 

 それを俺の斬撃に宛がって、斬撃の力を後方へ流して見せた。

 彼方へ逸らされた俺の数十の龍太刀は森林を破壊していくが、リアの身体にはかすり傷の一つもなかった。

 

「じゃあ早く見せなさいよ。その、強くなった力って言うのを」

 

 余裕綽々ってか。

 ムカつくけど最高の女だ。

 

「あぁ、そうだな。蒼炎球!」

 

 蒼い炎の球体は加速しながらリアへ突っ込む。

 

風牢壁(エアロック)

 

 風を凝固させた結界術式。

 その断面に触れた瞬間、俺の蒼炎球は青い爆発を起こす。

 

 その炎と煙に紛れて、俺は一気に接近した。

 

 遠隔斬撃が意味を成さないなら近距離で命中させればいい。

 

「はっ、あの時と同じ戦術ね。ここから何が変わるの?」

 

 笑みを浮かべたリアは右手に持った細い剣で俺の剣を受け止める。

 だけどそれは所詮は魔力が籠っただけの剣。

 俺の龍太刀とじゃ内包する魔力量に差があり過ぎる。

 

 この距離感で、その構えで、リアの剣が今から終奥へ派生するのは間に合わない。

 

 ――この打ち合いは俺が勝つ。

 

 そう確信して、俺は思い切り龍太刀を叩きつけた。

 

「ネル、威力だけが力じゃないのよ」

 

 リアの持つ細剣の周囲を風が渦巻く。

 その刃に俺の龍太刀が触れたその瞬間、近距離で放たれた龍太刀すらも――

 

「は?」

 

 龍太刀が纏っていた魔力が、いなされた。

 物理的に刀の向きを変えたとかじゃない。

 まるで纏った風が俺の魔力そのものを操ったかのように……

 

「魔力をいなす、気流……!?」

「正解。風逸流転(ふういつるてん)の法……風魔纏伏(エアリアル)の派生術式よ。風属性の魔力を操って、相手の魔力的な攻撃全てをいなす」

「ッチ……!」

 

 力を失った右の龍太刀を見て、俺はすぐに左手のもう一刀を振り下ろす。

 威力は十分。魔力も安定してる。

 間違いなく龍太刀は放たれる、そんないつも通りの感覚がある。

 

 なのに……

 

「無駄よ」

 

 何度撃ち込んでも、俺の奥義は、俺の全力は、全てが風によっていなされる。

 力じゃない。

 

 技量の差……

 魔術という現象に対する認識の差……

 前に戦った時とは実戦への慣れ方が違う。

 

 剣士としても魔術師としても、格が違う。

 

 こいつ……この五十年でどれだけの相手と戦ってきたんだ?

 

「私の眼は魔力の流れと性質を視抜く。魔力っていうのはこの世界の全ての生物が持ってる物よ。剣士だって当たり前にそれを技に使ってる。流れを知覚できるなら、それを崩す方法だってイメージできるわ」

 

 それがこいつの稀有な特性。

 特別な瞳の力。

 精霊眼を完全に使い熟し、数百年を研鑽に費やしたエルフの成長速度。

 

「魔術も剣術も関係ない。全ての力は私の前じゃ操れる流れの中にあるものなの」

 

 つまらなさそうに、リアは俺を見ていた。

 その瞳には何が映っているのだろうか。

 俺の魔力を、俺の奥底を、覗くその眼は、酷く退屈そうで……

 

「私はまだ以前見せた力しか使ってない。いや、【断絶空創】を使ってないからその時以下の力ね。だけどお前はそこにすら到達できていない。ねぇネル、貴方はこの五十年、何をしていたの?」

 

 リアが俺に手を翳す。

 その掌に一瞬で大量の魔力が集約されていく。

 

膨風衝撃(エアバースト)

 

 暴風が俺の身体を襲った。

 身体強化によってなんとか吹き飛ばされないように耐える。

 いや、まるでギリギリ耐えられるよう調節されたかのような、そんな風だった。

 

 舞った土煙によって視界が悪化。

 リアはその中を軽やかに進んでくる。

 

 五十年前とは全ての性能が違う。

 魔力感知の精度も、戦術眼も、剣の技量も、魔術の発想も……

 全てが向上している。

 

 風が、世界が、あいつの味方をしているような、そんな気分だ。

 

 生まれ持った瞳一つ。

 その違いによって俺とリアの差は開く一方。

 

 これが才能の差……

 

「クソがッ!」

 

 俺は自分の顔面をぶん殴った。

 

「何してるの?」

 

 才能なんてのは所詮初期装備に過ぎない。

 そこからの成長力(スノーボール)は本人が覚悟を持って努力した結果の代物だ。

 

 才能なんて言葉で、こいつの実力を片付けていいわけがない。

 

「……テメェ、勝手に俺の全部を見透かした気になってんじゃねぇよ」

 

 魔剣を消す。

 あの剣を打ち破るには龍太刀じゃだめだ。

 

「聖剣召喚【加具土命】」

「白い魔力。解析……不能……!?」

 

 眼を見開いたリアの細剣と俺の聖剣が打ち合う。

 風の魔力と白い炎が、接触したその瞬間――

 

「俺の勝ちだ、魔術師――!」

 

 細剣に付与されたリアの魔術は無効化され(砕け散)る。

 籠った魔力すら掻き消えて、その侵食は物理的に接触しているリアの身体に及ぶ。

 

 つまり、身体強化が解除されるってことだ。

 

 ――パキリ。

 

 その音はリアの細剣(レイピア)から。

 亀裂は広がり、刃は半ばから折れ飛んだ。

 

「術式の無効化……? 随分な力を手に入れたものね……」

「お前に負けた時誓ったんだよ。必ず超えてやるってな」

 

 加具土命の白い炎が激しさを増して行く。

 俺の心を代弁するように……

 

「それでも私はお前の心に何度でも私を刻むわ」

 

 そう言いながら距離を取ったリアは折れた剣を鞘に納める。

 リアの中を蠢く魔力が一気に活性化していく。

 

 あの時と同じ。

 あれが来る。

 

 結界術の最終到達点。

 魔術という現象の最奥。

 

「断絶空創【風雲幻想大界域(エアリアル・ファンジア)】」

 

 世界を創る……結界術式!

 

「は? 空……? っていうか僕今どこに立ってんの!?」

 

 リョウマが一変した世界をキョロキョロと見渡していた。

 

「お前、うるさいんだけど?」

「っ……! はい……」

 

 リアが一睨みするとリョウマは自分の口を両手で塞いだ。

 

「あいつまで閉じ込めることねぇだろ?」

「彼を外に弾くと構築の余波で怪我するかもしれないから取り込んだだけ。心配しないで、何かする気はないから」

「なるほどね……」

「それより自分の心配をしたら? お前の息の根は私の手の中よ?」

「はっ、そりゃどうかな」

 

 結界術式には結界術式で対抗すればいい。

 この術式を完成させた時、リアへの対策としての発想も浮かんでいた。

 リアの世界を創造する魔術は、しかし他者が管理する魔力の内にある空気までは操れない。

 

 だったら俺の魔力領域を拡張すればいい。

 

「炎属性結界術式【紫熱連環(しねつれんかん)】」

「今度は紫の炎? 炎色反応で遊んでる子供みたい。自分の炎で火傷しないように気を付けなさいね?」

「黙れ、俺の方が年上だぞ?」

「関係ある? 実力が全てでしょ」

「そりゃそうだ、だから今日からテメェが下だ」

 

 リアには一度負けたんだ。

 もう負けるわけにはいかない。

 あんなボコボコにされるのはもう勘弁だ。

 

 俺は成長したんだ。

 俺は進化したんだ。

 俺は覚醒したんだ。

 

「あの時とは違うぞ?」

「そうね。魔力の感知精度、属性付きの身体強化術式、その結界術式と白い炎を纏う剣。あの時のお前とは強さの次元が違う。でもそれは私の成長速度を考慮していないお前の主観的計算でしょ」

 

 飛行術式を発動させているのに、身体が全く動かない。

 いや、結界の内部では俺の意志通りに身体は動かせる。

 ただ、結界自体の位置が完全に固定されていて、それ以上の移動ができない

 

 結界の外の空気が凝固して、俺を動かさないように縫い留めてるんだ。

 

「その程度で今の俺が止まるかよ」

 

 この結界は俺の術式を干渉しないように設定できる。

 聖剣を構え、結界の外の凝固した空気を両断する。

 

 凝固した空気の原理は密度の増加。

 けど、そのせいで固体並みの物理距離にある分子の連続性に聖剣の効果が波及する。

 俺を固めていた空気が一気に壊れ――

 

「はぁ……それじゃあもう一度ね?」

 

 そう言って、空気の凝固が即座に再構築された。

 術式を発動させるためのモーション一つねぇのかよ。

 この領域を発生させた時点で術式の構築速度が跳ね上がってやがる……

 

「この世界じゃ私は常に先手を取れる。お前が何をしても、それは次の一手に繋がらない。お前はこの世界でたった一人の異分子なのよ」

 

 まただ……

 またあのガッカリするような顔。

 失望したような眼……

 

「……ネル、もう満足した?」

 

 私がお前を満足させてあげる。

 前に会った時、リアは俺にそう言った。

 そしてその言葉を実現するように、俺に勝った。

 

 だけど今のこいつのこの言葉は、そういう意味じゃないんだろう。

 

 俺が幾ら努力しても自分に勝てないことは分かったか?

 そう問うような言葉に思えた。

 

「うるせぇよ。満足なんかできるか、俺はまだ最強になってねぇんだ」

「そうね、私もお前の願いを叶えてあげたい。いや、叶えてあげたかった。拡嵐刃(エアブレイド)

 

 一言によって展開された無数の術式。

 風の刃が俺を向き、その数は空間を埋め尽くすように膨大で、数百の刃は一様に俺へ向かって放たれる。

 

「クソが!」

 

 聖剣を使って撃ち落とすが、全方位を囲まれている状況で無数の風刃全てを叩き落とすことなど不可能だ。

 

 紫熱連環(しねつれんかん)が削られていく。

 そして耐え切れなくなって……

 

 ――パリン。

 

 砕け散った。

 

「お前のその剣じゃ世界そのものを凶器にする私の術式は断ち斬れない。その剣の刀身が後三百メートルくらいあったら、世界ごと斬れるかもしれないのに惜しかったわね」

 

 皮肉めいたその言葉に、俺は――

 

「じゃあそうしてやるよ。神剣召喚【龍魔……」

 

 現れた剣は、あの時と同じだ……

 具現化したはずのその剣の形が安定せずに崩れていく。

 転生してからというもの、この十一年何度試しても龍魔断概は発動しなかった。

 

 どうしてだ……?

 

 完全にものにしたはずなのに……

 

「なにそれ? はぁ……」

 

 こいつが溜息を付くのは今日何度目だろう。

 俺は、そんなに期待外れか?

 

「前に会った時、私はお前を応援しようと思った。お前が最強になりたいなら、私が乗り越えるべきものになればいいと思った。だけどやっぱりお前じゃ無理なのかもしれないわね……」

 

 黙れ。

 俺は諦めねぇ。

 

 

「ねぇネル、私と子供を作りましょう?」

 

 

 ……は?

 

「お前と私の子供ならきっと強い子が産まれるわ。お前と私が剣と魔術を教えれば、きっと強い子に育つ。お前の剣と魔術に私の剣と魔術が合わされば最強よ。だから最強の夢は、その子に託せばいいじゃない」

 

 リアは自分のお腹をさすりながら、俺に言った。

 

「お前になら私の子宮(いでんし)をあげてもいい」

 

 ……なんだそりゃ。

 自分の子供に夢を託す?

 俺自身は諦めて、才能がある次の世代に夢を叶えて貰う?

 

「ふざけんな。俺の願いは俺のモンだ、他の誰にも渡さねぇよ。紫熱連環(しねつれんかん)

 

 結界を再構築し呼吸を保つ。

 

「……そう。お前、死んでも次があるって思ってるんでしょ? でもそれじゃあ本当に命を懸けてきた人間には敵わないわよ。拡嵐刃(エアブレイド)

 

 俺の結界を囲むように無数の刃が再展開される。

 やっぱり圧倒的な術式の発動速度だ。

 いや当然か、この空間の空気は全てのあいつの掌の上なんだから、風を操るのに一々術式を発動させる必要がないんだ。

 

「ネル、本当の勝負ってものがしたいのなら約束して」

「約束?」

「これで私に負けたら、もう次の生は諦めて。まさか命欲しさにこんな経験から逃げないわよね、最強中毒者?」

 

 煽るようにリアは俺にそう言った。

 だけど違う。

 こいつの本心は違う。

 

 こいつは俺を終わらせようとしている。

 俺の最強への渇望という鎖を引き千切ろうとしてくれている。

 最強を目指すという俺の無駄な夢物語を終わらせる理由をくれようとしている。

 そのために自分も自分の子供すら捨てようとしている。

 

 腕を掲げ、まるで風の刃に攻撃の指示を出すようにその腕が振り降ろ――

 

「ちょっと待ってください!」

 

 何してんだこいつ……

 俺を庇うようにリョウマが俺の前に身体を晒していた。

 

「邪魔なんだけど。お前に喋りかけてないんだけど? ていうか誰? 消えろ」

 

 魔力の籠った殺意を向けられ、全身を震わせているのにも関わらず……

 

「い……い、いやです!」

「は? じゃあ死ぬ?」

「それも嫌です! というか違う、僕にはあんたに言わなきゃいけないことがある! あんたは子供の気持ちって奴を考えたことないんですか!?」

「なんの話してるか分かんないんだけど」

「さっき言ってたじゃないですか、自分の子供に剣とか魔術とか、そういうの教えて最強目指させるって。じゃあ子供がそれを望んでなかったらどうするんですか?」

「教育するに決まってるでしょ」

「…………あんたは最低だ! あんたなんかに子供なんか作る資格ない!」

 

 そういやこいつ、父親に剣士として育てられたとか言ってたな。

 けどそれから逃げてこんな森まで来たこいつは、剣士になんてなりたくなかったんだろう。

 

 俺には数多の人間の記憶がある。

 そいつらは総じて十歳だ。

 まだ親離れが済んでない歳で、王子の時に関しては父親に何度も怒りを抱いた。

 

「それお前が決めることじゃないから。ていうかネルの知り合いっぽかったから殺してなかったけど、どうせネルにはもう私以外必要ないし死んでいいわよ」

「子供は……親の道具じゃない!」

 

 そうだなリョウマ、お前の言ってることは何も間違ってない。

 

 けど、間違ってるのはリアでもない。

 だってリアは自分を犠牲にしてまで俺を救おうとしてくれているだけなんだから。

 

 間違ってるのはただ……弱い俺だけだ。

 

「リョウマ、下がってろ」

「ネルさん……」

「心配すんな、俺は負けねぇよ」

「けど……」

「俺を信じろ」

 

 数秒悩んで、俺の目を見て、リョウマは小さく頷いた。

 

「分かりました……」

 

 リョウマが脇へ逸れ、俺はリアに少し近づく。

 

「なぁ毒親予備軍、お前が勝った時の条件があんなら俺が勝った時の条件も出していいよな?」

「どうぞ」

「俺が勝ったら、俺が俺以外を最強にして満足するって可能性を諦めろ」

 

 俺はお前の自尊心を守りたい。

 俺なんかにへりくだって、全部を捧げたいなんて言う人間になって欲しくない。

 お前は高潔で何も諦めることなく、『最幸』を求め続けて欲しい。

 

 なのに俺の弱さがお前の自由を奪っている。

 お前を退屈させ続けている。

 勝ってきたのだろう。

 俺だけじゃない、多くの強者に勝利してきたのだろう。

 リアの剣や魔術からはそれを感じる。

 

 だからこそ、あの時の俺と同じ、今のお前に必要なのは『敗北』という経験だ。

 

 だったら、お前が俺に与えてくれたように、俺もお前に与えよう。

 

 勝つのは俺だ。

 

「分かったわ。もしお前が私に勝てたらね」

 

 俺はこの剣を俺のためには振るわない。

 そうか、それがこの神の如き剣を従えるための制約だった。

 

 ――ボッ。

 

 リアを守るために、リョウマの正しさを認めるために、俺はこの剣を使う。

 

「神剣召喚――」

 

 俺の剣を見たリアは苦虫を嚙み潰したような乾いた笑みを浮かべていた。

 

「魔力と反発する魔力を他の術式と融合させるなんて……矛盾してるでしょ……」

 

 そうだな。

 俺自身、この術式の原理原則を完全に把握できていない。

 だけど分かることもある。

 

 この術式を使って、俺はまだ負けたことがない。

 

「【龍魔断概】。万夫不当(リア)、負ける覚悟はできているか?」

 

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