剣と魔法を極めるのに必要な命の数は?   作:水色の山葵

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86「魔法使い」

 

 誰かに頼るのが嫌だった。

 自分だけの力で成し遂げることに意味がある。

 

 けれど、俺が渡り歩いて来た人間の人生が俺と同化して俺になっていたように、こいつらの力はもう俺のものだ。

 

「まぁ、自分で身体動かす方が性に合ってるから、あんまり呼びたくはねぇけどな」

「召喚早々随分な物言いだな、主よ」

「事実なんだから仕方ねぇだろ、エルド」

 

 赤い模様の入った骨の身体に魔力で創り出された紫のローブを纏ったエルドは、以前より少し魔力が増している気がする。

 

「お前ちょっと進化したか?」

「あぁ、最近は少し忙しくしていてな」

「へぇ、あの迷宮人気になったんだな。ビステリアは元気か?」

「ビステリアは窮王種に捕えられた。其方がナイアセラムを倒したことで、他の窮王種の動きが活発化したのだ」

「……そうか」

 

 ナイアセラムの戦闘能力は単騎で国すら落とせるものだ。

 もしかしたら世界を滅ぼすことすら可能かもしれない。

 

 その力の源は女神から奪った『輝魂剛石(オリハルコン)』だ。それは世界に女神の数だけしか存在しない超希少鉱石。

 だとしたら窮王種は女神の数だけいることになる。

 裏切りの女神を抜いて女神は六柱。ナイアセラムを除けば残りの窮王種は五体。

 

 そいつらが本気になったとしたら、世界自体が変わっていたとしても不思議はない。

 

「迷宮のシステムに問題はないのか?」

「あぁ、我らの『生まれ直しの権能』は迷宮に付加されたものだ。女神(ビステリア)がいなくなったところで消えはしない」

「なら話はあとでいい。まずはここを斬り抜ける」

「承知した。ビステリアに代わり、我が指揮を執ろう」

 

 そう言ってエルドが指示を出し、他の魔獣が虫の群れの駆除を始める。

 ただ相手は受けの構えだ。

 蠅蛾集知(ベルゼブブ)の強みはその分析眼と様々な戦術に対応できる『群れ』としての強度だ。

 

 こっちの駒が増えたことでまた解析のターンに入ったんだろう。

 

「それと何体か貸してくれ。そろそろ悪魔(あいつら)も呼んでやらねぇとな」

「いいだろう」

 

 悪魔は魔力存在だ。現世に呼び出すには依り代が必要となる。

 スケルトン五十体を借り、その身体に宿すように『恐解の約定(ゾルドルート)』を使う。

 

 術式を発動させた瞬間、白かった骨の上に黒い筋繊維が纏わりつく。

 それは魔界で出会った悪魔の姿に変化していく。

 そして彼らは、俺の前に一様に跪いた。

 

「シューマはいるか?」

 

 俺が魔界で契約した子爵の名前を呼べば、一体の悪魔が手を上げた。

 

「ここにいるぞ」

「悪魔共のリーダーはお前にまかせる。全体指揮を持つエルドと協力して俺の前の道を切り開け」

「なぜオレなんだ? オレ以上の爵位を持つ悪魔もいるはずだ」

「お前が俺を一番てこずらせたからに決まってんだろ」

「……そう、か。了解した」

 

 シューマ率いる悪魔の軍勢も立ち上がり、虫の処理に向かう。

 相手は数が多いといっても所詮は虫の群れ。

 魔術一発で数百匹が撃滅できる。人員が増えれば本体をやるのにもそう時間は掛からないだろう。

 

 話してる間に解毒術式は完了した。

 身体は万全だ。けど魔力はほぼ使い尽くした。

 エルドたちで勝てないなら、もう一度やり直しになる。

 

「解析究明……戦術変更……バトルスタイル【苗床】」

 

 そんな声が聞こえた瞬間、ゴブリンの一体が倒れた。けど、まだ死んでるわけじゃない。全身が毒で腫れ上がっているが、命はある。

 

 そこに虫の群れが殺到していく。

 それは嵐のように数秒で飛散していくが、倒れたゴブリンの死骸にいくつもの白い卵が大量に生みつけられていく。

 

 俺は蠅驥尾(ようきび)の解析効果でその卵が持つ魔術的作用を解析した。

 卵には対象の魔力を吸収することによる『成長速度向上』効果が付与されていた。

 

 卵が産みつけられて十秒もしない内に、次々と卵が割れていく。

 

「ガ……ギョ……」

 

 苗床にされたゴブリンが切ない表情で、エルドに手を伸ばす。

 

「氷槍」

 

 小さく呟かれたその言葉を引き金に発動された魔術がゴブリンを貫く。

 卵ごと倒れたゴブリンの全身を氷結させた。

 

「苗床にされた者は構わず殺せ。臆すことは許さない。すべての羽虫を叩き潰すのだ」

「聞いたな、それが指揮官殿の命令だ。動けなくなった者はすぐに殺処分だ、オレが圧殺してやる。それが嫌なら負けるな。戦い続けろ」

 

 悪魔みたいだなこいつら……

 いや、そういやアンデッドと悪魔だったか。

 生まれ直せるんだから見捨てる方が合理的だ。俺も文句はない。

 

 エルドを中心に、シューマ、ソウガ、リクウ、ラムスが率いる各種族が虫を駆逐していく。

 苗床になったものは容赦なく氷結されたり、焼却される。

 

 便利だったのはシューマの固有属性【重力】だ。

 虫を一気に叩き潰す広域制圧は、一匹一匹は小さい羽虫を巨大な掌で叩き潰すように圧殺していく。

 

 その戦況を見ながら、俺は情報解析系の魔術を回す。

 数十万近い虫の群れの中を飛ぶ指揮者、核となる一匹を見つけ出すためだ。

 

 重要なのは『どうやってこれだけの数の虫を手足のように操作しているのか』ということだ。

 必ずそれを可能にしている通信手段が存在するはず。そしてそれは十中八九魔術だろう。

 つーか、科学的な方法だったら俺に解読するのは無理だから一匹残らず殲滅するしか方法はない。

 

 てか……

 

「見つけた」

 

 赤目の蠅。魔力感知でマーキングした。

 羽音に魔力を込めてその振動波形で全体を指揮してる。

 ってことはその振動に込められた魔力を逆探知すればいいってことだ。

 

「これで終わりだ、蠅の王」

 

 最後の魔力を振り絞り、斬撃を結ぶ。

 

「空太刀」

 

 それは複製され、目標とした蠅の背に炎を纏った斬撃が振り落ろされた。

 赤目の蠅が燃えカスとなって地面に落ちると同時に、他の羽虫たちの消失現象が始まる。

 

 群で一個の魔獣だったってわけか。

 恐解の約定(ゾルドルート)の札まで切らされたし、まぁまぁ強かった。

 

「助かったよエルド、シューマ」

「魔界しか知らぬオレをキサマは約束通り現世に召喚してくれた。感謝するのはこちらの方だ」

「主の願いを叶えることが我らが存在意義だ。ビステリアがいなくなった今となっては尚更な」

「エルド、世界(そと)はどうなってるんだ?」

「……我が使命は其方の願いを叶えることだ。だが、個人的な考えを言うのなら其方はそれを知る必要はないと思う。ネル、其方の願いは『最強』だけであろう? ならば急ぐ必要はない」

 

 俺の願いか……

 たしかに、そのために今必要なのはこの場所で戦い続けることだ。

 俺には無限の時間があるのだから、俺はただ剣術と魔術を極めることだけを考えていればいい。

 

「分かった。じゃあそうする」

「うむ」

 

 俺は『恐使の喚騒(ゾルドアーミ)』を解除する。

 そうすれば召喚していた魔獣の軍勢は消えていった。

 

「さて、完全に魔力は尽きたわけだが……」

 

 この部屋に留まっててもどうせ餓死するだけだ。

 前に進む以外に道もない。

 

「行くか」

 

 

 森の奥の通路へ入ると、また白い廊下が続いていた。

 魔力残量3%。俺はその奥の部屋に入る。

 

 

 そこは廊下とほとんど変わらない白さに囲まれた、立方体の部屋だった。

 

 

「初めまして、新しい人」

「敢えて分かりにくい表現使って悦に浸るヤツってたまにいるよな」

「手厳しいな。まぁこんなところまで来るのだから豪胆な人間なんだろうね」

「自分の意志で来てねぇし、ここがどこかも知らねぇよ」

 

 それは宝飾の多い派手な魔術服(ローブ)に身を包んだ長い金髪の女だった。

 その表情は柔らかく、優しさと知性を併せ持つような落ち着いた雰囲気を感じる。

 パープルの瞳は万物を見通しているような威厳を持っていて、手に持った紫色の宝飾がされた杖と共に輝いている。

 

 ヤミも装飾の多い恰好をしていたが、あれは昏い魔女って感じのファッションだった。

 こっちは貴族とか高貴な存在を思い浮かべるような恰好に見える。

 

「なるほどね、だったら説明してあげよう。勿論君にとって分かりやすい表現を使ってね」

「そりゃありがてぇ。是非そうして欲しいモンだな」

「ここは【最初の迷宮】だ。そして僕は原初の魔法使いアルカナ」

 

 そこで今までの部屋と同じようにアナウンスが鳴った。

 

『種族名:魔術之王。レベル:100。AIモデル:原初の魔法使い・アルカナ・ウィリアス』

 

 種族名……ってこいつ人間じゃないってことか?

 まぁ、このアナウンスがどういう意図でされてるのか分かんねぇし考えても仕方ねぇか。

 

「ここまで到達した君には『原初』を知る権利がある。星々が輝き消えていくような悠久の時の中、僕らは君たちを創り出した。いや、君たちに受け継いだという方が正しいだろうか。僕たち六個の試練は君たち新人類に訪れる最後の試練だ。神への挑戦だ。人が神を解体し、その血肉を取り込み進化するための……」

 

 はぁ――

 

「うるせぇよお前」

「え? 聞いたの君じゃん」

「話が長すぎて興味が失せた。つーか、最初からどうでもよかったんだ。俺が興味があるのは一つだけ。テメェが俺を強くしてくれるのかどうか、それだけだ」

 

 原初だ星だ試練だ神だ人だ、くだらねぇんだよ。

 世界の真実とか、神の競争とか、女神の裏切りとか、生物の成り立ちとか……

 

「お前の話は全部どうでもいい」

「はは……そっか、そうだね。君はいいね、少しだけあいつに似てる」

「あ?」

「いいだろう、僕が君の願いを叶えてあげる。あまり魔法使いをナメてると痛い目に合っても知らないよ」

「前の三体より強いことを期待してるぜ、僕っ娘」

 

 そうだ。

 俺は昔話が聞きたいわけじゃない。

 窮王種の正体とか、女神の存在理由とか、ここがどこなのかとか……気になってないってわけじゃないけど、それを知ったところで俺のやることはきっと変わらない。

 

 俺の生涯には意味などないし、すべてを失ったあの日からそんなものを求めたことは一度もない。

 

「一応言っておくけど僕は男だからね? 女装が趣味なだけで」

「はぁ!?」

 

 俺が驚くのを面白がるようにアルカナは笑った。

 その仕草のどこを切り取っても、それは可憐で、男の要素なんかまるで見つからなかった。

 

「ふふ、さぁ行こうか――断絶空創【四星外夜仙界(コスモス・ファンタジア)】」

 

 世界が歪む。白かった部屋が反転する。

 黒々とした世界に点々と輝くは、星のような光の粒と流星のような神々しい。

 一望千里のこの空間は、まるで宇宙のようだ。

 

 これは……この感覚は……空間ごと書き換わっていくようなこの術式は……

 

「リアと同じ……世界を創造する魔術……」

「へぇ、今の世界に僕と同じことができる魔法使いがいるんだ」

「驚く部分が多すぎで渋滞してんだよ。魔法使いってなんだ? 魔術じゃないのか?」

「僕の話は興味ないんでしょ? 僕の世界へようこそ挑戦者。望み通り、ブチ殺してあげるよ」

「あっそう……期待以上だ! 想像以上だ!!」

 

 もういい。

 ここで終わっていい。

 全力を出して、こいつを超える。

 

「魔力逆流【神格思考(マスター・プロセス)】。お前をここでブチ殺して、俺は先に行く!」

 

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