「本能とは生存と繁殖に有利になるために組まれたプログラム。それが神が創った生物の設計図。感情とはその
ドロドロのヘドロが、大量の触手を生やして俺にそんなことを言ってくる。
見た目で言えばゼロ点。つうかマイナス五百点くらい。
可愛げも可憐さも、美しさなんてどこにもない。
文字通りのドブだ。
それに欲情しろって?
この枯れかけの老人の身体で?
誰得なんだよその構図。
「マジでお前を愛してる」
見た目なんか関係ねぇよな。
「ありがとう。それじゃあもう攻撃は――」
マジでメロつく。
すげぇ可愛い。
だから気になって仕方がねぇ。
「神剣召喚【龍魔断概】」
「え?」
――お前は俺をどれくらい強くしてくれるんだ?
「何してるの?」
上下に別れたナイアセラムは、唖然としたような声色でそう言った。
「お前が好きだよ。きっと俺を強くしてくれる」
今まで出会ってきた誰よりも、俺はこいつに恋焦がれている。
それだけこいつの能力に俺は成長の兆しを感じてるってことだ。
今までは……リアも、リンカも、ヨスナも、ネオンも、ヤミも、〝何度も〟戦いたいと思った。
だからお互いに全力は出していたが、本気で殺す気はなかったような気がする。
けど、お前は別だ。別格だ。
「なぁ、ガチで殺し合いしようぜ」
心底愛しているからこそ、俺の本気を見せてやりたい。
心底愛しているからこそ、お前の本気を見てみたい。
「はぁ、人間って生き物にこんな感想を抱くのは初めてだよ。君って本当に……」
聖属性で斬ったはずなのに断面を捨てるようにナイアセラムは再生を始める。
上下に別けた肉体の断面から触手が伸びて、身体を縫合していく。
遺伝子の破壊が効いてない。
「気持ちが悪いね」
その不死性を貫いてみたいと心の底から思う。
「つれねぇこと言うなよ。お前が惚れさせるのが悪いんだ」
集中力の深度が増していく。
没頭し、傾倒し、頭の中から余計な情報が消えていく。
蒼爆で加速して触手を掻い潜り、龍魔断概の切断性能と拡張性をフルに生かした斬撃でナイアセラムの本体を削る。
「その剣、邪魔過ぎるね……」
ナイアセラムは傷口を捨てていた。
ってことは聖属性が効いてないわけじゃない。
再生……ってよりは細胞の増殖か?
聖属性で死滅した細胞を増殖させることで補完してる。
だが断面を捨てる都合上、普通の攻撃に比べて再生にかかる時間も魔力も多いはずだ。
だったら絶え間なく浴びせれば、その不死身の身体だって削り取れる。
明鏡止水、燃身、
冥奥
俺の速度と技術は、ナイアセラムの数百の触手の猛攻を掻い潜るに足りるラインに達していた。
「白炎龍砲」
展開した白炎の
炎は渦を巻きながら弧を描き、ナイアセラムへ向かっていく。
集中力が上がって、術式の制御能力が向上した。
このレベルの魔術を三つ同時に放ったのは初めてだ。
その熱波の下から潜るように、俺自身もナイアセラムへ疾走した。
「真正面からの突撃なんてふざけてるね」
ナイアセラムの操る大量の触手が一気に俺へ向かって放たれる。
どうやら白炎龍砲を避ける気はないらしい。
規格外の再生能力があるんだ、刺し違えても俺を殺せればそれで問題ないってわけか。
けど、お前のスピードはもう見切ってる。
「蒼爆」
高速の切り返し。
直角に曲がり、迫る触手を回避しながら龍魔断概で触手を弾けば全部回避できる。
逆にナイアセラムは白炎龍砲を全て食らってる。
「増殖再生」
ナイアセラムがそう呟いた瞬間、無数の触手の先端が二つに別れ、そして別れた触手の先端が更に二つへ……
数百の触手が、ネズミ算式に増えていく。
世界が徐々にスローになっていく。
走馬灯なんて久しぶりだ。
死には慣れたと思ってたのに、まだこんな感覚になるんだな……
あ、死んだなこりゃ……
暗黒の剣山が意志を持って襲い掛かってきたような光景が目の前に広がっている。
黒い針の切っ先は総じて俺を向いていて、そこからは禍々しい殺意が俺に向いていた。
龍魔断概の一閃で捌き切れる量じゃない。
剣を振るっても寿命が一秒伸びる程度だ。
蒼爆で避けても増殖した触手を掻い潜るには、その位置をすべて把握する必要がある。
数万の触手の速度と角度を先読みしてすべて回避するなんて不可能だ。
そんな圧倒的な殺意が、俺の本能を刺激する。
「嬉しいぜ、お前がこんなに俺を愛してくれてるなんて」
「いや? 全然全くそんなことはないんだけど」
「嬉しぃなぁぁああ!」
「人の話聞きなよ……」
『空立』解除。
『蒼爆』多重展開。
両手両足から蒼い炎を爆ぜさせて、推進力を得る!
身体を完全に操って、数万の触手の網を掻い潜る!
「無駄だよ、その数の触手の動きを読み切れるわけない」
「
触手の波に風穴を開け、その中を蒼爆で突っ切る――
うわ、ヤバ。
こんな感覚初めてだ。
増殖しながら俺に向かって伸びてくる触手の動きが全部見える。
これは斬らなくていい。
これは斬らなきゃいけない。
こっちは無視。
これはヤバイ。
頬を、腕を、足を、触手が掠めていく。
けど掠り傷は無視していい。
頭を、心臓を、内臓を、四肢が斬り飛ばされないならそれでいい。
必要最低限の動きで、
「ありえない……数万に上る触手の動きを全て把握するなんて……」
眼前にあるナイアセラムの本体に表情なんてものは欠片も無いが、驚いているのが伝わってくる。
「よぉ、お前の方から愛してくれなんて言っておいて、その気はないなんて理屈が通ると思ってんのかよ?」
「何をしたの?」
「できることを全部やっただけだ」
見切りの力。
ようするにそれは【情報】を知覚し処理する力だ。
今まで俺は誰かを真似て強くなってきた。
剣聖の【龍太刀】を。龍の【息吹】を。ベフトとソナの【魔剣】を。ベルナの【隷属】を。勇者の【聖剣】を。スケルトンの【知覚】を。魔道具の【水中活動】を。始まりの剣聖の【奥義】を。
いや、それ以前もそうだ。
俺の扱う炎属性魔術も、治癒魔術も、飛行魔術も、それを創り出したのは俺じゃない。
どこかの誰かが造り上げた理論を真似ただけだ。
そのモノマネを組み合わせることで、俺は強くなってきた。
この生き方が間違っていたとは思わない。
俺に才能がないことはとっくの昔から分かってる。
けど――
真似て、混ぜて、俺のモノになったこの魔術を、俺は【オリジナル】だと主張しよう。
【明鏡止水】+【
いや、それだけじゃないな。
傷付けた対象を強制的に気絶させる深奥【心羅】。
対象の魂を抜き取って保管する【
そしてナイアセラムの【感情操作】。
肉体機能から来る情報ではなく、脳に直接情報が送り込まれる新感覚が、『転生術式』以外の術式を全く覚醒させなかった【情報属性】に新たな可能性を見出させた。
魔力感知lv3――情報属性思考加速術式【
「感謝するぜナイアセラム、俺は今〝最強〟に成った」