剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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74「魂の質」

 

 ラプラスに比べればソレはずっと人間に近い体形をしていた。

 ソレは下級の悪魔と違って衣服を身に着けている。

 服装や筋肉の付き方的に男っぽい。

 

 灰色に見える肌を持っていることくらいしか人との差異はなく、血の色すらも赤だった。

 

「キサマ……いったい何者だ……」

「人間だよ。子爵サマ」

 

 ラプラスに先導させ、俺は貴族の元までやってきた。

 こいつは『子爵』、貴族の中じゃ下から数えた方が早い階級だ。

 

 まぁまぁ強かった。

 何せ『重力を操る固有属性』を使ってきた。

 聖剣がなかったらどうなってたか分からねぇ。

 

 人間離れした魔術の練度と魔力操作精度からは、長い研鑽(じかん)を感じた。

 

 腕を、足を、首を、斬り飛ばした。

 胴体を肉片に五分割した。

 それでもこいつは喋っている。

 

 この世界には『死』すら存在しない。

 世界の全てが魔力によって構成される以上、悪魔を切り刻んでも周囲の魔力を吸収して勝手に再生していくからだ。

 

 まぁバラバラにした時点で再生の全魔力が勝手に使われるから、再生が終わるまで他の術式は使えない。

 ようするに、完全に俺の勝ちだ。

 

「俺も聞いていいか? お前より強い悪魔はどこに行けば会える?」

 

 眼球に魔剣・龍太刀の切っ先を突き刺し続ければこいつの再生は終わらない。

 

「貴族は皆宮殿を持っている。より大きな宮殿を造るにはより卓越した魔力操作が必要だ」

 

 たしかにラプラスに案内されたこの場所にも灰色の宮殿があった。

 砂しかないと思っていたこの世界に建造物があったことは驚いが……そうか、これも魔力で創られてるなら魔力操作で操れるわけか。

 

「お前、名前は?」

「何故そんなことを気にする?」

「いや、もし暇なら俺と一緒に来ねぇか?」

「は?」

「俺は人間だ。だからいずれ現世に戻る。たまに呼び出してやるから、俺に従えよ」

 

 俺は【恐解の約定(ゾルドルート)】を発動させながら問いかける。

 魔力操作の練度の差で無理矢理契約することは可能だが、それができないような高位の存在と契約するには相手の承認が必要になる。

 

「こんな世界にずっといる気か?」

 

 ――死なない。

 

 けど、それじゃあ退屈だろ?

 その退屈を紛らわせるには明確な目標が必要だ。

 それ以外を全部無視してでも叶えたい夢が必要だ。

 

 あぁ……そうだ、最近は色々あってちょっと考えすぎてた。

 

 魔界(ここ)にいると、頭がスッキリしてくる。

 自分という存在が世界に何を刻みたいのか。

 

 思い出す。

 

 俺は――

 

 女神が何考えてるとか。

 周りの連中が俺をどう思ってるとか。

 結局全部どうでもいいんだ。

 

 世界の平和とか、希望とか、夢とか、俺には関係のねぇ概念だ。

 

 俺はただ『最強』になりたい。

 

「お前は満足したくねぇのか? 仮でも、終了がある場所で自分の力がどれくらい通用するか試して、通用しなかったらもっと力を磨いて、また試して、また磨いて、そうやって自分を満足させてぇんじゃねぇのか?」

 

 魔剣を消して、俺は悪魔へ手を差し出す。

 

魔界(ここ)にずっといて、テメェは満足できんのかよ?」

 

 俺は問いに悪魔はキマった目で答えた。

 

「本当にオレを現世に呼び出せるのか?」

「あぁ、できる。約束してやる」

「分かった。契約だ! オレはキサマの使い魔になってやる! オレの名はシューマだ!」

 

 恐解の約定(ゾルドルート)――完了。

 

「よろしくシューマ、さて、それじゃあお前より強い悪魔のとこに案内して貰っていいか?」

「フッ、その悪魔も従える気か?」

「まぁ気に入ったらな」

「キサマは魔王にでもなる気か?」

 

 魔王か、まぁ始まりの剣聖なんて大層な名前のヤツと戦うんだ。

 俺もそれなりの箔をつけて帰らねぇとな。

 つーかあのジジイ、まだ負けてねぇだろうな。

 

 そんなことを考えながら、俺はさらに強い悪魔がいる宮殿へ向かう。

 

 

 ◆

 

 

 身体が必要だ。

 この魂に適合する、強靭な肉体が、必要だ。

 

「最低、最低、最低、最低、最低……」

 

 分かってる。

 あの人は結局のところ、私のことなんて見ていない。

 見ているものはずっと同じ、【最強】へ至る道筋。

 

 でも、じゃあ私は私の何を受け入れて欲しいのだろう。

 

 外見? 内面? 言動? 趣味? 人当たり?

 

 そんなの全部、私を構成する要素の欠片でしかない。

 ていうか、それを認められたとして、好かれたとして、愛されたとして……

 『だからなに?』以上の感想がない。

 

 そもそも、私には認められたい理由なんて残ってない。

 最多の魔術師。悪魔の契約者。

 強さは得た。なんだって一人でできる。

 私の人生に他人は必要ない。

 

 お金をくれる人もいらない。

 料理を作ってくれる人もいらない。

 家を作ってくれる人も、土地を与えてくれる人も……

 商人も、農民も、王様も、貴族も、奴隷も、全部必要ない。

 

 全部一人でできるから。

 

 なのにどうして、私はこんなにネル様を復活させようとしているのだろう?

 

 ネル様に、私は何を欲しているのだろう?

 

「いますぐ!」

「石を!」

「寄越せ!」

 

 五重結界術式【五神盾(アランテス)】。

 

「あは、なんで順番に言ったんですか?」

 

 私の周囲五メートルへ半球状に展開した結界は、とある王国の禁書庫を守る鉄壁の結界。

 三人の剣聖による三方向からの剣戟は、その結界に阻まれた。

 

七蓄一皇(しちくいっこう)――【虹魔天剣(こうまてんけん)】」

 

 巨大な黄金の剣が、三人の中の唯一の男へ飛ぶ。

 

蠅驥尾(ようきび)五神盾(アランテス)】!」

 

 術式の模倣……

 でも……

 

「頭悪すぎ」

 

 黄金の剣が結界を貫通する。

 私の戦闘用術式は基本的に複数の魔術を合成したものだ。

 単独の魔術を模倣するその技では、模倣できるのは五重の結界の内の一つだけ。

 

「クソッ」

 

 【五神盾(アランテス)】は順番にしか解けないから強い。

 でも一枚しか出せなかったら順番もクソもないでしょ。

 

 男は黄金の剣に脇腹を抉られながら、吹き飛んでいった。

 

「瞬転!」

 

 こっちの白髪はまぁまぁ。

 短距離の転移術式か。

 結界内部に侵入された。

 

百光縛鎖(ひゃっこうばくさ)

 

 波のようにうねる黄金の鎖が、大地を覆い尽くしていく。

 この女の転移術式の弱点は三つ。

 移動距離の制限。連続使用時のタイムラグ。

 そして、転移先を魔力感知によって決定する必要がある。

 

 だから、私は自分の魔力を周囲へ一気に放出した。

 

「……ッ!? 空間が歪む……」

 

 魔力感知は自分の魔力を周囲へ飛ばし、その感触によって空間や敵の位置、周囲の魔力を把握する。

 だから周囲を全部私の魔力で覆えば、貴女の魔力感知はその多量な情報処理を余儀なくされ、お得意の魔力感知精度は死ぬ。

 

「コバエと同等」

 

 うねる鎖の大軍に突っ込んだ白髪は、そのまま脚を絡めとられ、鎖の中へ沈んで行く。

 

「どうして……ゴボ……」

 

 その先の言葉を発することなく、鎖を喉に詰まらせて失神していく。

 けれど、その先の言葉は大体分かる。

 どうして、一目見ただけで自分の術式の弱点が分かったのか。

 

 簡単なことだ。

 私の頭には数多の術式の記録がある。

 今起こった現象を解読し、魔力の流れを解析し、情報の中から近い物を見つけ、その術理を覗き見る。

 

 魔術を読み解く技術。

 

 それは『術史瞳典(じゅっしるいてん)の法』と呼ばれる戦闘用術式解読技術だ。

 

「深奥――心羅!!」

 

 だから、その刀身に込められた精神干渉系術式の効果内容もすでに私は把握している。

 というかなるほど。この女、なんで結界の中に居るのかと思ったら、白髪の女の転移術式で運んで貰っていたわけか。

 結界の中に入った二人で同時攻撃でもするつもりだったんだろう。

 

 連携はまぁまぁ。

 

 グサリ――

 

 私がかざした掌に、その剣先が突き刺さった。

 

「よし!」

 

 赤い血が私の掌からポタポタと垂れている。

 手の甲まで貫通した刃が私を見ていた。

 

「この程度が切り札ですか?」

「なんで……」

 

 剣聖ね……この程度か、くだらない。

 

「私の心に触れようだなんて、身の程を知ってください」

 

 精神干渉、なんて言ってるけどただの睡眠誘導。

 要するに脳機能への干渉でしょ。

 悪魔による拡張演算によって脳機能を強化している私には通用しない。

 

 突き刺さった刀を握りながら、手への治癒術式と身体強化術式を回す。

 

 そして――

 

陌式(ひゃくしき)――光弾連聚(こうだんれんしゅ)

 

 私の頭上に展開された百の魔法陣から、一斉に光属性の魔力弾が発射された。

 

「くっ!」

 

 最後の一人、藍色の髪の女は刀から手を放して飛び退いた。

 

「いいのですか? 剣聖が剣から手を放して……」

 

 まぁ、手を放したからと言ってどうなることでもありませんけど。

 

「なっ――!?」

 

 ここは私の結界の……五神盾(アランテス)の内部だ。

 陌式(ひゃくしき)光弾連聚(こうだんれんしゅ)は結界内すべてを爆撃する。

 そして五神盾(アランテス)と干渉しないように術式を組んである。

 

「……貴女にも当たるぞ?」

「だから?」

 

 治癒術式も多重奏(マルチスペル)で効果を増幅できる。

 従えた悪魔によって魔力は有り余っている。

 衣服とアクセサリー類に魔力を付与し、防御力を上げる。

 

 魔術師は自分の放った魔術に対して、ある程度の耐性を持つ。

 

「私、自分は高潔だと思ってる人間が大嫌い。精神性で問題を解決できるなら、この爆撃に耐えてみてください」

 

 

 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド――

 

 

 彼女が気を失うのにそう時間は掛からなかった。

 面白いくらいに跳ね飛んで、結界に戻されてまた弾けていく。

 でも全身に魔力を纏って防御したのだろう、身体が千切れたりはしなかった。

 全身骨折といったところだろうか?

 

 男、32%。

 白髪の女、46%。

 青髪の女、38%。

 

「ッチ」

 

 微妙過ぎ……

 

「次探さないと」

 

 私の中でネル様の魂が震えている。

 魔界で何かやっているのだろう。

 興奮しているのが伝わってくる。

 

 待っていてくださいね。

 

 貴方を復活させて……

 貴方を手に入れて……

 

 そして私は、この気持ちの正体を知るのです。

 

「貴方は一生、私のもの……」

 

 次を探そう。

 できる限り上等な身体を……

 

 歩き出そうとしたその瞬間、三つの魔力反応が急速に接近してきた。

 それは木々を伝い、私の目の前に着地する。

 

「見つけたよ、ヤミちゃん。さっきは漁夫の利のくせによくあそこまで調子に乗ってくれたよね」

「久しぶりだねヤミさん。昔とは随分雰囲気が変わったね」

 

 ネオン……

 それにミラエル殿下……?

 いや、もう王族とかどうでもいいか。

 邪魔するなら殺すだけ。

 

 それに……見つけた……

 

「連戦のところ悪いが付き合って貰うぞ」

 

 適合率100%オーバー。

 さっき死んだネル様の身体よりも、ずっと高いポテンシャルを持っている。

 

「いいですよ。相手をしてあげます。その代わり、私が勝ったら身体をください」

 

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