剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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73「人外」

「今回はよい(いくさ)になりそうだ。今の時点でも過去の試合とは比べ物にならぬ強者が揃っておる」

 

 禍津の大森林にある樹木の中で最も背の高いそれは植物系の魔獣だった。

 女神の欠片の効能によって巨大化した魔樹(トレント)の上位種。

 

 その亡骸の上で、始まりの剣聖『アマツ』は森林の様子を一望していた。

 

 開戦と同時に発動した三つの極大魔術。

 剣聖三人を相手にしても余裕を感じさせたネルの戦い。

 ネルが使役する魔獣による他の魔獣や参加者の激化。

 ネオンの放った極大の白い魔力。

 ヤミの空を埋め尽くした黄金の剣の大群。

 そして、それを退けたネルの龍魔断概。

 女神の欠片を取り込んだ魔獣を相手に余裕で立ち回るミラエルとアル、彼等にはまだ奥の手が隠されていそうだ。

 

 卓越した視力と魔力感知によって、アマツはこの森で起こった全てを見ていた。

 

『ですね』

 

 淡泊な女性の声だった。

 その声はアマツから発されたものではない。

 しかし、その場にはアマツ以外誰もいない。

 

 アマツは腰に携えた刀の鍔を親指で押し、少しだけ刀身を覗かせる。

 その刀身は白く輝いているように見えた。

 

「シア、それでも其方の求める力には足りぬのか?」

『はい。全く』

「然様か……」

『千年、私は貴方と共にしました。その貴方が足りぬのです。あの程度の人間たちがどれだけ集まっても、かの力に勝ることはあり得ません』

「だがあの者達は儂とは違う。アレと出会ったことはないのだ。恐怖を知らぬその勇ましさが勝機となるやもしれぬぞ」

『そんな不確定要素を計算に入れることはできません』

「不確定な要素であるからこそ、アレに勝る可能性があるのではないか?」

 

 アマツの問いに答えは帰ってこなかった。

 

「全く、勝手な女神(・・)じゃ……」

 

 そう呟いたアマツは樹木の頂上から飛び降りる。

 自由落下を始め重力によって加速することでその運動エネルギーは増大していく。

 にもかかわらず、アマツの着地に一切の音はなかった。

 

「終奥!」

 

 着地と同時に背より声が発される。

 覇気の乗った魔力のゆらぎ。

 それは声を発した主の体内で急速な回転を始め、刀身の魔力を一振りと共に射出する。

 

「龍太刀!」

 

 その一撃にアマツは振り返ることすらなかった。

 後ろ手にその斬撃を指で掴んで受け止めたのだ。

 龍太刀は威力を失って霧散する。

 

「なっ!? はっ!?」

 

 放った人物が目の前で起こった現象に困惑の表情を浮かべていると、アマツはゆっくりと振り返る。

 

「儂の造った技で儂を殺せると思ったのか? 基本的な魔力が少なすぎて威力も不十分、独創性は皆無。それは儂が求める強さとは全く違う。のう、タガレ・ミヤツグ」

 

 アマツは思い出していた。

 龍太刀を魔剣の形に押し込め、連撃を可能としたあの魔剣を。

 龍太刀と聖剣の能力を融合させることで魔術の無効化を拡張したあの一刀を。

 

 比べてどうだ。

 

 今の技は、ただの「なぞり」だ。

 ただ教えてやった技を模倣しただけ。

 

「そんな既知(もの)を儂は求めておらぬのだ」

「ふざけるな! 俺はアンタを超えるためだけに生きてきたんだ! こんなところで終わるわけにはいかない!」

「儂は千年、最強になるためだけに生きてきた」

 

 その一言を終える頃には、アマツの姿はミヤツグの後ろにあった。

 いつ移動したのか、どんな道を辿ってそこにいるのか、ミヤツグには一切の理解ができなかった。

 

(クソ、なんでこんなに高いんだよ……)

 

 カチリと、アマツの腰から柄と鞘が接触した音が鳴る。

 同時にミヤツグは意識を喪失した。

 

 ミヤツグの石はすでにアマツの懐にある。

 振り返ることなく、目的地もなく、アマツは歩き出そうとした。

 出会う強者を屠って進み、己が糧として取り込んでいく。

 その作業(どりょく)を繰り返す。

 いつも通りに。

 

「ねぇ、そこに転がってる剣聖がさっき使った技、お前が造ったの?」

 

 それは始まりの剣聖と同じ種族の女だった。

 エルフ特有の整った造形。きめ細やかな黄金の髪。

 しかしそんなことはどうでもいい。

 

 ――問題はその女から得るものがあるかどうか。

 

「あぁ、剣聖の奥義は全て儂が造ったものだ」

「ってことは、その技を使える奴は他にも沢山いるってこと?」

「沢山というほどではないであろうな。剣聖の奥義は門外不出、それに龍太刀はここ数百年タガレの家の人間にしか教えておらぬ」

「そう……」

 

 それを聞いたリアは微笑んでいた。

 

「お前か、それともそっちの子供の先祖か……いや、きっと両方ね。お前たちは私の命の恩人」

「どういう意味じゃ?」

「分からなくていいわ。ただ勝手に私がお前とそっちの子供に恩を感じてるだけ。何か欲しいものでもある? 聖剣だろうが魔剣だろうが、邪神の臓物だって私が用意してあげるわ」

「そうさな……」

 

 始まりの剣聖は剣を抜く。

 リアが、刃を見せる価値のある相手であると、最強(アマツ)は認識した。

 

「儂は【敗北】を求めておる」

「そう……お前はあいつと同じ表情(カオ)をして、同じ言葉を吐くのね。いいわ、お前のような狂人の喜ばせ方は知っているから」

「まるで自分は狂っていないと言っているようだ」

「私が狂ってる? 何言ってんの、意味わかんないんだけど?」

 

 リアもまた、レイピアを抜いた。

 

「来なさい。遊んであげる」

「楽しみだ。終奥――龍太刀」

 

 それはリアが今まで見たことがある龍太刀とその派生技の中で、もっとも綺麗な一撃だった。

 積み上げられた努力の質と量が段違いだった。

 込められた魔力とその鋭利さが段違いだった。

 

 ネルがリアの目を使ってやっと修めたその技を、剣聖はその五百年も昔から使える。

 練度の桁が違った。

 

 だがしかし――

 

風逸流転(ふういつるてん)の法」

 

 それが幾ら研ぎ澄まされた斬撃であっても、それがどれだけ魔力の込められた一撃であっても……関係ない。

 精霊の瞳はその魔力の運動をすべて赤裸々に映し出し、纏った風はあらゆるベクトルを歪ませて、受け流す。

 

 確実に命中する軌道。

 リアは回避行動の一切を取っていない。

 ただ掌を龍太刀へ向けただけ。

 

 常人なら真っ二つどころか、残るのは両腕の肩から先くらいだろう。

 そんな一撃だった。

 

 しかし結果は、龍太刀がリアの身体には無干渉で通り抜けていくというもの。

 

 続けてリアは魔術を発動させる。

 

拡嵐刃(エアブレイド)

 

 呟くように単語を言い終える頃には、リアの後方に数十の風の刃が出現していた。

 不可視の斬撃。しかしアマツの卓越した魔力感知能力は、その刃を鮮明に捉える。

 

(秘奥【明鏡止水】)

 

 アマツは長い歴史の中で、数多の術式を観測し、模倣し、己の昇華に取り込んできた。

 

(冥奥【蠅驥尾(ようきび)】)

 

 アマツに観測された時点でその術式(わざ)は模倣される。

 

拡嵐刃(エアブレイド)

 

 アマツの後ろに数十の風の刃が展開され、それは同時に撃ち出される。

 激突し、対消滅し、淡い緑の魔力が粒子となって散っていく。

 

「同じ魔術を激突させて魔力勝ちできんかったのは久しぶりじゃな」

「私もよ」

 

 会話は短く、次の術式はすぐさま放たれる。

 それは剣聖の使う奥義の中で最速の斬撃。

 

(魔奥【雷切】)

 

 雷を纏った斬撃と共に、目にも止まらぬ速さへと加速したアマツはリアへその一刀を振り下ろす。

 

「だから無駄だって……」

 

 リアが風逸流転(ふういつるてん)の法によって斬撃を逸らそうとした、その瞬間――雷が白化した。

 

 ぞわりと、嫌な記憶が蘇る。

 ネルの使った白い魔力。

 リンカの纏った白い魔力。

 その効果は全く同じ。

 

 ――あらゆる術式を無効化する白い光。

 

風魔纏伏(エアリアル)!」

 

 反射的にリアはその魔術を選んでいた。

 風属性の身体強化によって加速したリアは、その場から大きく飛び退く。

 されど『雷切』は最速の一刀ではなく、最速の『連撃』である。

 

「雷切」

 

 リアの速度に即座に追従できるのは並外れた反射神経故か、それとも圧倒的な経験(じかん)からくる技量なのか。

 どちらにせよ、休む暇なくリアに白い雷を纏った斬撃が襲い掛かる。

 

風牢壁(エアロック)

 

 多重展開された風属性の魔力障壁は、しかしアマツが使う聖属性の魔力の前には紙切れ同然。

 容易く断ち斬られる。

 しかし、それでもリアは何度も風牢壁(エアロック)を発動させ続ける。

 

 というよりは、できることがそれしかない。

 

 聖属性はあらゆる術式を無力化する。

 しかしアマツの場合、その発動元は刀剣の刃の上のみ。

 なら風牢壁(エアロック)を無効化するには「斬る」という動作が必要になる。

 

 達人の一刀など極めて僅かな時間の所作だが、戦う者が互いに達人ならばその僅かな時間はリアにとって詰めを詰めとせぬ時間になる。

 

風牢壁(エアロック) 風牢壁(エアロック) 風牢壁(エアロック) 風牢壁(エアロック)

 

 出現する壁をアマツは最速の連撃によって斬り捨てながら、リアへの距離を縮めるべく駆ける。

 リアは空気を足場にしながら下がり続けているが、前に進むアマツと後ろへ飛ぶリアの速度は同じではない。

 

 いずれ、アマツが追い付く。

 追い付かれれば、聖属性への対抗策を持たないリアの命は刈り取られる。

 

 一手のミスが死を連想させるような、そんな戦いの最中……リアは考えていた。

 

(なんなのよあのクソ魔術。魔力を分解して対消滅させるとか、ズルにも程があるでしょ。ネル・リンカ・アマツ(どいつもこいつ)も……そう、その技がお前たちの普通ってわけね……)

 

 それでもリアに負ける気はなかった。

 万夫不当の存在であり続けると、そう誓ったのだから。

 

「儂が何故、剣聖という立場にあるか分かるか?」

 

 数多の剣撃を放ちながら、息一つ乱さぬまま、アマツは語る。

 

「儂はこの剣に出会って確信したのだ。剣術と魔術を比べた時、勝るのは剣術であると。魔術師では剣士には勝てぬ、それが世界の真理であると!」

 

 アマツの速度が更に上がった。

 今までの長期的な速度上昇ではない。

 決め切れると確信したが故の、短期的加速。

 

「終いじゃ」

 

 

 ◆

 

 

 魔術師では剣士には勝てない……か……

 私も昔同じことをネルに言ったわね。

 

 私は弱い。

 ネルにも、あの獣人にも、この剣聖にも……勝てない……

 

 分かっていたの。

 ネルにその白い魔力を見せられた時から。

 私の最強『風雲幻想大界域(エアリアル・ファンジア)』が切り裂かれた時から……これ以上先の世界に私の居場所はないって。

 

 きっとその力に対抗できるのは同じ力だけ。

 だけどどうすればこの力が手に入るのか、私には分からない。

 誰かに教わろうとか、授かりたいとか、そんなこと微塵も思わない。

 

 チートってさ、ザコが欲しがるものでしょう?

 

 私は、ネルやこいつのように器用じゃない。

 私は、ネルやこいつのように冷静じゃない。

 人の魔術を真似するなんてできないし、したいとも思わない。

 

 私がしたいコト……それは……

 

 

 ――俺を強くしてくれるお前が好きだ、リア。

 

 

 お前の言葉は私の頭の中で反響する。

 

 命を救って貰ったから?

 一緒に居てくれたから?

 死んだと思ってたのに生きてたのが嬉しかったから?

 

 違う。

 

 私は目の前でネルが死んだ時、こう思った。

 

 なんでお前は私じゃなくて自分を殺した相手を見ているの?

 どうしてそんなに満足そうな表情(カオ)をしながら死んで行くの?

 お前は私じゃなくて、あっちの方がいいの?

 

 【――ふざけんなよ。】

 

 私のプライドはズタボロにされた。

 私はネルと初めて会った時の弱い自分が許せない。

 もう二度と、あんな思いはしたくない。

 

 私は見下ろされる側になるなんて嫌だ。

 私の上には誰も要らない。

 

 アマツもリンカも、ネルすらも――私の上に立つことは許さない。

 

「私ってバカね……」

「?」

「最初からこうしておけばよかったのに」

 

 私がお前たちのすべてを支配してあげる。

 

 お前たちが善いことをした時は頭を撫でて褒めてあげる。

 お前たちが悪いことをした時は痛みを与えて叱ってあげる。

 

 だって、この世界は私のものだから。

 

「無形【風雲幻想大界域(エアリアル・ファンジア)】」

 

 一瞬で世界が切り替わる。

 大地はなく、海はなく、そこには『空』以外は存在しない。

 

 見た目は今までと同じ。

 だけどこの魔術は今までとは根本的な原理が違う。

 

「ブッ飛びなさい!」

 

 世界が私の声に反応するように風が動く。

 アマツの身体に纏わりついた暴風は、その身体を遥か後方へ吹き飛ばす。

 

「この術式はもう見た」

 

 空中でアマツの身体が停止する。

 いつの間にか、アマツは白い魔力を全身に纏っていた。

 魔術の無効化による、風の消失。

 

 刀身の雷も止む。

 代わりにアマツの体内に魔力の回転が起こる。

 私の精霊眼はその動きを完璧に知覚させる。

 

 あの時と同じだ。

 ネルが私の最強を断ち斬った時と……瓜二つ。

 

「この技に名は付けていなかったが、あの男はこう呼んでいたな。龍魔、断概――」

 

 拡張された一刀は白い魔力を纏い、世界を崩壊へ導くべく頭上へと放たれた。

 断絶空創【風雲幻想大界域(エアリアル・ファンジア)】は球体状の結界術式だ。

 中からの見た目では分からずともその世界には外郭(がいかく)が存在する。

 

 その外縁部分をあの白い魔力で砕かれてしまえば、この世界は自壊する。

 

 ――そのハズだったんでしょ?

 

「何?」

 

 放たれた龍魔断概は、彼方まで飛んでいく。

 いつまで経ってもそれは外郭を捉えることはなく、見えなくなるまで飛翔していった。

 

「これは……結界術ではないのか……」

「そ、これは召喚術の応用【転移術】。ものを呼び出すのではなく、私たちを別の場所に呼び出す術式。今までは世界を召喚して、現世と置き換える形で術式を行使していた。だからその分、召喚できる領域量には限りがあった。だけど、【無形】には領域量の制限がない」

 

 この世界は無限の領域を持っている。

 

「異世界に儂と貴様自身を呼び出したわけか。儂でも模倣できぬ、神業だな」

「崇めてもいいわよ」

「悪いが遠慮しよう。神を名乗る輩にはあまり良い思い出がないのでな」

 

 そう言いながらアマツは自身に纏う白い魔力の量を増やした。

 あの白い魔力領域内の風には私の魔術も干渉できない。

 この世界でもあいつは普通に動ける。

 

 だけど、私がこの世界の風の全てを操れるのに対して、あの男の領域は自分の身体から数センチの僅かな範囲。

 99:1、いやもっと私が有利だろう。

 

 この世界のおける神は只一人。私だけ。

 

 跪き、傅き、崇め、尊び、願い、乞い……そして、逆らうな。

 

「ねぇアマツ、お前はあいつに似てる。だから優しく壊してあげる」

「その狂気が其方の本質か……」

 

 どうしてだろう。

 今からこの男を蹂躙できると思うと、胸が躍る。

 

風昇流(サイクロン) 拡嵐刃(エアブレイド) 膨風衝撃(エアバースト)

 

 竜巻が、カマイタチが、純粋な風圧が、アマツの身体を一気に襲う。

 この世界が私の物である以上、回避は意味をなさない。

 どこからでも風を発生させられるのだから。

 

 私が放った術式をアマツが纏った白い魔力が次々と無効化していく。

 しかし、私の眼には視えている。

 その属性が持つ明確な弱点が。

 

 甚大な魔力消費量。

 基本属性とは比べ物にならない消費魔力は、消滅させた魔力の倍以上。

 

 あれは、スタミナ勝負じゃ誰にも勝てない属性だ。

 このまま物量で押し切って、私の勝ち――

 

 

「ハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 アマツ。私よりずっと年上のエルフの老人。

 そして、始まりの剣聖と謳われる大剣豪。

 

 彼は笑っていた。

 

「アハハ、フハハ、イヒヒ……いや、すまぬな」

 

 私の魔術を全身に浴びながら。

 しかしその全てを白い魔力で無効化しながら。

 大声を上げて、子供みたいに笑っている。

 

「よもや魔術師にここまで追い詰められることがあろうとはな。人生何があるか分からぬものだ……」

 

 似てる。ホントに。

 

「私を差し置いて最強だなんて烏滸がましいのよ」

 

 闘技場でネルの龍太刀に付けられた右腕の傷を、袖をまくって露わにする。

 それをさすっているとあいつのことを嫌でも思い出す。

 この傷を私は一つの魔術の媒体としている。

 

「風龍召喚――シルフィード」

 

 呼び出した龍は四頭。

 この世界だからこそできる上限突破の召喚。

 その四匹は口に風のブレスを集束させる。

 

「まだ若ければ無理にでも手籠めにしていたところだ」

「お生憎様、そんな力はお前にはないわ」

 

 分かる。

 直観する。

 

 次の一撃で全てが決まる。

 

 アマツとて魔力の差は分かっている。

 ならば長期戦は選ばないだろう。

 長引くほどに私が有利になっていくのだから。

 

 だからこそ一撃必殺の何かを、最大全力の何かを、今ここで放ってくる。

 

個々(ひとつひとつ)では意味はないのだ。混ぜ、重ね、合わせた先に力は成る。秘奥、最奥、冥奥、深奥、魔奥、終奥――纏めて【六奧】。それはこの技へ至る鍵」

 

 この男が本当にネルと同じ思考回路なら、私には分かる。

 剣聖なんて称号を持ち、奥義なんてものを創って、それを認めた剣士に継承させる。

 その目的は、自分よりも強い剣士を創り、それを超えることで自分がもっと強くなるため。

 

 いや、もっと具体的だ。

 

 その六つの奥義を一つに重ねたその技のその更に先、もしくは全く別の形でもいい。

 それを誰かに見出して欲しくて、この男はこんなまどろっこしいことをしているのだ。

 

 あいつと同じ、強さへの中毒的な欲求……

 

 男ってほんとバカ……

 

「それがお前の最強ってわけね」

「然り」

「いいわ。私、告白はちゃんと聞いてからフッてあげるタイプなの」

「そうか、感謝しよう。窮奥(きゅうおう)――【空太刀(からだち)】」

「四風龍印」

 

 決着には刹那すらも必要なかった。

 

 

 ◆

 

 

「ふぅ……ほんと、痛っつ……」

 

 屋敷へ戻った私は横腹を抑えながら深く息を吐く。

 

 ヨスナさんはまだ気絶したまま外に放置されてる。

 リアファエスさんは屋敷まで逃げ込んだ私を追ってくることはなかった。

 ルールを忘れるほど短気な人じゃなくて良かった。

 

 あの二人にはまだリタイアして貰っては困る。

 最低限の仕事はできたかな……

 

「お帰りなさい。手当しましょうか?」

「いえ、問題ありませんのでお気遣いなく」

 

 参加者の後見人たちの姿は見えない。多分この屋敷に幾つもある部屋を割り振って生活しているのだろう。

 

 食事処に残っていたのは二人だけ。

 

 ここの管理をしているリョウマさん。

 ネル様がこの森で助けて食事を作らせている人。

 

 それとこの御前試合の審判のヒオリさん。

 確か、冒険者ギルドの職員だったはず。

 

「お疲れさまです。しかしまだ条件を満たしたというわけではなさそうですね」

「そうですね。少し休憩しようと思っているだけです」

「私も窓から見ていましたけど正直何も分かりませんでしたよー。いやぁ、流石剣聖を目指される方たちは違いますね!」

 

 最初から全く変わらない表情でヒオリさんは微笑んでいる。

 

「あの、リョウマさん」

「なんでしょうか?」

「他の皆さんのお部屋って誰がどこか分かりますか?」

「えぇ、僕が鍵をお渡ししたので」

「レイサム王国の現国王ダジル様の妹君、シルヴィア様のお部屋はどこですか?」

「二階に上がって右側の突き当りですが、どうしてそんなことを?」

「いえ、少しお聞きしたことがあって」

 

 私は階段を昇っていく。

 

 シルヴィア様はネル様の前世のお姉様。

 その固有属性は他者の願いを知る力。

 

 私はこの場に居る人間の情報を一番多く持ってここに居る。

 

 ネル様と同行していたビステリアさんから前世や今世でネル様が体験したことを聞いたからだ。

 

 リアスコードや、女神の敵についても理解している。

 始まりの剣聖が女神の契約者だということも知っている。

 ビステリアさんが他の女神と通信して教えてくれた。

 ヤミちゃんからは悪魔や魔界に関する情報や禁書庫の中身を、ネオンさんからは聖剣の能力やそれを継承した時のことを聞いた。

 

 ビステリアさんはネル様に嘘を吐いている。

 それは女神には『禁止事項』などというものは存在しない、ということだ。

 ネル様が強者の情報を知れば、それに突撃してしまう。

 そこを危惧したビステリアさんの方策だ。

 

 だけど私は禁止事項など関係なく、ビステリアさんから概ねの事情を聞いた。

 女神が抱える問題。敵の存在。敵の戦力。世界の現状。世界の創成。

 その上で、確信を持っていることがある。

 

 今この瞬間この場所こそが、重要なターニングポイントだということだ。

 

 コンコン……

 

「はい」

 

 扉をノックするとすぐに中から返事があった。

 扉は閉まったままだ。

 

「御前試合参加者の一人、リンカと申します」

「リンカさん……なんのご用でしょうか?」

「貴女に聞きたいことがあります」

 

 そう言うと扉が開いた。

 銀色の髪を持つ三十代後半ほどに見える女性。確か実年齢は四十六歳だったはずだけど、その割には若く見えるのは美人だからだろうか。

 彼女は落ち着いた雰囲気と、どこまでも見透かすような紫色の瞳を持っていた。

 

「どうぞ、お入りください」

「……お久しぶりです」

 

 やっぱり、本物だ。

 レイサム王国の王族だけが持つ異能。

 固有属性の簡易覚醒。

 

「それではお邪魔します」

「どうぞ、おかけください。ここまで来られたということは内密のお話があるのでしょう?」

 

 勧められるまま椅子へ座る。

 どうやらこの人に嘘や見繕いは無駄のようだ。

 単刀直入に私は本題を問うことにした。

 

「この戦いの参加者の中に、もしくはこの屋敷内に……人類の敵(じんがい)が居ます。誰か分かりますか?」

 

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