剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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85「羽虫」

 

『種族名:極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)。レベル:100。AIモデル:剣王・葛城波将(かつらぎはしょう)

 

 ……なんとなくそうかもしれねぇとは思ってたよ。

 

 人造人間のカプセルが大量に置かれた部屋に生まれ、服が沢山置かれた部屋を抜けて、そして……使い古された刀剣が転がる古い寺に出た。

 

 そこには倒したはずのオーガが鎮座していた。

 

 こいつが俺の身体と同じだという可能性は考えていた。

 

「お前も誰かに造られた存在(クチ)か?」

「速撃」

 

 会話する気はねぇらしい。だが言葉にしなくとも分かる。

 俺がそうであるように、こいつもまた、俺との戦いを楽しもうとしている。

 

「ちょっと長居することになりそうだな……」

 

 この後にはあの金と黒の体毛を纏うライガーが待ってる。

 途中の廊下で魔力が回復するまで待つ? 無理だな、オーガの死体もダンジョンの魔獣のように消滅するし食料がなさすぎる……

 

 やっぱり魔力を節約するしかねぇ。

 

 強力な術式のごり押しで勝つんじゃダメってことだ。

 

 俺は剣士として、テメェを超える。

 

「魔剣召喚【灼骨蒼刃(しゃっこつそうじん)】。付与【魔転吸刃(エーテルスティール)】」

 

 骨で造られた太刀に、魔力を奪う付与術式を重ねる。

 俺に必要な最低限の術式行使で、こいつを圧倒する。

 

 命は大量にあるんだ。できるようになるまで何度だってやってやるさ。

 

 それから俺は何度も殺され続けた。

 

 

 

 

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 連撃が俺の身体を刻む。

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 力を込めた豪撃が俺の身体を刻む。

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 疾風の突きが俺の身体を貫く。

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 灼熱を放つ剣が俺の身体を焼く。

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。鬼が剣を構え、踏み込む。鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 

 

 

 

 ったく、どんだけ強ぇんだよ。

 剣の腕だけ見てもアマツと同等。けどそれだけならアマツの技術を持つ俺は対応できる。

 問題は選択肢の広がり方だ。

 

 火属性の斬撃拡張、氷属性の地形操作、雷属性の剣速向上の三属性×「豪」「速」「連」×「撃」「突」……基本技だけ十八通り。

 しかもヤツは傷を負うと本気を出すとばかりに二刀流になるから、選択肢は三百二十四通り+「回転斬り」と「抜刀斬り」で『三百二十六』通りの選択肢になる。

 そこに『逆行』という自己回帰術式が絡まることで、戦術の幅が無限に広がっていく。

 

 本気を出せば……【神格思考(マスター・プロセス)】を使えば、その選択肢全てを読み切ることは可能だが、それじゃあ次の戦いに魔力が持たない。

 

 つってもやることは一つだ。近道はない。

 四百通りのヤツの剣術を一つずつ見切る。

 

 明鏡止水と骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)、それに相手の術理を見抜く蠅驥尾(ようきび)の解析で、極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)の動きはほぼ把握した。

 

 幸いなことに、あいつの動きはいくら戦っても成長しない。

 毎回、その学習はリセットされているようだ。

 

 

 鬼が剣を構え、踏み込む。

 

 雷を纏った連撃が俺に――命中する寸前に弾く。

 

 

 雷切は必要ない。

 連撃速度が足りずとも相手の動きを全て読んでいるのなら対応できる。

 

 派手な技は必要ない。強力な魔術は要らない。

 

 俺とこいつはただ剣で語らうのだ。剣聖とそうしたように……

 

 

 俺が剣を構え、踏み込む。

 

 鬼は対応すべく、剣を翳す。

 

 俺は、その防御を弾き、鬼の身体に傷を付ける。

 

 

 その動作だけでは鬼を屠るには至らない。

 しかし、その動作だけで十分に確認できた。

 俺は極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)の全ての動きを見切り終えた。

 

「感謝しよう。我が剣の中に、お前の存在は確実に刻まれた」

 

 魔転吸刃(エーテルスティール)だけしか付与されていない剣では、その鬼へ与えられる傷は僅かなものだ。

 

 しかし、敵の攻撃を避け続け、小さくとも敵に攻撃を当て続ければ、その傷はいずれ致命へ至る。

 

 

 ――魔力残量92%。

 

 ――極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)は倒れ伏す。

 

 

 死骸を跨ぎ、俺は次の部屋へ向かう。

 

 

「久しぶりだな、半年ぶりくらいか?」

 

 そもそも転生術式は生後間もない赤子を対象に発動されるものだ。

 俺の記憶が覚醒するのが十歳というだけで、宿るのはもっと前に済まされている。

 

 それでも俺がこの人造人間に宿り続けるのは、この身体には自我がなく、状態として『赤子』に近いからだ。

 その上で肉体年齢が十歳に達しているから脳の成長が十分であると俺の術式が判断し、即座に意識を覚醒させる。

 

 つまり、この体に転生する内は、俺は転生に際する十年のタイムラグを一日ほどまで軽減できる。

 

 極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)を完封するのに二百回近い転生を行った。実時間で半年と少しだ。

 でも、あのレベルの相手を無傷かつ最低限の魔術で倒せるようになったんだから俺にしては上出来だろ。

 

 才能がない俺は、いくらでも時間を支払うしかない。

 

『種族名:金黒獅虎(GB・ライガー)。レベル:100。AIモデル:殺戮者(キラー)・【閲覧禁止】』

 

 その獣は、俺を見るなり稲光を輝かせる。

 

「その技は一回見たぜ」

 

 空を突っ切る黄金の雷。

 だが、それは裏を隠すための表。

 奴の本命は、地を這って迫る黒い雷撃。

 

「聖剣召喚【加具土命】!」

 

 お前の後ろにどれだけの控えがいるか知らねぇが……

 

「まずは勝つ!」

 

 聖剣を二度振り、二つの雷を消し去る。

 

天馬の加護(ペガリレス) 真色の風鈴(フロンティア) 皇の星(イットウセイ)――【蒼炎龍砲】!」

 

 蒼い炎が渦を巻き、金黒獅虎に迫る。

 

「魔術勝負は望むところだ。俺の炎とテメェの雷、どっちが上か確かめてやるよ。まぁ俺は聖剣でお前の雷消すけどな!」

「GGGGGGGGRRRRRRRRRRRRR!!」

 

 金黒獅虎の咆哮が十字の雷を作り、ブレスのごとく発射される。

 それは俺の炎とぶつかり対消滅した。

 

 俺は蒼炎龍砲に隠れて接近を試み、金黒獅虎もまた十字の雷ブレスを追うように跳躍している。

 

 俺と金黒獅虎が目前に迫る。

 常時雷を纏った近接攻撃の無効化。

 だが、それは俺の聖剣に勝らない。

 

「噛み合っちまったみたいだな、終わりだ!」

 

 確実な俺の間合い。そしてヤツの雷撃と俺の聖剣では、性能面じゃ俺の方が確実に上なはずだった。

 

「GRR……」

 

 まるで、金黒獅虎が嗤ったように見えた。

 

 纏われた黒と黄金の雷が混ざる。

 最初のように別々で放つのではなく、重ねて放つことによる威力強化。

 だが無駄だ、聖剣はあらゆる魔力を対消滅させる!

 

 ――そのはずだった。

 

「テメェ……」

 

 いつのまにか、俺の身体は焦げていた。

 ヤツの放った雷は確実に聖剣で受けたはずだ。

 俺がミスった?

 

 違う、思い出せ。『蠅驥尾(ようきび)』で解析しろ。

 

 そうか、俺が聖剣に込めた魔力量よりヤツの雷の方が圧倒的に込められた魔力が多かった。

 

魔力(まよぐ)の化物《ばへぼん》がよ、でべぇ……」

 

 この体で可能な限界量を聖剣に込めても、あの黄金と漆黒が混ざり合った雷は無効化しきれない。

 

 体が動かねぇ……

 筋肉が麻痺してる。

 

「GRRRRRRR」

 

 己が王者であると微塵も疑わぬ表情で、獣はゆっくりと俺に近付いてくる。

 

 もう勝った気かよ、気が早ぇな……

 

蒼爆(ぞうびゃぐ)……」

 

 俯せの姿勢のまま、掌から放った蒼爆で左に跳ぶ。

 体は動かねぇが、距離を取れれば治癒術式を使える。

 火傷は後回しでいい。全力で麻痺を治癒しろ。

 

「治った。そんでテメェの底は見えた」

 

 こいつの『黄金と漆黒の雷撃』こそがこいつの最大魔力。そしてそれを放った直後、こいつの体表の雷は一時的に消失する。

 それがこいつの弱点。

 

 あの魔獣が纏う雷の消失は、単なる防御力の低下じゃない。

 

 その最大の弱点は『失速』だ。

 ヤツが常に纏うあの雷は俺の『燃身』と同じように細胞を強制的に活性化させて圧倒的な運動量を生み出していた。

 

 しかし、全身の雷を一点に集めて放つ『黄金と漆黒の雷撃』の直後、その移動速度は失われる。

 蠅驥尾(ようきび)による観測結果はそうなっているし、蒼爆で跳んだ俺を追ってこないのが何よりの証拠だ。

 

「魔力の節約より、テメェの後ろに何が控えてるかの方が気になるんでな……悪ぃが本気で行くぞ」

 

 とはいえ、ここで魔力を使い果たす気もない。

 だから、この一刀だけに本気を込めて、この刹那で確実にお前を終わらせる。

 

 聖光+空太刀――

 

 聖剣の効果を『毛牙究明(もうがきゅうめい)』で極限まで高め、それを『空太刀』で複製八つし虎獅子(ライガー)を囲む。

 

八岐之断刀(スサノオ)

 

 斬撃はその獣の肉を断つ。

 

「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 ――魔力残量35%。

 

 

 怒りの籠る絶叫を上げて、金黒獅虎(GB・ライガー)は命を散らした。

 

 

 人工的な荒野の部屋を抜けた先も、まだ白い廊下は続いている。

 そこを通り抜けると、今度は……

 

「森か……」

 

 食い物……と思ったが、動物の気配はほとんどない。

 それに、ここに生えてるのは全部『造花』の類だ。本物じゃないから食えない。

 人工芝ならぬ人工森ってか、手の込んだことしやがる……

 

「で、次はなんだ?」

 

 ……ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンンンンン。

 

『種族名:蠅蛾集知(ベルゼブブ)。レベル:100。AIモデル:究明者・コレクティブレコード』

 

 羽虫の群れが不快な音をいたる方向より響かせて、全方位から俺に突撃してくる。

 

「なるほどね。今までは強大な個だったが、このステージの相手は【群】ってわけか」

 

 ――紫熱連環(しねつれんかん)

 

「そりゃ、俺とは相性が良さそうだな」

 

 突撃してくる羽虫の群れが、俺の周囲に展開された結界に触れた瞬間、紫の炎を纏って落ちていく。

 

 魔剣召喚・灼骨蒼刃(しゃっこつそうじん)

 

 その剣は俺の炎属性を込めた魔剣だ。

 極狂剣鬼(スペリオル・オーガ)の『火刀』と同じように、振り払う剣筋を追うように蒼い炎で薙ぐ。

 

 そうするだけで、羽虫の群れは面白いくらいに滅却されていく。

 

「付与――魔転吸刃(エーテルスティール)。ボーナスステージ用意してくれてありがとよ」

 

 ライガー戦で失った魔力をこいつらで回復させてもらおう。

 

「解析究明……戦術変更……」

 

 なんだ? どっから声がしてる?

 虫が多すぎて分かんねぇ。

 虫共を指揮してる本体がどっかにいるのか?

 

「バトルスタイル【覇虫(はむし)】」

 

 虫が一斉に互いへ群がり、一つの巨大な塊を作っていく。

 砂嵐のようなそれは、巨大な一つの生物を創り上げた。

 

 巨大な二本角に漆黒の甲殻。翼を収納する前翅は黄金の輝きを有し、凛々しいその姿は王者の威厳と風格を持つ。

 

 巨大なヘラクレスオオカブトだ。

 

「か、カッッッケェ……!」

 

 って、敵だ敵。

 それにどれだけ巨大な姿になったとしても、弱点は変わらない。

 

「虫な時点で火には弱い」

 

 結界術式『紫熱連環(しねつれんかん)』を解除し、その分の魔力を『燃身(ねんしん)』に回して加速する。

 魔力の吸収効果を付与した『灼骨蒼刃(しゃっこつそうじん)』によって切り刻む。

 

 巨大化したことで全能力は『虫を超越』しているが、それでも今まで戦ってきた二体に比べれば戦闘能力は大したことない。

 

 切り刻むたびに俺の魔力は回復していく。

 ヤツの動きは『明鏡止水』と『骸瞳魔覚(アンデッド・ビジョン)』で全て見切れる。

 炎を纏う俺の魔剣はヤツへ特攻効果を与え、足や羽を切り飛ばすたびにヘラクレスは機能を失っていく。

 

「終わりだ」

 

 ヘラクレスは生命活動に必要な機能を損失。

 倒れ伏し、粒子となって消えていく。

 

 さて、次の部屋へ……

 

「解析究明……戦術変更……バトルスタイル【毒虫(どくむし)】」

 

 目の前で羽ばたく赤い目の蠅が、そんな声を発した。

 クラりと視界が揺れる。

 

「は?」

 

 こいつは……毒か……?

 蚊が一匹、俺の腕に止まっていた。

 それを叩き潰すと、腕にある黒い染みを中心に肌が紫に変色し、膨れ上がっていた。

 

 血を吸ったんじゃない……何かを注入された……

 

「解析究明……戦術変更……バトルスタイル【惑虫(まどいむし)】」

 

 蠅の周囲に大量の羽虫が現れる。

 

 クソ、解毒術式は治癒術式より高等なものだ。

 戦闘しながら使えるようなものじゃない、消費する魔力量も甚大。

 

 それを見て、数百匹の羽虫の群れが俺を襲う。

 魔転吸刃(エーテルスティール)を付与した灼骨蒼刃(しゃっこつそうじん)で迎え撃つ。

 

 けどこの野郎……俺が魔力を奪えることを理解したのか、虫の数を減らして波状攻撃してきやがる。

 俺が一刀で奪える魔力量より、一刀に使う魔力量の方が多い……

 

 それに魔剣召喚は召喚してるだけで徐々に魔力を消費する。

 だが面倒な波状攻撃に対抗するために『紫熱連環』を使えば、それこそ魔力が尽きる。

 こいつ、完全に持久戦狙いだ。

 

 そもそもこっちはまだ本体を特定する方法を持ってない。

 多分、赤目の蠅が本体だろうが、それを見た目だけで探すには【神格思考(マスター・プロセス)】による超演算能力が必要だ。

 

 だが、そんなことすれば数秒で魔力がなくなる。本体が離れた場所に居れば詰みだし、そのあと解毒しなきゃいけないことを考えると魔力を使い尽くすわけにはいかない。

 

「詰んだっぽいな……」

 

 俺の今の魔力量じゃ、何をしても勝ち目はない。

 おそらくこいつの本領は相手の戦力を分析する戦術眼と、それに対応した戦術を創り出す創造力(クリエイティビティ)

 

 『解析究明』と『戦術変更』……による学習と対応の能力か……

 強いな、ボーナスステージとか言って悪かったよ。認める。お前の存在は脅威的だ。

 

「あぁ、クソ……ムカつくぜ……」

 

 一息ではなく、リズムをつけて連続で迫る虫の群れを炎の斬撃で切り払う。

 毒は身体を回り、魔力は減る一方、本体の判別方法はなく、勝機は見つからない。

 

 だから、これしか方法はなかった。

 

「極めて不本意だが、お前らにまかせてやる」

 

 俺の群れに羽虫の群れを叩き落とさせる。

 

「来い、恐使の喚騒(ゾルドアーミ)

 

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