剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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78「剣聖の始まり」

 

 魔界なんて場所に閉じ込められて、どれくらい時間が経っただろう。

 

 昼夜がねぇから体感でしか計れねぇし、寝ても食ってもいねぇから、体内感覚もけっこう希薄だ。

 

 けど、一カ月くらいは経ってるだろうな。

 御前試合はどうなっただろうな?

 ここも存外楽しくて、面白い敵が沢山いたし、それにここに次いつ来れるかも分かんねぇ。

 だから居座っちまった。

 

 悪魔ってのはみんな魔術のプロフェッショナルで、俺の発想になかった魔術の使い方や、禁書庫に納められていたような魔術も沢山見れた。

 

 最初こそ俺に付いていたラプラスも、とっくにいなくなった。

 まぁあいつヤミに使役されてるわけだから、ヤミの方を手伝う必要があるんだろう。

 

「そろそろ戻んねぇとな……」

 

 その呟きは、誰に向けたものでもなかった。

 だがしかし……

 

「本当に戻れるのかのう?」

 

 絶対に、誰もいなかった。

 夜空の下の灰色の砂の上。

 そこにはエルフの老人……始まりの剣聖『アマツ』が立っていた。

 

「なんであんたがここにいる?」

「さてな、だがやるべきことは分かっているのだろう?」

 

 誰に聞いたわけでもない。

 だが、魂がそれを知っていた。

 

 俺が現世に戻る方法。

 

 それは、この爺さんをブッた斬ることだ。

 

「あぁ、悪ぃがあんたをブッ倒す。そして、あんたの身体をもらう」

「やってみよ」

 

 俺たちは互いに剣を抜いた。

 

「魔剣召喚【龍太刀】」

蠅驥尾(ようきび)【魔剣召喚・龍太刀】」

 

 赤い龍の鱗が装飾された俺の龍太刀に対して、爺さんが呼び出した龍太刀は白い鱗を纏っていた。

 

「俺はヤミに魔術をかけられた時剣を持ってなかったから仕方ないが、あんたは衣服はあるのに剣は持ってこれなかったんだな?」

 

 あれは少し特別なものだったからな。回収されたのだろう……

 

「あれは少し特別なものだったからな。回収されたのだろう……」

 

 なんだ今の……?

 声が二重に……

 

「その技、ゲジョウってヤツが使ってたよ。相手の術式を模倣する奥義……最初に会った時に俺の魔術をパクったのもそれだな?」

 

 蠅驥尾(ようきび)は技の真理を見抜く技術。ゲジョウは斬り捨てた強者の剣を真似て強くなった過去を持つ故、相性が良かった。

 

蠅驥尾(ようきび)は技の真理を見抜く技術。ゲジョウは斬り捨てた強者の剣を真似て強くなった過去を持つ故、相性が良かった」

 

 この爺さんが、何を言うのか、言う前に分かる……

 

「……あんたと喋ってると他人と喋ってる気がしねぇ」

「儂もじゃ」

 

 まぁいい。

 そもそもここは魔界。

 死が存在しない世界って時点で、おかしいのが普通だ。

 

 それに、この爺さんを倒せばこの世界から出られるって確信はあるんだ。

 だったら、それをするだけだ。

 

「行くぞ、始まりの剣聖」

「来い、小僧」

 

 ――終奥【龍太刀】。

 

 俺とアマツは全く同じ動きをし、剣を振るう。

 魔剣に付加された拡張斬撃が衝突し、砂ぼこりを起こした。

 その中でも、俺もアマツも相手の位置を正確に視認している。

 

 

 ――【骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)】。

 ――秘奥【明鏡止水】。

 

 

 正確に互いは互いへ剣を薙ぐ。

 

 

 ――魔奥【雷切】

 ――付与【蒼炎】

 

 

 雷切は連撃の奥義だとカエデが昔言っていた。

 その開発者にして、もっともその技を極めたであろうアマツの放つ雷の如き連撃。

 それに俺は炎を宿した剣で打ち合う。

 

 炎属性身体強化【燃身】。

 身体能力を上げ、対応速度を上げ、『龍太刀』と『蒼炎』を合わせることで拡張斬撃を蒼炎の形で射出し、威力を上げて……

 

 それでも――

 

「遅いな」

 

 まだ足りない。

 カエデと違って疾風迅雷を使ってるわけでもない。

 なのに、素の身体強化が俺の対応能力を超えてるってか……

 

「ッチ、二刀流――魔剣召喚。付与――蒼炎」

 

 魔剣を二倍に。付与を二倍に。

 魔力操作の使用量が上がる。

 魔力操作に手間取られる分、魔力感知の精度が落ちる。

 魔力感知の精度が落ちた分だけ、技量が落ちる。

 

蠅驥尾(ようきび)――【燃身】 二刀流【魔剣召喚】」

 

 俺の身体強化術式をコピーしやがった……!?

 やべぇ……

 

 アマツの身体が一気に加速する。

 

 しかも――

 

「最奥【毛牙究明(もうがきゅうめい)】」

 

 それはリョウマの父親が使っていた、武器の真価を呼び覚ます奥義。

 

「ゆくぞ」

 

 全てが俺より速い。全ての術式の練度が俺と同等以上。

 この世界では魔力切れはないが、現世だったらきっと魔力量でも負けてる。

 魔術は同等以上の練度で盗まれる、剣術の腕も俺以上……

 

「雷鳴【龍太刀】」

 

 魔剣に付与された『龍太刀』を、『雷切』と合わせて……飛来する。

 

 雷の斬撃……いや、連撃……

 

 一発を右手の魔剣で弾き、二発目を左手の魔剣で弾き、三発目をできうる限りの数だけ展開した魔力障壁で防ぎ、四発目は……

 

 右手の振りが間に合わねぇ……

 

「取った」

 

 短く紡がれたその言葉と同時に、俺の右肩から先が吹き飛んだ。

 

 斬られたことを一瞬遅れて認識するような鋭利さ。

 

 

『どうして諦めないの?』

『君はまだ私をその目で見れるんだ』

『いいよ、生かして上げる』

『だから、いつか私を殺しに来てね』

 

 

 なんだこれ、俺のじゃない。

 誰かの記憶が、頭に流れ込んで来やがる。

 いや、これが誰のもんかなんて明白だ。

 

「なんだ? 其方、再生能力でも手に入れたのか?」

 

 斬り飛ばされた俺の腕は、ダンジョンの魔獣が消失していくように消える。

 代わりに、俺の右肩の先に腕が衣服ごと復元されていく。

 

「ここには魔力しかねぇんだよ。だから魔力切れにもなんねぇし、大気中の魔力を吸収して身体の損傷は勝手に再生する」

「なるほどな……」

 

 何度か拳を握りながら、確かめるようにアマツは呟く。

 

「そんじゃあ続きを始めるか」

「よかろう」

「二刀流――聖魔剣」

「ほう、その剣は与えられた力ではないのか」

「あんたはこの剣も模倣できるのか?」

 

 聖剣の輝きはあらゆる魔術を無効化する。

 

「不可能じゃ」

「だろうな」

 

 両手の顕現させた聖剣と魔剣を構え、『蒼爆』を足裏から発動させて突っ込む――

 

「深奥【心羅】」

 

 俺の心臓が貫かれる――という幻影を見せる。

 

「幻影術式【陽炎】」

「幻影を囮にして、本体はその裏から追従か」

 

 あんたの魔力感知がどれだけ高精度でも、幻影と俺の距離がほぼゼロのこの状態じゃ惑わされるよな……

 間合いの誤認、突き出された刃を躱しながら俺はアマツの懐へ入る。

 

 左の太ももに添わせるように構えた二本の剣を、タイミングをズラして振り抜く。

 

 ガキン、という音が一回。

 一発目の魔剣は残った左手の剣で防げたらしいが、こいつは無理だろ。

 突きの姿勢から、聖剣の切っ先から逃れるようにアマツは身体を逸らす。

 

 卓越した動作、卓越した間合いの理解。

 聖剣の切っ先は、アマツの横腹を掠るにとどまる。

 

 だが、それで十分――

 

「何……!?」

 

 聖剣の切っ先が触れた箇所に白い光が集まり、極光は爆裂となってアマツの身体を抉った。

 

「言ったろ爺さん、この世界のモンはあんたの身体を含めて全部魔力でできてる。そして、この剣は魔力を消し飛ばす。切っ先に触れるだけでもあんたの身体は爆裂すんぞ」

「ジジイになると新しいことは覚えられんようになるんじゃ……」

 

 そう言って距離を取る爺さんの身体は、腹の半分が抉れている。

 ここに居た経験から分かるが、あの程度の傷なら十秒程度で回復するだろう。

 同時に身体の半分以上を吹き飛ばせば、再生には数分かかる。

 そうなればほぼ勝ち。

 

 それが、この魔界での戦闘の勝利条件だった。

 

 けど……

 

「ついでにもう一つ聞いてよいか?」

「なんだよ?」

「【エンヴィ・アイズ】とは、誰じゃ?」

 

 そうか……

 

「あんたも俺の記憶を見たんだな……」

「も?」

「俺も見たぜ、ナイアセラムってのは何者だ?」

「なるほど、つまり儂らは記憶を刻み合っておるわけか」

「だろうな。相手をぶった切れば相手に記憶を埋め込める。そうして相手の自我を自分(テメェ)の記憶で上書きする」

「そして相手の記憶を埋め尽くせば、主人格として復活できるというわけか」

「ジジイのクセに物分かりいいじゃねぇか」

「さすがに頭に直接詰め込まれてはな……」

 

 不利なのは俺だな。

 この爺さんは俺の合計年齢より長生きしてる。

 同じ量の記憶を刻み合えば、先に自我を埋め尽くされるのは俺だ。

 

「其方の記憶では、エンヴィという青年は王へあらぬことを吹き入み其方を失墜させ、王城に勤めていた其方を左遷させた。何故だ、幼少の頃は……」

「……うるせぇよ。斬り合えば分かることだろ?」

「違いない。ならばナイアセラムのこともその剣で聞け」

 

 あんたの記憶が俺の自我を埋め尽くすより早く、俺の記憶であんたの埋め尽くす。

 単純なことだ。この爺さんが俺に与えるダメージより多く、ブッタ斬って燃やし尽くせばいい。

 

「俺たしか四百五十歳くらいなんだけど、あんた何歳だよ?」

「儂はだいたい千二百歳じゃな」

 

 三倍近い年齢差。

 それはつまり攻撃力の差だ。

 千二百年分の記憶が乗った一撃と、四百五十年分しか乗ってない一撃じゃ、一発ごとに刻める記憶量に差が生じる。

 これ以上、雑にダメージは食らえねぇ。

 

「白炎燃身」

 

 聖属性による身体強化。

 リンカの聖鎧と同じように、俺の身体に接触する魔術を無効化できる。

 そして、聖属性を用いた術式は『冥奥・蠅驥尾(ようきび)』で模倣されない。

 

「無効化の鎧か……」

「これであんたの攻撃は効かな――」

「――窮奥【空太刀】」

 

 爺さんがそう呟きながら、軽く刀を薙いだ。

 その瞬間、俺の肩に衝撃が走る。

 アガナドと同じ……斬撃の転送?

 

 いや、ちょっと違うな。

 アガナドのは切っ先を転移門に入れて、空間を跨ぐ剣技。

 だが、この爺さんの魔剣の切っ先は、消えてない。

 

「無駄だぜ、今俺の身体は術式を無効化してる……」

「心配するな、少し性能を試しただけじゃ。聖属性の魔力による術式の消滅は無限ではない。無効化できる魔力量は込められた魔力量に依存する。其方が一度に纏える魔力の上限、それを超える攻撃を一度に食らえばその鎧は瓦解する」

 

 そう言って、爺さんはまたさっきの技を繰り出す。

 

「空太刀」

 

 けど無駄だろ。あんたが幾ら速く剣を振っても、俺が魔力を込め直す方が早いんだか……ら……

 

「は?」

 

 俺の骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)はそれを感知した。

 俺の周囲を取り囲む数十の魔力。それらは全て斬撃の形をとっていた。

 

 見えない斬撃、しかも一刀が分裂したように増えた……

 

紫熱連環(しねつれんかん)!」

 

 紫の結界が俺の周囲を囲むが、一斉の斬撃によって簡単に砕け散る。

 更に襲い掛かってくる斬撃のうちいくつかは剣で受け止めた感触があるが、他のはもう防御も回避もできねぇ……!

 

「ふざけっ……」

 

 身体の中に大量の刃が侵入してくる感覚は、かなり気持ち悪かった。

 斬撃が通り過ぎ、身体から抜けていく。

 大量の血が噴き出し、大量の記憶が魔力に乗って俺の中へ流れ込んでくる。

 

 

 窮王種ナイアセラムに見逃された。

 それからはただ修行に明け暮れた。

 あの最強に勝利するために。あの無敵を破るために。

 ただ剣を振り続けた。

 

 剣聖という称号を生み出し、弟子を取り、弟子から剣技を盗み取り、己の糧とし続けた。

 

 何をかなぐり捨ててでも、己を成長させようと生き足掻いた。

 

 女神との契約も、奥義の開発も、全てはただ負けたことが悔しくて堪らなかったから。

 

 全ての奥義の技術を合わせた窮極の一刀を完成させた。

 窮極の一撃に聖属性を乗せれば魔術による防御は不可能。

 この一撃があれば、どんな敵でも倒せる。

 

 聖剣の能力を全て引き出し、空太刀を生み出し、リベンジを果たす準備は整った。

 

 

「斬撃の複製……?」

「記憶を読み取ったか」

 

 世界最強の剣士が執念の末に生み出した必殺技ってわけか。

 にしても、ナイアセラムってのは何者だ?

 感情を操作する術式なんて聞いたこともねぇ。

 

「あんたがここにいるってことは、また負けたんだな」

「その通りだ。だがまだ儂は諦めてはおらぬよ」

「往生際の悪ぃ爺さんだな」

「互いにな」

「俺はまだ若いだろうが!」

「四百歳が若いわけなかろうが、現実を見よ!」

「このクソジジイ!」

「クソジジイは其方じゃ!」

 

 品のない罵り合いの最中、アマツの剣がまたあの軌道を描く。

 力はこもっていない。速さがあるわけでもない。

 ただ、その斬撃は複製され、俺の周囲に現れる。

 

「窮奥――」

天馬の加護(ペガリレス) 皇の星(イットウセイ) 真色の風鈴(フロンティア)

 

 魔力効率向上。魔力一点集中。属性強化。

 

「空太刀!」

「蒼爆!」

 

 現れた魔力の反応は百以上。透明だから魔力感知だけが頼りだ。

 斬撃の速度はアマツの剣と完全に連動してる。

 なら、その振り下ろしのタイミングは分かる。

 

 それに合わせて高速移動すれば、斬撃は避けられ――

 

「ッチ、さすがに全部避け切るのは無理か……!」

 

 掠り傷がいくつもできる。

 そのたびに記憶が流れ込んできて……

 

『最強へ至るのは儂だ』

『剣術こそが最強へ至る道』

『時間が必要だ』

『身体を寄越せ』

『もう一度チャンスを』

 

『……怖い』

 

 いよいよやべぇな。

 これはもう記憶じゃない。

 感情が流れ込んでくる。

 

 目的が、希望が、恐怖が、色んな思考と本能が混ざり合った感情が……俺の脳を侵食していく……

 

「はは……」

 

 けどなんだ、この感覚……

 今までのどんな戦いより……楽しい。

 

「まだ蒼爆の運動量は残ってんだぜ」

 

 俺の回避方向は前。

 あんたに向けて、更に……もう一歩。

 

「蒼爆!」

 

 加速する。

 結局、斬撃の複製なんていうテメェのトンデモ奥義を攻略するには、超至近距離で戦うしかねぇんだから。

 

天馬の加護(ペガリレス) 千の夕凪(サイレス) 皇の星(イットウセイ)……骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)!」

 

 魔力効率を上げ、術式の処理量を軽減し、効果対象をこの爺さんだけに絞る。

 もうこれ以上の術式なんざ必要ねぇ。

 

「テメェの土俵だ。逃げやしねぇだろうな!」

「よかろう」

 

 俺の刀と爺さんの刀が鉄の擦れる音を鳴らしながら、火花を散らす。

 

 俺も、爺さんも、斬撃速度は動体視力の限界を超えていた。

 

 剣どうしが発する火花がいくつも弾けては消えていく。

 

 剣戟は見えない。

 しかし、詠唱込みの『骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)』なら爺さんの動きは視えている。

 その魔力の動きに合わせて、俺に出せる限界速度で剣を振るう。

 

 真横への一閃も、上段からの斬り伏せも、袈裟斬りも突きも、アマツは全てに対応し、適切な速度と角度で剣を振るう。

 その合間に差し込まれる攻撃のキレは間違いなく一流だ。

 

 テク過ぎんだろ……

 

 ギリギリに感じているのは多分俺だけ。

 アマツは澄ました顔で完璧な対応をしてくる。

 

 俺の身体に小さな切り傷が増えていく。技量の差は歴然。感情が流れ込んでくる。

 

 だが剣と剣を重ねる数が増えれば、聖剣の魔力はあんたの身体強化を削り取る。

 

 根比べだ。

 

 

 ――母は居ない。父は早くに死んだ。

 

 ――ずっと独りだった。他者から認められる方法が知りたかった。

 

 ――だから力を磨いた。

 

 ――強くなり、尊敬されるようになった。

 

 ――しかし、誰からも理解されることはなかった。

 

 ――己が何を求めているのか、今となってはもう分からない。

 

 ――だが、あの女の、儂を倒したナイアセラムが浮かべていた『失意の瞳』を見た瞬間に思った、思ってしまった。

 

 

 ――そうか、其方も寂しいのか。

 

 

「なんだあんた、結局は惚れた女を喜ばせたかっただけかよ」

「……さてな、もう忘れてしまった」

「あんたじゃ無理だぜ。あんたの中でナイアセラムは尊敬を抱く相手になっちまってる。それじゃあ斬れねぇよ。それじゃあ理解できねぇよ」

「其方に何が分かる……」

「全部分かるさ。もう俺はあんたなんだから」

 

 蒼炎螺玉(そうえんらぎょく)

 足裏へ展開したその蒼い炎の宝玉を、アマツの腹を目掛けて突き刺す。

 

「だから、代わりに俺がやってやるよ」

 

 ずっと剣に意識を集中させていた。

 この一撃を確実に命中させるために。

 俺の戦術が読まれないように、掠り傷すら与えなかった。

 

 なのに、そこまでしても、剣聖(アマツ)は俺の蹴撃を剣の腹で受け止めた。

 

 蹴りが衝撃を生み出し、地面から足を離したアマツと俺の間に距離ができる。

 

「あんたの願い、俺が叶えてやる。だからあんたは俺の中でそれを見届けろ」

 

 もうあと一発でも食らえば、俺の脳ミソはアマツに侵食されるだろう。

 希薄になっていく自我の中で『負けたくない』という思いだけが、メラメラと燃え続けていた。

 

「窮奥――」

「神剣召喚――」

 

 この一刀で全てを決めると、(あいて)に誓う。

 

 俺はあんたで、あんたは俺だ。

 

 だけど、だからこそ、ここで勝つのは俺だ。

 あんたじゃナイアセラムは殺せない。

 俺が勝って、俺が手を下す。

 

 

 あんたに惚れた女を手にかけさせるわけにはいかねぇ。

 

 

「空太刀」

「龍魔断概」

 

 

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